軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-22 ゴーレム完成

「奴等は全員が 統一党(ユニファイラー) の下っ端だった」

グロリアが説明し始めたのは、昼間、仁(というか礼子)が無力化した者達を尋問して得た情報である。前日のゴーレム騒動を引き起こした奴等とは無関係。

「奴等は、今日の昼過ぎにアルバンに襲撃を掛けろ、との指示だけを受けていたらしい」

そして適当に暴れたら各自好きにして良い、というかなりいい加減な指示であった、と説明が続く。

「どう考えても混乱させることが目的だろうと結論した」

と締めくくる。

「ハンナちゃんを攫おうとした奴は、まあ少しは理性的な奴だったんだろうな。アルバンを襲撃しておいて、無事に逃げられるとは思えなかったんだろう。尋問したらいろいろ吐いてくれた」

詳細を全部は話せないがな、と言うグロリア、とはいえ仁はそれ以上の裏事情を知っているが。

「ジン殿がどこまで知っているかはわからんが、早馬と鳩が知らせてきた情報をまとめると、テトラダまで押し込まれた戦場は、謎の勢力が介入したことにより終了した。フランツ王国軍は撤退し、休戦もしくは停戦と言っていい状況だ」

それも仁はよく知っている。やったのは自分なのだから。

「まとめると、小群国の状況は落ちついてきていると言える。フランツ王国との戦後会談はこれからだがな」

仁としても多少興味はあるものの、政治的な問題は各国に任せたいというのが本音である。だが1点、譲れないことがある。

「クライン王国としては、徴兵はしなかったのですか?」

実はカイナ村に徴兵の命令が来ている事を知っている仁である。

「うむ、領地を持つ貴族たちに、人口に応じた兵を出すように、との指示が出ているはずだ」

答えたのはリースヒェン王女。年齢の割りに事情通なのは、優秀さの表れか。

「取り消さないのですか?」

仁が一番気になっている事である。

その質問に対し、答えたのはグロリアだった。

「一両日以内には取り消されると思う。というのも、その頃にはテトラダまで出張った騎士団が戻ってくるからだ」

騎士団の損害について、実態がわからないうちは取り消されないかもしれない、と彼女は言った。

これでフランツ王国との戦争が終了とはっきりしたわけではないからな、と締めくくる。

「なるほど」

仁は、その説明を聞き、やはりもう一つ手を打たなければならないと再認識したのである。

* * *

その夜も仁たちは昨夜と同じ部屋だった。魔導ランプの光で薄明るい。

ハンナが欠伸をし始めたので、寝る準備をする。と言っても、寝間着に着替えるだけだ。

この寝間着は客室に備え付けられたもの。手触りから、絹だということがわかる。

絹ってどこからもたらされたんだろう、などと他愛ない事を考えながら仁はカーテン付きベッドの上で着替えた。そんな時。

「ハンナちゃん、いっしょに、ねる?」

エルザの声がした。

それを聞いた時仁は、ああ、と思い当たった。やはり、短時間とはいえ昼間賊に捕らえられたことがショックだったんだなあ、と。

同時に、思いやってやれなかった自分を反省する。そしてエルザに感謝しつつ、目を閉じる仁であった。

* * *

翌日、朝食を済ませた後、仁は再び依頼のために王宮の工房へ行く事になるが、

「リース様、助手としてエルザを連れて行っちゃまずいですかね?」

と、駄目で元々とばかりに仁は聞いてみた。だが王女はあっさりと、『いいぞ』と許可を出した。

「ねえねえおうじょさま、あたしもいい?」

ハンナも王女にそんな事を聞く。これもまた、王女はすぐに許可を出した。

更に、

「ふむ、ハンナもエルザもいなくなってしまうのではつまらん。 妾(わらわ) も付いていくぞ」

と言ったら、

「姫様! それでしたら私も!」

と、居合わせたグロリアが言いだした。護衛のためなのか興味本位なのかはこの際置いておく。

それで今回は大所帯で工房へ向かう次第となったのである。

一悶着あるかとも思われたが、門衛も女性近衛騎士隊副隊長と王女がいては何も言う事は出来ず、全員工房に入る事が出来た。

「おおっ! これがジンの作っているゴーレムかっ!」

「わあ、かっこいい」

20体分の骨格を見てテンションを上げる王女。ハンナも面白がっている。エルザは何度か見ているので表立った反応は無し。

そしてグロリアはと言えば、

「ふうむ、これがゴーレムの構造になるんだな、いや、参考になる」

と言っている。そんな彼女に向かって、参考にしちゃいけないよ、と言ってくれる者はこの場にはいない。

「まず筋肉を取り付けていく」

仁はそう口にすると、 竜頭ウナギ(ドラゴニックイール) の革の加工を始めた。

「エルザ、よく見てろよ。工学魔法の 分離(セパレーション) は、その分量を正確に把握する事が一番大事だ」

そう説明しながら、革を必要量に分離していく。

「切り分けることも出来るが、そうすると繊維や組織も一部切れたりするから、ここは工学魔法を使った方がいい」

「ん、ジン兄」

そうやって説明しながらも仁の手は止まらない。次々に 分離(セパレーション) で 竜頭ウナギ(ドラゴニックイール) の革が小分けされていく。

腕の筋肉、脚の筋肉、腰、肩、首の筋肉。各部の筋肉の大きさはそれぞれ微妙な差を持っているが、仁の脳裏には『 設計基(テンプレート) 』があるので、躊躇うことなく作業が進められていった。

