軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-47 父、娘、妹分、それぞれの想い

分析(アナライズ) によれば、エルザの作ってくれた治療薬は、今までの回復薬に比べて3倍の効果があるようだ。

「これだけあれば、100人くらいは治せるだろう。老君、そうとも知らず、さっきは怒鳴って済まなかった」

『いえ、私も、エルザさんの魔力量を考慮しなかったのは失敗でした』

そんなやりとりを交わす主従。仁は改めて治療薬を見た。

無色透明な治療薬は5リッターくらいある。それを白雲母製のアンプルに小分けする仁。

その時である。

『 御主人様(マイロード) 、礼子さんが苦戦しています』

老君の声が響いた。仁は作業の手を止めて、

「どういうことだ?」

と、詳しい説明を求めた。

『はい。謎の男、ラルドゥスは予想通り魔族でした。そして、どうやら重力を操る魔法を使うようです』

と説明。シャマ大湿原を、足を取られることなく渡っていったのはそういう能力があったからだと老君は推測を述べた。

『……今、数千Gが礼子さんに加わっています』

「数千G!?」

横で聞いているエルザには何のことか分からないだろうが、仁には、礼子がぺちゃんこに押し潰される光景が想像できてしまった。

「それで! 礼子はどうした!」

急き込んで尋ねる仁に、老君はあくまでも冷静な声で説明していく。

『礼子さんはフルパワーを出し、耐えています。……立ち上がりました。……大丈夫です。奴こそ、今の魔法を継続してかけていられるはずがない』

老君は、仁に説明しながらも、礼子にアドバイスをしているようである。そしてついに均衡が破れた。

『ラルドゥスの手にしたエルラドライトが砕け散りました』

それからは礼子の一方的な勝利と思いきや、更に2体の魔族が現れたようである。

が、その2体は好戦的ではないようで、今回の『魔力性消耗熱』についての情報を一通り開示すると、気を失ったラルドゥスを担いで魔族の国へ帰っていったようだ。

『ラルドゥスの魔力は追跡可能です。……ですが、どうやら、新たな魔族のどちらかは転移魔法を使うようです。いきなり離れた地に移動しました』

「転移魔法?」

転移門(ワープゲート) が存在する以上、それに類する魔法を使う者がいてもおかしくはない。

「……それに重力魔法、か」

今の礼子を苦戦させるとは恐ろしい相手である。

礼子の身体をマギ・アダマンタイトにしておいてよかった、としみじみ仁は思った。同時に、もう礼子を危ない目に遭わせるのは止めよう、とも。

が、今はやるべき事がある。仁は再び作業に戻った。

そしてそれから20分後。

『 御主人様(マイロード) 、礼子さんが戻られました』

「そうか!」

仁はアンプル作りの作業の手を止めた。すぐに礼子が階段を駆け上ってくる。

「お父さま、ただいま帰りました」

仁は両手を広げて礼子を迎えた。

「お帰り、礼子。どこも怪我していないだろうな?」

礼子は頷いた。

「はい、お父さまにいただいたこの身体のおかげで無事帰ってくることが出来ました」

そんな答えを返した礼子を、仁は抱きしめた。

「ごくろうさん」

「……お父さま?」

「礼子、無事で良かった。……本当に、もうこれから、お前を危険な目には……」

だがそんなセリフを言いかけた仁を礼子は遮って、

「いいえ、お父さま。僭越ですが言わせて貰います。……お父さまが守りたいと思うものは私が守ります。お父さまの喜びは私の喜び。お父さまの悲しみは私の悲しみ。お父さまの怒りは私の怒り。そしてお父さまの幸せは私の幸せなのです。私はお父さまの影。影はどこまでも付き従うのみです」

