作品タイトル不明
11-51 閑話19 強化計画
5月19日夜。
翌20日はラインハルトと約束した、ショウロ皇国へ戻る予定の日である。
仁は、蓬莱島で老君、アン、礼子らと相談していた。
内容は対魔族を含む、蓬莱島勢に関する将来的な強化の計画だ。
「まずは、すぐに出来そうなものから片付けていこう」
仁の言葉が響いた。
「 消身(ステルス) が見破られたと言っていたな?」
『はい。おそらくは、魔族の目が捉える事の出来る光の波長が、人間とは異なっているためと思われます』
消身(ステルス) は、可視光域の光線を屈折させて背後にあるものを見せ、見かけ上透明になる魔法である。
この『可視光域』は人間の視覚器官つまり目に対応している。魔族はおそらく紫外線領域を見ることが出来る、とアンからの助言があった。
昆虫は紫外線を見ているというし、爬虫類の一部は赤外線感知器官を持っていたりする。
魔族を人間と同じに考えない方がいいのだろう。
このことに基づき、 消身(ステルス) の影響を及ぼす周波帯域を赤外線方向と紫外線方向に大幅に広げる。
魔族対応のこれを 消身(ステルス) と区別するため、仁は『 不可視化(インビジブル) 』と呼ぶ事にした。
「うーん、効果は高いけどなにも見えなくなるか……」
不可視化(インビジブル) 結界を試しに発生させた仁は開口一番、そんなセリフを発した。
光が屈折した結果、中にいる人間に届く光が全く無いのである。
「もっと波長の長い電磁波って……マイクロ波とか言ったか?」
あやふやな記憶を掘り起こす。波長が短くなるとX線とかガンマ線になるので危険度が増す。
レーダーなどで使われるのがマイクロ波だったような気がする、と仁は思い出し、老君と相談の上、礼子をはじめとする蓬莱島勢の視覚強化プランを練り上げた。
仁自らは礼子の改良を行い、あとのゴーレム達については時間が無いので老君に一任した。
これらにより、蓬莱島勢の情報収集能力が、地味ではあるが底上げされたのは言うまでもない。
『 第5列(クインタ) の再編成、そして改造を行います』
老君が仁に提案したのはこれだ。
レグルス、デネブ、カペラ、スピカ、ミラ。それぞれを10体ずつ増やし、ショウロ皇国とレナード王国にも派遣する。
同時に、魔族との接触を想定し、パワーを上げる予定であると説明する。
今の礼子の15パーセントくらいだった出力を30パーセントまで上げる。また、重量が人間より重くなると言うことで装備していなかった武装を追加。
重量増加分の軽量化は骨格の肉抜きなどで行うが、そのままでは強度が落ちるので、材質を普通の軽銀から64軽銀に変える事で対処。
普通の軽銀にアルミニウムとバナジウムを添加するだけなので、作り直さずとも工学魔法で可能なのは大きなメリットであった。
武装は『 光束(レーザー) 』と『 麻痺(スタン) 』、それにバリアを展開できるようにするという。
「うん、いいと思うぞ。その線でいこう」
仁も賛成したのである。
* * *
「あとは、そうだなあ……」
仁は、今すぐには出来なくとも、順次充実させて行きたい事項をまとめにかかった。
まず、蓬莱島の防衛についてである。
「魔族がもし海を渡ることを考えたとしたら」
その可能性はゼロではない。重力魔法で体重を減らせば、海の上を走ることも出来るかもしれない。
『完成した3隻の空母を配備するのは当然として、海軍を充実させたいですね』
「そうだな。魔族といえども生物だ。海中からの攻撃には対処しづらいだろう」
仁は潜水艦部隊を作ろうと考えていた。
ゴーレムが乗組員なら、食料や水、それに酸素のことは考えなくていいので、構造も簡略化出来そうである。
「全長10メートルから20メートルで考えよう」
『わかりました』
