軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-44 礼子の帰還

「!」

一体いつ現れたというのか。

今目の前にいる2体からは強大な魔力を感じる。にもかかわらず、接近を感知できなかった事は驚きであった。

警戒し、身構える礼子。

男と思われる方の魔族はそれを手で制し、

「早まるな。我々はお前と戦うつもりはない」

と言い切った。背は低めだが岩のようにがっしりした体つきである。短く刈り込まれた髪は真っ黒。目も真っ黒である。

「そもそも、こんな 自由魔力素(エーテル) の少ない土地など我々の趣味ではない」

自由魔力素(エーテル) が少ないというのは、魔族にとっては空気が薄いのと同じようなもの。死ぬわけではないが、行動しづらいのは確かなのだ。

「なら、なぜここにいるのですか?」

礼子の的を射た質問。

「ふふ、単なる調査のためだ、と言ったら信じるか?」

「調査?」

「そうよ。こっちの地方は基本的に 自由魔力素(エーテル) が薄いんだけど、どこかに特異点があるらしいのよね」

今度は女と思われる魔族が答えた。こちらは痩せて背が高く、真っ黒な髪を足首付近まで伸ばしている。男と同じく瞳は闇のように黒い。

「特異点?」

「ふふ、そう、特異点。本来あるはずがないものが存在しているの。そこだけは 自由魔力素(エーテル) が濃いようなのよねえ。……あたしたちのいる北の地方は、 自由魔力素(エーテル) は濃いんだけど寒いのよね。暖かくて 自由魔力素(エーテル) が濃い場所なんて理想的なのよ。……何かご存じ?」

礼子はそれを聞いて、咄嗟に蓬莱島のことを思い浮かべた。が、口には出さない。

「……知りません。知っていても答える義務はありません」

「うふ、ふふ、ふふふふふ。いいわねえ、あなたの答え。健気だわあ」

女魔族は身体をくねらせてそんなセリフを吐いた。

「結界を張ったのはあなたたちですか?」

女魔族を無視して、礼子はそう質問した。今度は男魔族が答える。

「ん? 違う違う。その結界はもともと張られていたぞ?」

男魔族の話では、元々レナード王国には100年以上前から上空に幻影結界が張られていたという。

「誰が、何のために、かは知らん。別に我々に害があるわけでもないしな」

「そうですか」

礼子にとっての重要度は高くないのでその話は打ち切ることにした。

「あの男……ラルドゥスは伝染病を撒き散らしました。その責任は取らせます」

そう言って、礼子は倒れているラルドゥスに向けて一歩を踏み出す。だが、どうやったものか、一瞬で礼子の前に2人の魔族が立ちはだかった。

「おっと、それはさせられない。何せ、数少ない同朋だからな」

「代わりと言っては何だけど、あなたの強さに免じて、いろいろ教えてあげるわよ」

「……なら、ラルドゥスがばらまいた病気について知っていますか?」

ここはまず情報を得る事から、と礼子は判断し、素直に教えるとは思えなかったが、まずはそう尋ねてみることにした。

「『魔力性消耗熱』のことね?」

「そ、そうです」

まさか素直に教えると思わなかったため、さすがの礼子も狼狽し、口ごもってしまった。

「あたしたちの間では大した事もない病気なんだけどね」

そう前置いて女魔族は『魔力性消耗熱』についてぺらぺらと喋り出した。

「……つまり魔力が多いほど症状は軽くなるわけ。魔力が少ない人間だったら致命的かも」

そう言って胸の前で掌を打ち合わせ、けたけた、と笑った。その仕草に礼子はイラッとする。

「……それから?」

「ああ、ごめんねえ。……で、要は、そいつの身体の魔力を食い荒らす病気なわけ。食い荒らす魔力が無くなると、そう、『生命力』とでも言うべきものを食い荒らし始めるのよね。そうなったらもう手遅れ」

