軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-25 褒美

「宰相! あなたともあろう方が、なぜこんな依頼をしたのですか!」

声の主はがっしりした身体の中年男だった。

「ボールトン、騒がしいぞ」

宰相が窘めるが、男は聞く耳を持たない。

「武具は鍛造に限ります! 鋼を叩いて作った剣は折れにくく、鉄を重ねて伸ばした盾は強靱です。鋳物の剣がすぐに折れてしまい役に立たない事はご存じでしょう。鋳物の盾はすぐに割れます。守りの役には立ちません! 魔法工作士(マギクラフトマン) が作った武具も同じです。一昨年のことをお忘れですか! 折れないものがあったとしてもすぐに曲がります。切れません。そんなものを兵士に使わせるのは死ねと言っているようなものです! 正気とは思えません! 私は断固反対します!」

一気にまくし立てる。なんだか既視感がある、と思ったら、

「……父上……」

と疲れた顔でグロリアが呟いた。ボールトンと呼ばれた男はグロリアの父だったようだ。何と言うか、良く似た父娘である。残念という点で。

娘の呟きを耳にし、ボールトンはグロリアに気が付いた。

「おお、グロリアか。お前がいて何をやっておる! それにリースヒェン王女殿下! いくら 自動人形(オートマタ) を修理し、ゴーレムを作製出来ても、武具まで任せるというのはこのボールトン、承服出来ませんぞ!」

大きな声である。ハンナは耳を塞いでいた。

「父上……」

「何だグロリア、今私は宰相に意見を……」

そう言いかけたボールトンに、グロリアは黙って自分のショートソードを差し出した。

「ん? お前、先日剣を折ったと言っておったな。するとこれは新しく手に入れた剣か。ふむ、…………な、何!?」

グロリアのショートソードを手にしたボールトンはショートソードを見て目を輝かせた。

「おおっ、見事な鋼の流れ! 刃は硬く、芯は軟らかい。全体に強靱だ! よい剣を手に入れたな! さぞや名のある鍛冶の作だろう?」

「はい、そこに居られるジン殿の作です」

「ふむ、ジン殿とな? ……エゲレア王国の 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) しかおらんぞ……ま、まさか!?」

