軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-24 剣100振

5半ニッケル鋼は、強靱ではあるが、刃物にはそれほど向いていない。

というのは、ニッケルが添加されたために、オーステナイトという組織が多く残留し、これが鋼の硬度を下げるためである。

故に仁は、残った5半ニッケル鋼のインゴットから、まずニッケルを分離する事から始めた。2度手間だが仕方ない。

「『 抽出(エクストラクション) 』ニッケル」

残っていた約1.79トンの5半ニッケル鋼から98キロほどのニッケルが分離された。

出来上がった純粋な炭素鋼で100振りの剣は十分作成可能だ。

「それじゃあエルザ、『 分離(セパレーション) 』の練習をしてみようか」

仁はエルザを手招く。近寄ってきたエルザに仁は解説を始めた。

「いいか、 分離(セパレーション) のコツは、『量』を正確にイメージする事だ。量とは重さだ。1グラムが10個で10グラム。10グラムが10個で100グラム。その繰り返しだ」

「ん、意味はわかる」

「1グラムがどれくらいか、それを把握する事が肝心だ。まずはそこからだ」

感覚的に憶えている事を口に出す事で、仁自身も理解が深まる。と同時に、先代の考え方が非常に現代地球の学問に近い面があるという事にも気がつく。

もちろん全てが、ではない。所々にデジタル的な考え方が入っていたり、素材を分子レベルまで掘り下げて扱っていたりする点が、である。

また、今更ではあるがゴーレムや 自動人形(オートマタ) の筋肉の付き方など、解剖学を知らなければ出来ないほど人間に近かったりする点も驚きではあった。

(もしかして先代も召喚された人だったのかも)

そんな事を思わないでもない仁であるが、その疑問に答えてくれる者はいない。

「『 分離(セパレーション) 』」

仁は意識を目の前のエルザに戻す。エルザは一所懸命に 分離(セパレーション) を使い、1グラムの塊を作ろうとしていた。

「 分離(セパレーション) は問題無くできるようになったな。後は1グラムの認識だな」

熟練の職人は掌で平面が確認出来るという。

魔法工学師(マギクラフト・マイスター) というものはそういう感覚も持ち合わせているのだが、そこまでいかずとも意外と人間は目測がうまい。

木工職人は3ミリと4ミリの板厚を測らなくても見当が付くし、熟練ドライバーはタイヤの空気圧が変わった事も感じ取れるらしい。

要は慣れにより、ある程度のレベルには至れると言う事。そのレベルが高いほど、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) に近づけるのである。

「『 分離(セパレーション) 』……今度はどう?」

10数回のやり直しを経て、エルザの感覚はかなり良くなってきた。

「うん、十分いいと思うぞ。それじゃあ、2.2キロの塊を取り出してみよう。調整は礼子、頼む」

「はい、お父さま。……エルザさん、やりましょう」

「ん」

と言う事で、エルザが 分離(セパレーション) で作った塊を礼子が検証し、より正確な量に微調整していく。

最初は多かったり少なかったりしていたが、30回もやっていると、次第に誤差が少なくなってきていた。

「ふうむ、エルザ殿もなかなか凄いのだな」

傍で見ていたグロリアが、その成長ぶりに感心してそう言った。彼女も、普通の 魔法工作士(マギクラフトマン) を知らないから、これがどれくらい常識外れかはわかっていない。

リースヒェン王女は 魔法工作(マギクラフト) に興味津々で、食い入るように見ている。

ハンナも、仁が仕事をしている姿を見るのは好きなので、大人しく眺めていたが、さすがに2.2キロの鋼塊を延々と作り続ける光景には飽きてきたようであった。

それを感じた仁は、70個ほど完成した鋼塊を手にし、いよいよ剣の作製に入る。

「『 変形(フォーミング) 』」

鋼塊が淡い光を放ったかと思うと、見る間に形を変えていく。そして剣の形となる。その間、約5秒。これでも仁は手加減している。本気の本気なら1秒で完成させられるのだから。

