軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-49 騒動の終わりに

こちらはリシアとパスコー。

仁に借りたゴーレム馬の速さは筆舌に尽くしがたく、半日かからずにトカ村に着いてしまった。

そのトカ村では3人が脱力感を訴えていたので、魔導具を使い、治療した。

「まだ行けますね」

「はい」

リシアとパスコーは、ラクノー、そしてドッパへと立ち寄り、さらには夕刻、シャルル町まで辿り着いていた。1日で約150キロを踏破したことになる。

その間、ラクノーでは4人を治療。ドッパでは6人を治療していた。まだ脱力感以上の重篤な症状が出た者はいなかった。

そしてシャルル町。ここで初めて、発熱した患者2人に治療薬を使った。パスコーは半信半疑だったが、仁を信頼しているリシアは躊躇うことなく投与。

その結果、見る見るうちに快癒した患者を見て、驚くと共に、仁の実力を思い知ったパスコーであった。

その日は夜遅くまで町を巡り、疑わしい者には治療をかけ、発熱していた者には治療薬を与えた。

「結局、ここシャルル町では、治療した人数62人、投薬した人数が15人でしたね。やはりラクハムに近付くにつれて増えているようです」

「そうですね。少なくとも、病気が流行の兆しを見せている事に疑いの余地はないでしょう。リシアさん、これは王国に追加報告した方がいいと思います」

「そうしましょう。……明日も朝早く起きて出発しますから、そろそろ休むとしましょうか」

時刻は午後11時を回っており、朝4時から起きている事を考えると、かなりの強行軍であった。

「そうだ、ジンさんが下さったペルシカジュース、あれを飲んで寝ましょう」

「俺は疲れたのでもう寝ますよ」

リシアは宿の表に出てゴーレム馬からジュースを取り出し一口飲む。すると、なんだか身体が軽くなったような気がした。残りも一気に飲み干すと、身体の芯に溜まっていた疲れが消えていくようだ。

「ジンさん、ありがとうございます……」

カイナ村にいるであろう仁にそう感謝をしたリシアはゆったりした気分で床に就いたのである。

翌19日は朝5時に出発した。

パスコーが疲れが抜けきらない顔をしていたので、リシアはペルシカジュースを飲むことを勧めた。

半信半疑でそれを飲んだパスコーは、眠気はともかく、身体の疲れが消えていくことに仰天。

「……本当に、ジン殿というのは何者なんだ……」

そしてようやく、仁のことを認める気になったようである。

* * *

時間は戻って、18日、クライン王国。

「親善大使としてカイナ村へ行ったファールハイトから鳩による緊急連絡が届いただと?」

パウエル宰相は、鳩が運んできたリシアからの手紙に目を通すと表情を曇らせた。

「……『魔力性消耗熱』だと? それが流行の兆しあり?」

真実なら一大事である。宰相は頭を抱えた。

クライン王国は慢性的な人材不足に悩む国家である。書かれていた『治癒師』など片手で数えられるほどしかいない。

これでは、首都アルバンに配備するのが精一杯で、周辺都市までは無理だ。

「……どうしろというのだ……」

手紙には、仁の協力を得て、薬を携えたリシアとパスコーが、カイナ村から首都へ、治療を施しながら帰還すると書かれていた。

「が、どんなに急いでも、5日から6日はかかる……」

既に発症した者に対しては打つ手がない。

「……またしても数百、数千の死者が出るのか……」

パウエル宰相はそう呟くと机に突っ伏してしまったのである。

* * *

「よし、プレソスは終わり。次はガァラだ」

ラクハム担当の 第5列(クインタ) 、カペラ2によれば、魔力性消耗熱と思われる患者たちは照射により全快したと報告を受けている。

療治(メディケア) で無害化出来るなら、 完治(ゲネーズング) を用いればより効果が上がるだろうという仁の推測は正しかったのである。

仁、エルザ、礼子を乗せたペガサス1は、最初に病原体が撒き散らされたと思われるラクハムを中心に、ダクロズ、ソー、ズクと、周辺の町を順に巡り、処置を施していった。

首都に派遣した 第5列(クインタ) からの報告によれば、首都アルバン及び隣接するガァラにはまだ発症した者はいなかったが、念のため、そこを含め、周辺も処理していく。

余談だが、この時の 治療器(トリートメンター) による処置により、魔力性消耗熱以外の病人も快癒したという逸話がある。これが後々騒動の種となるかどうか、それは誰も知らない。

