軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-14 目覚め、再会

「わかりました。御覧になっていて下さい」

仁はそう言うと、胸部の 魔法外皮(マジカルスキン) を継ぎ目に沿って剥がした。金属製の外装がのぞく。

「ジン兄、継ぎ目なんて無いように見えたけど」

作業を見ていたエルザが感心したように言う。

「そりゃあな、見えたら興ざめだからな、上手く隠してるんだよ」

余談だが礼子の身体には継ぎ目など無い。シームレスである。

アンやティアの場合は外装にも継ぎ目があり、開けば内部が見えてくる。

その胸部までは管が付いており、授乳のための母乳は経口で摂取することがわかった。アンにはなかった構造である。

後に仁が聞いた所によると、赤ん坊のいる下級貴族の奥方等から母乳を分けてもらって、ティアが王女に授乳させていた、と言うことだ。

更に仁は内部を確認していく。

「あー……大分傷んでるな」

ミスリル銀の魔導神経も何本か切れている。以前、アーネスト王子に、『身体の各部に魔力を伝達する導線』と説明したもの。

それを仁は魔導神経と名付けたのである。技術系のネーミングはそれなりに大丈夫な仁。

「殿下、少しでいいのですがミスリルはありませんか?」

少し離れた所で眺めていたリースヒェン王女にそう尋ねる仁。王女はすぐに反応した。

「ミスリルか。そうじゃな、これで足りるならこれを使ってくれ」

王女はそう言って、首から提げたネックレスを外した。その鎖はミスリル製である。

「よろしいのですか?」

受け取りながら仁が尋ねると、かまわぬ、との返答が即座に返ってきた。仁は王女への評価を更に上げる。

「では、使わせていただきます。……『 変形(フォーミング) 』。『 融合(フュージョン) 』」

切れた魔導神経線にミスリルを補い、接続していく。アーネスト王子に贈ったロッテの魔導神経線は6本だったが、ティアのそれは12本あった。

四肢、頭、そして胴体で6本、それが2系統。より信頼性を高めるためであろう。

アンには6本しかなかったことを思い出す仁。そうしてみると、このティアはカスタム化されていたか、もしくは初期型なのかも知れない。量産後期には簡略化されていたと思われる。

そしてちょうどその時、 魔結晶(マギクリスタル) が届いた。王女は自ら戸口へ行き、それを受け取ってきて仁に手渡す。

「ジン、これで良いか?」

乳白色の 魔結晶(マギクリスタル) 。品質、大きさ共に十分である。

「はい、結構です」

仁はそれを受け取ると、 魔素変換器(エーテルコンバーター) にするための 魔導式(マギフォーミュラ) を刻むことにする。まだエルザには無理なので、説明も簡単なものにとどめた。

「空気中にある 自由魔力素(エーテル) を 魔力素(マナ) に変えるための 魔導装置(マギデバイス) だ」

それだけ言うと、 魔導式(マギフォーミュラ) の書き込みに専念する仁。エルザはもちろん、遠見の魔眼持ちである王女にも読み切れないほどの繊細かつ微細な 魔導式(マギフォーミュラ) である。

