軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-01 ガニーズの町

春たけなわの5月3日、仁は首尾良くラインハルトと合流することが出来た。

「マテウス、彼がジンだ。エゲレア王国で 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) の称号を貰っているが、その実、フリーなのさ」

ラインハルトが友人であり、護衛役でもあるマテウスに紹介した。

「ジン、彼はマテウス・ガイスト・フォン・リアルガー大尉。近衛部隊第3中隊隊長で、僕の友人さ。いずれ義理の兄になる」

「ジン・ニドーです」

「マテウスだ」

2人は挨拶し、握手を交わした。

「貴殿のことは、旅の間にラインハルトから良く聞かされていたよ。素晴らしい 魔法技術者(マギエンジニア) だそうだな」

「ははは、そうさ! ジンは僕なんか及びも付かない 魔法技術者(マギエンジニア) だ! それは僕が保証する!」

何故か仁ではなくラインハルトが自慢げに答えた。その様子に一瞬マテウスは眉をひそめたが、すぐに元の表情に戻る。

「それは楽しみだな。で、これからは一緒に行動するということでよろしいか?」

その問いにもラインハルトが答えた。

「ああ、もちろん。ジンは僕の客人だからね! ……ジン、さっそく君の馬車に乗せて貰いたいんだが、いいだろう?」

「あ、ああ、もちろん。いろいろ話したいこともあるし」

「だな! と言うことだからマテウス、出発しよう!」

「…………」

テンションが上がったラインハルトに若干呆れつつ、マテウスは配下に指示を出した。今は15名がラインハルトを警護しつつ祖国への道を進んでいる。

「出発だ!」

ラインハルトの乗っていた馬車は、主人を乗せずに動き出した。御者は仁を知っているので、特に気にしてない。以前にもこんな事はしょっちゅうだったからだ。

だが、マテウスはそうではない。警護対象であり、友人であり、将来の妹婿が、(マテウスにとって)初対面の、どこの馬の骨とも知れない(エゲレア王国の 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) とは称しているが)男の馬車に喜々として乗り込んでいったのだから。

他に同乗しているのは、礼子と呼ばれる少女。 自動人形(オートマタ) らしいが、なおさら得体が知れない。

見たことのないデザインの馬車を御しているのは鉄製らしいゴーレム。ラインハルトの 黒騎士(シュバルツリッター) に比べたらあらゆる面でかなり劣るということが見て取れた。

が、馬車を牽いているのはゴーレム馬。この点だけは素直に兜を脱ぐ。

(これほどまでに馬そのものの動きをするとは……底知れぬ)

要するにマテウスは、『ジン・ニドー』という異国の 魔法技術者(マギエンジニア) を測りかねていたのである。

* * *

「エルザは元気か?」

「ああ。今はカイナ村という所で子供たちに勉強を教えたりもしている」

「ほう。それは喜ばしいな。まあ、幸せならいいんだ」

そう言ってラインハルトは声を落とす。

「……ジン、エルザの兄、フリッツがおかしく……いや、元に戻ったのは君が何かしたんだろう?」

仁の馬車は防音の結界も張れるので、盗聴の心配は無いのだが、やはり無意識にひそひそ話になってしまう。

「ああ。例の『 催眠(ヒュプノ) 』や『 暗示(セデュース) 』な。以前ルコールは興奮させてから 麻痺(スタン) で解除したが、今は『 衝撃(ショック) 』と言う魔法で解除出来る事が分かってる」

