軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-50 閑話18 もろもろの結末

さまざまな想い、思惑、行動、事件が交錯した日々もようやく終わりを告げた。

『礼子さんが苦戦したのはやはり重力魔法と呼べますね』

「重力を操ると言う意味か?」

仁は、蓬莱島の研究所で老君と礼子を相手に、『 諧謔(かいぎゃく) のラルドゥス』が使った魔法の解析を行っていた。

通常の魔法なら、一度で覚えてしまう礼子であったが、今回はそうもいかなかったようだ。発動方法が異なっているらしい。

『あれは使いようでは効果的です』

「だろうな」

魔法というものは詠唱すれば使えるというものではない。

言霊としての詠唱はイメージのサポートに過ぎないのだ。

だが肝心な重力現象のイメージが、礼子には難しかったのである。

そして、重力という現象について全てを知っているわけではなかったから、仁としても解析に手間取っているというわけである。

「とにかく老君、重力について俺の知っていることは老君も知っているわけだ。時間がかかってもいいから、重力魔法の解析は行ってくれ」

『もちろんです』

重力魔法を習得できれば、この先に起きるかもしれない魔族との衝突時にも有利に運べる。そしてもし応用できれば……。

仁は『反重力』という単語を脳裏に思い描き、その可能性に思いを馳せていた。

「あとは……」

『はい、わかっております。崑崙島と蓬莱島の警備強化ですね』

魔族が口にした『特異点』が、蓬莱島の事と決まったわけではないが、警戒するに越したことはない。

『ラルドゥスだけでなく、ドグマラウドとかいう魔族の魔力もわかりましたから、 魔力探知機(マギレーダー) で追跡可能です。それによりますと、現在、レナード王国北部に達しています』

「うん、侵略の意志がないというのは本当かもしれないが、警戒は怠るな。……それから、あの重力魔法の射程がわからない。航空機もあれにやられたら墜落するし、ランドたちだって動けなくなる」

『はい、十分に注意します』

老君は偵察を含めた今後の行動は必ずバックアップ要員を連れていくこと、そして攻撃を感じたら迷わず最大火力で応戦すること、と言った指示をゴーレム達に出していた。

蓬莱島と魔族の対決、そんな日が来るのかどうかはまだ誰にもわからない。

* * *

ワルター伯爵領の扱いについて、クライン王国首脳は頭を悩ませていた。

パスコー・ラッシュと、リシアの知らせによりラクハムに駆けつけた彼の所属する第4騎士団は、ワルター伯爵の側近だった執事と共に犯罪の証拠多数を押収し、首都アルバンに戻った。

その証言と証拠は、ワルター伯爵の地位を剥奪するに十分。彼には夫人や後継者、親族はいなかったので、伯爵領をどうするか、が当面の問題となる。

「王国の直轄地にするというのがいいと思いますがな」

「いやいや、隣接する侯爵領に編入するのがいいかと」

「それより分割して新貴族に与えるというのはどうでしょうか」

クライン王国の税制は、そのほとんどが一旦王国に入る事になるから、領地を直轄にするメリットは小さかった。

むしろ貴族に統治させることで、王国はその人員不足を補うことも出来ていたのである。

「よし、パウエル宰相の案を採択しよう。功のあった新貴族に分け与えるのだ」

結論を出したのは国王アロイス3世であった。居並ぶ幕僚は異論は無いというように、黙って頭を下げた。

そうなると、次の問題はどう分割して誰に分け与えるかである。

「今回の第一の功労者はリシア・ファールハイトであると思う」

これも宰相の口から出た言葉。

鳩に病気をうつされるという一幕もあったものの、予想できるものではなく、本人の責任でもない上、事実上実害はないに等しい。

その上、ワルター伯爵の執事が証言したことにより、リシアが立ち寄らずとも、カイナ村に病気を蔓延させるつもりだったことが判明していた。

この執事は、鳩を飼ったことがあったため、『客人』と共謀して鳩を病気に感染させる事に一役買っていたようだ。その処分は検討中だが、かなり重くなるだろう。

これらを考慮し、リシアは褒賞されることとなった。更に……。

「彼女にはトカ村を領地に与えることにし、そしてジン殿にはカイナ村に加え、イナド鉱山を租借地に加える、というのはいかがかな?」

総務相の発言。

仁にはこのたび、治療薬やリシアとパスコーへの援助という恩義がある上、クライン王国貴族のワルター伯爵が言語道断な企みをしていた事への謝罪という意味合いも含めている。

