軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-32 新婚旅行

「それじゃあ、行ってくる」

馬車の上から手を振るラインハルト。

「行ってまいりますわ」

ベルチェも手を振った。

見送るのはラインハルトの父、母、執事のクロード、そして侍女たちである。ラインハルトの兄たちは既にそれぞれの赴任地に戻っていた。

馬車に付けたゴーレム馬を御するのは仁。馬車の中には仁の予想通り、ベルチェの 自動人形(オートマタ) であるネオンと、 黒騎士(シュバルツリッター) ノワールもいた。

そして馬車が着いたのはサキの家の裏手である。人目につかない場所と言うことでここを選んだ。

周囲には5メートルから10メートルになる木が密集し、手入れのされていない灌木も茂っていて周りからは見えない。

「それじゃあ早速だけど、このまま行くから」

仁は臨時に組んだ 転移門(ワープゲート) に馬車を向けた。

ラインハルトたちは無言だ。何せ、馬車ごと転移するという滅多にない経験が出来るのだから。

「よ、よし。……行ってくれ!」

一瞬で馬車は『しんかい』の中へ転移した。

「ここに馬車は置いていく。……それじゃあすまないが、ラインハルト、ベルチェさん、ここで馬車は降りてくれ」

「わかった」

「わかりましたわ」

2人の手荷物はノワールが抱えている。

「ところでここはどこなんだい?」

「ああ、中間経由地みたいなものさ。一旦ここに来て、行きたい場所へ転移するんだ。馬車はここに預けることになる」

ベルチェは初めての体験に、物も言えずきょろきょろと辺りを見回している。

「さあ、行こう」

カイナ村へ調整された 転移門(ワープゲート) へ、まずは仁が、それに続いてラインハルトとベルチェが。そしてネオン、ノワール。最後に礼子が 転移門(ワープゲート) をくぐった。

出たのはサキの時と同じく、シェルターの中。

「ジン、ここは?」

「もうカイナ村だよ。その外れにある避難所の中さ」

そう言って2人を案内し、外へ。カイナ村の空は晴れていた。

「まあ、こちらはいいお天気ですのね」

驚いたようなベルチェの声。そして彼女と反対側を見たラインハルトは。

「ジ、ジン! あの建物は!? もしかして君の!?」

二堂城を見て当然の反応をしていた。

「ジン様、お帰りなさいませ。……あの時の貴族さま、いらっしゃいませ」

「その節は、ご面倒をおかけしました」

城から出てきたバロウとベーレが、ラインハルトを見て言った。

「ああ、あの時の2人だね。元気そうで良かった」

「はい、ジン様に拾っていただき、身体もすっかり良くなりました」

ラインハルトは隣のベルチェに、バロウとベーレの事を説明した。

「そうでしたの、苦労したんですのね」

「ええ、でも今は幸せです」

それを聞いてベルチェはにっこりと笑った。やはり同郷の者が幸せに暮らしていると聞くのは嬉しいものである。

「それじゃあ、荷物を客間に運んでおいてもらえるかな。そうだな、2階の和室がいいな」

「はい、わかりました」

手荷物をバロウとベーレに預けて、仁はラインハルトとベルチェをカイナ村へと案内していく。

「城には今夜泊まって貰うから、詳しい説明はその時にでも」

そう断って、村へ続く小径を進んでいった。

麦畑や野菜畑の間を抜けていく。その先がマーサ宅である。

「あれは、まさか……」

ベルチェが声をあげた。見覚えのある人物が2人、立っていたのである。

「サキ、さん? そして、そのお隣は……」

そしてその人物が口を開く。

「ライ兄、ベルチェさん、ようこそカイナ村へ」

「エルザさん!」

驚いた顔のベルチェ。

「あなた、これはいったいどういうことですの?」

ラインハルトはベルチェに説明した。

エルザが家を捨てたこと。 統一党(ユニファイラー) に一度捕らえられたこと。仁に助けられ、それ以来仁に匿われていること。

そして、ミーネが実の母親だったこと。

「そう、でしたの……」

まだ驚きからさめやらない顔でいるベルチェの手をエルザは握った。

「ベルチェさん、心配してくれてありがとう。今、私は幸せだから」

そしてラインハルトの手も取る。

「ライ兄、ベルチェさん、ご結婚、おめでとうございます」

「ありがとう、エルザ。そういえば、あのマスコット、エルザからなんだろう?」

「うん。私が作って、ジン兄に頼んだ」

「やっぱりな」

そこへ仁が口を挟む。

「さあ、立ち話もなんだから、中へ入ってくれ。……俺の家じゃないけど」

マーサ邸へ案内する仁。

「ここは、俺が最初にお世話になった家なんだ」

そんな短い説明でもラインハルトは理解したらしい。

「そうか、そういう土地なんだな。だからジンはこの村を租借地に選んだのか」

「まあ、ラインハルト様、ベルチェ様。このたびはご成婚おめでとうございます」

中から出てきたミーネが深々とお辞儀をして挨拶した。

「ありがとう、ミーネ」

「ミーネさん、お久しぶりですわ。エルザさんのお母さまだったんですってね?」

ベルチェも微笑みながら挨拶を返す。

「はい、ジン様のおかげで、今はエルザと幸せに暮らしています」

そして一同は中に。

さすがに全員が家の中に入るのは無理なので、仁の工房へである。

ここなら広いので、全員座ることが出来た。もちろんアアルやネオン、エドガー、礼子はそれぞれ主の後ろに立っている。

「どうぞ」

カイナ村名産のペルヒャのお茶をミーネとサラが給仕していく。

一口ずつ飲んだところで、仁はマーサとハンナを紹介した。

「こちらはマーサさん。その孫のハンナ。ここカイナ村における俺の家族です」

「マーサです、よろしく」

「あたし、ハンナ」

「ラインハルトです」

「妻の……ベルチェです」

それぞれ挨拶を交わす。ラインハルトも、貴族とは言っても、旅の間に多くの人とふれ合い、むやみやたらと威張ったりしない。

ベルチェもこういう時は控えめなので、マーサたちも好感を持ったようだ。

しばらくは他愛もない雑談が交わされたが、次第に話題は 魔法工作(マギクラフト) の話になっていく。

仁がポンプやコンロを作った話、温泉や雪室の話、洗濯機の話。

そしてエルザの後ろに立つエドガーの話となる。

「……信じられない」

エドガーをエルザが作ったということを聞いたラインハルトの第一声がそれであった。

「エルザさん、すごいですわ! もう独り立ちできますわね!」

片やベルチェは素直に称賛している。

「そこで、ラインハルトたちに相談というか、聞きたい事がある」

ちょうど良い機会だと、仁はずっと考えていたことを口にする。

「ショウロ皇国で、 魔法技術者(マギエンジニア) として独り立ちする条件にエルザは適っているだろうか?」