軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-28 帰還

翌朝、仁は今度こそクライン王国首都アルバンを発つことにした。

カイナ村をかなり留守にしていたし、ハンナもそろそろ里心がついてきている。

行商人ローランドのいるラグラン商会に寄れなかったのは残念だ。また次の機会ということになる。

朝食後、あらためて自分の馬車で都市の門まで送ってくれる王女。

馬車の前後左右には近衛騎士が馬で警護している。

護衛のためグロリアも同乗していたのだが、別れを控えて、馬車の中ではほとんど会話が交わされなかった。

ただ王女がぽつりと一言、

「もっといてくれてかまわんのに」

そう呟いたのみである。

都市の門をくぐり、馬車は停止した。護衛の騎士たちは気をきかせて少し離れた場所で警護に当たっている。

逆に、仁やハンナ、エルザの 隠密機動部隊(SP) たちは馬車の周囲をくまなく警戒していた。見えていないが。

仁たちは名残を惜しむようにゆっくりと馬車を下りた。

ところで今回ハンナは自分の服を着ている。が、心配するまでもなく、さすがに今日はもう何事も起きなかった。

王女とグロリアは都市の城壁を背に立ち、仁たちは城壁に向かって立つ。

みな無言である。いろいろ言いたい事もあるのだが、いざとなるとなかなか口から言葉が出てこなかった。

そんな中、グロリアがまず口火を切り、

「ジン殿、またいつかお会いしたいものだな」

そう言ってくれた。続いてはリースヒェン王女。

「ジン、これからどうするのじゃ?」

いつも元気な王女も寂しげな顔だ。

「はい、一度カイナ村に行きます」

そう答える仁。仁も少し寂しく思ってはいる。

「そう言えば、馬車があると言っておったな」

「はい」

頷いて仁は口笛を吹く。すると、森に続く街道を走ってくる馬車が1台。

「お、お? 何じゃ、あの馬車は!?」

ゴーレム馬車を初めて目にした王女は驚いている。グロリアも同様だ。

「俺の馬車です。ゴーレム馬が牽く馬車ですよ」

馬車は仁のそばでぴたりと停まる。仁はそれを一目見て、以前エゲレア王国で作ったものと同じである事を理解した。老君はきちんと仕事をしたようだ。

「エゲレア王国のアーネスト王子殿下も同じものを持ってらっしゃいます」

そう教えておく。そうすれば、リースヒェン王女のエゲレア王国への興味も増すであろう。案の定王女は、

「おお、そうか! アーネスト様にお会いするのが楽しみになったわ!」

と声を上げる。そして、

「実は昨日、『 魔素通話器(マナフォン) 』とか申す魔導具が届いてのう。エゲレア王国やセルロア王国、フランツ王国などと話が出来るようになったらしい。あ、エリアス王国ともな」

昨夜、部屋に戻ってから老君と話した時、そんな事も聞いていた仁は、うまく使って貰えそうだ、と内心ほくそ笑む。

「それで父上もいろいろ話をしたらしい。それによると、来月、と言っても明日はもう5月じゃが、 妾(わらわ) とアーネスト様との、そ、その、見合い、が、行われるとかどうとか」