そして仁は、 統一党(ユニファイラー) が 懐古党(ノスタルギア) になったことや、その 懐古党(ノスタルギア) が各国への支援を開始した事なども説明する。

夢中になって話をしていたら知らないうちに時間が経ち、今日の目的地、ガニーズの町に到着してしまった。

「着いたみたいだな」

馬車の窓から外を見たラインハルトが言った。

「話を聞いていたらあっという間だったな。今日はここで泊まり、明日は国境手前のトスコシアだ。国境通過の許可証は貰っているから、待たされることはないと思う」

「ああ、ショウロ皇国に行くのが楽しみだよ」

「そう言って貰えると僕も嬉しい。さて、一旦降りるか」

馬車はガニーズ手前の簡単な関所前で停車した。

ラインハルトはこの一行の中では一番立場が上の人間であるので、通過時に顔を出さない訳には行かない。

降りてきたラインハルトを、マテウスは確かめるような目つきで眺めた。

そして馬車の中の仁を一瞬睨み付けたのである。

「?」

その視線に仁は気が付いたものの、何故そんな目で見られるのか解らないので、とりあえず気が付かないふりをする事にしたのであった。

* * *

ガニーズの町は城塞都市ではない。簡単な木の柵が町の境界を囲っているだけだ。

だがその内部だけが町というわけでもなく、柵の外側にも建物はあり、今も拡張中であると言うことが窺える。

柵の外の方がより低級である、という事だけは間違いないが。

セルロア辺境にあって、それなりに繁盛しているのは、南に聳えるカーター山中腹にある鉱山の恩恵である。

貴重なミスリル銀の鉱山が3箇所あり、その一つはボロロンから鉱石運搬用の街道が通じている。

「ふうん。それならボロロンが賑やかになるのは解るけど、どうしてここが賑やかになるんだ?」

ラインハルトの説明を受けた仁が、当然の疑問を返した。

「それはな、ボロロンは要衝である分、セルロア王国の取り締まりも厳しいからさ」

それで仁も察することが出来た。確かに、国の役人や兵士が多い街では繁華街は発展しにくいだろう、と。

「まあ、かなり猥雑な町とも言えるんだが」

馬車は町の外の駐馬車場に駐め、今、仁達は徒歩でガニーズの町を歩いている。

見た目の良い服を着て、身長も高いラインハルトには、いろいろな客引きが群がっていた。

「貴族様、いい宿があるんですが。食事も極上、いい女の子もいますぜ!」

「鉱山で採れた 魔結晶(マギクリスタル) でさあ、安くしときますんで買って貰えませんか?」

「遊ぶなら『ナミーナ』にどうぞ! 酒は飲み放題、料金も安いですぜ!」

鬱陶しいそれらは、全てマテウスが追い返していた。

「……まったく、ここはいつもこうだ。ラインハルト、宿はもう決まっている。急ごう」

マテウスは配下を先行させて、きちんとした宿を決めてあったのだ。

「ああ。さすがマテウスだな、頼りになる」

そのマテウスは仁を見返ると、

「済まんが、貴殿の部屋はない。まさか人数が増えると思わなくてね。ご自分で探して貰いたい。悪しからず」

と言葉だけは丁寧に謝ったものである。

「ジン、それなら僕の部屋に……」

言いかけたラインハルトを遮り、

「もし貴殿が良ければ、我々警護の兵と一緒にお泊まりなさるかな?」

とマテウスが言う。だが仁はそれを断った。

「いえ、いざとなったら馬車の中で寝ればいいわけですし、俺の事はお気になさらないで下さい」

「承った」

短く答えたマテウスは、配下にラインハルトとその家人を囲ませ、通りを進んでいく。ラインハルトが何か文句を言っているがお構いなしだ。

「それではジン殿、出発予定は明朝8時だ。遅れないようにな」

そう言い残したマテウスは、仁の返事も聞かずにラインハルトを追って足早に通りを歩いて行ってしまった。

(……なんか俺って嫌われてるのか?)

マテウスの機嫌を損じるような覚えが無い仁は首をかしげた。

そんな仁にも、ラインハルトほどではないが、客引きが寄ってくる。

「お兄さん、遊んで行きなよ」

「ねえ、いっぱい奢ってくれない?」

「あたいと今夜、どう?」

客引きと言うより娼婦に近い、というか娼婦そのものの方が多かった。

「邪魔です。汚い手でお父さまに触らないで下さい」

そんな女達は、全て礼子が排除したが。

「……ようやく静かになりました」

客引きや娼婦達が、仁はカモではないと認識して立ち去るまで30分ほども掛かってしまった。

「こんな町は初めてだな」

辺境と言うこともあって、治安も悪そうな町。あまり長居はしない方が良さそうである。

「見る場所も無さそうだし、馬車に戻るか」

「それが良さそうですね」

* * *

「おい、マテウス」

ラインハルトが、仁に対するマテウスの態度が少し目に余ったので文句を言おうとすると、

「ラインハルト、もうすぐ祖国だ。わかってるな?」

とマテウスはラインハルトに先んじて言葉を発した。

「? ああ、もちろん」

「なら、ベルチェを泣かすような真似をするなよ?」

「してないだろ?」

「娼館に行っていないのは俺も知っている。だからといって……」

そこで言葉が尻すぼみになる。

「だからといって?」

気になったラインハルトが問い詰めると、ぼそりと呟くようにマテウスが言った。

「……おと……」

「え?」

良く聞こえなかったラインハルトが聞き返す。マテウスは自棄になったような大声で叫んだ。

「男に走らなくてもいいだろう!」