軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-07 ペルシカジュース

2人が気が付いた、ということで、仁はエルザとミーネにも来て貰う事にした。

もう真っ暗であるが、仁の家には魔導ランプの光があるので足元ははっきり見えている。

そして2人が寝ている居間はもっと明るく照明が灯されている。

その居間に布団が2組敷かれ、ベーレは横たわったまま。そしてバロウは上体を起こして、仁たちが入ってくるのを見ていた。

「やあ、気が付いたようだな」

仁がそう声をかけた。

「は、はい! あ、あの、ここは……?」

2人が寝かされていたのは蓬莱島謹製の布団である。その寝心地の良さに恐縮していたバロウがまず口を開いた。

「カイナ村、というところさ。それより、身体はどうだ?」

「は、はい。ありがとうございました。もう大丈夫です」

そう言って立ち上がろうとするバロウを仁は押し止める。

「ああ、寝ていていいから。これを飲むといい」

仁はそう言って、蓬莱島から持ってきた特別製ペルシカジュースを差し出した。もちろんハンナたちの分もあり、あとであげようと思っている。

何が特別かというと、 魔力庫(エーテルストッカー) でなく 自由魔力素(エーテル) ボックスで保存しておいた物なのである。

老君主導でソレイユとルーナが検証したところによると、蓬莱島産のペルシカ(=仙桃)を保存しておいたら、含まれる 自由魔力素(エーテル) が更に増えたのだ。

正確に言うと、 自由魔力素(エーテル) ボックスに保存した時間に比例して 自由魔力素(エーテル) 含有量が増えていた、ということである。

回復薬と同様に 自由魔力素(エーテル) を含んでいるのだが、その効果は異なっている。回復薬は身体の怪我や不調を癒すが、仙桃は体調を整えてくれるのである。

僅かでも魔力を持つ生物であれば、仙桃に含まれる 自由魔力素(エーテル) を身体に取り込むことで精製される 魔力素(マナ) が一時的に増え、体調向上に効果があるという事までは検証済み。

