作品タイトル不明
12-37 魔法工学の聖地
「さて、そうなると、許可証をどうするか、だ」
『いつも身に着けていられる物がよいでしょう』
「そうだな……」
老君の提案に仁も頷き、それでは何がいいかと考える。
「ジン兄、指輪、腕輪、ペンダントなんかは、どう?」
エルザの提案。仁はそれでもいいんだが、とまだ難色を示す。
「俺としては、その人その人特有の何か、にしたらと思う。他の人が持っていたら不自然なもの。それなら、更に安全性が上がるんじゃないかな」
「なるほどな」
「くふ、ジン、それならボクは眼鏡、がいいね」
真っ先に決めたのはサキ。なるほど、今のところ眼鏡はサキだけの物、他者が使うことはまずありえない。
「うん、いいなあ。そうしたら、サキは眼鏡で決まりだ」
「ジン兄、私はこれにする」
仁に貰った魔力過多症を防ぐ腕輪を嵌めた手を見せてエルザが言った。
「うーん、そうか。それじゃあエルザはその腕輪にするか」
これもまた、他の者は使えない魔導具であるから識別にはぴったりだ。
「ラインハルトたちはどうしようか」
まあ急ぐ物ではないので、じっくり考えることにする。
「そうすると、エドガーはここの生まれだからいいとして、アアルとネオン、それにノワールを登録する必要があるな」
『いえ、 御主人様(マイロード) 、アアルさんは 御主人様(マイロード) の魔力パターンを持っていますから大丈夫です。ですが、エドガーさんはここの生まれとはいえ、作ったのはエルザさんです』
老君が指摘した。仁はなるほどと思い、ネオンとエドガー、それにノワールをどうするか考える。
「一番手っ取り早いのは識別用の 魔結晶(マギクリスタル) を埋め込むことだな」
要は、仁の魔力パターンを持っていれば大丈夫なのである。そう考えると、この方法が手っ取り早いし、確実である。
「じゃあこうしよう」
仁は呟いて、老子に 魔結晶(マギクリスタル) を持って来てもらう。それを手で弄びながら、
「ベルチェ、ネオンの 制御核(コントロールコア) を交換したいんだけど、いいだろうか?」
とベルチェに尋ねた。
「多分今までより性能上がると思うんだが。……あ、性格とか知識はそのままだから」
ベルチェはちょっと考えて答えた。
「ええ、そう言うことでしたら、是非。ネオン、いいわよね?」
「はい、べるちぇさま。れーこさんのごしゅじんさまがまちがったことをするはずないですから」
「それはありがとう。期待に応えられるよう頑張るよ」
仁は全員を今いる食堂から隣の工房へ移動する。
作業台にネオンを横たえ、魔力を切ってから改造に着手する。
「えーと、エルザ、頼めるか?」
早速エルザの出番である。ベルチェそっくりの 自動人形(オートマタ) の服を脱がしたりするのは憚られたのである。
「うん、わかった」
エルザはてきぱきと作業を行っていく。胸部皮膚などの外装を外したところでようやく仁の出番だ。
制御核(コントロールコア) を交換し、隷属書き換え魔法対策も施す。
「ついでだから骨格も 硬化(ハードニング) と 強靱化(タフン) をかけなおしておこう」
などと呟きながら、てきぱきと作業を進めていく仁である。
「お、おおお!?」
一切の遠慮無く、いつも通りの速度で作業を進めていく仁を見て、ラインハルトは仰天していた。
そんなラインハルトがふと横を見ると、食い入るようにしてみているエルザの姿が。その目は真剣そのもので、驚いている様子は無い。
ああ、エルザは仁のこんな姿をいつも見ていたのだな、と直感するラインハルト。同時に、エルザが 魔法技術者(マギエンジニア) として成長した理由を悟る。
そんなことをラインハルトが考えているうちに、仁は礼子に手伝って貰いながら、改造をほぼ終了してしまっていた。
胸部皮膚を戻し、服を着せ直したのはエルザである。
「よし、これで終わりだ。隷属書き換え魔法対策、 制御核(コントロールコア) のグレードアップ、骨格の強化。これでいいだろう」
所用時間約10分。もっとも、隷属書き換え魔法対策用のシールドケースなどは標準部品として在庫を持っているため、作業がより手軽になっているのだ。
「ネオン、『起動』」
「はい」
起き上がったネオン。
「どうだい、身体の具合は? 上手く制御出来ているかな?」
ネオンは、自己チェックするための手順を行い、問題ない事を確認した。
「はい、ジン様、調子は上々です。ありがとうございました。ベルチェ様、これからもよろしくお願い致します」
