軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-04 和解

「大したもんだ」

カイナ村防衛網の働き、その一部始終を見ていた仁は賞賛した。

『おそれいります』

「あの橋が切り離されるのはどんな構造してる?」

幾つか仁も方法は考えられるが、老君がどうやったのか気になって尋ねてみた。

『はい、橋そのものが3体のストーンゴーレムから成っています』

「なるほど」

橋桁だけをゴーレム化させたのかと思ったら、橋全部がゴーレムだったのか、と仁は感心した。

「防衛機構7からXってのは何だったんだ?」

今回、テストされなかった5種類について仁は聞いてみた。

『はい、7は 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸から作った網による一網打尽です』

普通の剣では切れない網を被せられたら逃げようがないだろう。

「それはちょっと見てみたかったな。で、あとは?」

『8は 超高速振動剣(バイブレーションソード) での戦闘と 魔力妨害機(マギジャマー) による魔法無効化です。これも今回は試しようがありませんでした』

仁は頷き、説明の続きを待つ。

『9は航空戦力による上空からのレーザー攻撃です』

そんなものも用意していたのか、と仁は感心した。

確かに、 魔素変換器(エーテルコンバーター) を備えた航空機は、無補給で飛び続けることができるし、操縦するゴーレムも休息を必要とはしないから可能である。

仁がそう言うと、

『いえ、北の山に巨大 転移門(ワープゲート) を設けましたからそこから出撃させます』

との返答が返ってきた。

「いつの間に……まあいい。で、10は?」

『はい、北の山に据え付けた 魔力砲(マギカノン) による攻撃です』

いったい何を攻撃するつもりだ、とさすがの仁も思ったが、この製作者にしてこの被造物あり。似たもの同士である。

「最後のXっていうのは?」

『はい、礼子さんにお願いして行う全力殲滅です』

「そ、そうか」

Xとした訳が分かったような気がした仁であった。

老君も仁に似て、自重をどこかに忘れてきたようである。軍隊が来ても問題無く撃退出来るだろう。

「わかった。ご苦労。で、あの襲撃者の処分はどうするつもりだ?」

全員ランドたちが縛り上げている。そして老君の移動用端末、『老子』もそこに赴いていた。

『尋問したところ、謎の男に脱走を唆されたと言っています。黒幕の名前は知らないようです』

老君が『尋問した』と言っているのだから、連中は本当に知らなかったのだろうと仁は思った。なかなか尻尾を掴ませない相手である。

『尋問のあと、私に可能なレベルでの 知識転写(トランスインフォ) で確認しましたので間違いないでしょう』

尋問の意味があったのかどうか聞いてみたかったが仁はその場の空気を読んで黙っていた。カイナ村を襲った連中に腹を立てているのは老君も同じだったからだ。

「なんとなく黒幕は分かっても確たる証拠がない、か。で、処分はどうする?」

『はい。今のままクライン王国に置いていては、カイナ村に防衛網があることを知られてしまいます。ですから、記憶操作魔法で処理したいと思うのですが、許可いただけませんか?』

