軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-46 一流

気が付けば日は落ちて外は真っ暗である。

仁の執務室は、研究所と同じく、 自由魔力素(エーテル) がある限り発光し続ける発光素材、仁命名するところの『 エーテル発光体(AL) 』で天井が張られており、暗くなると自動的に発光し始めるので窓の外を見て初めて、日が暮れたことに気が付いたのである。

その光る天井を見たリシアとパスコーは絶句していた。その様子を見た仁は、

(あー、この エーテル発光体(AL) も先代の頃はありふれた素材だったのに、失伝しちまっているんだな……)

と思ったのである。同時に、『失われた技術』の復活なら、多少積極的に行ってもいいのではないか、と考えたりもしていた。

だがとりあえず絶句している2人を再起動させるのが先である。

「えーと、これ、城の完成祝いにデウス・エクス・マキナからもらったんですよ」

咄嗟に口からでまかせを言う仁であった。

階下の食堂で夕食を済ませた仁たち。

仁はリシアとパスコーに、明日早く出発して欲しいからもう休んだ方がいいと助言。そして仁は、これから薬や何やらの準備をするからと言って、カイナ村の自宅工房へ行くと告げる。

「……わかりました。いろいろ聞きたい事ばかりですが、今やるべき事は病気対策ですからね」

「……リシアさんの言うとおりだ。俺も全力でリシアさんを補佐する」

2人はそう言って寝室へと引き取っていった。

「さて、俺もやるべき事をやらないとな」

そこで仁は、コマに乗って自宅工房へと向かった。コマにはライトも付いている上、ゴーレムとしての自律性が高いので危険は無かった。

「……ジン兄、おかえりなさい」

こちらの家ではエルザが出迎えてくれた。

「ただいま。……エルザ、話は聞いたか?」

「ん。バトラーAから聞いた」

ショウロ皇国式の治癒魔法を使えるエルザであるから、老君との打ち合わせの後バトラーAに指示をして、エルザにも概略を説明させておいたのだ。

「エルザは治癒魔法、どこまで使えたんだっけ?」

「……『 治療措置(ハイルフェルファーレン) 』まで」

詠唱ではよくわからなかったので、冷蔵庫にしまってあるペルシカジュースにその魔法を込めてもらうことにした。

「……これに?」

怪訝そうな顔のエルザだが、仁の頼みなので、素直に従った。

「『 治療措置(ハイルフェルファーレン) 』」

すると、ペルシカジュースが一瞬だけぼうっと淡く光ったのである。

「今のは……なに?」

「えーとな、 自由魔力素(エーテル) を多量に含む液体には魔法特性を付与できるんだ」

するとエルザはそれを多少なりとも理解したようだ。

仁は、エルザが魔法を付与したペルシカジュースを分析する。嬉しい事に、エルザの 治療措置(ハイルフェルファーレン) が、上級治癒魔法の 療治(メディケア) と同等かそれ以上であることがわかった。

喜んだ仁はエルザにそう告げる。

「凄いぞ、エルザ」

褒められたエルザは僅かに頬を紅潮させ、仁に質問した。

「……それって、錬金術、なの?」

「そうそう。知っているのか?」

「ん。……サキさんがそういうの好きだった」

仁も初めて聞く名前が出てきた。

「サキ?」

「サキ・エッシェンバッハ。ライ兄の家の領地に住んでる錬金術師の娘さん」

「というと、トア・エッシェンバッハの?」

思いがけなく、エルザの口からエッシェンバッハという名前が出てきて、仁もちょっとびっくりした。

「知ってるの?」

小首をかしげてエルザがそう聞き返す。仁は、先日ショウロ皇国で図書室を見せて貰った時に本を読んだ、と説明した。

「……サキ 姉(ねえ) は私が小さい頃、よく遊んでくれた。そのときいろいろ教わった」

「なるほどな」

エッシェンバッハ家についていろいろ聞いてみたいところであるが、今はそれどころではない。

「それじゃあエルザ、一緒に蓬莱島へ行ってくれるか? そこで薬を作る手伝いをしてもらえると助かる」

「ん。喜んで手伝う」

そこで2人は、工房地下の 転移門(ワープゲート) で蓬莱島へと跳んだ。

蓬莱島では、老君が先の打ち合わせ通りに下準備を済ませていた。

『 御主人様(マイロード) 、準備は全て整っています』

「よし、それじゃあ俺は予定通りにゴーレム馬を作る。それで老君、エルザは『 治療措置(ハイルフェルファーレン) 』という魔法を使えるんだ。そっちの方が幾分効果も高そうだ。だからエルザに協力してもらって回復薬というか、治療薬を増産してくれ」