「……これで大丈夫だろう。あとは、『デウス・エクス・マキナ』の名で予防処置をした、と連絡しておくとするか」

「ジン兄の名前じゃなくて?」

「ああ。俺はもうこれ以上目立ちたくないしな」

「……ジン兄らしい」

* * *

リシアとパスコーは、ラクハムに入っていた。

途中にある地図にも載らないような小さな集落では発熱した者が5人。その悉くは治療薬で回復した。

が、病気の中心と思われるラクハムではどれほどの人数が発病しているのか……と、暗澹たる思いでラクハムの町に足を踏み入れた2人は良い意味で予想を裏切られていた。

「それじゃ、昨日、急に病気が治ったというのですか?」

「はい、そのとおりです」

リシアはワルター伯爵の館に来ていた。先日泊まったときに応対してくれた執事が出てきて応対してくれる。

「それでは、病気について知っていることを話して下さい」

少し強い口調でリシアが言うと、執事は素直に告白し始めた。

「……伯爵のお客人がそれをやりました。名前や正体は存じません」

執事は、己も昨日までは発熱に悩まされていたと打ち明け、進んで聞き取り調査に協力していた。

もっとも、それを指示したワルター伯爵はもうこの世の者ではなく、忠義を尽くす相手がいなくなったのだから当然かもしれない。

「その客人が、伯爵の指示により、私の連れていた鳩に何らかの方法で病気をうつしたということなんですね?」

「はい。……伯爵は、自業自得と言いますか、天罰が下ったのでしょう」

「あなたは、それを王国裁判官の前で証言できますか?」

「……出来ます」

こうして、ワルター伯爵の罪が暴かれることになった。

同時に、イナド鉱山の労働犯罪者をわざと脱走させたことや、塩を買い占めて不当に流通を妨げようとしたことまで、全て明るみに出ることになる。

小さな余罪はまだまだあるようで、聞いているリシアとパスコーは呆れてしまった。

「そ、それでは、パスコーさん、彼等の身柄についてはあなたに監視していただく事になりますがよろしいですか?」

ラクハムにはクライン王国直属の兵士や騎士が駐留していなかったのである。それで、リシアはやむなくパスコーに、ワルター伯爵の家臣団を監視してもらうことにしたのであった。

ワルター伯爵亡き今、家臣団が逃亡する可能性は低かったが、かと言って野放しには出来ないのだ。

パスコーのゴーレム馬に積んである薬などはそのままにしておく。万が一、病気が再発した場合のことを考えてである。

が、リシアには、なんとなくであるが、この先はもう病人はいない、そんな気がしていた。方法は分からないが、仁が何かしたのではないかと思っていたのである。

パスコーと別れ、ラクハムを出発する前に、リシアはパスコーに頭を下げた。

「パスコーさん、ごめんなさい」

「リシアさん!?」

「……パスコーさんが、お薦めできません、とやんわりとはいえ忠告して下さったのに、それを無視した私が悪いんです。あの時、泊まらなければ、鳩に病気をうつすなどと言う奸計はなされなかったと思うと、私……」

パスコーはそんなリシアに向かって、きっぱりとした口調で語りかけた。

「そんなことを気にしていたんですか。でも、我々が泊まらなければ泊まらないなりに、奸計はなされていたと思いますよ。ですから気にする必要はないんです! むしろリシアさんがいたからこそ、これだけ早く対策をしながら帰還できるんじゃないですか!」

次第に熱っぽくなるパスコーの語り口。

「そ、それに、俺、いや、私も、ジン殿を誤解していましたし。リシアさんがあれほど信頼していたというのに」

すまなそうに頭を掻くパスコー。リシアはしばらくそんなパスコーを見つめていたが、やがて、くすっ、と小さく笑った。

「……ありがとうございます、パスコーさん。少し気が楽になりました」

そう言ってリシアは1人首都を目指したのである。

* * *

「デウス・エクス・マキナからの書状だと?」

こちらは首都アルバン。

19日朝、魔力性消耗熱対策の目処が立てられないまま徹夜してしまったパウエル宰相へ、1通の書状が届いたのである。

「なになに……な、な、なんだと!?」

宰相が大声を上げたのも無理は無い。

一晩中頭を悩ませ続けていた魔力性消耗熱、その治療と感染拡大予防措置が済んだという知らせだったからだ。

「なんという事だ……デウス・エクス・マキナとはいったい何者なんだ……」

魔力性消耗熱を解決して貰った事は素直に嬉しい。だが同時に、それだけの事が可能な力を持つデウス・エクス・マキナという謎の人物に対して、宰相パウエルは脅威も覚えたのであった。

そして翌20日、リシアが首都アルバンに戻ってきた。

カイナ村の様子、仁に歓待された事、そしてワルター伯爵の悪巧みに端を発した今回の魔力性消耗熱について、宰相は詳しい報告を聞いた。

その報告では、仁はデウス・エクス・マキナと何らかの繋がりがあるらしい。仁の実力を知っている宰相としては不思議ではなかった。むしろ納得してしまう。

「……ジン、か……今は、その機嫌を損ねないようにするのが一番だろうな。何が出来るかはおいおい考えていくとして……」

現在、一番の問題はワルター伯爵の処遇である。本人はもうこの世のものではないとは言え、その行いはあまりにも悪辣、考え無しである。

証人としての執事や配下はパスコーが見張っていると言うことで、大至急捕縛し、連行するように第4騎士団へ指示を出した。

「ご苦労だったな、リシア・ファールハイト。今日はもうよい。帰宅してゆっくり休むがいい」

「はい、ありがとうございます。それではこれで失礼致します」

リシアが王城を出るともう夕暮れであった。

茜空を見上げたリシアは、慌ただしかった今回の旅を振り返る。

「ジン、さん……ありがとう、ございます」

思わずそんな言葉が口をついて出る。

リシアは遠い空の下にいるであろう仁に思いを馳せるのであった。