軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-27 閑話16 懐古党、活動してます

「エレナ、これは何だ?」

元 統一党(ユニファイラー) 主席で、今は 懐古党(ノスタルギア) 主席であるジュールは大きな机ほどの魔導具を見て、疑問を口にした。

時に4月27日。 統一党(ユニファイラー) が 懐古党(ノスタルギア) と改名した翌々日である。

「これは『 魔素通話器(マナフォン) 』といいます」

「 魔素通話器(マナフォン) ?」

聞き覚えのない名称に、ジュールも戸惑う。

「はい。これには対になる相手がありまして、2台の間で通話が出来るのですよ」

エレナが説明する。

「ほう。だが、今までにもエレナと我々は遠距離で話をしたではないか?」

当然の疑問である。かつてエレナ(の前身)と第2席ドナルドが熱飛球で帰還する途中に、エレナとジュールはとある魔導具で話をしていたのだから。

「はい、その疑問はごもっともです。あの魔導具の名前は存じませんが、距離が離れると通話できなくなってしまいます。例えばアスタンとここを結ぶのが精一杯です。しかも私としか話せません。加えて間に高い山があったりすれば距離が近くても交信不可能です」

その通話の魔導具だが、片方はエレナに内蔵されており、逆に対になる部分は部屋ほどもあった。

「対して、この 魔素通話器(マナフォン) は、この 小ささ(・・・) にもかかわらず、数百キロ、もしかすると1000キロ以上の距離間での通話が可能です。間に山があっても変わりません」

「なんと! これはマキナ殿から?」

「はい。全部で10対、計20台の 魔素通話器(マナフォン) をいただきましたので、各国に送り届けるのがよろしいかと思います」

エゲレア王国、セルロア王国、フランツ王国、クライン王国、そしてエリアス王国、の5つの国は、小群国でもいろいろな意味で繋がりの深い国々である。

各国首都に、他の国とのホットラインとして 魔素通話器(マナフォン) を据え付けるなら、1つの国に付き4台必要になるから、4掛ける5で20台必要となるわけだ。

ショウロ皇国とレナード王国はまた次の機会、ということになる。

「これはきっと喜んで貰えるだろう」

ほっと一息つくジュールであった。そしてまたエレナへの質問。

「組織の再編成はどうなっている?」

ジュールは秘書役のエレナに尋ねる。

そのエレナによれば、『精神操作』していた幹部の8割以上は、精神操作から解放された後も 懐古党(ノスタルギア) の理念に共感し、そのまま組織に留まっているとの事。

残った2割弱は、単に権力もしくは金が目的だったようで、そう言う輩は拘束して地下牢に押し込めているそうだ。

いずれ精神操作で無害な性格にして解放するか、それともそのまま飼い殺しにするか、は未定である。改心してくれるのが一番いいのだが。

「そうか、それならば組織としての活動は可能だな」

「はい、我が君様」

エレナも、仁により改造されたとはいえ、周囲の目もあるため、今まで通りの話し方をしていた。

「ふ、エレナがいてくれなかったらやり遂げられそうもないからな、これからもよろしく頼むぞ」

* * *

一方、第2席のドナルドはずっと奮闘していた。

原因は、23日早朝の戦闘である。

いくら本部前の平原が広く、人気が無かろうと、カシムノーレの街の誰も気づかなかったという事は有り得ない。

マキナ(=仁)は上空から付近の確認をしていたので、周辺住人に人的被害は無いが、かなりの音は聞こえていた可能性があるし、罠に掛かったマキナたちが脱出する際に吹き上がった岩屑を目にした者もいるかも知れない。

「新鉱山の開発、で誤魔化せるだろうか……」

それら全てに平和的な理由付けをして隠蔽するために、ドナルドは知恵を絞っていたのである。

更に、各国へ仕掛けた『ちょっかい』の後始末がある。

「……クライン王国首都アルバンに、攪乱を目的とした連中を派遣している、か。他にもありそうだな……」

ドナルドは、過激派幹部の1人が勝手に行ってしまった作戦を知り、嘆息した。今は28日午前。もうすぐ昼になる。

「日時は27日と28日正午、か。一つはもう終わってしまっているか。もう一つもとても今から連絡しても間に合わないな……。クライン王国がうまく捌いてくれるのを願うばかりだ」