「そのまさかです」

ここへきて、ようやくボールトンは娘のショートソードが仁という 魔法工作士(マギクラフトマン) によって作られたものだと知った。

* * *

ボールトンは総務省勤務の武装品管理官で男爵だそうである。若い頃は騎士団にいたこともあるそうだ。

そのボールトンは頭が床に付くほど深くお辞儀をして仁に詫びていた。

「申し訳ない! このボールトン、一生の不覚! まさかこれほどの名剣を作る事の出来る 魔法工作士(マギクラフトマン) がいるとは!」

「別にいいですよ」

本当に仁は気にしていない。ただ、最初から最後まで呆気にとられていただけで。

宰相も王女も、いつもの事といった顔である。

エルザはラインハルトをさらに極端にしたような人、と内心思っているが顔には出さないし、ハンナは単に面白い小父さん、に留まっていた。

そのハンナは退屈を紛らわすため王女とせっせっせをしていた。いや、せっせっせに似た遊びをしていた。

こっちにもあんな遊びがあるんだなあ、と思いながら、仁はボールトンの謝罪を聞き流すのであった。

* * *

「でだ、金属の内部には境界があって、その境界から折れる。その境界に囲まれた部分が大きいと脆い」

ようやく落ちついた一同は、工房の隅に設けられた休憩スペースに座って話し合っていた。

「ボールトンは、 妾(わらわ) と同じく魔眼持ちなのだ。それも『顕微の魔眼』という」

「姫!」

またしても重要そうな事をぽろっと漏らす王女。仁以上に正直である。上に2文字付くくらいに。

「顕微、ということは小さなものが見えるのですね?」

そう仁がいうと、ボールトンは仰天した。

「な、何!? その名を聞いただけで、どんなものかを言い当てるとは! 貴殿はいったい……」

「ですから、エゲレア王国の 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) ですよ」

仁はそう言い切って、中断した話を再開してもらうよう促した。

「うむう、エゲレア王国は 魔法工作(マギクラフト) が盛んだと聞いていたが、これほどとは……」

そう言いながら、ボールトンは説明をし始めた。

彼の話す内容は、現代地球でいう『鍛流線』と『金属粒子』だと仁は理解していた。

金属は微細な結晶で出来ており、結晶が緻密で細かいほど強靱になる。

この金属粒子の微細化が鍛造の目的の一つであり、鋳物より鍛造のアルミホイールの方が丈夫なのはこのためである。

この辺は金属関係の業種だった仁は研修で学んだ内容であった。

「魔法で作られた剣をはじめとする武具は、その境界線が滅茶滅茶で、実用にならないというのが私の見解であった。しかるに、貴殿の製作した剣は……」

延々と語るボールトン、この父に育てられたからこそのグロリアなのであろう。

「わかったわかった、もうよろしい。要は、ジン殿の作った剣は実用性が高いという事だな?」

さすがにいい加減うんざりしたように、パウエル宰相は結論を口にした。

それに対し、ボールトンは、

「いえ、それ以上です、名剣と言って差し支えありません」

と言い切った。

あの騒動のあと、巻藁を試し切りし、実際に名剣であることも確認した。

それ以来、ボールトンはひたすら低姿勢を貫いていたのである。

仁は恐縮し、エルザは仁の顔を見つめ、ハンナはにこにこ微笑み、礼子は誇らしそうにしていた。

「そうか」

宰相は目を閉じ腕を組み、何やら考え込んでいる。2分ほどそうしていただろうか、やがて目を開けると、

「ジン殿、感謝する。正直、貴殿を疑っていた。エゲレア王国からといいながら、その実は 統一党(ユニファイラー) もしくはフランツ王国の回し者ではないかとな」

と言って軽く頭を下げた。

「なっ、パウエル、それは……」

王女が何か言いかけた、それを宰相は手で制した。

「殿下のお目は確かでございました。敵の回し者が、これだけの武器とゴーレムを製作してくれようはずがありませんからな」

何故ゴーレムの事まで知っているかといえば、仁の作ったゴーレムが、ハインツと模擬戦を行うのをこっそり見ていたそうである。

そして宰相はこれよりすぐに国王に報告するので付いて来てほしい、と結んだ。

そして伴っていた伝令役の兵士に、国王に謁見の申し入れをしておくように、と申しつける。

「ではゆるゆるとまいりましょうかな」

一行は工房を後にした。

リースヒェン王女、パウエル宰相、ボールトン武装品管理官、グロリア女性近衛騎士隊副隊長といったそうそうたる顔ぶれに加え、仁、エルザ、ハンナ、礼子が王宮内を歩む。

侍女や警備の兵士も気になるとみえ、ちらちらと視線を投げかけてきていた。

「妹御方はこちらで待っていていただきたい」

執務室そばの応接室へとエルザ、ハンナは案内されていく。仁がチラと礼子に視線を投げると、礼子はその意味を正しく受け取り、一つ頷くと、赤外線モードで確認した後、指を4本立てた。

これは、ハンナ専用の 隠密機動部隊(SP) 2体と、エルザ専用の 隠密機動部隊(SP) 2体がそばに付いていると言う意味である。

それで仁は一安心。パウエル宰相と共に前日にも訪れた王の執務室へと足を踏み入れた。礼子はもちろん一緒である。

王女は仁と一緒、グロリアはハンナたちに付き沿い、ボールトンは去っていった。

「来たか、ジン」

事前に連絡がされていたのか、国王アロイス3世は仁を待っていた。

「聞いたぞ。たったの1日で、剣とゴーレムを完成させたそうではないか。よくやってくれた。礼を言おう」

そう言ってアロイス3世は執務机の上で両手を組み合わせ、

「さて、約束の金額の他に、褒美として何か上乗せしたいと思う。希望はないか?」

と仁の目を見ながら尋ねた。さすがに、超短期間でこれだけの物を作ったので褒美、という物もくれるようだ。

それについて仁は思う所があったが、

「正直、どれくらいの事を行ったのかよくわかりません」

とまずは答えておく。これを受けて、国王が何と言ってくるか、が問題だ。

「ふむ、そういうものか。我としては、 王国魔法工作士(ロイヤルマギクラフトマン) として召し抱えたかったのだが、それもならぬしな」

エゲレア王国の 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) という肩書きはかなり仁の役に立っていた。

「領地を与えるから我が国に定住して貰えると喜ばしいのだがな」

と王が言えば、宰相も提案を述べる。

「領地とまでは行かなくとも、特定の土地の支配権もしくは自治権を与えるという手もありますな」

と、そんな発言が飛び出してきたではないか。それを聞いた仁は、

「それはいいですね」

と一言。その仁の反応を見た宰相は飛び付いた。

「そ、そうか! ジン殿は領地を望むか」

クライン王国としては、金を渡してはいさよなら、というよりも、領地を与えて土地に縛り付けたい思いが強いのである。

「いえ、領地というより、租借地、といった方がいいでしょうか」

と仁は答える。

租借地とは、たとえばA国がB国に対して、条約を取り交わして一定期間貸し与える土地のことである。主権は表向きA国にあるが、実際の統治権は借りたB国にある。

今回の場合、クライン王国が仁個人に対して貸し与える事になるわけだ。

領地よりは縛り付ける力が弱いとはいえ、クライン王国としては十分に呑める条件であった。

「ふむ、どこか希望する土地があるのか?」

アロイス3世は何となくわかってきた、という顔で仁に問いかけた。それに対する仁の答えはもう決まっている。

「はい、それでしたらカイナ村を」