軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-32 仁、旅立つ

少しだけ時間は戻って。

ハンナにも『行ってきていいよ』と言われた仁は大喜びで蓬莱島へ戻り、旅の仕度を開始した。

「さてと、それじゃあまずは馬車だな」

以前エゲレア王国で作った馬車は、残ってはいるが、搭載していた 転移門(ワープゲート) を転用したりして、元に戻すのが少々面倒だ。

老君が同型の物を作っていたが、この際新型を用意しようと仁は思ったのである。

外見は元の馬車に近いものとする。

もちろん 転移門(ワープゲート) 搭載。

4輪独立懸架、アクティブゴーレムサスペンション式。

空調完備。

投光器付き。

もちろん馬はゴーレム馬。

そのあたりは踏襲するが、次がとんでもなかった。

「馬がいなくても走れるようにするか」

つまり、ゴーレムエンジンを搭載して、自走出来るようにするつもりなのだ。

「あまり目立つほど大きなエンジンは積めないから、必要最低限で良いかな」

仁の必要最低限というのは、一般的にはやり過ぎと言われるレベルなのを自覚していない。

「お父さま、材料の用意ができました」

礼子が持ってきたのは64軽銀。単なる軽銀よりも強い。

「よし、始めるぞ」

誰に憚ることなく、思う存分工学魔法を振るい、材料を加工していく仁。礼子はそのサポートをしている。

更に、老君が気を利かせて呼んだ 職人(スミス) ゴーレムが2体。

たちまちのうちに馬車は出来上がっていく。

タイヤには 海竜(シードラゴン) の革を使った。鱗に似た凹凸のため、岩の上でもグリップ力抜群(多分岩の方が削れるだろう)。

「やっぱりゴーレムエンジンが小さいとスピード出ないなあ」

試しに走らせて見た仁がぼやいた。

どうしてエンジンが小さいかというと、各車輪毎に付けられているからである。少し太い車輪にしか見えないが、その実、ゴーレムエンジンが車軸付近に取り付けられていた。

なので、あまり大きな物は目立ちすぎて取り付けられなかった。

そのため、トルク不足は否めない。因みに速度は推定時速40キロほどだ。

ゴーレム馬が全力で牽けば、時速100キロくらい楽に出るから、そんなセリフが出てくるのだろうが、普通の馬車の速度が最大でも時速15キロくらいである。

仁の物差しがとんでもないということには本人も気づいていない。

そのゴーレム馬はかつて作ったものを流用していた。

とはいえ、軽銀だった部材は64軽銀になり、 魔法筋肉(マジカルマッスル) も強化され、出力は2倍となっている。

「乗ることもできるというのはいいよな」

鞍と鐙、そして『ハンドル』も付けたので、馬として乗ることもできる。

「シートとかも更に乗り心地よくして、と。まあ、いざとなったら 転移門(ワープゲート) で帰って来てこっちで寝ればいいよな」

それはもう旅とは言わない、と突っ込む者は誰もいない。

とにかく、スーパー馬車2号は2時間ほどで完成した。

『 御主人様(マイロード) 、一つ提案があります』

「ん、何だ?」

『見かけは低級なゴーレムを一体、お連れになる事をお勧めします』

老君の提案を聞いた仁は、すぐにその意図を悟った。

「なるほど。『見かけ』は低級な、だな?」

要するに、仁の身の回りの世話などをさせるに当たって、いかにもゴーレム、といったゴーレムを連れて行こうということ。

「普段は御者させてもいいかもな」

と言うことで早速仁は作製に入る。何だかんだ言っても、ゴーレムや 自動人形(オートマタ) を作るのが大好きな仁。

「基本はバトラーでいいな」

素材は18ー12ステンレス。一見鉄に見えるから、誤魔化しやすい。

外見をわざと無骨にしてみる。モデルは 統一党(ユニファイラー) の戦闘ゴーレムだ。とはいえ、あそこまで無骨にはしない。誤解されたくもない。

パワーはバトラーより少し高め。器用さは 職人(スミス) に迫る。なので、かなりの雑用もこなせるはず。

「うーん、普段は鈍重に見せかけるように指示しないとな」

そうして出来上がった付き人ゴーレム。

「名前は……『スチュワード』だ」

「はい、ご主人様」

これで大体の準備は終わった。

「……そろそろ休むか。礼子、老君、あとは頼む」

「はい、お父さま」

『お任せ下さい』

さすがに疲れた仁は、あとの細かい旅行準備を礼子と老君に頼むと、床に就いたのである。

* * *

「それじゃあ、行ってくるよ」

仁はカイナ村の人達に、旅に出ることを告げに来ていた。

「ジン兄、行ってらっしゃい。ライ兄によろしく」

「ジン様、お気を付けて行ってらっしゃいませ」

「ジン、気をつけて行っておいで。時々は帰ってくるんだよ!」

「おにーちゃん、いってらっしゃい……」

エルザ、ミーネ、マーサ、ハンナらの見送りを受け、仁はシェルターに向けて歩き出した。