そう言い切った礼子を仁は更に強く抱きしめた。

「……ありがとう、礼子。それなら俺がなすべき事は一つ。お前を、どんなことがあっても傷付かず、どんな相手にも負けないようにしてやることだ」

仁は更に苦笑しながら付け加える。

「そして、どんな女の子にも劣らないようなレディにも、な」

「はい、信じています」

そんな父と娘のやり取りを見ていたエルザは誰にも聞こえないような小さな声で、一言ぽつりと呟いた。

「……うらやましい」

* * *

落ちついたところで、礼子の口から『魔力性消耗熱』についての情報を報告してもらった。もちろんエルザにも同席してもらっている。

「……わかった。だいたい、今まで行ってきた対策で間違いないようだ。だが、 療治(メディケア) を数分、というのは大変だな」

腕組みをして考え込んだ仁だが、1分もしないうちに考えを纏めたようだ。

「……エルザ、疲れているだろうが、頼みたい」

済まなそうな仁にエルザは健気な答えを返した。

「ん。ジン兄の役に立てるなら本望」

「ありがとう。 完治(ゲネーズング) を発動できる魔導具を作りたいんだ」

そして仁はエルザに、まず 魔法語(マギランゲージ) 、 魔導式(マギフォーミュラ) 、そして 魔法制御の流れ(マギシークエンス) を教えた。

基本は少しずつ教えていたので、1時間ほどで大体のことは理解させることが出来、いよいよ本番である。

「『 書き込み(ライトイン) 』」

ぶっつけ本番であったが、エルザの初製作は概ね上手くいった。とはいえ、制御や発動が甘い部分があるのだが。

「いきなり難しい事をさせて済まない。でも、これで俺が量産できる」

そう、仁自身は 治療措置(ハイルフェルファーレン) や 完治(ゲネーズング) を使えないが、1度その 魔法制御の流れ(マギシークエンス) を見れば、魔導具として再現する事は出来るのだ。

「……やっぱりジン兄はすごい」

エルザは、エリアス王国を旅立ったばかりの頃、馬車に酔った仁を癒すために使った『 癒せ(フェルハイレ) 』を、礼子がすぐに使えるようになった事を思い出していた。

「妹分としてはもっと頑張らないと」

密かにそんな決心をするエルザであるが、初めて作った魔導具が高度治癒の魔導具ということが既に規格外だということに気づく事はないのだろう。

そんなエルザの決心を知らない仁は、エルザの目の前で 魔導式(マギフォーミュラ) を次々に 魔結晶(マギクリスタル) に書き込んでいき、高度治癒の魔導具を量産し続けていた。

* * *

翌18日。

早朝の二堂城前で、リシアとパスコーは身支度をしていた。

「ジンさん、この馬を使え、と?」

2人の目の前には昨夜仁が作ったゴーレム馬が2体。

「ええ。これなら水も食べ物もいらないし、疲れを知りませんからね。それに……」

胴体のハッチを開けてみせる仁。馬の胴体は大きいので、収納スペースを設けることが出来たのである。

「ここに貴重品を入れておけます。魔力設定することで、騎乗者にしか開けられないように出来ます」

「そ、そうなんですか」

規格外の機能を聞き、少し驚くリシア。

「あと、ここには治療薬100人分と、最新型の治療の魔導具を5基入れておきますから、使い分けて下さい。使い方はさっき説明した通りです」

仁は城の中で、リシアとパスコーに『魔力性消耗熱』やその治療法について説明しておいたのである。

もちろんマキナから知らされた、と言うことにして。

「それから、ペルシカジュースを入れておきます。疲れたら飲んで下さい。元気が出ますよ」

もちろん蓬莱島特製のもの。疲労回復に効果があるように調整されている。

「……はい、わかりました。いろいろお聞きしたいことはありますけど、まずはこの病気対策ですからね」

「うむ。リシアさんは俺が守る。ジン殿、安心したまえ」

と言って胸を張るパスコー・ラッシュ。仁は頷いているが、実際には 第5列(クインタ) のデネブ30を付けてやるつもりなのだ。

実質上の護衛である。魔族でなく人間相手ならデネブ30に敵はいない。相手が少数なら、の但し書きは付くが。

そして上空にはファルコン6から10までを飛ばし、いつでも支援できる態勢を整えておいた。知らぬはリシアとパスコーばかりである。

残った1羽の鳩にも入念な治癒を施したあと、病気について簡潔にまとめた報告を運ばせることになった。

昼前には王国の情報局に届くであろう。

「それでは出発します」

やるべき事を全てやり、リシアとパスコーはゴーレム馬に跨った。前日、アインとツバイに乗っていたので操作に問題は無い。

「リシアさん、気を付けて。パスコー殿、ご無事で」

「はい!」

見送る仁、出発する2人。

アインやツバイに比べて数段乗り心地が良く扱いやすいことに驚きつつ、リシアとパスコーはエルメ川を渡り、トーゴ峠へ向かって駆けて行ったのである。

「よし、俺もするべき事をするか」

そう呟いた仁は二堂城の 転移門(ワープゲート) から蓬莱島へ戻ったのである。

「老君、各地での病気発生状況はどうなっている?」

『はい、 御主人様(マイロード) 。 第5列(クインタ) からの報告によれば……』

クライン王国各地に散らばった 第5列(クインタ) に命じて魔力性消耗熱と思われる患者の発生状況について調査させていたのである。

仁は仁で、このパンデミックを食い止めるために全力を尽くすつもりであった。