軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-45 打ち合わせ

一方、時間少し戻って、仁はというと。

「……それじゃあ、その方法で行こう。準備は任せていいな?」

『はい、 御主人様(マイロード) 。お任せ下さい』

老君と対処法をいろいろ相談していた仁は、老君に幾つか指示を出し、準備を整えてから、後ろ髪を引かれつつも礼子の出発を見送ることなくカイナ村へと戻った。

まずは二堂城の執務室に行き、バトラーBに命じて、工房の方にいるはずのリシアとパスコーをこちらに呼んでくるよう指示を出した。

「ベーレ、お茶を用意しておいてくれ。バロウは椅子を2脚準備しておいてくれ」

「はい」

「はい」

執務室は和室ではなく洋間。板張りで、執務机と椅子がある。

話が長くなると思い、ベーレにはお茶の準備をさせておく。深刻な話になると思われるのでお茶請けは無しだ。

仁が頭の中でもう一度手順を復習していると、リシアとパスコーがバトラーBに案内されてやって来た。

「呼び出したりして済みません。でも、緊急事態なので」

いきなりそう切り出した仁に、何か言いたげだったパスコーも口を噤んだ。

まずは椅子を勧め、ベーレが淹れたお茶を勧める。3人とも、それを一口飲み、とりあえず落ちついたところで仁はいきなり爆弾発言をした。

「ワルター伯爵が死亡したそうです」

「ええっ!」

お茶を飲み終えたのを見定めての言葉だったので、リシアもパスコーも噴き出すことはなかった。

「……さっき届いた連絡です」

仁は、老君に命じて作らせた手紙を机の上に置いて見せた。

「日時は今日の午前中。症状は脱力感に始まり、発熱、そして全身の痛み。最後は……」

リシアの顔は真っ青である。全身の痛みは感じなかったが、脱力感と発熱には憶えがあったのだ。

「まずいことにこれは伝染性があるらしく、感染源は鳩です」

「……わ、私がつ、連れていた、は、鳩なんで、しょうか!?」

真っ青になったリシアは辛うじてそれだけを口にした。自分が原因でワルター伯爵が病死したと思ったのだろう。今にも倒れそうだ。それを見て取った仁はフォローを入れる。

「リシアさん、あなたの鳩にこの病気を感染させたのはワルター伯爵ですよ」

「え!?」

「正確には伯爵の指示でその部下が、ね」

「……ど、どういうことです!?」

そこで仁は、伯爵がこのカイナ村を租借地として切り取られたのを不満に思っていたこと。そのため、塩の買い占めなどの嫌がらせをしていたこと。

今回は、カイナ村へ来るリシアを利用して、病気を蔓延させようとしたこと、を簡単に説明した。

「ば、ばかな! 仮にも伯爵がそんな真似をしたというのか? おい、貴様! 証拠はあるのか? 無いのなら名誉毀損になるぞ?」

考え込んでしまったリシアとは逆に、パスコーは激昂して仁に詰め寄った。

このような事態はもちろん想定してある。

「証拠か。まず病気の大元にいた伯爵が今朝死亡したこと。そして、良く調べたら、館で働く侍女、執事全員が脱力感を訴えていること。中には発熱しているものもいるそうだ」

仁が素の口調でそう言うと、パスコーは若干言葉に詰まったが、

「だ……だが、それだけで伯爵が犯人と決めつけることは出来ないぞ!」

と反論する。そしてそのあと、大きな疑問に気が付いた。

「……おい、でたらめを言うな! 今何時だと思っている! いくら伝書鳩が速くてもこんなに速く知らされるはずがない! そもそも伯爵家の大事を誰が知らせて来たというのだ!」

が、それも仁と老君は想定済み。

「手紙を読んでみてくれ」

そう言って、机の上に置かれた手紙をパスコーに差し出す。それをひったくるようにして手にしたパスコーはむさぼるように目を通した。

「……内容はその通りだな……そして差出人は……デウス・エクス・マキナ? ……どこかで聞いたような……」

だがリシアはすぐにその名前に思い当たり、

「ジンさん! デウス・エクス・マキナという方とお知り合いなんですか!?」

と、急き込んで問いかけてきたのである。

これも予想済み。何せ、リシアの剣を返すときに、『マキナから預かった』と言っているのだから。

「知り合いと言うほどではないです。でも何度か顔を合わせたことがあるくらいで。……ああ、彼について詳しいことは口止めされているので話せませんから」

微妙な線の知り合いであるということにしておく。後にこの事がクライン王国首脳に伝わると、宰相以下、仁の扱いで更に頭を悩ませることになるのだが。

「そうですか……」

クライン王国とフランツ王国、そしてセルロア王国とエゲレア王国。 統一党(ユニファイラー) によって操られた先の戦争が、デウス・エクス・マキナと名乗る謎の人物によって半ば強制的に終了させられた事は、参加した者は皆知っている。名乗ったのはエゲレア王国首都アスントで、であったが、その情報は例の『 魔素通話器(マナフォン) 』によって、クライン王国にも伝えられていた。

