軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-31 出迎え

翌日4日は、朝からワイリージャム作りだった。

今回は一般家庭にある魔石コンロでなく、村長宅前で 竈(かまど) を組み、仁が調整した火の 魔結晶(マギクリスタル) で加熱。大鍋に一杯のワイリーをジャムにする予定だ。

「うわあ、甘酸っぱい匂い」

子供たち総出でヘタを取り、鍋に放り込んでいく。ゴーレムメイドのサラがワイリーを潰しながら鍋をかき回している。

因みに鍋は軽銀製。下手すると小さな家が1軒建つ鍋であるが、村人は誰も気付いていない。ただ大きいのに軽い鍋だと思っている。

また、夜中のうちに、ランドたちに命じて近くの山からもワイリーを採取させていたので、総量は昨日採ってきた3倍になっていたが、それに気付いた者もいない。

気付く前に潰して鍋に放り込んでしまったからだ。

水分が浸み出し、かき混ぜやすくなってくると、アクが浮いてくるのでまめに掬って取り除く。

「砂糖は俺からの寄付だ」

そう言って仁は鍋の中に砂糖を空ける。

おおよそ50キロのワイリーに50キロの砂糖を入れて煮詰める。じっくり水分を飛ばし、焦げ付かないように注意しながらどろどろになるまで煮詰めていけばジャムの出来上がりだ。

酸味が強いほど美味しいジャムになる。

仁も孤児院時代、旬が終わりかけて安くなった苺を買ってきてジャムにしたものである。砂糖を多めに入れ、水分を飛ばしておけば日持ちする。

冷凍庫に入れておけば次の春まで保つのであるが、大抵はその前に食べ尽くしてしまった。

「どれどれ? ……あちっ!」

かき回していたへらに付いたジャムを指で掬い、味見をした仁は猫舌のため舌を火傷しかかっていた。

「うん、これは甘い!」

横からサキもへらからジャムを取って舐めてみて、その味に顔を綻ばせていた。

鍋を火から下ろし、冷ましてから各家庭に配る予定だ。

「うーん、まだ 魔結晶(マギクリスタル) には余裕があるな……」

加熱用の 魔結晶(マギクリスタル) はまだまだ使えるので、ついでに仁はマーマレードを作ることにした。

「礼子、シトランを50キロばかり持って来てくれ。あと砂糖も」

礼子に指示を出し、仁はまな板と包丁をミーネに頼んで用意して貰う。

「よーし、手の空いてる者、手伝ってくれ」

礼子は2分ほどで二堂城の倉庫からシトランを持って戻ってきたので、包丁を使える者達で皮を剥いて刻んでもらう。

仁はその間に大鍋をもう一つ作った。

「刻んだ皮を鍋に入れて、1回茹でてお湯を捨てる」

このあたりの手順は色々あるようだが、仁は自分流で作っていく。皮の内側の白い部分は取らないのが仁流だ。

「剥いた実は半分くらいは食べていいけど、残り半分は搾って果汁を鍋に入れてくれ」

「はーい!」

いい返事をしているが、子供たちの大半はシトランを頬張っている。仁はそれを横目で見ながら、礼子、アアル、エドガーに命じて果汁を搾らせた。

シトランは果汁が多いので、半分くらい食べても十分水分があるのだ。

果汁と千切りの皮を煮詰めていく。アクを掬って取り、砂糖を混ぜる。

あまり少ないと日保ちしないのでたっぷりと入れた。

朝早くからのジャム作り、ちょうど昼時に終了。

村人全員でさっそく試食会だ。

「おおー! うめえ!」

特産のパンに、出来たてのジャムやマーマレードを塗って食べる。

味が濃いので、ちょっと付ければ十分だ。

「おにーちゃん、おいしいね!」

「ジンにーちゃん、ありがとう!」

高価な砂糖は仁からの寄付だったことを知っている子たちは食べながら仁に礼を言う。

余った分は29戸に分配した。だいたい1軒あたり、ワイリージャムが2瓶、マーマレードが1瓶くらいである。

瓶は仁特製の水晶瓶。普通ならジャムを入れるような物ではないが、これまた誰も何も言わない。サキでさえも。

「食べ終わったら、口の中きれいにしておくんですよ。やり方は……」

ミーネが子供たちに指導している。

幸いにして、カイナ村にはほとんど虫歯や歯周病はないが、食生活が変わってきたらどうなるかわからない。ゆえに今から習慣づけるのはいいことである。

ところで仁は、カイナ村で使われている飲み水の一部に、極々僅かな重曹が含まれているらしいことを知っている。温泉が炭酸水素塩泉であるのもそのためだ。

重曹は料理に使えるため、大量に確保出来ないか調査中である。かといって、村の中で大規模な掘削などはしたくない。

それはさておき、ほんの僅かに含まれる重曹が、口の中をアルカリ性に保つ働きをしていることは考えられる。

そしてもう一つ。大陸の他の地域に比べ、水に含まれる 自由魔力素(エーテル) が多いのである。

クライン王国首都アルバンだと0.1ppmくらいだが、カイナ村では10ppmくらい。実に100倍である。

とはいえ、10ppmすなわち10万分の1であるから、人体に(というか、人体の 魔力素(マナ) に)何の影響もない。

(だけど、口の中を清潔に保つのには有効なのかも)

