作品タイトル不明
11-48 仁の真意
「さて、方策としては…………」
仁は、老君に自分の考えを話す。
基本的に仁が作った礼子や老君は反対意見を積極的には述べないので、アンにも参加してもらう。
「……ごしゅじんさまがそれでいいとおっしゃるなら、いいのではないでしょうか」
アンも仁の方策に一応賛成してくれた。それで仁も心を決める。
「よし、さっそく始めよう。老君、準備を頼む」
老君に材料などの準備を任せた後、一旦休憩した仁は、エルザをどうしようか、とちょっと思い悩んだ。
これからやろうとしていることは、仁から見ても常識外れだ。だが、中途半端な事をして後悔したくはない。
何で自分がこんな事まで、と言う思いが頭を掠め、少しうんざりするが、これも自分に出来ることだから、と思い直した。
そんなとんでもない行動にエルザを付き合わせていいのかとも思えるが、ここまで事情を説明し、協力してもらいながら、詰めに参加させないのは画竜点睛を欠くと思い、椅子でうたた寝しているエルザを起こすことにした。
気持ちよさそうに寝ているのを起こすのは少し躊躇われたが、そのままにしてもおけないので心を鬼にして揺り起こした。
「んう……ジン兄?」
寝ぼけまなこのエルザだったが、昨夜の事を思い出したようだ。
「……あのあとは? 病気のことを詳しく聞いて、そのあと魔導具作って……」
エルザに記憶があるのはそのあたりまでのようで、その頃からうとうとし出したらしい。
「エルザ、俺はこれから、俺に出来る最大のことをするつもりだ。エルザはどうする?」
最終的にはエルザの意志を尊重するつもりだったが、そのエルザは仁の問いかけに間髪を入れずに返答した。
「……もちろん、最後までつきあう」
「よし、それじゃあ、ちょっと目覚ましに顔を洗おう」
仁も疲れを感じていたので、階下の工房に下り、流しで顔を洗った。エルザも同じようにする。
「それじゃあ、俺が作るところをみていてくれ。……礼子、そっちの 魔結晶(マギクリスタル) をとってくれないか」
「はい、お父さま」
礼子にもちょっと手伝って貰いながら仁が作っていくのは 魔素変換器(エーテルコンバーター) 。それも強力な奴だ。
「ここの 魔導式(マギフォーミュラ) を書き込むときには注意が必要なんだ。それは、ここで 自由魔力素(エーテル) を 魔力素(マナ) に変えているんだが、その効率が……」
エルザにも一通りの説明をしながらの作業。エルザも、 魔導式(マギフォーミュラ) の扱いはまだまだ半人前だが、仁が言わんとするその意図は理解しているとみえ、わからないなりに真剣に聞いている。
「……よし、これで一つ出来た」
仁は 魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) 、そして 魔力貯蔵庫(マナタンク) を続けて完成させた。
そしてそれらを組み合わせていき、筐体に収め、最終的にもう一つ、エルラドライトを組み込んで出来上がりだ。
出来上がったものが超強力な魔導具であることはエルザにも分かった。
「ジン兄、これは何をするもの?」
その問いに仁は直接は答えず、魔導具の決め手になる魔法を書き込む作業をして見せた。
「『 書き込み(ライトイン) 』……『 完治(ゲネーズング) 』」
その書き込まれた魔法を知って、エルザは目を丸くした。
「……それ、は……」
「そうさ。こいつは治療の魔導具だ。それも、超遠距離、超広範囲に影響を及ぼせる、な」
仁は、うたた寝していたので聞いていなかったエルザに、仁の作戦を説明する。
「これをペガサス……飛行機に積んで、上空から地上へ向けて治癒魔法をかけるんだ。そうやって魔力性消耗熱を退治しようと思ってな」
聞いたエルザはさすがに耳を疑った。
仁が飛行機を持っていて空を飛べるのは知っている。
仁が強力な魔導具を作れるのも知っている。
仁が、自分が使えない魔法でも魔導具に組み込めば使えるように出来るのも知っている。
だが、それを組み合わせてそんな計画を立てていたとは。いや、それ以前にそんなことが可能だとは。
「……ジン兄はやっぱり常識外れ。桁が違う。……まるで物語の中の救世主みたい」
仁を讃えるつもりでそう口にしたエルザであった。
だがそれを聞いた仁の反応は違った。
「俺は救世主なんかじゃないよ」
「え?」
「……俺は救世主じゃないし、なろうなんて思った事もない。正直言ってこんな事やりたくないよ。俺はただ、好きなもの作って、作ったものを喜んで使ってくれる人がいて……そんな暮らしがしたいだけなんだ」
「ジン兄……」
徹夜疲れのせいか、今日の仁は口が軽い。一度口から出た本音は、堰を切ったように溢れ出す。
「これは、単に自分のためなんだ」
「…………」
辛そうな仁の本音を聞いたエルザにはかける言葉がない。
「見知らぬ誰かの事なんて知ったこっちゃない。でも、俺には大事な人たちがいる。その人たちはカイナ村に住んでいて、カイナ村は俺の大事な居場所で、カイナ村を守るにはカイナ村が所属するクライン王国が平和でなきゃ駄目なわけで、クライン王国が平和であるためには、周りの国々も平和でなきゃ駄目なわけで」