「そうですな。それならリシア・ファールハイトを準男爵に 陞爵(しょうしゃく) させるが良いでしょう」

リシアを隣接する地域の領主とすることで、仁への緩衝地帯とする意図もあった。

こうしてこの年、リシアは準男爵となり、トカ村領主となるのだが、正式に任命されるのはまだもう少し先のことである。

「あとはパスコー・ラッシュか」

宰相は、仁の人となりを確かめたいが故に、パスコーに一つの指示を与えていた。

すなわち、『仁を敵国の回し者と思い、常に疑いの目で見るように』ということである。

だが、パスコー・ラッシュからの報告からは、そんな様子はこれっぽっちも見えなかった。

「憎まれ役を押しつけてしまったな」

この後、パスコーも見習い騎士から正規の騎士に昇進することになる。

* * *

バロウとベーレはすっかり二堂城に馴染んでいた。

「この前の宴会は大変だったけど楽しかったね」

大広間を掃除しながらベーレがそう言った。相棒のバロウは玄関の掃除だ。

「ああ、そうだな。部屋もいただいてるし、ここに来て良かったよな」

普段は仁がいないから仕事と言えば掃除くらいであるし、その掃除も3階より上はゴーレムメイドたちがやってくれる。

「ホントに、何者なんだろう、ジン様って……」

そんな疑問を漏らすバロウに、ベーレが笑って答える。

「あら、簡単じゃない。ジン様は『すごい人』よ」

* * *

エルザは、仁から習った工学魔法を日夜練習していた。

先日は、 魔法制御の流れ(マギシークエンス) を用いた魔導具の作り方を教わったので、それを主に復習している。

「 魔導装置(マギデバイス) の要は効率。……え、と、ここの 魔導式(マギフォーミュラ) は……」

もちろん、基本となる 変形(フォーミング) を使う訓練も欠かさない。

リン青銅を使ったペンとペン先を作る事で、村の利益にも繋がる。今やエルザは、ペン先を3個までなら同時に作る事ができるようになっていた。

「でも、ジン兄は」

仁が10個のペン先を一気に作り上げる様は脳裏に焼き付いている。そしておそらくはあれでも仁の本気には程遠いということも薄々勘付いていた。

「……頑張る」

時々は、二堂城の3階にある図書室へ行き、老君が作った魔法工学の解説書を読んだりもしていた。

初級者向けのつもりで作られた本であるが、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) としての初級は、一般的な 魔法工作士(マギクラフトマン) の中級以上であることにはさすがの老君も、比較対象が無いだけに気が付いていなかったのは皮肉である。

しかし、怪我の功名。そのおかげでエルザの実力はこの先もどんどん伸びることになる。

* * *

レナード王国、いや、元王国というべきか。

その北部地方で、3つの影が言葉を交わしている。

うち1つは大怪我をして気を失っていたので、言葉を交わしている影は、正確には2つだ。

「ラルドゥスめ、独断専行してこのざまか」

「どこかで治療する必要がありそうね」

「うむ。それには心当たりがある。この大陸の北の方に、遺跡がある。そこへ行こう」

滅びた民族がいたらしく、誰も使っていない遺跡がある、と影の1つは言った。

「……だけど、南へ進出する意味は薄いね。なにしろ 自由魔力素(エーテル) が薄い。エルラドライトを持っていないと辛くてしょうがないわ」

「そうだな。特異点が海の方にあるとわかっただけで満足すべきだな。海では利用のしようがない」

「……ええ。しかし、あの 自動人形(オートマタ) は恐ろしかったわね」

「そうだな。……あんなのが100体もいたら、われわれは確実に滅ぼされてしまうな」

「好戦的じゃ無さそうだったのが救いってとこね」

「まったくだ」

そして3つの影は北へと消えていった。