筋肉が準備されるまで15分。驚異的な早さである。

「よし、これを取り付けていく。礼子、手伝ってくれ。エルザにはまだ無理だからな、よく見ているんだ」

「はい」

「ん、ジン兄」

礼子はもう幾度となく仁の手伝いをしており、その手腕は仁以外の 魔法工作士(マギクラフトマン) に余裕で勝っているレベル。

20体のゴーレムに 魔法筋肉(マジカルマッスル) を取り付けるという複雑で面倒臭い作業も、仁と礼子にかかっては20分で終わった。

「ううむ、いささか気味が悪いのう……」

「そうかな? おもしろいけど」

リースヒェン王女は若干引いているが、村で山鹿を捌いたりしているのを見ているハンナは平気な顔だ。

「いよいよ重要な 魔導装置(マギデバイス) 作りに入る。これはエルザにも手伝って貰うかな」

そう言って、仁は 魔結晶(マギクリスタル) とミスリルを手に取った。

エルザに頼んだのは、ミスリル製の筐体作りである。もちろん隷属書き換え魔法対策用だ。

見本を一つ作り、同じものを作らせる。仁はその間に 魔力貯蔵庫(マナタンク) や 魔力炉(マナドライバー) 、それに 制御核(コントロールコア) などを作り上げる事にする。

「ふむ、綺麗な 魔結晶(マギクリスタル) じゃな、全属性か」

仁が手にした 魔結晶(マギクリスタル) を見て、王女がそんな呟きを漏らした。さすがと言おうか、 魔結晶(マギクリスタル) についての一般的な知識は持っているようだ。

「『 書き込み(ライトイン) 』」

仁が手にした 魔結晶(マギクリスタル) が淡い光を放ち、周囲に 魔法語(マギランゲージ) が浮かび上がった、と思ったら、それは仁の手にした 魔結晶(マギクリスタル) に吸い込まれるようにして消えていった。

「一丁上がり」

「おおお!? あれが工学魔法か……」

今まで使った工学魔法の中でも派手な部類に入るそれを、王女は気に入ったらしい。用意した 魔結晶(マギクリスタル) 全部に 魔導式(マギフォーミュラ) を刻み込むのを、最後まで食い入るようにして眺めていた。

発声用の 魔導装置(マギデバイス) は緑、目は無色の 魔結晶(マギクリスタル) を加工して用意していく

合計120個の 魔結晶(マギクリスタル) を加工するのに要した時間は約30分。これでも仁はセーブしているのだ。本気なら3倍以上早く作る事が出来る。

「エルザ、そっちはどうだ?」

ミスリル製の筐体を 変形(フォーミング) で作っているエルザに声を掛ける仁。

「あと3個で終わる」

仁の薫陶を受けたエルザも、特定の加工だけとはいえ、既に標準を上回っているのだが、本人は気づいていない。何せ従兄であるラインハルトの製作風景はあまり眺めてはいなかった事もあって、比較対象が仁しかいないのだから。

仁も手伝ったのですぐに筐体は20個出来上がった。

「よし、これを……」

「胸部に装着、だっけ?」

エルザも少しずつ手順を覚えつつあるようだ。

仁は、エルザが覚えやすいようにわざとゆっくりと作業を行い、胸部 魔導装置(マギデバイス) を組み込んでいった。

「え、と。 魔力貯蔵庫(マナタンク) 、 魔力炉(マナドライバー) 、それに 制御核(コントロールコア) 、でいい?」

「そうさ。 魔力貯蔵庫(マナタンク) 、よく憶えていたな」

仁は 魔力貯蔵庫(マナタンク) を持つゴーレムはあまり作らないので、エルザが 魔力貯蔵庫(マナタンク) を見分けた事に軽く感心した。

「クズマ伯爵のところで」

そう、かつてブルーランドのクズマ伯爵のところで作製したゴーレム、ロッテは 魔力貯蔵庫(マナタンク) 仕様であったのだ。思えば、あの頃からエルザは 魔法工作士(マギクラフトマン) になってみたかったのかも知れない。

制御核(コントロールコア) にミスリルの細線、つまり魔導神経を工学魔法で接続し、それを四肢と頭、胴体へ接続。

制御核(コントロールコア) などの周囲を 暴食海綿(グーラシュヴァム) 製のスポンジ緩衝材で充填。

頭部に眼球と発声装置を組み込む。今回、口は固定とする。つまり表情は変えられない仕様である。

ここまでで約2時間半。

王女とグロリアは興味津々といった顔で仁の作業を見つめている。ハンナは時々きょろきょろしていたが。

「よし、外装を取り付ける」

おおよそ60キロの5半ニッケル鋼が板状に伸ばされ、更に変形して鎧状になり、ゴーレムに装着されていくのは見ていて興味深いものがある。

今度はハンナまでがその光景をものも言わず見つめていた。

礼子は5半ニッケル鋼を60キロの塊に分ける事と、おおまかに伸ばすまでを担当して仁の作業をサポートしていく。

1体にかかる時間は3分。1時間もすると、20体のゴーレムが完成したのである。

「おお、もう完成か!」

はしゃぐ王女に仁は、

「あとはゴーレムの動作試験をしてみたいと思います。誰か相手になってくれる人はいませんか? できれば男性の兵士の方で」

と聞いてみた。王女は首をかしげて考える。

「男がよいのか? それなら近衛騎士の誰かを呼ぼう」

王女がグロリアに、グロリアが兵士に命令を伝え、数分後にやってきたのは若い騎士であった。

「王女殿下、お呼びですか」

「ご苦労、ラッシュ。今日は、そなたに試験の相手になって欲しくてな」

「相手、ですか?」

そこで王女は仁たちを紹介する。

「 魔法工作士(マギクラフトマン) のジンだ。父上の依頼で汎用型ゴーレムを作ってくれた」

「仁です」

「ハインツ・ラッシュだ」

仁とハインツは握手を交わした。