軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-08 裸の付き合い

「ふわあ……こ、これが、おんせん……!」

エルザに案内されて温泉に入ったベーレは感激していた。

汚れていた身体を洗ったあと、温泉に浸かったベーレはその心地よさにうっとりして我を忘れそうだ。

エルザやベーレの出身地、ショウロ皇国中央部は雨が少なく、乾燥しているので、あまり風呂に入るという習慣がない。

もちろん全身を洗うための『湯浴み』は貴族を中心に行われているが、入浴そのものを目的をする習慣は発達していなかった。

「どう? 気持ち、いい?」

「は、はいっ。とっても……」

ふにゃーと蕩けるような顔でベーレは答えた。

ベーレは14歳だそうだ。だが、既にその胸はエルザよりも大きく育っていた。

「……」

世の中の理不尽さをまた一つ知ったエルザであった。

* * *

「おー……」

男湯ではバロウが身体をお湯の中で伸ばしている。

こちらは一人きりだ。

のんびりお湯に浸かっていると、溜まった疲れが消えていくのが分かる。

「まさか、こんな施設があるなんて」

入る前に掛け湯しろとか、汚れた身体は洗えとかの注意を聞いてから入ったので、一応マナーは守れている。

そこへ、数人の村人が入って来た。

「お、一番風呂かと思ったら先越されたか」

「馬鹿、脱衣所に服が置いてあったじゃん。見なかったのかよ」

「にーちゃん、誰だ?」

村の男衆2人と子供が1人、浴場に入ってきた。バロウは慌てて挨拶する。

「あ、は、初めまして。ぼ、僕はバロウと言います。えーと、ジンさまに連れてきてもらって……」

いきなりのことにしどろもどろになるが、話したいことは伝わったようだ。

「おー、そうか。ジンの客人か!」

「どうだい、この村は?」

「あっ、はい、来たのが昨日の夜なので、まだよくわかりませんが、このおんせんって、すごくいいですね!」

「だろ? ジンが作ってくれたんだぜ?」

誇らしげな男の言葉。その内容に、バロウは驚いた。

「え? これも、ジンさまが?」

ベーレを一晩で回復させるような薬をくれた事といい、いったい彼は何者なのだろうか、と考える。

「にーちゃん、どこから来たの?」

今度は子供が尋ねてきた。

「え、ああ、僕はショウロ皇国という所から……かな」

出身はショウロ皇国だが、来た場所はセルロア王国である。ちょっと答えづらい質問だった。

「ショウロ皇国……っていうと、エルザせんせーやミーネせんせーと同じだね!」

「え、あ、そうか。あの人たちもショウロ皇国出身だって言ってたっけ」

「うん。今、この村でべんきょうおしえてくれてるんだよ。よみかきとか、けいさんとか」

「勉強?」

バロウはまたしても驚いた。普通の農村では村人が勉強をする機会はほとんど無いと言っていい。

辛うじて、商人に弟子入りする予定とか、貴族に仕える予定のある者が受けられるくらいだ。

「ここって、農村ですよね?」

朝、周囲を見た限りではそうとしか思えなかった。

「おう。税は麦で納めてるからな、農村なんだろうぜ」

「なのに勉強を?」

「そうさ。ジンが言い出してな、勉強は子供のうちからした方がいいってよ。まああいつを見ていたら説得力あるよな。それに無理のない教え方してくれてるからな、反対する者はいなかったしよ」

そう、貧しい農村になると、子供といえど労働力であるから、それを減らすことになる勉強などさせたがらない親が多いのも事実である。

現に、バロウがいた村はそうだった。

バロウとベーレは、そんな村が嫌で、セルロア王国から来た隊商に半ば無理矢理に頼んで村を抜け出し、その後運良くセルロア王国の貴族に雇われることができたのである。

「いい村ですね……」

こんな村に生まれたかった、とちょっとだけ思ったバロウだった。

* * *

「あたしはバーバラ、よろしくね、ベーレさん」

「は、はい、よろしく」

エルザとバーバラは同い年。

更に理不尽な胸が増えたのでますます世の無常を感じるエルザ。もうすぐ悟りが開けそうである。

という話は置いておいて、

「ねえ、ベーレさん、って、今男湯に入ってる人とどんな関係?」

「え、え!? バロウとですか!?」

こういう話大好きなバーバラである。

「あ、バロウって言うんだ。そう。その人。昨日ジンさんと一緒に来たんでしょう? 叔父から聞いたわよ」

「バーバラさんの叔父様って……」

「あ、叔父はギーベックって言って、一応この村の村長やってるの。もっとも今は代官役だけど」

「代官、ですか?」

「そう。だってこの村の所有者はジンさんだもん」

「えええええ!?」

ベーレの声が響き渡った。それは壁1枚隔てた隣の男湯まで良く聞こえた。

『ベ、ベーレ!? どうした、何があった!? 大丈夫なのか!?』

そのせいで、ベーレを心配したバロウの声が聞こえてきた。

「だ、大丈夫。なんでもないわ!」

うなじまで真っ赤になったベーレがそう答えた。

男湯からは、『やるなあ、お前』とか、『にーちゃんの彼女か?』などとバロウが弄られている声も聞こえてくる。

それをあえて聞かないふりをして、ベーレはバーバラに問いかける。

「じ、ジンさまって、貴族さまだったんですか!?」

それに答えたのはエルザ。

「ちがう、ジン兄は庶民。でも世界一の 魔法工作士(マギクラフトマン) 」

今度はそう答えたエルザの方を向いたベーレ。

「え、 魔法工作士(マギクラフトマン) 、ですか?」

「そう。ジン兄はエゲレア王国で 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) として認められたし、ついこの前はクライン王国にいろいろ貢献した。その見返りがこの村」

「えええええええ!?」

2度目の大声。

侍女見習いとしてとはいえ、貴族に仕えていたベーレには、エゲレア王国とクライン王国が国境を接していない事くらいはわかる。

そんな離れた2国で認められる 魔法工作士(マギクラフトマン) とはいったい……と、訳がわからなくなるベーレだった。

* * *

「うーむ、何があったのか皆目分からんというのか?」

「はい。 懐古党(ノスタルギア) なる集団が、脱走した労働犯罪者を捕らえ、トカ村の兵士に引き渡したという事実のみです。脱走した奴等も、どういう訳なのか、ここ2日間のことをまったく憶えていないそうで」

「その点だけは都合が良かったが……しかし、 懐古党(ノスタルギア) か、名前は最近よく聞くな。忌々しい奴等だ。派遣した兵が無駄になってしまったではないか。まったく余計な事をしおって。証拠は残してないだろうな?」

「はい、もちろんです。次はいかが致します?」

「徴兵した奴等はもう村へ帰したのだろうな?」

「はい、今日あたりシャルル町に着くくらいだと思います」

「それはよし。良いか、私が疑われるような真似は絶対にするな」

「それは重々承知しております」

「ならばよし。次はだな……」

一部始終を聞いている 第5列(クインタ) がそばにいることは、その場にいる誰も気が付いていなかった。