軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-02 犯罪者

「あはははははは!」

「……そんなに笑わなくてもいいだろう」

「いや、すまん。しかし、マテウスがジンの何を警戒してたのかと思いきや、 そっちの(・・・・) 道だったとは」

いわゆる衆道、というもの。平たく言えば同性愛である。男の。

「し、しかし、……ぷっ」

「だ、だいたい、ラインハルトも悪いんだぞ! 馬車に籠もりっきりで、ずっと……」

マテウスは赤くなりながら弁解する。それがまたラインハルトの失笑を誘っていた。

「も、もういい! 俺は自分の部屋へ行く!」

さすがに気分を害したか、マテウスは身を翻してラインハルトの部屋から出て行った。ドアが音を立てて閉まる。

「はは、後でジンになんて言おう……」

苦笑するラインハルトであった。

* * *

仁と礼子は駐馬車場に来ていた。

周囲には天幕が張られ、マテウスの配下が馬車の監視兼宿泊所としている。マテウス他4名はラインハルトとその執事、侍女たちと共にガニーズの宿に泊まり、残る者達はここにいた。

そして、そこで思わぬ相手に出会ったのである。

「ジン様ではありませんか」

「アドバーグさん?」

エルザの元執事、アドバーグであった。

「お久しぶりでございます。エルザお嬢様が失踪なさった時以来ですな」

「そうですね。お元気そうで」

ラインハルトから、アドバーグとヘルマンを見つけたので一緒に連れて帰ることにした、と聞いたことを仁は思い出した。

「ミーネの奴も、馬鹿なことをしたものです。お嬢様、今ごろどうなさっているのか」

解雇されたとはいえ、幼い頃から世話をしてきたアドバーグは、こうなってもまだエルザの身の上を案じていた。

「アドバーグさんはどうするんです?」

「私ももう歳ですからな。国に帰れば、息子や娘もいますから、隠居させてもらいますよ」

アドバーグはそう言って、少し寂しそうな顔で夕空を見上げた。

「そういえば、ヘルマンさんは?」

「ああ、ヘルマンなら、あそこに」

そう言って指差す先に、元護衛のヘルマンがいた。

「あれ? あの子は?」

ヘルマンのそばには、薄汚れた格好をした、10歳くらいの女の子がいて、何か話をしていたのである。

「……物乞いか何かでしょう」

アドバーグは感情の籠もらない声でそう言った。

「ヘルマンは娘を思い出させるような子供に甘いですからなあ」

そのヘルマンは、何かをその子に与えたようだ。貰った子は、ぺこぺこと何度もお辞儀して、ヘルマンから離れていった。

その歩き方がおかしい。右脚を引き摺るようにしている。怪我か何かで、脚を悪くしたのだろうか。

子供ということで、仁も見過ごせなかった。それで、アドバーグと一旦別れて、自分の馬車に向かう。備え付けてある回復薬を取りに馬車に入る仁。

「しかし、老君も用意がいいな」

転移門(ワープゲート) でいつでも蓬莱島へ戻れるとはいえ、人目があったり、それこそ1秒を争う緊急事態だって無いとは言えない。

そんな時には備え付けの医薬品は役に立つだろう。

座席の下が簡易的な 魔力庫(エーテルストッカー) となっている。もちろん冷蔵能力もあるから、生鮮食品も保存できる。

「さて、あの子はどこへ行った?」

外で待っていた礼子に聞くと、向こうへ行きました、と指差したので、一緒に後を追いかけた。

「あ、いたいた。……え?」

着ている物や髪の色から、さっきの子に間違いない。だが、その子は、粗末な建物の角を曲がった途端、脚を引きずっていたのが嘘のように、普通に、いや、元気よく歩き始めたのだ。

「…………」

その裏事情を察した仁は小さく溜め息をついた。

「世知辛いな……」

小銭を恵んで貰うために、同情を惹く。そんな発想を子供がしていることに、暗澹たる気持ちになった仁。

「俺に何が出来るだろうか……」

回復薬を手にしたまま、馬車に戻る仁。礼子は何も言わず、付き従っている。

「ふう」

馬車に戻り、座席の背もたれを倒して目を閉じる。

「お金ならあるけど、与えてそれで済むわけじゃないしな……」

一時しのぎにしかならないし、貰ったお金が無くなったらまた元の木阿弥だ。

「やっぱり、『人足寄場』か」

「お父さま、人足寄場とは何ですか?」

仁の独り言を聞いていた礼子が質問してきた。

「ああ。えーとな、軽い犯罪者とか、家のない浮浪者とかを収容して、いろいろな技能を学ばせて社会復帰させる場所……かな」

院長先生が大好きな時代劇の主人公が、石川島に作ったという人足寄場。歴史上の事実である。

当時、いや、今でも、世界になかなか類を見ない画期的なシステムであった。

「 懐古党(ノスタルギア) 主導でやらせてみたいな」

そう考えた仁は、スチュワードに『誰も馬車に入れるな』と厳命を下し、礼子と共に蓬莱島へ跳んだ。

『なるほど、『人足寄場』ですか。孤児や、働きたくても働けない人達を上手くまとめて教育するというのはいいでしょうね』

老君に相談すると、賛成したので詳細を詰めたり、 懐古党(ノスタルギア) に伝えたりという事は老君に任せる。

「雇用のバランスを取るような組織もいいのではないでしょうか?」

いつの間に来たのか、アンがそう提案してくれた。要するに職業安定所だ。

「そうだな。それには、情報のやり取りが不可欠だろう。これも 懐古党(ノスタルギア) にやらせよう」

こうして、 懐古党(ノスタルギア) は仁の下部組織として着実に社会に浸透し、影響力を増していくことになる。

そして仁は蓬莱島の家で風呂に浸かり、のんびりと過ごしていた。

* * *

仁がラインハルトと再会したその前日。

クライン王国の都市の一つ、プレソス。

いろいろと悪評の多いワルター伯爵の拠点がある都市だ。

そこにある領主の館で密談が行われていた。

「イナド鉱山で働いている奴等を、ですか?」

「そうだ。こっそり解放し、カイナ村に向かうように仕向けろ」

「よろしいのですか?」

「かまわん。筋書きはこうだ。『イナド鉱山を脱走した犯罪者たちはカイナ村を襲った。我が兵は村を救うため急行。だが、一歩遅く、村人は皆殺しにされていた。我が兵は犯罪者を一掃、村人の仇を取った』とな」

「『死者は歌わない』、ですな?」

「察しがいいではないか。その通りだ」

馬車なら5日から6日。馬なら2日から3日。そして、鳩なら1日足らず。

そんな距離にあったのはイナド鉱山。

カイナ村南東の山に拓かれた鉱山で、クライン王国の貴重な鉱物資源供給地、その一つである。

「本当に解放して貰えるのか?」

『ああ。但し、行くのなら北の村へ行け。南には兵がいるからな』

「自由になれるなら住むのはどこだっていいぜ!」

人口が少なく、人手が足りないクライン王国では、超凶悪犯罪者以外は、『犯罪者識別』の首輪を付けて強制労働させられている。

彼等は地方在住の領主預かりとなり、土地の開墾や鉱山の開発などの重労働が普通だ。

「ふひひ、やってやるぜ!」

「ああ、女もいるんだろう?」

「まともな食い物、まともな寝床、そして女。こたえられねえな」

落ち窪んだ目をぎらつかせる強制労働の刑を受けている犯罪者たち。

その欲望が解き放たれんとしていた。