制御核(コントロールコア) の処理速度や処理能力が向上したおかげで、喋り方も流暢になっていた。
「まあネオン、発音もきれいになったわね。これからも頼みますわ」
「はい、ベルチェ様。こちらこそどうぞよろしくお願いいたします」
本質は変わっていないので、ベルチェもすぐに新生ネオンに慣れることだろう。
「よし、エルザ、エドガーに、いま俺がやっていた隷属書き換え魔法対策を施してごらん」
「うん、わかった」
礼子にシールドケースなどの対策部品を一式用意して貰い、エルザはエドガーの改造を始めた。
仁と同じ手順で進めていく様を見て、ラインハルトの顎が外れそうになる。
「ううん、わかっていたつもりだが、エルザ、成長したな……」
嬉しげな、そして僅かに悔しさが混じる声でラインハルトはエルザを褒め称えた。
「……ありがとう、ライ兄」
エルザも、尊敬する従兄にそう言われ、嬉しそうだ。
仁よりは時間がかかったが、40分くらいで改造を終えたエルザ。
最後の仕上げに仁が 魔結晶(マギクリスタル) を埋め込んでやる。『 魔法記録石(マギレコーダー) 』だ。仁の魔力パターンを持つため、これが識別の鍵となる。
全て終え、確認した仁はエルザに微笑みかける。
「よく憶えたな、エルザ。文句なしだ」
仁からも褒めてもらえたエルザは、顔を紅潮させ、にっこりと微笑んだ。
「ああ、エルザ、君もいい顔で笑えるようになったねえ、いいことだ」
「ええ、本当ですわね。エルザさん、いいお顔してますわ」
その笑顔を見たサキもベルチェもエルザを褒めたのである。そのため、より一層顔を赤くするエルザであった。
さて、仁はといえば、エルザがエドガーを改造している間に、ノワールの胸部に『 魔法記録石(マギレコーダー) 』を埋め込んでいた。
以前ラインハルトが 統一党(ユニファイラー) 対策のために 黒騎士(シュバルツリッター) を改造した時はシールド構造だけで、 魔法記録石(マギレコーダー) は未実装だったからだ。
ともあれ、これで、従者ゴーレム・ 自動人形(オートマタ) たちは、問題なく 転移門(ワープゲート) を使う事が出来る。
残るはベルチェとラインハルト。
「やはりお2人に似合うのは指輪じゃないかと思うんだが」
と仁がいえば、
「うん、私もそう思う」
とエルザも賛成する。
そこで仁とエルザは、 保護指輪(プロテクトリング) 、いや『 守護指輪(ガードリング) 』を作る事にした。
「『 変形(フォーミング) 』」
エルザがデザインも含めて指輪作製を担当し、
「『 書き込み(ライトイン) 』」
仁が 魔導式(マギフォーミュラ) を書き込む。
以前の 保護指輪(プロテクトリング) は、半丸形の断面を持つ丸い指輪だったが、今度は違う。
表面上側にはランドル家の家紋である向き合ったレーヴェ(ライオンに似た動物)が、そして表面下側にはラインハルトとベルチェそれぞれの名前が刻まれていた。
それを見たラインハルトはまたしても目を丸くした。
「ううむ、さっきも言ったがエルザ、お前、いい 魔法技術者(マギエンジニア) になったな。もし足りないものがあるとすれば、それは経験だけだ」
「ライ兄、ありがとう」
再度の褒め言葉に、エルザは頬を染めながら礼の言葉を述べた。
「お前にこれほど才能があったとはな。僕が教えてやればよかったよ」
そうすればまた違った運命に巡り会っていたろうに、といったラインハルトは首を振り、言い直す。
「いや、もし、なんて言っても仕方ないことだな。お前の今が幸せで、そしてこれからも幸せになれるなら、それが一番だ」
ラインハルトとベルチェに指輪を渡すエルザ。サイズの微調整はラインハルト自ら行った。
「ありがとう、ジン、エルザ。大事にする」
全属性の高品質 魔結晶(マギクリスタル) から作られた指輪は虹色に輝いていた。
「さて、これで全員 転移門(ワープゲート) を使ってここに来ることができるようになった。それでも当面、老君の指示に従ってくれ」
「わかった」
「わかりましたわ」
「うん、わかった」
ラインハルト、ベルチェ、サキは揃って頷いた。
「さて、それじゃあサキもラインハルトもこの工房をとりあえず使ってくれ」
東西8メートル、南北15メートルほどもある第一工房であるから、仁も入れて3人で使っても十分な広さがある。
「居室が必要なら3階に空き部屋がたくさんあるから」
仁は、これでようやく先代が目指した研究所のあり方、つまり 魔法工学(マギクラフト) の聖地に少しは近づけたかな、と満足感を憶えたのである。