これが 自由魔力素(エーテル) の含有量による違いなのか、それとも他の理由なのかは研究中。

ということで、蓬莱島産のペルシカジュースは回復薬ほどではないが、かなりの効果が望める。しかも毎日飲んでも副作用無し。

更に、回復薬と併用すれば効果倍増が期待できる、というわけである。

「あ、ありがとうございます。いただきます」

礼を言いながら両手でカップを受け取るバロウ。カップの中身はどろりとしたジュース。一瞬躊躇ったが、その甘い匂いに惹かれ、一口飲んでみる。

「……!」

口の中に広がる何とも言えない甘み。一口、また一口と飲み、気づけばカップは空になっていた。

「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」

名残惜しそうにカップを見つめるバロウに仁は、

「もう1杯飲むか?」

と尋ねた。するとバロウは、

「いっ、いえ! 僕よりもベーレに飲ませてやって下さい!」

と言ったではないか。そのセリフを聞いた仁はにこりと笑った。

「ベーレにはこれを先に飲ませてやってくれ。そうだな、バロウ、君が飲ませてやるといい」

そう言って、別のカップを差し出した。中には薄黄色の液体が入っている。匂いもなく、単なる黄色い水にも見える。

「何なんですか、これ?」

「薬だよ」

短く仁は答え、早く飲ませろ、と身振りで合図した。バロウは薬と聞いて、急いでベーレの上半身を抱き起こした。

「ベーレ、飲めるかい? 薬だってさ」

「……うん」

気が付いてはいるものの、まだ意識が少々混濁しているのか、喋る元気すらないベーレは小さく返事すると、バロウが差し出したカップに口をつけ、なんとか中身を飲み込んだ。

そしてバロウはベーレを再び横たえ、カップを仁に返した。

「ありがとうございます」

仁はそのカップを受け取ると、今度は別のカップを差し出す。

「少しでも飲ませてやってくれ」

今度は、バロウが飲んだものと同じジュースだ。バロウはそれもベーレに飲ます。

ベーレはそれも何とか飲み終え、ほう、と小さく息を吐いた。

バロウはそっとベーレを布団に横たえてやる。

それを見た仁は、部屋の隅に置いた冷蔵庫を指差して言う。

「あの中に、今のジュースがまだ入っているから、飲みたくなったら飲むといい。今日の所はゆっくり休むんだな」

そう言われたバロウはおずおずと、

「あ……あの、どうしてこんなに良くして下さるんですか?」

と仁に尋ねた。そう聞かれた仁は少し考えて、

「さあ、どうしてだろうな? あの場合、ほっとけないだろう?」

と答えておく。そしてエルザ達を紹介する。

「この子はエルザ、俺の妹分だ。そちらはミーネ、エルザの母親だ」

「あ、ば、バロウと申します、エルザさま、ミーネさま、よろしくお願いいたします」

立ち上がって挨拶し、一礼したバロウは、仁に向かって尋ねた。

「あ、あの、あなた様のお名前は?」

「あれ? 名乗ってなかったっけ? 俺は仁。ジン・ニドーだ」

「ジン様、ですね! この度は、助けていただいて本当にありがとうございました!」

と言って深々と頭を下げた。

「ああ、もういいから、今日は休んでていいよ」

そう言うと仁はエルザとミーネを促し、部屋を出ていく。その去り際に、

「トイレは1階だ。井戸は少し離れた所にあるが、飲み水は冷蔵庫に入っているから。俺は隣の部屋にいるから、何かあったら声を掛けてくれ」

と言って今度こそ部屋を出ていった。

仁は自分の寝室に、エルザ達は階下に。

2人きりになったバロウは、ベーレの様子を見る。ベーレはまた眠ってしまったようだ。心なしか、顔色がいい。

その額に手を当ててみると、熱もかなり下がったように感じられる。

「凄く効く薬なんだなあ……」

そんな呟きを漏らすバロウ。それもその筈、ベーレの発熱はもう4日も続いていたのだから。自分も、なんだか元気が出てきたようにも感じる。

「いい人に助けてもらったみたいだな……」

そしてもう一度布団に横たわるバロウ。

「この布団も信じられないくらい寝心地いいし」

今までの疲れがどっと出て、バロウもまた再びの眠りに就いたのであった。

* * *

翌日。窓から差し込む光でバロウは目を覚ました。自分がふかふかの布団に寝ていることに気づき、

「あ、そうか……ジン様にお世話になっていたんだっけ」

そう呟いて、隣を見る。そこに寝ている筈のベーレがおらず、布団はもぬけの殻だった。

「ベ、ベーレ!?」

慌てて飛び起き、窓から飛びだそうとしてたたらを踏んだ。2階だったからだ。だが、よく見ると、すぐ下にベーレがいたので安心もする。

「ベーレ!」

窓から乗り出してベーレを呼ぶバロウ。その声にベーレは見上げ、手を振った。

「バロウ! 起きたの?」

バロウはすぐさま、廊下に出ると、階段を駆け下り、外に飛び出した。

「ベ、ベーレ! 身体はもういいのか!? 熱は?」

するとベーレは笑って手を広げ、

「うん、もう大丈夫。何だか、朝起きたらすっごく気分がいいの。で、気が付いたら布団の中でしょ? バロウは気持ちよさそうに眠ってるし。だからこっそり起きてみたんだ」

「はあ……心配させるなよ。でも良かった」

そんな会話をしていると、ミーネが現れた。

「まあまあ、もう起きられるようになったのですね。さすがにジン様の薬は効きますね」

自分も仁の回復薬で治してもらったと知っているミーネ。そのミーネを見たベーレはバロウに耳打ち。

「(……だれ?)」

「そうか、ベーレは昨日意識がほとんどなかったんだっけ。えーと、ミーネさま、でしたっけ?」

ミーネは笑って頷く。

「ええ、そうですよ。起きたのでしたら顔を洗った方が……いえ、温泉で身体も綺麗にした方がいいですね」

そう言って、ちょうど起きてきたエルザに声を掛ける。

「エルザ、この2人を温泉に連れて行ってちょうだい。タオルとか着替えはあとで届けるから」

ミーネは朝食の仕度もしないと、と言って後をエルザに任せ、自分は家に引っ込んだ。

「じゃ、温泉に案内するから。付いてきて」

「えーと、エルザさま、ですよね? あの、おんせん、って、何ですか?」

エルザはにこっと笑って、付いてくれば分かる、とだけ答え、すたすたと歩いて行く。

バロウとベーレは他にどうしようもなく、エルザの後に付いていった。