仁の想定した基本仕様に従って、老君が『サブマリン部隊』の建造計画を進めることとなった。
もちろん海上戦力も増やした方が良さそうである。
「小回りの利く巡洋艦的な艦艇も欲しいな」
全長40メートルほどの高速艦艇も計画に組み込まれた。
これらを受け、陸海空ゴーレム部隊も増強することにした。
スカイ、ランド、マリン、マーメイドを今の100体から200体へと増やすことになる。
これは基本老君単独(もちろん実作業は 職人(スミス) を使って)で作業可能だ。
そして、決定的なものとして、 自由魔力素(エーテル) 吸収結界の開発。
文字通り、結界内の 自由魔力素(エーテル) を無くしてしまうもの。魔族にとっては致命的であろう。
以上は防衛計画と言える。
そして仁と、老君、礼子、そしてアンは、次なる強化計画を練っていく。
「まずは礼子だ」
仁は、今の礼子に足りない事、欲しい機能などを列挙していく。今すぐに出来ないものでも、それらを将来的には可能にしたいと考えていた。
仁としてはショウロ皇国における錬金術師から何か掴めないかという期待をしていたのである。
1.自己修復機能。
2.戦闘技術向上。
3.知識・知能向上。
4.パワーアップ。
などである。
1の自己修復機能は長期計画といわず、すぐに行えた。
身体を構成する部材が欠損した場合には完全な修復は難しいが、たとえば 魔法外皮(マジカルスキン) や 魔法筋肉(マジカルマッスル) の創傷とか、骨格が曲がったとかであれば、瞬時に自己修復できるようにするのは容易であった。
方法としては、礼子内部の各部分に、『 変形(フォーミング) 』や『 融合(フュージョン) 』、『 表面処理(サフ・トリートメント) 』などの効果を付与した 魔結晶(マギクリスタル) を埋め込んでおくのである。
そうすれば、礼子が『直したい』と指示を出すだけで、一定の効果を持った工学魔法が発動し、身体の損傷を修復してくれるという寸法だ。
休息中なら自分で自分に工学魔法をかけて直すこともできるだろうが、戦闘中にそれを行うのは時として命取りになりかねないから、簡単な命令で発動する修復機能は役に立つはずである。
2の戦闘技術向上は難しい。
仁は、礼子がどうして肉弾戦を多用するのかずっと不思議だった。それで礼子と話し合ったり、アンにも協力してもらって解析してみた所、一つの大きな問題に突き当たったのである。
それは礼子の『体重の軽さ』。
礼子専用の『桃花』にしても、マギ・アダマンタイト製で、1.5キロくらいある。ロングソードだと鋼製でも2キロ近くあり、アダマンタイト製だと5キロほどにもなる。
これを体重30キロの礼子が振り回すとなると、反動もものすごい。作用反作用の法則はこの世界でも有効であるから、体重が軽いということはそれだけ精密な剣技には不向きと言える。
更に、『手加減』。これは、逆説的になるが、礼子のパワーが大きすぎるのだ。
1000000に対して、1と1.1の差はないに等しい。が、その0.1の差でも、大きく違ってくるのが対人間の時である。
驚異的な反応速度と制御技術で手加減を行っている礼子であるが、逆にいえば、頭脳の処理能力をものすごく無駄なことに使っているとも言えた。
「うーん、これは俺の課題としよう」
すぐには対策を思いつきそうもなかったのである。
「重力魔法の解析が進めば使えそうなんだが」
ラルドゥスが、剣の重さを変化させて剣速や衝撃を増やしていたことは記憶に新しい。
重力魔法はこれからのキーテクノロジーになりそうであった。
3の知識・知能向上。
仁が、礼子を誰にも負けないレディにするため、礼子に限らないが、知識は不可欠であった。
それについては 第5列(クインタ) に命じ、知識や情報の収集をさせる予定である。
具体的には、各国の礼儀作法とか、民間に受けるような歌や踊りなどである。