臨床試験などをしたわけではないので何とも言えないが、虫歯がない理由としての可能性は高い、と仁は思っていた。

「それじゃあそろそろ、ラインハルトを迎えに行ってくる」

カイナ村はお昼の12時半。ラインハルトのいるバンネは朝の9時半ころのはずだ。

「ジン兄、気を付けて」

「くふ、ラインハルトたちが驚く顔が目に浮かぶようだよ」

「おにーちゃん、行ってらっしゃい」

エルザ、サキ、ハンナに見送られ、仁と礼子はしんかい経由で蓬莱島へ跳んだ。

途中、しんかいで。

「ここの酸素供給はどうなっているんだ?」

仁はしんかい担当のバトラー50に尋ねた。

「はい、酸素と二酸化炭素濃度をチェックし、定期的に 転移門(ワープゲート) を使って換気しております」

それを聞いて仁は安心し、蓬莱島へと転移。

『お帰りなさいませ、 御主人様(マイロード) 』

「ただいま、老君。今日、友人のラインハルトとその奥さんをまずカイナ村へ連れていく。そして明日か明後日、蓬莱島へも連れてくるが、何か問題はあるか?」

『いえ、なにもないですね。全て準備は調っています』

おそらく、ラインハルトは 黒騎士(シュバルツリッター) 『ノワール』を、そしてベルチェは『ネオン』を伴うと思われる。

仁の馬車に付属の小型 転移門(ワープゲート) では、ノワールが通れそうもないのである。それで、ファルコン10をあらかじめ派遣して、ノワールどころか馬車も通れる大きさの 転移門(ワープゲート) をサキの家の納屋に用意させていたのである。

これは保安上、使用後すぐに分解してしまい、ラインハルトたちが帰還する時にまた再組み立てする手筈となっていた。

「馬車は『しんかい』の中でいいな?」

しんかいの 転移門(ワープゲート) は、馬車を通すのに十分な大きさを持っていた。

『はい。ご指示があり次第、一時的にセキュリティを緩めます』

礼子内蔵の 魔素通信機(マナカム) により転移直前に老君に連絡を入れ、老君はしんかいに連絡し、セキュリティを緩める、と言う手筈である。

確認を終えた仁は、先日作ったゴーレム馬を1台引き出した。ラインハルトの馬車を牽かせるのである。

生きた馬では、世話が大変だからだ。

「多めに作っておいて良かったな」

そんな独り言を馬上で漏らす仁。

「……そういえば、リシアとパスコーに貸した馬も返してもらわないとな……」

それは後回しにするしかない。仁はショウロ皇国、バンネへと転移した。

* * *

「あなた、本当に今日、ジン様が迎えにいらっしゃるのですか?」

4日9時過ぎ、バンネにあるランドル伯爵家では、旅行の仕度をしながらベルチェがラインハルトに尋ねていた。

空には雲が広がり、日射しも弱々しい。雨は降りそうもないが、あまり遠出したくない空模様だった。

「ああ、間違いない」

一応、 魔素通信機(マナカム) の存在はまだベルチェには内緒であるから、ラインハルトも長時間の通話は出来なかったが、旅の間にすっかり馴染みになった老君との短いやり取りで手筈は全て飲み込んでいた。

「ラインハルト様、行ってらっしゃいませ」

執事、クロードが見送りの言葉を口にした。

今回だけは、夫婦水入らずで、との強い要望で、ラインハルトとベルチェだけで馬車旅行に行くことになる。

付いてくるのは 黒騎士(シュバルツリッター) ノワールと 自動人形(オートマタ) ネオンのみ。

領地内であるし、危険は無いと、ランドル家の者達は思っていた。

危険は無いだろうが、ラインハルトたちが行くのは領地内ではないということを知る者は今のところラインハルトのみである。

そこへ現れたのは仁と礼子。

「お、おお!?」

ラインハルトの父、ヴォルフガングが驚きの声をあげた。馬型のゴーレムを初めて見たのだ。

仁が乗ってきた馬車を見ていないのだから無理はない。一方、見慣れてしまった執事のクロードは驚いてはいない。

「ラインハルト、ベルチェさん、迎えに来たよ」

「ジン、出迎えありがとう」

「ジン様、ごぶさたしてますわ」

そう言って仁と握手するラインハルトだった。