軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-23 秘密転写

ハインツ・ラッシュはラッシュ男爵家の2男である、と自己紹介した、

茶に近い金髪、青緑の瞳。がっしりした筋肉質である。

「若手騎士の中でも有望と言われておる」

王女が補足する。そう言われたハインツは若干照れた顔をした。

「そ、それで王女殿下、私は何をすればよろしいのでしょう?」

「うむ、それはこのジンから聞いてくれ」

そう言われて仁に向き直ったハインツに、

「ハインツ殿に、新しく作ったゴーレムの実力を計っていただければと思いまして」

と説明する仁。そう聞いてもハインツはよく理解できないと言った顔だ。

「ところで、騎士としては剣や槍で戦いますよね?」

「ん? うむ」

そう水を向けておいて、すかさず仁が魔法を使う。

「『 知識転写(トランスインフォ) マイルド・レベル4』」

初めて試す『マイルド』のオプション。

記憶や知識をコピーされて喜ぶ人間はあまりいないだろうということで、何が行われたかわからないように 知識転写(トランスインフォ) を行う事が出来る……筈である。そして聞かれても何の事か分からないだろうが、一応小声で行った。

転写先は蓬莱島から持ってきた 魔結晶(マギクリスタル) の最後の1個。

「『 読み取り(デコンパイル) 』……うん、大丈夫だ」

確認した仁は、 知識転写(トランスインフォ) が成功した事を確認した。

「ジン殿、それで具体的に私の役目は?」

再度尋ねてくるハインツ。何も気が付いていないようだ。大成功である。

仁はそんなハインツに、

「少しだけお待ち下さい。今からこのゴーレムを起動しますから、こいつと簡単な模擬戦を行っていただけますか?」

と頼んだ。ハインツも、仁が王から受けた依頼の事は聞かされていたので、快く引き受けたのである。

「なるほど、そういうことか。わかった。楽しみだ」

仁は手にした 魔結晶(マギクリスタル) から、ゴーレムの 制御核(コントロールコア) に必要な情報を転写した。

「よし、『起動』」

魔力素(マナ) を流し込み、 魔力炉(マナドライバー) を起動する。 魔力貯蔵庫(マナタンク) はあらかじめ充填済みだ。

仁の声に従い、ゴーレムの1体が起き上がった。

「おおっ!?」

「おお!」

「動いた!」

見ていた王女、グロリア、ハインツがそれぞれ声を上げる。エルザとハンナは大分見慣れたとみえ、声は出さなかった。

「どうだ、身体の調子は?」

「はい、 製作主(クリエイター) 様、異常はありません」

「よし」

仁は残った鉄のインゴットから2本の模擬剣を急いで作り出すと、ハインツとゴーレムに手渡す。

「本当に軽く、でいいから模擬戦をお願いします。こんなことで怪我などされても申し訳ないですし」

「うむ」

一同は裏庭へと移動する。

その珍しい組み合わせに、手の空いている侍女、兵士、騎士たちは遠くからこっそり眺めているようだ。

ハインツは腰に提げていた剣を外す。

「私がお預かりします」

すかさずグロリアは近寄り、会釈をしてその剣を受け取った。

ハインツは手にした模擬剣を2、3度振って感触を確かめた後、仁をちらりと見た。

「ではお願いします」

仁はその視線を準備完了と受け取り、開始を宣言する。

「ではいくぞ!」

ハインツは一つ頷き、ゴーレムに袈裟懸けに斬り掛かった。

ゴーレムはその斬撃を流すようにして受け止め、一歩踏み込むと横薙ぎに剣を振るう。ハインツはそれを俊敏な身のこなしで躱す。それを見たゴーレムは、更に2歩踏み込んだ。

だがハインツは後ろではなく、横に移動しており、ゴーレムの肩越しに斬りつけた。

「おお、なんだかすごいぞ!」

離れて見ている王女がはしゃぐ。ハインツは若手騎士の中では1、2を争う使い手なのだ。

仁もこれはいいデータが手に入った、と内心歓喜した。今仁のポケットにある 魔結晶(マギクリスタル) にはそのハインツの武技が全て転写されているのだから。

「どっちもがんばれ!」

