作品タイトル不明
12-46 再会、そしてエルザ、デビュー?
「おおーっ、この細工の細かさはすごいぞ!」
メダルを受け取った者は皆、その細工の精密さに驚きの声を上げる。
メダルの直径は約2センチ、1円玉くらいの大きさで、表には『第10回技術博覧会記念』と刻まれ、裏には『ジン・ニドー』と刻まれていた。
余白部分には精緻な模様が刻まれており、人間業では出来そうもない細かさであった。
魔法工作(マギクラフト) をさほど知らない者はゴーレムの加工能力に感心し。
魔法工作(マギクラフト) を少し知っている者はゴーレムを小さく作り上げた手腕に驚嘆し。
そして 魔法工作(マギクラフト) を良く知る者はその応用性に目を見張ったのであった。
礼子とミニ 職人(スミス) が戻って来たところで仁は更なる発表を行う。
「本日のデモンストレーションはこれで終わりますが、明日は表広場におきまして、皆様の常識を覆すような物をお見せ致します。本日はありがとうございました」
一礼してステージから退場する仁。
来場者はさまざまな感想を持った。
「あの若僧はいったい何者だ?」
「知らぬ。だが、エゲレア王国の 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) と言ったな。もしや、あのゴーレム 園遊会(パーティー) 騒ぎの時活躍したという?」
「それより見たか、あの小さなゴーレムを! あれを作れるということは世界有数の加工技術を持っていると言うことだ!」
「まったくだ。見ろ、このメダルの精密さを! これが真鍮でなく金だったら、いったいどんな価値が付くやら」
初見の者は驚き騒ぎ。
「うふふ、さすがジン君ね。我が国に招待した甲斐があったわ。しかもまだ明日、何かやるつもりのようね。楽しみだわ」
「ううむ、陛下が目をかけているというから注目していたが、まさかこれほどとは!」
仁の噂を聞いていた者ですら度肝を抜かれ。
「さすがジンだな、まさかミニゴーレムを持ち出すとは。一見地味なようでいて、奥が深い。わかる者にはわかる」
「ジン君が何を出してくるかと思ったら、予想の斜め上を行かれたわね」
仁を良く知る者ですら驚きを禁じ得なかった。
その、ステージから降りてきた仁に駆け寄った者がいた。
「ジン!」
金髪碧眼で仁よりも少し小さい少年である。後ろには銅色のゴーレムと、侍女服の少女。更にその横に見知った顔の少女が。
「殿下! それに……」
少年は、エゲレア王国第3王子のアーネストであった。当然ゴーレムはロッテ、侍女は 王宮隠密侍女隊(ロイヤルシークレットメイド) 改め王子付き侍女、ライラ・ソリュースである。
「ジン、久しいのう」
少女は何と、クライン王国のリースヒェン王女であった。
「お久しぶりです。お元気でしたか?」
仁がそんなことを聞いたのは、何となく王女に覇気が感じられなかったからだ。
「……大丈夫じゃ。少々疲れが溜まっておるだけじゃからして」
「ジン、リースはね、ショウロ皇国にやってくるために強行軍だったからだよ」
仁はなるほどと思った。エゲレア王国からでも遠いというのに、更なる遠方のクライン王国から来たのでは、さぞ大変だったであろう。おそらくお付きの者達も。
「ジン殿、久しぶりだ……」
そしてその予想に違わず、護衛と思われる女性騎士隊隊長、ジェシカ・ノートンもいつもの元気がなかった。
それを見た仁は、あとで何か差し入れて上げられたらな、と思うが、国外からの要人に差し入れは難しいだろう、とも思う。
「リースとのお見合い話があったんだけど、僕はこの技術博覧会を見たかったんだ。そうしたら、リースも見たい、と言ってくれたそうで、一緒にやって来たというわけさ」
エゲレア王国とクライン王国の間にはセルロア王国がある。それで2人はセルロア王国の首都エサイア手前の街、テルルスで落ち合い、たちまち意気投合した2人は、ショウロ皇国で間もなく行われる技術博覧会を見るためにやって来た、ということらしい。
どちらも王位継承権が低く、比較的自由な立場だったからできた我が儘であろうか。
「でも殿下はお元気ですね?」
「うん、僕はジンが作ってくれた馬車があったからね、かなり楽だったよ」
「あー……」
ゴーレムサスペンション装備の馬車なら、乗り心地は別次元である。まして強行軍であれば、乗っている者への負担も桁違いだろう。
「乗せて上げたかったんだけどね、意外と頑固で」
「あ、あたりまえじゃ! 出会ったばかりの男女が、同じ馬車に乗って日がな1日一緒にいるなんて……!」
頬を染めてそんなことを言うリースヒェン王女。仁も一緒の馬車に乗ったことがあるんだが、それはいいのだろうか……と思ったが、口には出さない。
王女には王女なりの考えがあるのだろう。単に照れているだけなのかも知れないが。