「記憶操作魔法?」

仁にとっても初耳である。

『先日、 御主人様(マイロード) からいただきました、『ティア』と呼ばれる 自動人形(オートマタ) の記憶情報。そこにあった禁呪です』

「禁呪って……おいおい」

怖い響きだ、と仁は思った。

『ですが、その効果は大きいですし、人道的な面もあります。現に、犯罪者に使われていたようです』

「記憶操作って、具体的にどんな魔法なんだ? とりあえず聞かせてくれ」

『記憶消去です』

とんでもない魔法であった。

「記憶消去か……その範囲というか、効果は? まさか赤ん坊にまで戻る訳じゃないだろう?」

『はい。新しい記憶から順に消えていきます。名称は 強制忘却(アムネジア) です』

「うーん、どうするか……記憶喪失みたいに、思い出す事ってあるのか?」

『いただいた情報からは、そういう事例はないようです』

仁は悩んだ。カイナ村の安全を考えたら、ここで起きたことは忘れて貰うに越したことはない。

『殺したり、荒野に置き去りにするよりずっと人道的です。それに、カイナ村は治外法権で、 御主人様(マイロード) に裁定権があります』

「ごしゅじんさま、お優しいばかりでは守れるものも守れなくなります」

いつの間にやって来たのか、アンにまでそう言われてしまった。

仁は溜め息をついて決心する。

「わかった。許可する。だが、可能なら今日の記憶だけを消してくれ」

『はい。最悪でも、ここ数日以内に留められると思います』

「で、記憶を消したあとはどうするんだ?」

鉱山を脱走した訳だから、そいつらが縛られて転がされていたら誰だっておかしいと思うだろう、と仁は老君に言った。

『はい、あの鉱山から向かえる集落はカイナ村とトカ村があります。ですのでトカ村の近所にうち捨てておく予定です』

「またデウス・エクス・マキナを使うか?」

『いえ、 懐古党(ノスタルギア) に手柄を譲りましょう』

老君の提案に、仁は1も2もなく賛成した。仁や蓬莱島と違って、 懐古党(ノスタルギア) は目立った方がいい団体だ。

『クライン王国内に 懐古党(ノスタルギア) の拠点はほとんどありませんがそこはそれ、 懐古党(ノスタルギア) が捕縛した、という書状を付けておけばよろしいかと』

「なるほどな。記憶も消されているからどうして自分たちがこんな所にいるかも説明出来ないだろうし、いいんじゃないか」

そういう風に話が決まり、老君はさっそく処置に動き出した。

仁は、もう寝るには遅いので、少し早いが朝食を食べることにした。

ちゃんと承知しているソレイユが、焼きたてのトーストとシトランのマーマレード、ペルシカのジュースを用意していた。

「ちょうどいい量だな、ありがとう、ソレイユ」

そう言って仁は朝食を済ませると、ガニーズへ戻ったのである。

老君は引き続き、この事件の首謀者の洗い出しと証拠の確保に取りかかっていた。最終的には完膚無きまでに叩き潰すという断固たる信念を持って。

* * *

ガニーズと蓬莱島とは4時間半くらいの時差がある。なのでまだ真っ暗だ。

「少し寝ておくか。礼子、時間になったら起こしてくれ」

昨日、出発は朝8時だと言われていたのを思い起こす。とはいえ、隣に駐めてあるのはラインハルトの馬車だから、気が付かないはずはないと思えるのだが。

礼子に見守られ、仁は馬車のシートを倒し、少しまどろんだ。

そして、7時半頃。

「お父さま、起きて下さい」

礼子が仁に声を掛けた。元々うつらうつらしていただけなのですぐに目を覚ます仁。

「どうした?」

「はい、まだ8時にはならないのですが、ラインハルトさんとマテウスが近づいて来ます」

マテウスが呼び捨てなのは、昨日の仁への態度が気に入らないのだろう。

「どれどれ。……何か用があるみたいだな。手ぶらだし」

それで仁は馬車の扉を開けた。

「おはよう、ラインハルト。まだ出発には早いんじゃないのか?」

そう声を掛けると、

「おはよう、ジン。いや何、申し訳ないが、マテウスを君の馬車に乗せてみてやって欲しくてな」

「え?」

「一度でも乗ってみれば、僕が君の馬車に乗りたがった訳を身体で感じて貰えると思ってさ」

昨日、マテウスは、ラインハルトが仁の馬車に乗りたがったのを邪推していたから、そういう懸念を払拭したいということらしい。

「そういうことなら、どうぞ。ラインハルトも一緒にな」

「もちろんだとも!」

ということで仁は、馬車を駐馬車場から引き出すと、適当な方向に向けて走らせることにした。

「お、おい、ジン殿! そっちには道はないぞ!?」

石がごろごろした荒野に向かったので、マテウスが慌てて止めようとした。が、仁は涼しい顔。ラインハルトも同じだ。

そして馬車は荒野に突っ込む。

「……?」

ゆったりとした揺れはあるものの、最も不快な微少振動や横揺れがほとんど感じられない事にマテウスは絶句した。

「もう少し速度を上げろ」

仁は御者をしているスチュワードに命じた。

パワーアップしているゴーレム馬は、疾走に入った。

「お、お、おおお!?」

窓の外の風景が信じられない速度で流れている。ほとんど馬単騎での疾走と同じくらいだ。時速にして60キロくらいである。

「信じられん……」

ゴーレム馬とはいえ、1頭で、しかも4人(礼子も入れて)乗っている馬車が単騎での疾走並みの速度で走り、なおかつ揺れがほとんど無い。

「わかったかい? マテウス。僕がジンの馬車に乗りたがった訳が」

「わ、わかった。というか、脱帽する。ジン殿、昨日の態度は完全に自分が悪かった。この通りだ、許してくれ」

馬車の中でマテウスは深々と頭を下げた。元々竹を割ったような気性のマテウス、悪いと思えば素直に詫びる事が出来る。

「ラインハルトが認めた 魔法技術者(マギエンジニア) ……いや 魔法工作士(マギクラフトマン) を一瞬でも疑うような態度を取って申し訳なかった」

「もういいですよ、顔を上げて下さい」

理由については昨日、ラインハルトから聞いていたから、あまり気にしていなかった仁は、あっさりとマテウスを許した。

「ありがとう、ジン殿」

ガニーズに戻った一行は予定通り8時に出発。

ラインハルトが仁の馬車に入り浸っても、もうマテウスが嫉妬(?)することはなかった。

そして国境の街トスコシアにはその日の夕刻、無事到着したのである。