そう言ってまたしてもけたけた笑う。

「……ベミアルーシェ、いい加減にしろ」

見かねた男魔族が諫めた。それでようやく女魔族、ベミアルーシェは笑いを収めた。

「わかったわよ、ドグマラウド」

そして彼女は、次々と、礼子が知りたい情報を喋ってくれたのである。

鳥もこの病気にかかること。だが、鳥は死ぬことはなく、回復すること。

鳥から人にうつるときは接触感染で、人から人へうつるときも接触感染であること。

人から鳥へはうつらないこと。

魔力パターンによってはまったく感染しない者がいること。

一度感染して助かった者は2度とかからないこと。

潜伏期間は最短で2日、最長で5日であること。

魔力が多いほど潜伏期間は長く、少ないほど短いこと。

極度に魔力が多い場合は発症しないこと。

症状としてはまず脱力感、次いで発熱。ここまでなら治すことができること。

その次のステージになると全身を痛みが襲うようになり、そうなったら手遅れなこと。

死因のほとんどは心臓停止であること。

有効な治癒魔法は『 療治(メディケア) 』であろうこと。但し連続して数分間かけないと意味がないこと。

感染していても、発症する前なら数秒の『 療治(メディケア) 』で済むこと。

そして、病気の元凶は、『 療治(メディケア) 』などの治癒魔法で無害化出来ること。

真実という保証は無いが。

「……全部ホントよ? 信じられなければそれでもいいけど」

「全て真実だぞ? 我々の秘密を全部知られるわけにはいかないからな、『 知識転写(トランスインフォ) 』を使わせるわけにはいかないのだ」

ドグマラウドも保証した。

「……こんなに簡単に病気のことを話しましたが、なら何で病気を広めるような真似をしたのです?」

礼子にはそれがわからなかった。

「それは簡単だ。ラルドゥスが勝手にしたことだからだ。そもそも奴はまだ年若く、分別がない。そのくせ力が強いから少々始末が悪い」

「では、伝染病を広めるのはあなた方の望むところではないと?」

「そのとおり。かと言って、治療の手伝いまでするつもりはないが」

ドグマラウドはそう言うと、礼子の目の前から消え、気が付けば倒れていたラルドゥスを担ぎ上げていた。

「まさか……空間転移が出来るというのですか?」

「そこまで教えるつもりはない。……というわけでこいつは連れて行く。こんな奴でも失うわけにはいかないのでな」

「じゃあね、可愛い子ちゃん。あたしたちは国へ帰るわ」

ベミアルーシェは礼子に投げキッスをし、そう言った。

「……待ちなさい! まだ聞きたい事が!」

だが、帰ってきたのは拒絶の言葉。

「なんでもかんでも洗いざらい話す気はない。今はこれまでだ」

そう言って礼子に向けてドグマラウドは魔法を放つ。

「『gravita』」

それに気が付いて飛び下がった礼子であったが、魔法の範囲が思った以上に広いのか、それとも追尾する特性があるのか。

「これは……!」

先ほどは重力が増やされて動きを鈍らされたのだが、今度は逆だった。

つまり、礼子はその重さをほとんど無くされてしまったのである。

比重が空気と同じくらいになってしまった礼子。少し軽くなったくらいなら素早く動けるのだろうがこれでは軽すぎである。

こうなると、地面を思い切り蹴ろうとしても力が入らず、どうにもならない。

そんな礼子の目の前で、3人の魔族は、ふっ、と消えてしまったのであった。

『礼子さん、ラルドゥスの魔力は追跡可能です。今は第一の目的が達成されたことで満足すべきです』

礼子に、老君からの助言が届いた。

「……それもそうですね」

魔族がいなくなったからか、それとも時間が経ったからか、礼子の体重は次第に元に戻り、15分ほどで魔法の影響は無くなったのである。

「……急いで帰りましょう」

礼子は全速力でペガサス1が待つ場所へと駆け戻った。念には念を入れ、自らの身体を発熱させ、殺菌を行いながら。

そうして暗闇の中、礼子は時速200キロ以上で駆け、1分かからずに合流。

「お姉さま、ご無事でしたか」

ペガサス1ではルーナとソレイユが出迎えてくれた。

「強大な魔力反応があったので警戒していました」

ランド1と2は降下して警戒に当たっていたようで、暗闇の中から戻ってきた。

「……なんとか役目は果たせたと思います。戻りましょう」

礼子は打ち合わせ通りに脱出用の 転移門(ワープゲート) で蓬莱島へ。

そしてソレイユとルーナ、ランド1と2はペガサス1で蓬莱島へ、それぞれ帰還したのである。

* * *

『礼子さん、お疲れ様でした』

蓬莱島に戻った礼子を老君が労った。

「少し悔しいです。魔族にあしらわれたようで」

礼子が素直な気持ちを吐露する。

『それはわかります。ですが、最大の目的は達成されました。あの魔族たちの言葉に嘘はないでしょう』

「おねえさま、断片的に残っている私の記憶とも齟齬はありませんでした。奴等は真実を話していたと思います」

そう言われて礼子もようやく俯いていた顔を上げたのである。

『 御主人様(マイロード) は2階の研究室でお待ちです。あなたが苦戦しているのを聞いて、ずっと心配してらっしゃいました。無事な姿を見せて差し上げて下さい』

「はい」

そう聞いた礼子は大急ぎで 転移門(ワープゲート) の間を飛び出し、仁の待つ2階へと駆けて行ったのである。