相変わらずこの王女は国の重大情報をさらっと口にしている。少し恥じらいながらではあるが、少々迂闊なのには変わりはない。

「そ、それは、おめでとうございます」

仁としてもそう答えざるを得ない。

「ふん、まだ決まったわけでもないからの」

顔を赤くしてそう答える王女、だが意外とお似合いかも知れない、と仁は思った。

「それでは、名残は尽きませんが」

「お世話になりました」

「おうじょさま、どうもありがとう!」

「うむ、達者でな。また会おう」

「ジン殿、またいつか」

言葉は短いが、心からの別れの言葉を口にして、仁たちは馬車に乗り込んだ。

そして馬車の扉が閉まり、ゴーレム馬はゆっくりと歩みを始める。

「気を付けてなー!」

王女という身分にもかかわらず、大声を上げるリースヒェン王女。

仁は、いろいろあったけど良い出会いだったかな、と座席に身を沈めたのである。

* * *

「行ってしまったな」

ぽつりと王女は呟き、徒歩で戻ろうとするグロリアを見て、自分の馬車へ乗れ、と言った。

「行きと同様、乗っていても護衛は出来よう?」

恐縮するグロリアだが、結局王女の押しの強さに負け、同乗する事になった。

馬車が動き出すと、4名の近衛騎士が自然に近づいて来た。王宮までの護衛である。

「不思議な男じゃったな」

馬車の中では王女とグロリアが仁たちのことを話題にしていた。

「はい、エゲレア王国の 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) ということでしたが、いろいろと謎の多い方でしたね」

「うむ。じゃが、我が国に害をもたらすような男ではないと、そう感じた」

「同感です」

馬車は石畳の中央通りを進んでいく。何気なく外を眺めた王女は、先日のゴーレム騒ぎを思い出した。

というのも、目の前の建物と道路が修復中だったのである。

ゴーレムを落とすために仁が空けた穴と、ジェシカが放った 炎の槍(フレイムランス) の余波でひび割れた壁。

「補償はしたが、ジェシカの処分はまだじゃったな……減俸3ヵ月、といったところか」

この場合の減俸は、半額になるというのが慣例である。半泣きのジェシカの顔が目に浮かぶグロリアであった。

「隊長も、あれさえなければ完璧なんですけどね」

「うむ。統率力、判断力はあるし、剣技も一流。加えて人望もある。が、魔法の制御が苦手というのがな」

戦場ではあまり問題にならない欠点だからこそ、ジェシカも隊長でいられるのだ。

「人材というのは大切じゃな」

しみじみと呟くリースヒェン王女であった。

* * *

仁たちを乗せた馬車は街道を疾駆していく。

「やっぱり、ジン兄の馬車は乗り心地が違う」

エルザはそう言って満足そうな顔。

「すっごくきもちいい」

ハンナも乗り心地の良さをそう表現した。

かなり走ったところで、仁は礼子を通じて老君に連絡を取った。

「お父さま、上空に、 消身(ステルス) を展開したコンドル3が待機しているそうです」

「うん。……って、3だと?」

コンドルは2機だったはずが、いつの間にか3機に増えていた。

「コンドル3に大型 転移門(ワープゲート) が積んであるそうです。それを使えば馬車のまま崑崙島に戻れます」

蓬莱島直通にしなかったのは万が一の事を考えてであろう。

「なるほどな。さすが老君、手回しがいいな」

配下の働きに満足した仁は、ハンナに目隠しをしようかと考えて、止める事にする。

これからもこんな感じでハンナを連れ出してやりたいし、少しずつハンナにも自分の正体を明かしていきたかったのだ。

「ハンナ、これから、この馬車のまま、崑崙島へ行くからな」

「え? う、うん」

仁の言葉に一瞬面食らったハンナであったが、すぐに頷く。仁が出来ると言った事は出来るのだ。

馬車は街道を逸れ、やや悪路を走り出す。が、ゴーレムアームによるアクティブサスペンション(?)の働きにより、揺れもほとんど感じられない。

10分ほど悪路を走ると、ぽっかりと開けた草原に出た。

「コンドル3です」

礼子がそう言うと、 消身(ステルス) を解除したコンドル3が姿を現した。

「わあ! おっきい! なに、あれ?」

「……これも、ジン兄が作った、の?」

ハンナは素直に感心し、エルザは以前乗せてもらったペリカン1を咄嗟に思い浮かべたが、よく見るとほとんど似ていない。

それでも全体の雰囲気というか何と言うか、魔導具としてのあり方、とでもいうようなものが、コンドル3とペリカン1が同じカテゴリになるものとエルザに感じさせていたのである。

それは、エルザが 魔法工作士(マギクラフトマン) として成長した事の表れでもあった。

馬車はコンドル3が懸架している大型 転移門(ワープゲート) にゆっくりと入っていく。

馬車に乗っている者には、一瞬視界が暗転したように感じただけだったが、その一瞬で馬車は数百キロを移動し、崑崙島に着いたのであった。