「おお、すごい! ジン殿、ちょっと見せて貰っていいだろうか!?」

黙っていられなくなったグロリア。仁は笑って剣を差し出した。

「まだ柄もすげていませんよ」

受け取ったグロリアは剣を眺め、少し皆から離れて軽く振ってみたりしている。

「ふむ、いい出来だな! 私はロングソードはあまり使わないが、これはかなり使いやすい」

「そうですか? 見本の剣と、それに先ほどハインツさんが持っていた剣も参考にしてみました」

そう仁が答えると、グロリアは驚く。同時に王女も声を上げた。

「何! ハインツ殿の剣は無銘だが業物だぞ!」

「何! あんな短い時間で剣の詳細を知ったのか!」

その内容というか驚くポイントは違ったが。

「まあ、出来がいいのなら安心しました」

仁はそう言って、作業に戻る。エルザと礼子の方は、100個の鋼塊を作り終わっていた。

「『 変形(フォーミング) 』。『 変形(フォーミング) 』。『 変形(フォーミング) 』」

次々と完成していく剣。15分ほどで100振りの剣が出来上がった。

「は、早い、な」

王女とグロリアは目を見張っている。

「あとは焼き入れとか、ですね」

仁はそう言ってエルザに再度説明を始めた。

「ダストンさんのところで説明したな? あれを念頭に置いて見ていてくれ」

仁はそう言って、10振りほどの剣を一まとめに手にした。

「『 熱処理(ヒートリート) 』。『 成形(シェーピング) 』。『 仕上(フィニッシュ) 』。『 硬化(ハードニング) 』」

10振りの剣を一まとめに処理を行ってしまう仁に、見ている者達は声もない。一連の作業でおよそ30秒、5分ちょっとで100振りの剣が完成した。

「あとは鞘と鍔、それに柄か。これはエルザも出来るな」

「つば?」

聞き慣れない単語に、エルザが怪訝そうな顔をする。

「あ、剣の場合はガード、って言うんだったか?」

これにはグロリアが答えた。

「そうだ。我が国では、 柄(つか) と 鍔(つば) が一体になったものは『ヒルト』という。今作ってもらっている剣は柄と鍔が別々に 拵(こしら) えてあるから『ガード』でいいな」

「わかりました。エルザもいいな?」

「ん、それならわかった」

そう言って仁は鞘に使う革、鍔、いやガードに使う真鍮、柄に使う硬木を準備した。エルザに頼むのは真鍮のガードである。

こういう形にして欲しい、と言って、一つ見本を作ってみせる仁。

「微調整は俺がするから」

「ん、やってみる」

エルザは真鍮の塊からガードにする分量を 分離(セパレーション) で取り出す。それを見た仁は、短時間でずいぶん上手くなった、と感心。

更に 変形(フォーミング) で形作るのを見、これなら任せておけると安心し、自分は鞘と柄作りに取りかかった。

礼子に材料取りをさせ、仁は加工を担当。

たちまちのうちに出来ていく鞘と柄。

「わあ、おもしろーい!」

これにはハンナも喜んで眺めている。これも10分ほどで完成。エルザの方はまだ20個といったところだ。

「遅くて、ごめんなさい」

済まなそうに謝っているが、仁が異常過ぎるだけで、エルザも十分早いのだが。出来すぎる身内を持つが故の悲劇である。

仁は、完成した分のガードを剣に装着し、柄をすげ、微調整していく。最後に鞘に収めれば、一振り完成。

一応仁は『 表面処理(サフ・トリートメント) 』を使い、鞘の色を少しずつ変えておいた。

10振ごとに、白に近い茶から、黒に近い茶まで、茶色のグラデーションだ。

「ふむ、なかなか綺麗だな」

見ていたグロリアも感心する。リースヒェン王女はハンナと一緒になって眺めている。退屈はしていないようだ。

エルザの用意したガードを使い切ると、仁も手伝ってガードを作る。

そして100振りのロングソードが完成したのはおおよそ2時半頃であった。

「これで全巻の終わり」

いささか時代がかったセリフを口にし、仁は立ち上がって伸びをした。

「いやあ、いいものを見せて貰った」

剣マニアのグロリアはご満悦である。

「よし、それでは宰相に引き渡せばいいのじゃな。……そこにいるお前、宰相を呼んでまいれ。ジンが依頼されたものを完成させた、と言うてな」

リースヒェン王女は、折から工房前を通りかかった伝令役の兵士に、宰相を呼んでくるよう命じた。

仁は内心、そんな簡単に宰相を呼び出せるものだろうか、と危惧したが、それは杞憂に終わる。

文字通り宰相は『飛んできた』。

「じじじじじジン殿、完成しただとおおおおおおお!!」

付き従う護衛兵士も呆れるほどの速度で廊下を走ってくるのが見えた。

「ほほう、パウエルの奴もあんな顔をする事があるのか」

リースヒェン王女は普段しかつめらしい顔をしている宰相のあわてっぷりに頬が緩んでいる。

「ぜえ、ぜえ、ぜえ…………」

工房前まで全力で走ってきたらしい宰相は額に汗をかき、肩で息をしている。

「そんなに慌てずともよかろうに」

半ば呆れた王女の言葉も耳にはいらばこそ、

「ほほほほほほ、本当にゴーレム20体、剣100振りが完成したのかね!」

と食いつかんばかりの勢いで仁に詰め寄った。

「はい、御覧下さい」

工房の中を仁は指差す。

そこには銀灰色に鈍く光沢を放つゴーレムが20体立ち並び、その腕にはそれぞれ5振りの剣を抱えていた。

「ほ、ほ、本当なのだな……」

「ああ、途中からじゃが 妾(わらわ) やグロリアも見ておった。間違いなくジンはこれだけのゴーレムと剣を作ってくれたぞ」

何故か王女は自慢げである。

これで依頼は終わりか、とジンが肩の力を抜いたその時。

「 魔法工作士(マギクラフトマン) なんぞが作った剣が実戦の役に立つものか!」

との面倒事を臭わせる声が響いた。