4のパワーアップ。
礼子の身体の大きさからいうと、物理的な力に関して、現在の礼子は限界までパワーアップされていると言っていい。
これ以上パワーアップするためには、更に進んだ素材が必要となるだろう。
これもまた仁の課題であった。
魔法的な力では、エルラドライトを用いることで今の10倍は楽に出せるようになる。こちらはすぐに改造を終えることが出来た。
「さて、次は老君だな」
老君は、仁が作って以来、大きな改良は加えられていない。
その一方で、老君の負担は増える一方。
このままでは遠からず、オーバーフローしてしまうだろう。
「うーん、処理能力アップには2通りあるんだよなあ……」
パソコンに例えれば、CPU(中央演算処理装置)のクロック周波数を上げること。これはさらに噛み砕いていうならば頭の回転数を上げるといえばいいか。
それから、CPUの数を増やすことである。こちらは人数を増やす事に例えればいいだろう。
土、水、火、風、雷、光、闇、そして全属性の、8個の 魔結晶(マギクリスタル) によって構成されている 魔導装置(マギデバイス) が老君の頭脳である。
同じ物を沢山作って並列処理させれば処理能力は上がるだろう。
ということで、仁はあと3つ、 魔導装置(マギデバイス) を作り、計4つの 魔導装置(マギデバイス) を三角錐(正4面体)の4つの頂点の位置に立体配置したのである。
元からある 魔導装置(マギデバイス) が追加した3つを統括する方式だ。
「どうだ、新生老君?」
『はい、 御主人様(マイロード) 。ありがとうございました。すばらしい調子です。これで今までの数倍の事案を同時処理できます』
「それはよかった。……あとは周波数アップもやりたいんだよなあ……」
仁は満足しきっておらず、愚痴とも不満ともつかない独り言を漏らした。それは、礼子のパワーアップにも使える技術だからだ。
魔力は交流らしい。交流である以上周波数がある。そしてその周波数は、仁の固有魔力パターンと必然的に同じになる。
魔法工学師(マギクラフト・マイスター) である仁のそれは、普通の魔導士の10倍にもなる。それだけレベルが高いということ。
だが、これをもっと高められたら。
それも仁のこれからの目標であった。
これらを終えた仁は、老君に必要な指示を出し、ショウロ皇国に戻ることになる。
「あとは医療ゴーレムとか……」
そんな言葉を残して。
* * *
『 第5列(クインタ) の再編成を行います』
蓬莱島では、老君が、仁の指示に従って作業をこなしていた。
まずは 第5列(クインタ) の再配置である。
100体から150体に増えた 第5列(クインタ) を再度新しい任地へと向かわせる。
ショウロ皇国や元レナード王国、それに幾体かは魔族のテリトリーにも潜入することになる。
ショウロ皇国に派遣された 第5列(クインタ) が真っ先に行った事と言えば、仁の欲しい食材を探すことである。
それはすぐに実を結ぶ。
南部に派遣されたスピカ11とミラ11が、ワス湖近くで3種類の米を見つけたと報告してきたのだ。
また、カペラ11がアウベ付近で正真正銘のお茶の木を手に入れた。
米とお茶は、苗と加工品をそれぞれ手に入れられたので、蓬莱島での栽培にも着手することになったのである。
その一方で、元レナード王国に派遣された 第5列(クインタ) たちは、魔族のシュプールを発見することは出来なかったが、人間の住む小さな集落を幾つか見つけていた。
『仲良くなるよう努力しなさい。そして、その国がそのような状態になったわけも調べなさい』
老君はそう指示を出す。
小群国の1つであるレナード王国がどうして滅びたのか、国中に展開されていた幻影結界は誰がどんな目的で設けたのか。
調べるべき謎はたくさんあった。
第5列(クインタ) の活躍はこれからも続く。