「それにしても久しぶりだね! 相変わらずいい腕だよ。でも何でショウロ皇国に仕官したはずなのにうちの 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) を名乗ってるの?」
「うっ……」
仁は言葉に詰まった。実はまだ無所属なのである。かつてのエゲレア王国では、仁はショウロ皇国に仕官する予定と見て、無理な勧誘をしなかったのだから。
それが実はまだ仕官してないと知れたらどうなるか……。
「殿下、ジンはまだ客人の扱いなのですよ。我が国をじっくり見て貰い、気に入ったら仕官してもらう予定です」
横から助け船を出したのはラインハルト。
「ラインハルトか。そうだったのかい」
「アーネスト様、こちらは?」
リースヒェン王女がアーネスト王子の服を摘んで小声で尋ねた。
「ああ、ごめん。彼はラインハルト。ショウロ皇国の 魔法工作士(マギクラフトマン) だよ」
「ラインハルト・ランドルと申します、殿下」
ラインハルトはきれいなお辞儀をした。
「そうであるか、 妾(わらわ) はクライン王国第3王女、リースヒェン・フュシス・クラインという。以後よろしゅう頼む」
身分上、一箇所で長く留まっていることもできないアーネスト王子とリースヒェン王女は、別の 魔法工作士(マギクラフトマン) の展示物を見に移動していった。
「出来れば、あのミニゴーレムが欲しいな……」
そんな言葉を残して。
仁も自分のブースに戻り、そこからステージを眺めていた。ラインハルトも一緒である。
「ジンがあんな小さいゴーレムを作っていたとは知らなかったよ」
「はは、今度ラインハルトにも作り方教えてやるよ」
「うん、楽しみだ!」
そんな会話をしていたら、仁のブースにやってきた人物がいた。
魔法技術相のデガウズ・フルト・フォン・マニシュラスと、ショウロ皇国1の 魔法技術者(マギエンジニア) つまり 魔法技術匠(マギエンジニア・マエストロ) であるゲバルト・アッカーマンを左右に引き連れた、ショウロ皇国女皇帝、ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロである。
「ジン殿、素晴らしかったですね。そして明日も何か驚かせてくれるというのでしょう? 期待していますよ」
イベント会場と言うことで、公的と私的の中間くらいの言葉づかいをしている女皇帝。なかなか芸が細かい。
「ありがとうございます。明日をどうぞお楽しみに」
「ふふ、本当に楽しみだわ。ここには、他に何かあるのかしら。ところで、その顔に掛けているものは何?」
今、仁は白雲母で作った保護眼鏡を掛けていたのである。隣にいるラインハルトも同じだ。
「はい、これは『保護眼鏡』といいまして、作業中に、目にゴミが入ったりしないよう、また、目を傷付けたりしないよう保護するための物です」
サンプルを3つ並べる仁。女皇帝はその一つを手に取った。
「軽いわね。これをこう……。うん、視界を妨げるというほどではないわね。ゲバルト、貴方の意見はどう?」
魔法技術匠(マギエンジニア・マエストロ) 、ゲバルト・アッカーマンは、同じように保護眼鏡を掛けてみてその感想を口にする。
「そうですな、使い勝手はいいですね。魔法で制作する際にはそれほど必要にならないかもしませんが、普通の工作では重宝しそうですね」
「いやいや、屋外で埃が目に入らないように、と言う使い方も出来ますぞ」
魔法技術相のデガウズも保護眼鏡を掛けながら意見を述べた。
「なるほどね。兵士に使わせる手もあるわね。ジン殿、この『保護眼鏡』、使用許可をもらえるかしら?」
思わぬ使い道もあったものだが、仁に否やはない。
「はい、もちろんです。目を保護する目的であれば、さまざまな場面で役立つでしょう」
「さっそく許可をいただけて感謝する。……そちらは?」
デガウズが3人を代表して礼を述べた。その際、隣に立つエドガーに目を留めたようだ。
「はい、俺……私の弟子が作った 自動人形(オートマタ) で、エドガーといいます」
「エドガーと申します」
エドガーはきれいな礼をした。その際、ちょっとショウロ皇国式を交えたものだから、女皇帝たちが目を見張った。
「あら? その動作……あなたのお弟子ってこの国の出身なの?」
「……はい」
「陛下、お時間もあまりないでしょうから、まずは作品を見てやって下さい」
今詮索されるのは時期尚早なので仁は矛先を作品に向けるよう誘導した。
「そうね、これは何かしら」
女皇帝が興味を示したのは、3つほど置かれた小箱。銀色で、表面には細かな細工が施されていて、一見宝石箱のようである。
「どうぞ、手にとってご覧下さい」
エドガーの勧めに従い、まずは魔法技術相のデガウズが小箱を手にし、蓋を開けた。