別に、作業場地下の 転移門(ワープゲート) でもいいのだが、絵的に締まらないので、わざわざ離れたシェルターまで歩くことにしたのである。

シェルター前には、カイナ村の守り、ランドAからZまでが勢揃いしていた。

「ご主人様、1日よりカイナ村の守護を担当致しておりますランド部隊です」

「おお、わざわざご苦労。それじゃあ、留守の間よろしく頼む。俺はちょっと出掛けてくる」

「はい、お任せ下さい。お気を付けて行ってらっしゃいませ」

そして仁はシェルターに姿を消した。

* * *

セルロア王国、地方都市ボロロンの北方に、無人の荒野が広がっている。その名前はボロロン荒野という。

見渡す限り岩ばかりで、中には50メートルを超える岩塊も突き出していた。

西部劇に出てくる、アリゾナあたりの風景をもっと小規模にしたと思えば近いだろうか。

その中で一際巨大な岩塊の麓に、大きな洞穴が口を開けていた。

「ふうん、ここがボロロン荒野か」

「はい。おそらく、私が8度目に飛ばされた場所です」

礼子がぽつりと言った。

転移門(ワープゲート) の暴走で行方不明になった仁を捜すため、同じく 転移門(ワープゲート) の暴走を使って世界中を捜し回った時のことである。

「あの時は空中に出てしまい、何とか着地しましたが、 転移門(ワープゲート) の部材が一部破損してしまったため、なんとか研究所に戻ることはできましたが、その 転移門(ワープゲート) は廃棄せざるを得ませんでした」

だが、設置した場所は使えるので、老君は 転移門(ワープゲート) の微弱な魔力を探知し、 空軍(エアフォース) ゴーレムを派遣して場所を特定した。そしてあらためて 転移門(ワープゲート) の設置を行ったのである。

こういう拠点があれば、大陸内の移動も楽になる。当分使うのは仁とその関係者だけであるが。

このため、 転移門(ワープゲート) での移動の中間地点も検討されている。セキュリティのためだ。

『第一候補は就役した空母『穂高』です。艦内には十分なスペースがありますので、中継基地として使えば、万が一何かあっても、危険物や敵勢力を蓬莱島に上陸させずに済みます』

老君は仁にそう説明したものだ。仁はそれでいい、任せる、と承認した。近いうちにそのシステムが出来上がるだろう。

仁と礼子を乗せた新型馬車は荒野を南西へ向けて走り出した。

「うーん、コンパスも付けてくれたのか、さすが老君だ」

巧妙に擬装された、馬車運転用のコンソールには、方位を示すコンパスも備え付けられていた。

「街道は東から西へ付けられているから、南西に向けて走れば、どこかでぶつかるはずだよな」

仁はゴーレム馬モードにして、時速50キロほどで馬車を走らせていた。1時間以内に街道が見えてくる筈である。

「お父さま、見えてきました」

礼子が声を上げた。礼子の目には、彼方に横たわる街道が見えたのである。仁は馬車の速度を落とした。

さすがの仁も、馬車が時速50キロで疾駆するのは異常だとわかっていたのだ。

だが、それでも馬車の速度は時速20キロ以上出ていたのだが。

* * *

ボロロンとガニーズの間は30キロ程度と短い。

ラインハルト一行の馬車は、前日とは打ってかわってのんびりと進んでいた。

何と言っても、あと1日と少しで国境線、その向こうは祖国である。

「ラインハルト、いい天気だなあ」

馬車と並んで馬を歩ませながら、マテウスはラインハルトに話しかけた。

「ああ。春真っ盛りだものなあ。眠くならないか?」

馬車の窓を開け、ラインハルトは冗談交じりにマテウスにそう言うと、

「はは、確かに。馬の背に揺られていると眠くなるよ。だが、痩せても枯れてもこのマテウスは軍人だ。間違っても馬の背で居眠りはしない」

そう答えたマテウスは、わざと大げさに周囲を見回す動作を行った。と、その顔に緊張が走る。

「ラインハルト、馬車を急がせろ」

「どうした?」

「……得体の知れない馬車が荒野からこちらへ向かってくる」

それを聞いたラインハルトはそちら側の窓を開け、外を見た。その顔に笑みが走る。

「マテウス、あれは僕の友人だ」

「何?」

「前に話したろう。この旅で知り合い、友人になった異国の 魔法工作士(マギクラフトマン) 。いや、今はエゲレア王国の 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) 、ジン・ニドーの馬車だ」

「何だって? あれが?」

「ああ。他の誰が、あんな精巧なゴーレム馬を作れると言うんだ」

昼の日光を浴びて銀灰色に鈍く光るゴーレム馬、それが牽いている軽銀の馬車。御しているのは鉄製のゴーレム。

「おーい、ラインハルト!」

その馬車の窓からは、仁その人が身を乗り出して手を振っていた。

「おーい、ジン! 久しぶりだな!」

ラインハルトも窓から身を乗り出し、そう叫んで手を振り返したのである。