『わかりました。エルザさん、ご協力よろしくお願いします』

「ん。頑張る」

仁はそちらは老君とエルザに任せた。エルザは老君の移動用端末、老子と共に研究所2階の研究室へ行く。仁がいる工房の真上だ。

そして仁は、明日リシアとパスコーを乗せるためのゴーレム馬作製に取りかかった。

ベースはアインなどと同じだが、カスタムチューニングを施す。具体的には、『乗馬時の疲れ軽減』である。

乗馬において、騎手にはバランスが要求される。これは馬の背中で上下左右に揺られることに起因する。振り落とされないためにバランスを取る必要があり、腹筋や背筋が疲労するのだ。

さらに、下半身で馬や鞍をホールドしつつ、馬に自分の意志を伝えるという行為も必要になる。

これらのために使う筋肉は日常生活とはまったく異なるため、慣れないと非常に疲れる。そして慣れていても、馬を高速で走らせればやはり疲れるのだ。

以上を鑑みれば、オフロードバイクを作った方が良さそうであるが、リシアとパスコーがいきなり乗りこなせるはずもない。また、人目もある。

そこで仁は、疾走させても騎手には上下動を極力感じさせない歩法に調整すると共に、鞍部分には衝撃吸収素材として 暴食海綿(グーラシュヴァム) を使用。

形状もやや馬らしくなくなるが、それよりも座りやすい形状を優先することにした。

そして自律性を更に高め、騎手の言葉を完全に理解するようにし、言葉での指示も可能とした。但し発声機能は付けない。馬が喋るというのはちょっと不気味だからだ。

代わりに肯定の時は首を上下に、否定の時は左右に振る、などの動作で意思疎通が図れるようにした。

「リシアたちには話さない方がいいかもな……」

ハイスペック過ぎて、いらぬ疑念を与えたくないと仁は考えたのである。

一連の作業は、 職人(スミス) ゴーレムが手伝ったので、10体のゴーレム馬が1時間ほどで完成してしまった。

どうして10体かというと、手伝いの 職人(スミス) ゴーレムが増えるだけで、仁の手間は2体も10体もほとんど変わらないからである。

後々必要になったときのために使えそうなので、仁はこの機会に多めに作ってみたというわけだ。

うち2体をリシアとパスコーに貸し出す予定である。色はあまり目立たないよう、茶系統に着色しておいた。

「よし、これで足の方はよし、と」

薬の方がどうなっているか、と仁は2階研究室へ足を運んだ。

「……『 完治(ゲネーズング) 』」

ちょうど仁が2階研究室に顔を出したとき。

エルザの目の前にある 薬剤基(ドラッグベース) が青い光を放ち、透明な液体に変わった。同時にエルザがくずおれる。

「エルザ!」

驚いて仁は駆け寄った。

「老君! エルザに何をさせたんだ!」

少し強い口調で叱責めいた言葉を放つ仁を遮ったのは当のエルザだった。

「……ちが、う、ジン、兄。これ、は、私、が、望ん、で、やった、こと」

青ざめた顔をしながらそう説明するエルザ。その様子から仁は、エルザがおそらく体内の 魔力素(マナ) を使い果たしたのだと判断した。

魔力過多症のエルザではあるが、 魔力素(マナ) を使い切ればやはりそれは体調不良となって現れる。

それで仁は、そこにあった何も付与していない 薬剤基(ドラッグベース) をエルザに与え、ゆっくりと飲ませた。

薬剤基(ドラッグベース) に含まれた 自由魔力素(エーテル) は、細胞単位で身体に吸収され、 魔力素(マナ) に変わる。

青ざめたエルザの顔に見る見る生気が戻ってきた。

「……ふ、う」

深く息をつくエルザに仁は、

「エルザ、協力してくれるのは有り難いが、自分が倒れるほどの無茶はしないでくれ……」

と、少しきつい声でそう窘めた。

「……心配させて、ごめんなさい。でも私もジン兄の役に立ちたかった、から」

済まなそうに俯いたエルザの頭を撫でながら仁は、『ありがとう』と礼を言う。言われたエルザは顔を上げ、ほんのりと染まった顔に嬉しそうな笑みを浮かべた。

エルザが落ちついたのを見て仁は老君に質問する。

「それで老君、今の魔法は?」

『はい。驚いたことにエルザさんは、この短期間で最上級治癒魔法が使えるまでになられたのです』

老君は驚くべき事実を述べた。

「何だって! 今の『 完治(ゲネーズング) 』というのがそうか?」

『はい。最初は 治療措置(ハイルフェルファーレン) を込めていたのですが、私と少々魔法運用の問答をしたら』

「……凄いな、エルザ」

あらためて仁はエルザの顔を見つめ、称賛を口にした。面と向かってそう言われたエルザは更に頬を染めた。

「……ジン兄のおかげ。魔法はイメージが大事、と教えてくれた」

確かに仁は、工学魔法を使う際にイメージが大事だと何度も繰り返し教えていた。それは取りも直さず、一般魔法でも同じ。

それに気付いたエルザは一足飛びに、この世界に数えるほどしかいない、一流の治癒魔法士になったのである。

そのエルザが作ってくれた回復薬、いや治療薬は透明に澄みきっていた。