「……春咲く花の名前はなあに? 誰も教えてくれないけれど 優しく咲いてる野の花が好き……」
細い歌声が響いてきたのである。いつか礼子が歌った歌。だがその声はエルザのものである。
小箱の蓋を閉めると、歌声は止まった。
「……これは?」
デガウズが興味深そうな顔でエドガーに尋ねた。
「はい、『オルゴール』と、いいます。蓋を開けると、あらかじめ仕込んだ音が鳴る仕掛け、です」
「なるほどねえ。蓋を開けると歌が始まるということは、ある意味盗難防止にもなるわね」
女皇帝はエルザがオルゴールを作った意図を理解してくれたようだ。
「はい、そうです。純粋に歌を聞く目的だけでなく、防犯にもなります」
「歌は自分で変える事ができるのだな?」
これは 魔法技術匠(マギエンジニア・マエストロ) 、ゲバルト。構造に興味を持ったらしい。
「はい、『録音』と、いいます。録音するにはこうして……」
使い方を説明するエドガー。皇帝陛下や魔法技術相デガウズは、その自然な動作に内心驚いている。
そして 魔法技術匠(マギエンジニア・マエストロ) ゲバルトも、真摯な態度でエドガーの説明を聞いている。 自動人形(オートマタ) だからといって馬鹿にしたり、格下に見たりするそぶりはない。
「……以上で録音が終わりまして、次からは蓋を開けると録音した歌や音を聞く事が出来ます」
「面白い! 発想もそうだが、『録音』と言ったな。音を記録する、というわけか。これは応用が利く」
聞き終えたゲバルトは女皇帝に向き直って、その有用性を説明している。
「陛下、例えば会議で交わされた内容をすべて録音しておけば、後ほど言った言わないでもめることもなくなります。また、手紙で送るより有用な場合もあるかと思います」
受け取る相手が字を読めない場合でも、声で指示をすることが出来れば、手紙よりも良い、とゲバルトは説明した。
「なるほどね、ジン君のお弟子さん、なかなか優秀じゃない」
「ありがとうございます」
礼をした仁に、女皇帝は世間話をするような口調で話を始めた。
「そうそう、今朝ね、『 懐古党(ノスタルギア) 』と言う団体から、技術博覧会開幕を祝って、魔導具が贈られてきたのよ。『 魔素通話器(マナフォン) 』と言って、他の国と通話ができると言うものなの」
「へえ……そうなんですか。凄いですね」
これは仁の計画の一つ。小群国に贈った 魔素通話器(マナフォン) をショウロ皇国にも贈ったのである。
「それでね、手紙が一緒だったのだけれど、『 統一党(ユニファイラー) とのいざこざに巻き込まれたショウロ皇国の者を2名、保護していたが、この機会に送り届ける』、というのよ」
「は、はい」
いよいよ計画の核心である。仁は、女皇帝陛下を立たせたままで話をするというのは不敬だと気づき、椅子を用意した。
「ありがとう。……で、ジン君、あなた、『デウス・エクス・マキナ』という人と知り合いなんですって?」
「はい、本当にただの知り合い、という程度です」
女皇帝は一つ頷くと本題に入る。
「 懐古党(ノスタルギア) からデウス・エクス・マキナに。そしてデウス・エクス・マキナからジン君に、という流れで、その2人が送り届けられた……ここまではいい?」
「はい」
「その2人は、エルザ・ランドルと、ミーネという名前、で合ってる?」
「はい」
「どこにいるの?」
「ホテルの、私の部屋に」
「ラインハルト、貴方が連れてきてくれる?」
「承知致しました」
ラインハルトは早足でホールを出て行った。残ったのは仁と女皇帝一行。
「……手紙によると、ミーネという侍女は、エルザ・ランドルの実の母親らしいわね。イカサナート……だったかしら? あそこで、ラインハルトを取り込むために 統一党(ユニファイラー) が2人を誘拐したと書いてあったわ。それを 懐古党(ノスタルギア) が保護したと」
「はい、そう聞きました」
質問に答える仁を女皇帝は面白そうに眺めた。
「でね、エルザは魔法工作に興味を持ったらしいので、少しデウス・エクス・マキナが教育指導したともあったわ。それでなのね、彼女がここまでの実力を持ったのは」
エドガーとオルゴールを見つめながら女皇帝は言った。
「で、ジン君の弟子という扱いで、今日、このコジュに連れてきている、というわけね?」
「はい、そうです」
女皇帝は仁と老君が予想した通りに事情を酌んでくれている。
「エルザ・ランドルは、父親であるゲオルグ・ランドルから、意に沿わない縁談を強制されているとも書かれていたわね。そうなの?」
「は、はい、そう聞いています」
その他、いくつかの質問に仁は答えた。ここまでは、ほぼ老君とシミュレーションした通りである。
そうこうするうち、ラインハルトがエルザとミーネを伴って戻って来た。
「陛下、連れてまいりました」