軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-09 ショウロ皇国

仁は、朝食を済ませると、また出掛ける、とハンナたちに断りを入れた。

再びシェルターから旅に出る仁を、ハンナたちは連れ立って見送りに来た。

「おにーちゃん、きをつけてね。レーコおねーちゃんも」

こうしてちょくちょく帰ってきてくれそうだと分かったハンナは、今回はにこやかに仁と礼子を見送っている。

「ジン兄、いよいよショウロ皇国、だね」

エルザはほんのちょっぴり羨ましそうである。

「ああ。いずれ、エルザも帰れたらいいな」

やはり故郷には帰りたいだろう、と仁はそんな気遣いを見せた。

「ん。でも、ここはいい所だから。それに母さまも一緒だし」

「ええ、ジン様、お気になさらないで下さい。そんな事よりジン様が旅行を楽しんで下さるのが一番です」

エルザもミーネもそう言って、逆に仁を気遣った。

「ありがとう。それじゃあ、バロウとベーレをよろしく頼むよ」

「はい、お任せ下さい」

バロウとベーレの2人はここにはいない。仁がここからショウロ皇国へいきなり行くなどと知られるといろいろ面倒なので、仁の家にいてもらっている。

いずれ知らせるにしても、まだ時期尚早だ。

「あ、そうそう。このあたりに、一応領主の館というか、なんというか、対外的な建物を建てる予定だから」

昨日考えていた事を仁は説明した。時間が無いので簡潔に。

要は、クライン王国からの使者などが来た場合、仁の住む場所がみすぼらしいとまずいので、少し立派な物を建てようというわけだ。

そのあたりの政治的意味はエルザとミーネは少なくとも理解してくれたらしい。

「それじゃあ」

「いってらっしゃい」

あらためて旅立つ仁であった。

* * *

「……と、いうわけなんだ」

仁は、中継として訪れた蓬莱島で、同じ事を老君に告げていた。

『領主の館を造ればいいのですね。外観はどうします?』

そう聞かれた仁は、あまり考えていなかったのと、もう時間が無かったのとで、

「老君に任せる」

とだけ言って、もう一つだけ指示を出す。

「ベーレの症状、疲労からだとは思うんだが、念のため、カイナ村全員に例のペルシカジュースを配っておいてくれ」

パンデミックは御免である。

『わかりました。バトラーAにやらせます』

それで安心した仁は 転移門(ワープゲート) をくぐった。

『 御主人様(マイロード) の館ですか。それに相応しい外観が必要ですね。そうなると……』

構想が固まったらしく、老君は 職人(スミス) 20体を呼んだ。

『最初だけ、ダイダラを使えば捗りそうですね。そうすると着工は夜がいいでしょう』

それまでに資材などを準備すべく、老君は活動を開始した。まずはカイナ村における仁の代理、バトラーAを呼び出し、説明した。

* * *

カイナ村とトスコシアの時差はおよそ2時間。カイナ村を9時頃に発った仁は、現地時間7時頃、トスコシアにいた。

8時出発予定だが、昨日トスコシアを見る時間が無かったので、少しでいいからこの街を見物したかったのである。

「やっぱり岩を削りだした城壁というのは圧巻だな」

魔法を使わず、人手だけで行ったらしいのがまた、想像をかき立てる。

「何人くらいの人が従事したんだろう」

そんな呟きも漏れる。

「蓬莱島のゴーレム達なら3日も必要としないでしょう。私でしたら1日くらいで」

等と礼子が隣で言っているが、そう言うことではない。

万里の長城とかピラミッド、実物を見たことはないが、ああいう巨大建造物が人力だけで造られた、ということに人の叡智を感じるのである。

仁が礼子にそう説明すると、礼子は何となくではあるが、仁が言いたいことを理解したようである。

「……限られた手段で大きな仕事を達成する、その工夫に感心する、という事でしょうか」

「うーん、まあ、そう捉えてくれれば十分だ」

礼子の感覚が人間とは少し異なるのは承知している仁は、その答えに十分満足である。それより今は見物だ。

砂岩の壁を削り出し、階段を作り、部屋にし、窓も空けている。

また、10メートルの高さの垂直な壁を削りだした技術。

魔法によらない大仕事の結果を見る事は、仁にとって新鮮な体験であった。

そうやっていたら、礼子が服の裾をつんつん、と引いた。

振り向くと、ラインハルトが近づいて来ていた。

「ジン!」

隣にはクロードが荷物を持って付き従っている。

「やあ、おはよう」

「おはよう。見物かい?」

「ああ。まだ時間があったんでね」

そう仁が答えると、ラインハルトはクロードに荷物を持って馬車へ行っているように、と指示を出した。

そして、クロードが立ち去り、周囲に関係者の姿が見えなくなると、

「あの2人は?」

と聞いてきた。

「うん、薬と食事、それに温泉入って、もう元気になったよ」

と答える仁。

このやり取りでは、事情を知っている者でなければ何のことか分からないだろう。

「それなら良かった。やっぱりジンに頼んで正解だったな」

「ああ。本人たちが望むなら、この後またこっちへ連れてくることも出来る。今はのんびりさせてやりたい」

ラインハルトは頷いた。

「ああ、そうだな。まあとにかく、今日は国境を越える日だから」

そう言いながら、駐馬車場へと向かって歩き出した。

「おお、ラインハルト」

馬車の所ではマテウスが既に仕度を調えて待っていた。

「ジン殿と一緒だったか。良ければ、出発しよう」

「わかった」

国境を越えるというので、ラインハルトは自分の馬車に乗り込んだ。

そして、街の正門から入り、そのまま中央通りを抜けていく。どうやら関所は街の中にあるらしい、と仁は思った。

その想像通り、一際いかめしい造りの建物が正面に見えた。高い塀で囲まれ、丈夫そうな扉が付いている。

馬車はその中へ入る、と、その丈夫そうな扉が閉められた。

「ジン殿、馬車から降りて貰いたい」

マテウスの声。言われたとおりに仁は馬車を下りた。礼子も一緒である。

「これから、セルロア王国の係官が書類と照らし合わせるんだ」

とラインハルト。

「ジン殿、貴殿の身分については、ショウロ皇国外交官、ラインハルトと、同じく近衛部隊第3中隊隊長、マテウス大尉が保証する」

マテウスもそう言ってくれた。

その言葉通り、審査は短時間で終了。所持品の検査もされなかったのは拍子抜けだが、後で聞いた所によると、やはり『付け届け』がモノを言った結果らしい。

「散財させたな」

関所を通過後、真相を聞いた仁がそう言うと、

「なに、これも予算のうちさ」

と言ってラインハルトは笑った。

再度馬車に乗り込んだ一行は、建物を回り込むように移動。すると、裏手にも入って来た時と同じような扉があり、一行を見るとそれを開けてくれた。

「さあ、向こうは我が祖国だ!」

向こうの馬車から、喜びに満ちたラインハルトの声が聞こえる。

一行は扉を通り抜ける。両側は相変わらず高い石の壁が続いているが、馬車の下は明らかに色の違う石畳となった。

そのまま進んでいくと、またしても扉があり、その前には4名ほどの衛兵が。

ラインハルトは馬車を停め、なにやら証明書のような物を提示する。

それを見た衛兵はにこやかに笑い、敬礼をした。

「お帰りなさいませ!」