軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-03 夜明け前

『 御主人様(マイロード) 、ラインハルト様から通信です』

蓬莱島にいた仁の元にラインハルトから 魔素通信機(マナカム) による連絡が入った。

「仁だけど、どうした?」

『おお、ジンか! 今日は済まなかったな!』

「何かと思ったらそんなことか。気にしちゃいないよ」

事件かと思ったら、単なるお詫びだったのでほっとする仁。

『マテウスも悪気はなかったんだ。単にちょっと勘違いしただけで』

「勘違い?」

何か勘違いする要素があっただろうか、と仁は考えるが、思い当たる節はない。

「何を勘違いされたんだろう?」

と問えば、ラインハルトは笑いながら、

『僕とジンが恋仲だと……』

と言いにくいことをずばり口にした。

「えええええ!?」

『な、笑えるだろう?』

仁は笑えない。まさかそんな誤解をされているとは思わなかった。

「も、もう誤解は解けたんだろう?」

『あたりまえさ』

「……ならいいや」

『まあ、明日以降はこんな事がないようにするから』

そうラインハルトは言い、少し世間話をして通信は切られた。

「……疲れた」

精神的に疲れた仁は、もう一度温泉に浸かって寛ぐことにした。

「……ふう」

お湯の中で手足を伸ばしながら、誰にともなく呟く。

「もうすぐショウロ皇国か、楽しみだな」

* * *

「ぎゃあーっ!」

「は、反乱だ!」

「犯罪者が逃げたぞ!」

同じ日の昼、イナド鉱山の管理棟は阿鼻叫喚の地と化していた。

犯罪者を支配しているのは『犯罪者識別の首輪』。これは、特定の魔力を流すことで、装着者に苦痛を与えるものである。

そして、特定の魔力を流すには、『特定の魔導具』が必要となる。

不慮の事態を考慮して2基設置されていた『特定の魔導具』つまり『 首輪の主人(ドミネイター) 』がいつのまにか使い物にならなくなっていたのである。

「ひゃははは! 自由だ! 俺たちは自由だぜ!」

「行け行け! 目指すは北だ!」

「間違っても南には行くなよ! そっちには兵がいるって話だからな!」

52名の犯罪者が、ツルハシ、ハンマー、棍棒などを手に山を下る。20キロ程下れば街道に出、南はトカ村、そして北へ向かえばカイナ村だった。

街道にある休憩舎には食料が置いてあった。犯罪者たちはそれを口にしたが、追っ手を警戒し、休息もそこそこに北を目指した。

気力、というより欲望に目を血走らせながら峠へと登っていく52人。登り着いたトーゴ峠からは眼下に川が見えた。月光にエルメ川が光って見える。

その向こうには素朴な村があった。

「見えたぞ! 村だ!」

「ひゃっほう! 食いもんだ! 女だ! 暖かい寝床だ!」

「いっけえ!」

「あってめえ、俺が一番乗りだ!」

勢い込んで峠を下り出す犯罪者たち。

カイナ村の人々はまだ気が付いていない。

* * *

蓬莱島では、カイナ村専用の警備・監視用魔導頭脳、『 庚申(こうしん) 』からの報告を15分前に受け取っていた。

時刻は、カイナ村では真夜中を過ぎ、夜明けにはまだ間のある頃。

蓬莱島では夜明け前。

老君は仁に知らせるかどうか少し悩んだが、昨夜早めに床に就いた仁であるし、他ならぬカイナ村防衛なので起こすことにした。

『襲撃者を発見』

『トーゴ峠目指して侵攻中』

『会話を再構成。襲撃者は労働刑中の犯罪者と判明。その目的は、カイナ村の襲撃』

『あと1分ほどで防衛圏に侵入』

『結界作動準備完了』

「さすがだな、老君」

『おそれいります。今回、防衛機構の確認も兼ねたいと思いますので、侵入者を一度に無力化はしません。どうか御承認願います』

「うん、かまわない。カイナ村に被害が出ないならな」

『ありがとうございます。 御主人様(マイロード) はここからゆっくりと御覧になっていて下さい』

仁は何もする必要がなかった。ただ、 庚申(こうしん) からの画像を見、報告を聞き、老君が次々に打っていく手を眺めていれば良かったのである。