* * *

「陛下、『 懐古党(ノスタルギア) 』なる団体から、慰問と称して贈り物が届いております」

「何だ? 懐古党(ノスタルギア) ?」

「はい。添付されていた書状によれば、『過去の技術を発掘し、現在に生かして、未来へ繋げる』ことを目的とする集団だそうです」

「なんだか胡散臭いな。で、贈り物というのは?」

「はい、これでございます」

「何だ、このでかい机は? しかも4つも、だと?」

「はい、書状によれば、『 魔素通話器(マナフォン) 』という魔導具だという事です」

「 魔素通話器(マナフォン) ?」

「は、つまり魔法により、遠方と会話が出来るそうです。それぞれが各国に贈られているとの事で、クライン王国、エゲレア王国、フランツ王国、セルロア王国、エリアス王国の5国間それぞれ会話が可能だとか」

「それが本当だとすれば、非常に役に立つな、試してみるか」

「危険があるやも知れませんから、魔法相立ち会いの下で行われるのがよろしいかと」

「うむ、急ぎ魔法相を呼べ」

4月29日朝、こんな会話が各国でなされたという。

* * *

「こちらはエゲレア王国魔法相、ケリヒドーレ。聞こえますかな?」

クライン王国の 魔素通話器(マナフォン) に付いている 魔結晶(マギクリスタル) が明るく光ったかと思うと、声が響いてきた。

そばにいたパウエル宰相は慌てて返答する。

「こ、こちらはクライン王国宰相、パウエルと申す。き、貴殿の声は良く聞こえている」

「おお、そうですか。今朝、この『 魔素通話器(マナフォン) 』とかいう魔導具が届けられ、いろいろ調べてみた結果、無害だとわかったので、貴国へ連絡を試みた次第です」

それを聞いた宰相は慌てて返答をする。

「当方でも調査中でしたが、図らずも貴殿からの連絡により、有効な事が証明出来た、礼を申しますぞ」

そして、非公式ではあるが、エゲレア王国魔法相とクライン王国宰相はしばらく会話を続けた。

「確かに非常に便利ですな。この後、国王に申し上げ、そちらの王と会談をなされるよう進言するつもりです」

どちらからともなくそんな言葉が交わされたのである。

それが4月29日昼前の事。

同じような通信が、エリアス王国とエゲレア王国、またクライン王国とフランツ王国との間でも交わされたという。

魔素通話器(マナフォン) は、確実に、小群国間の国交に影響を与えていく事になる。

ところで、この 魔素通話器(マナフォン) には、 魔素通信機(マナカム) が内蔵され、会話した内容が全て老君に筒抜けになっているという事は誰も知らない。

* * *

「エレナ、あの 魔素通話器(マナフォン) だが、どうやって各国へ届けたのか、お前は知っているか?」

「はい、我が君様。かのマキナ様が、配下にお命じになられて運ばせたようですよ」

その返答にジュールとドナルドは揃って唸った。マキナという謎の存在は、それほどの力を持っているのか、と。

そして、『魔法以外にも、この世界には理解し、利用すべき力がある』、と言う言葉。

ドナルドがラインハルトから聞いたその言葉は、確かな重みを持って、ジュールとドナルドの目の前に横たわっている。

「……いったいどうやったらゴーレムがこんな姿になるのだろうな」

そこには、各国へ復興資材として送り届けた残り、つまりゴーレムが溶けて出来た金属塊が山と積まれていた。

「さあ、わかりませんな。過去ばかり見ていた私たちには理解出来ないことが、この世界には山ほどあるのでしょう」

「残りの人生でそれをどれくらい理解出来るものだろうか」

ジュールの、そう呟くような言葉には一抹の寂しさが感じ取れる。

「全部理解出来なくとも良いではありませんか。人生とはそんなものでしょう」

そう答えるドナルド。あくまでも前向きな姿勢を崩さなかった。

「ふっ、確かにな。全てに満足出来る人生など無いのだろう」

「私は出来うる限り、お二方を支えますよ」

そんなエレナの言葉に、ジュールもドナルドも微笑みを浮かべる。

「ありがとうエレナ。君がいてくれる限り、我々は未来を信じられるよ」

「はい、お任せ下さい。そして、さきほどマキナ様からまた魔導具が届けられました」

「そうか、今度はどんな驚きが待っているのだろうな」