「……なるほど、かの人物からの情報か……それなら信憑性が増すな」

渋々といった感じで、パスコーも矛を収めた。ここぞと仁は説得にかかる。

「……それでですね、今一番重要なことは犯人がどうとか言う事じゃないんですよ」

口調を戻してリシアに話しかける仁。犯人を指摘したのは、リシアの罪悪感を減らしてやるためだ。

「……わかります。病気が拡がるのを抑えること、ですよね」

少し落ちついて冷静になったリシアは、仁が言わんとすることを理解していた。

「そうです。その手紙にも書いてありますが、今現在、デウス・エクス・マキナも病気について調べているそうです。……リシアさん、この先はどうするのがいいと思いますか?」

仁は、救護騎士隊にいたリシアなら何か意見があるだろうと、これからどうするのがいいかと聞いてみた。

リシアはしばらく考えてから口を開いた。

「もちろん、病気を無くすことが肝心です。そのためにすべき事として、私たちが辿った道を戻りながら、診察・治療するしかないと思います」

そう言うリシアであったが、顔が晴れない。その理由は次に発せられた言葉で明らかになる。

「でも、一番危険なのはラクハムなんですよね。感染してから日が経過していますから」

アンやエレナから得た情報に依れば潜伏期間は2日から5日。ワルター伯爵が死亡した事から、館の中にいる者もそろそろ危険が迫っていると考えた方がいいだろう。ラクハムの住民にはもう少し猶予期間があるかもしれないが。

「それから、治療法がわかりません」

そこで仁はリシアに質問する。

「リシアさんが使える治癒魔法は何ですか?」

「私が使えるのは『 治療(キュア) 』、『 快癒(リカバー) 』です」

どちらも外科的治療の魔法である。

「……ごめんなさい、病気の治療はできないんです」

リシアはそう言って項垂れてしまった。だがこれも老君との打ち合わせで想定済み。

「それは大丈夫です。ここに、『 療治(メディケア) 』の魔法を込めた 魔結晶(マギクリスタル) があります。これに発動の魔力を込めれば 療治(メディケア) が発動します」

仁は胸ポケットから2個の 魔結晶(マギクリスタル) を取り出し、机の上に置いた。

「え? え?」

確かに、魔法発動の 魔導式(マギフォーミュラ) を刻み込んだ魔導具というものは存在する。が、そんなにひょいひょいとポケットから出て来ていいものだろうか……と、リシアは一瞬呆けてしまった。

「ということで、おそらく明日朝までに、デウス・エクス・マキナから何か連絡が入るはずです。その情報を元に最終的な行動方針を決めましょう」

こうして、老君との打ち合わせ内容どおりに話が進んでいった。

打ち合わせが半分くらい進んだところで、少しぬるくなったお茶を飲み、一息つく3人。

「……はあ、ジンさんってやっぱりマキナさんと面識あったんですね。剣が戻ってきた時から聞きたいと思っていたんです」

「ええ、まあ。……彼は縛られるのが嫌なので、あまり人前に姿を現さないようですが」

「ふふ、実は私、ジンさんがマキナさんなんじゃないかと思っていたんですよ」

なかなか鋭い……というか、そう思わない方がどうかしていると言ってもいいかもしれない。

「…………」

無言の仁に、リシアは微笑みかけた。

「いえ、ジンさんが、マキナさんであってもなくても、どっちでもいいんです。今は病気が蔓延しないようにするのが一番ですから」

「そうですね。それにはやはり、王国貴族のリシアさんとパスコー殿に動いていただかないと」

そこにきてようやくパスコーが口を開いた。己の中でくすぶっていたものに折り合いを付けたらしい。

「……ジン殿、全力を尽くすと約束する。だが、伯爵が大元だという件については自分は納得していないからな」

仁はそれでいい、と言った。今必要なのは、病気を防ぐことだからだ。

「それで、ジン殿は何をするのだ? まさか、ここに籠もって動かないというのではないだろうな?」

睨むように言うパスコー。まあ目尻の下がった彼に睨まれてもあまり迫力はないのであるが。

「まず俺は薬を用意しますよ」

そう言って、棚に置いてあった回復薬を取り、机の上に置いた。

「これは 療治(メディケア) の効果がある薬です。しかし、数に限りがありますから、もっと作る必要があります」

パスコーは興味深そうにそのアンプルを眺めたが、リシアは顔を引き攣らせた。

「ジ、ジンさん、 療治(メディケア) の効果があるって言いましたか?」

「ええ。それが何か?」

「何かじゃないですよ! 稀少な魔法薬じゃないですか! 王国だとこれ1本で金貨1枚はしますよ!」

10000トール、約10万円。効果の高い回復薬というのはそれほどに貴重なのである。仁も老君もその価値までは考えなかった。

だが、ここで錬金術の本を読んだ効果が出る。

「それは錬金術が発展してないからですよ。最新の錬金術、エッシェンバッハの手法を使えばもっと簡単に作れるんです」

半ば真実である。仁が読んだ限りでは、ショウロ皇国の錬金術師、トア・エッシェンバッハは、『 自由魔力素(エーテル) を多量に含んだ液体があったなら、それに魔法を付加する事で薬とすることができるであろう』と推測を述べていたのである。それを読んだ仁は感心したものだ。

「……そう、なん、ですか……」

リシアも仁の言うことだから、とそれで引き下がる。薬がたくさんあることはいいことなのだから。