『襲撃者52人、トーゴ峠に到達。防衛圏に抵触』

犯罪者の大半が下り始めた時。

『テスト1。麻痺結界作動』

トーゴ峠のカイナ村側に備え付けられた 麻痺(パラライズ) の効果を持つ結界が張られた。

* * *

犯罪者たちは先を争って峠を下り出した。

疲労のため、座り込んでいた者達は遅れて峠を下りはじめ……。

「ぎゃっ!」

「がっ!」

麻痺結界に触れ、気絶したのである。その数8名。

だが、我先にと駆け下りる犯罪者たちは、後方で起きた悲鳴にはまったく頓着しない。

血走った目をぎらつかせ、ひたすら山道を駆け下りていった。

『テスト2。レーザー砲点射』

「えっ!?」

「な、何だ?」

駆け下りる男達から驚いたような声が上がる。それもその筈、手にしたツルハシやハンマーが一瞬で蒸発してしまったのである。

戸惑ったものの、欲望を剥き出しにした連中の脚はそれくらいでは止まらなかった。

『テスト3。 電磁誘導放射器(インダクションラジエータ) 、短時間放射』

「ぎゃあっ!」

「あ、あちいいい!」

彼等の首に嵌められた犯罪者識別の首輪は金属製だ。それが突然熱を持ったのだから、慌てて当然。

だが、その現象は、首に軽い火傷を負わせただけで収まった。

「い、いったい、なんだったんだ?」

さすがに連中も少し薄気味悪くなったらしく、駆け下りる速度が遅くなった。

それでも、もう手の届く所に、欲望を吐き出せる 無力な(・・・) 村があるかと思えば、連中の足は止まらなかった。

『テスト4。ランドWからZによるステルス状態からの攻撃』

「ぎっ!」

「げっ!」

「ぐっ!」

犯罪者たちの後方から短い悲鳴が上がり、そいつらがばたばたと倒れていく。

「な、何だ、何がいるんだ?」

夜明け前の闇の中、ステルス結界を張ったランドたちは目に見えない。

そして、暗闇の中、見えない敵の恐怖というものは想像以上に大きい。

「う、うわああああ!」

まだ無事だった男達は、エルメ川にかかる橋目指して全速力で走っていった。

川に橋が架かっていれば、そこを通ろうと思うのはあたりまえの発想である。

ましてやパニックに襲われ、正常な判断ができなければ尚のこと。

幸運にも(?)気絶しなかった5名が橋を渡りかけた、その瞬間。

『テスト5。ブリッジ・トラップ』

橋の両端が切り離された。

つまり、橋が橋でなくなり、5名は橋の上に取り残された状態である。

行くも戻るも、足の下は水。エルメ川である。そのあたりは川幅が狭い代わりに流れが速く、深い。

「え、ええい、くそおっ!」

だが、男達のうち、度胸のあった1名が水に飛び込んだ。続いてもう1名。

残った3名は、飛び込む勇気もなく、橋の上で途方に暮れていたが、

「ぎいっ!」

短い悲鳴を残し、くずおれたのである。橋に備えられた 衝撃(ショック) の結界による効果である。

『テスト6。対人直接戦闘』

「ぷふぁー、何とか泳ぎ切ったぜ」

「辿り着いたのは俺たちだけみたいだな」

「女も食い物も俺たちだけのものだぜ!」

もはや正常な判断力もないらしい。いくら男達が強くても、2人で村を占拠する事は無理だと言うことに思い至れないのだから。

水を滴らせながら川原に立った2人の前に、異形の影が2体、立ち塞がった。

「『侵入者に告ぐ。おとなしく投降すれば危害は加えません』」

だが、正常な判断のできなくなった2人にその勧告は無意味だった。

「うるせえ!」

一言おめくと、影に跳びかかった。

「『排除します』」

影すなわちランドAとランドBは、柔道で言う腰投げに近い技で2人をそれぞれ投げ飛ばした。

「ぎぇ」

「ぐぇ」

陳腐な表現ではあるが、まさにカエルの潰れたような声を上げて2人とも気絶した。一応背中から落としたので、受け身を取っていなくても死ぬことはないだろう。

『侵入者完全沈黙によりテスト終了。テスト7、8、9、10、Xはまたの機会とします』

こうして、夜明け前、村人の誰一人として気が付かないうちに、襲撃者たちは全員無力化されたのであった。