だが仁はそれこそ何度となく行っている作業、あっという間に終了する。

「これを古い物と入れ替えて、と」

古い 魔素変換器(エーテルコンバーター) はくすんだ白色。かなり質の落ちる 魔結晶(マギクリスタル) のようだ。

「とりあえず切れた 魔法筋肉(マジカルマッスル) を繋ぎ直して、 魔法外皮(マジカルスキン) にも 強化(リインフォース) を掛けておこう」

動くことだけはできるようにしておく。それ以上は素材がないので仁と言えども無理である。

30分ほどかけて、修理および整備は終了した。服を元通り着せ、最後は 魔素変換器(エーテルコンバーター) の起動である。

一旦起動してしまえば、自らが作り出す 魔力素(マナ) を 魔力炉(マナドライバー) でエネルギーに変えて動けるので、一種の永久機関とも言えるこのシステム。

「殿下、殿下は魔法は何をお使いになれますか?」

起動時の魔力パターンは、それ以降発生させる魔力の方向性を決める。故に仁の作ったゴーレムや 自動人形(オートマタ) は、仁と同じ魔力特性を持っているのだ。

「うん? 妾(わらわ) が使えるのは 治療(キュア) と 水弾(ウォーターボール) 、それに 水の弾丸(ウォーターバレット) じゃ」

「それでしたら十分です。こちらへ来て下さい」

仁がそう言うと王女はティアのそばへとやって来た。

「胸に手を当てて……はい、そして魔力を流して下さい」

と仁が言うと、王女は驚いた顔をし、

「な、何!? 魔力だけ? や、やったことないぞ?」

と慌てて言った。仁はそれを優しく制し、

「大丈夫です。 治療(キュア) を使う要領でいいんです。発動する、と感じた瞬間に、……そうですね、どう言ったらいいかな……集中を解く感じと言えばいいでしょうか」

「うーむ……なんとなくだが言わんとする事はわかった。とにかくやってみるぞ?」

「はい、お願い致します」

「いくぞ。……!!」

追跡(トレース) の魔法で魔力の流れを見ていた仁は、王女の手に魔力が集まり、治癒魔法として顕れる寸前でキャンセルされたのが見えた。

半分は空気中に霧散してしまったが、残り半分で、十分ティアの 魔素変換器(エーテルコンバーター) を起動させるだけの量があった。

魔素変換器(エーテルコンバーター) が 魔力素(マナ) を作り出し、それは 魔力炉(マナドライバー) に送られ、魔導神経を通してティアの身体各所へ送られていく。

そしてティアは目を開けた。そしてゆっくりと上半身を起こす。その青い眼がリースヒェン王女を捉えた。

「姫……様……」

その唇が動き、ゆっくりとだが言葉が紡ぎ出された。

「お久しぶり……です。大きく……なられましたね」

そう言ってにっこりと笑った。

「テ……ティア……!」

王女はそんなティアに抱きついた。

「ティア、会いたかった。会いたかったぞ……!」

「まあまあ、姫様は、相変わらず、甘えんぼさん、ですね」

そう言いながらもティアは優しく王女を抱きしめる。腕だけとはいえ、動かせるようになったのだ。脚までは、資材無しには無理であった。

「もう一度、姫様に、お会いできる、とは、思いません、でした」

「私も……っ!」

そばにいた仁たちは、目配せしてその場を離れた。ハンナはと見ると、ふかふかの絨毯に横たわって眠っていた。

「今、『 妾(わらわ) 』でなく『私』と言っていた」

小声でエルザが仁に囁く。

「うん、きっとティアが動いていた頃は『私』と言っていたんだろうな。昔に返ったんだろう」

仁も小声で答える。

そんな仁たちのところへジェシカもやって来て、

「ジン殿、私からも礼を言う。あんなに嬉しそうな姫様は久しぶりに見た。感謝してもしきれないくらいだ」

と言って頭を下げた。仁は恐縮する。

「いえ、俺は、動かなくなった 自動人形(オートマタ) を直した、ただそれだけですよ。王女殿下が喜んでらっしゃるとしたら、それはティアの功績です」

「ふふ、ジン殿は謙虚なのだな。だが、姫様はそう思っていないようだぞ」

そう言ってジェシカは仁の後ろに目をやった。

振り向いた仁の目に映ったのは、潤んだ目、紅潮した頬のリースヒェン王女。

「ジン、礼を言う! お主は、この国の 魔法工作士(マギクラフトマン) の誰にも出来なかったことをしてくれた!」

そう言って仁の両手を取った。その声にうたた寝していたハンナが目を覚ます。

「ん……あ、ティアさん、うごいてる! おにーちゃん、すごーい!」

その声に王女も微笑んだ。

「そうじゃな、そなたの兄は凄いのう、いい兄を持ったな」

「うん!」

横でエルザも嬉しそうに微笑んでいる。

「殿下、ティアは直ったとはいえ、応急の箇所もありますので、無理はさせないで下さいね」

一応仁はそう注意をしておいた。

「うむ、わかった! ジン、お主にはどんな礼をしたらよかろう?」

「え、別に……」

そう言いかけた仁の袖をエルザがつん、と引いた。仁は、何か考えがあるのか、と悟り、エルザに任せてみる。

「殿下、それではアルバンへの入場許可証をいただきたく思います」

仁たちが持っているのは朝発行された仮証だけである。

「うむ、おやすい御用じゃ。それから?」

「では、今宵の宿を」

「うむうむ、ここに泊まっていくが良い。 妾(わらわ) もジンたちにいろいろ話を聞きたいしの!」

宿を紹介してもらおうと思ったら、泊まる事になってしまった。

「さっそく部屋を準備させよう」

王女は戸口へ向かい、そこにいた年若い侍女に指示を出した。

そして仁たちに向かい、

「では、客間へ案内させるから、彼女についていってくれ」

ということで、仁たちは客間へとあらためて通された。王女はティアのそばに戻り、また何か話し始めた。余程嬉しかったのだろう、なかなか離れがたいようだ。

ジェシカは廊下で警備している。近衛騎士隊長が何故、と思わないでもないが、侍女が言うには、元々は王女の警護役から出世したということだ。

「ジェシカ様は本当に姫様を大事に思ってらっしゃいますから。姫様がお小さい時からずっとお 守(まも) りしてらしたんですよ」

おしゃべり好きの侍女らしく、他にも、聞かれもしない宮殿内のゴシップめいた事をペラペラ喋るだけ喋って下がっていった。

仁たちだけになった客室。

「おい、エルザ」

仁がエルザに少し非難めいた視線を投げると、

「ジン兄、何をやったか考えて。この国の 魔法工作士(マギクラフトマン) に出来ない事をあっさりしてのけた。そのまま帰してくれるわけがない」

正論である。

「だから今夜、きっちりとお相手して差し上げて」

エルザの言い方だと何だか違う意味にも聞こえるのだが、言わんとすることはわかる。

ハンナは離宮とはいえ王宮に泊まるというめったに出来ない経験だからいいとして、仁はこういう肩の凝る場所は苦手だ。

「エルザは慣れてるんだろうけどな……」

と呟いたら、

「そうでもない」

と声が返ってきた。

「私はちょうどあの王女様と同じくらいまで、社交界に出た事なんて無かったから」

それまではずっと好きなことやって遊んでいた、と言った。

「だから、堅苦しい雰囲気は私も好きじゃない」

苦手、とは言わないんだな、と仁は思いながら、隣に座ったハンナのお下げを弄っていた。ハンナは黙って、いや、にこにこしてそれを許している。

礼子は仁を守るように静かに立ち、そろそろ外は日暮れであった。