王女がそんな声を掛けた時、2人(1人と1体)の手にした模擬剣が折れてしまった。簡易的に作製したから無理もない。

「それまで、ということで!」

仁が声を掛け、終了を宣言。そして仁は深く頭を下げ、ハインツに礼を言う。

「ハインツ殿、ありがとうございました」

「いや、こちらこそ。このゴーレムがこれから我が国のものとなるのだろう? これは頼もしい。礼を言うのはこちらだ」

「ジン、お主は凄い! 妾(わらわ) の目に狂いはなかった!」

王女も大はしゃぎしている。

周囲で見ていたギャラリーも感心することしきり。ではあるが、おおっぴらに声を掛けられないので小さく手を叩いたりしていた。

「では私はこれで失礼致します」

ハインツは一礼をして戻っていった。

仁たちは再び工房へ戻る。そして仁は、今試験的に動かしたゴーレムを一旦停止させ、各部をチェック。

「うん、全て異常なし。では残りの19体を仕上げるとしますか」

半ば独り言のように呟くと、 知識転写(トランスインフォ) を使って 制御核(コントロールコア) に情報を書き込んでいく。

およそ10分で全作業は終了した。

「ジン、これで終わったのか?」

わくわくする気持ちを抑えているというのが丸わかりな顔でリースヒェン王女がそう聞いた。

「はい、終わりました。これから起動します」

仁はそう答えて、片端から起動していった。

「お、おおお?」

銀灰色に鈍く光るゴーレムが20体並んでいるのは壮観だ。

「よし、各自、動作を自己チェックしろ」

仁の指示に従い、20体のゴーレムは腕を振ったり、脚を曲げたり、身体を捻ったりする。そして全員同時に、

「異常なし」

と答えたのである。仁はそれを聞いて一瞬にやりと笑った。が、すぐに元の表情に戻る。

「よし。それではお前達に仮の名前を付ける。右端から順に、ニック1、2、3と来て、左端がニック20だ」

「わかりました」

ニックというのはニッケルから取った名前である事を言い添えておく。

同じ仕様で作ったゴーレムも別扱いする事で、個性が出てくる。別の名前を付けるというのはその第1歩だ。

切りがいいので、昼食にすることになった。

王女が先頭で離宮に戻る。離宮では既に準備が整っていた。

自動人形(オートマタ) たちが次々と料理を並べていく。

きびきびと動くようになった 自動人形(オートマタ) たちは見ていて気分がいい。

昼食なので、重すぎる献立ではなく、パン、スープ、サラダ、ジュースと言った組み合わせだ。

とはいえ、パンは真っ白だし、スープも何種類もの野菜と、とろけるまで煮た鹿肉で出来ているし、サラダも朝取りの野菜である。ジュースはなんとペルシカジュース。

クライン王国ではペルシカは貴重なはずだから、王女が仁たちのために奮発した事がわかる。

「うわあ、甘くて美味しい!」

熟したペルシカを絞って作ったジュースはとろりとしていて、砂糖など入れずとも十分すぎるほど甘い。その甘さも自然な甘さなので、後口はすっきりしている。

シトラン好きなエルザも、このジュースは気にいったようだった。

「私までお相伴させていただいてよかったのでしょうか……」

グロリアは恐縮している。

「何を言う、元をただせば、そなたがジンに剣を作ってくれるよう依頼したのが発端だと聞いておる。すなわちそなたの手柄じゃ」

王女にそう言われてますます恐縮するグロリアであった。

* * *

午後は剣を作ることになる。今度の剣は、ショートソードではなく、一般的なロングソードだ。

このロングというのもショートソードに対してなので、特別長い剣というわけではない。

力のある男性騎士なら、片手で振れる重量で、切るよりも突く事の多い剣である。

「さて、モデルは……と、宰相が用意してくれると言っていたけど。ああ、あったあった」

礼子に指示を出し、必要量の鋼を用意させる仁。

非接触で計量する能力は、特別な視覚を持つ礼子の方が上だ。剣の重さから女性の下着のサイズまで、礼子にはお見通し。

「お父さま、これでいいと思います」

礼子は2.2キロの5半ニッケル鋼を差し出した。

「よし」

そう言って受けとろうとした仁だったが、重要な事に思い当たったのである。