そう言った仁は少し疲れたような笑顔を浮かべた。
「……だから俺は、俺のためにこれをやる。今だけ、な。それが結局はこんな大ごとになっちまってさ」
エルザを見返った仁は更に言葉を続ける。
「俺は俺に出来る方法で守りたいものを守る。ただそれだけなんだ」
「…………」
溜まったものを吐き出したせいか、仁はさっきとはやや違った、寂しげな笑みを浮かべる。
「ごめんな。こんな事、エルザに話すはずじゃなかった。……やっぱり疲れてるのかもしれない」
そう言って頭を掻いた仁。エルザはそんな彼の手を取って、
「……ううん、話してくれて嬉しかった。……私は何もしてあげられないけれど、話を聞くことくらいなら出来る。1人で背負い込まないで」
仁はそんなエルザの顔を穴が空くほど見つめていた。
「……ジン兄?」
いつもと違う仁の様子にちょっと戸惑うエルザ。
「……ありがとうな。……今、ショウロ皇国の 宮城(きゅうじょう) で、いろいろ面白いものを見聞きする機会があるのに、何でこんなに 煩(わずら) わされなきゃいけないんだ、って思ったらつい、な」
いかにも力が入らない言葉だった。そんな仁にエルザは心配そうな声音で告げる。
「……ジン兄は1人で抱え込みすぎ。前に、レーコちゃんたちも心配していた」
統一党(ユニファイラー) との決戦が近かった時の事である。あの時は、老君と礼子に頼まれて、エルザが仁の気分転換に力を貸したのだった。
「頼りないし、大した事も出来ないけど、少しは私も、頼って欲しい。今回みたいに」
そう締めくくったエルザの前で、仁は項垂れてしまった。
「ジン兄?」
だが仁はすぐに顔を上げると、明るい顔になっていた。
「……そうだったな。何でも1人で出来ると自惚れていたのかもしれない。今回だってこうしてエルザに手伝って貰っていたのに」
そう言って仁は、ぱん、と音を立てて両手で顔を叩き、
「ありがとう、エルザ。目が覚めたよ」
今度のありがとうには力が籠もっていた。
「前にラインハルトから、この世界の標準を知った方がいい、と言うような事を言われた。俺はこの世界では異端なのはわかってるつもりだ。時々やり過ぎてるけどな」
そう言った仁の目は笑っていた。
「だけど、俺は俺だ。それは変えられない。もし俺が間違えそうになったら、エルザ、教えてくれ」
「……ん。任せて!」
エルザにしては力強く頷いたので、仁は微笑んでその肩をぽん、と叩いて、
「よし、行こう。……礼子、すまないが、『 治療器(トリートメンター) 』をペガサス1に積んでくれないか?」
仁の後ろでちょっと寂しそうな顔をしていた礼子は、その指示に顔を綻ばせ、
「はい、お父さま」
喜々として 治療器(トリートメンター) を持ち上げた。
(良かった。お父さまが元気になられて。……エルザさんは、お父さまのお気持ちを察するのがお上手ですね……悔しいですが、認めざるを得ません)
すぐに 治療器(トリートメンター) はペガサス1に積み込まれ、仁はそれを下方へ向けて照射出来るように据え付けた。
「これでよし。『 療治(メディケア) 』で無害化出来るなら、『 完治(ゲネーズング) 』を用いればより短時間で効果が上げられるはずだ」
仁の推測によると、『魔力性消耗熱』の病原体は、鳥の病気を引き起こす細菌かウィルスが突然変異を起こしたものである。
ゆえに、治癒系の魔法で病原体の突然変異を元に戻せば無害化出来るという結論が導き出せる。
同時に病気にかかっている人間も治してしまえば一石二鳥。但し、こんな荒技はそうそう何度もするつもりはない。
「それじゃあエルザ、乗ってくれ。礼子、行くぞ」
「ん」
「はい」
仁、エルザ、礼子を乗せたペガサス1は朝の空へと飛び立った。 消身(ステルス) も働かせ、下から見られないように対策をする。
「まずは、ラクハムからだ」
目指すはラクハム、ワルター伯爵の臨時拠点で、おそらく最初に病原体がばらまかれた町。
「……ジン兄はやっぱりすごい。空をこんなに自由に飛べるなんて」
2度目の空からの眺めに興奮気味のエルザはそんなセリフを吐いたが、今度は仁も笑ってそれを聞き流していた。
老君は、各所に散らばった 第5列(クインタ) からの情報をまとめ、今のところ重篤な患者がいるのはラクハム、その次がソーの町とシャルル町であることを突き止めていた。
「 完治(ゲネーズング) の魔法は、異常を元に戻す働きがある。つまり、健康な人は何も感じない」
独り言を言うかのように呟く仁。それを聞いているエルザはなるほどと感心していた。
わざわざ 完治(ゲネーズング) を健康な人にかけたことはないが、治癒魔法の範囲に健康な人が入っていることは多々あるはず。
にも関わらず、治癒が行われるのは怪我人もしくは病人だけ。
「ジン兄の洞察は間違っていない、と思う」
エルザにもそう言われた仁は、ペガサス1をラクハムの上空に停止させる。
そして、真剣な顔つきで 治療器(トリートメンター) を作動させたのであった。