軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-12 王女

「火の上級魔法?」

吹き飛んだゴーレムの破片が降り注ぐ。

近くの建物の壁は抉れ、破片で怪我をした者もいた。火傷を負ったらしい者もいる。

「街中で何てことを! エルザ、怪我人を見てやってくれ」

「ん」

仁は建物に駆け寄った。大きくヒビが入り、今にも崩れそうな箇所がある。

「『 融合(フュージョン) 』」

仁は工学魔法で修理をしていく。

とりあえず、壁が崩壊する心配は無くなったようだ。

「あ、ありがとうございます……」

エルザの方も、怪我人の手当があらかた済んだようだった。

一息ついた仁、エルザはあらためて魔法が飛んできた方を見る。

そこには1人の魔導騎士がいた。同じ方向から来た数名の騎士は、現場付近の不審者を確認している。

「隊長!」

グロリアは声を上げ、駆け寄り、少し睨んだ。魔導騎士はばつが悪そうにグロリアを見た。

「す、すまん。少し威力が高すぎたようだ」

「少しじゃないです! 住民にも被害が出てます! 隊長はいつもいつも! 加減というものを知って下さい!」

「だがな、放っておけばもっと大きな被害が……」

「それはわかります! ですから加減をと言っているのです!」

グロリアに窘められている人物をよくよく見れば、30にはならないと思われる女性で、身長はグロリアより僅かに低いくらい。同じようにベリーショートにした髪は目にも鮮やかな赤毛。

目も赤に見えるような明るい茶色で、一目で火属性魔法が得意そうな印象を受ける。尤も、髪の色と得意属性には何の相関もないというのが今の定説なのだが。

胸当ては大きく盛り上がり、ラインハルトが好みそうなボリュームである。

「グロリア、そちもいたのか。被害はどうだ?」

隊長と呼ばれた女性の後ろには馬車が停まっており、中からそんな声が掛かった。声の主を見たグロリアは驚いて姿勢を正す。

「はい、建物への被害はありますが、応急修理は済んだようです。人的被害は軽微でしたが、 炎の槍(フレイムランス) の余波で怪我をした者が数名。ですが、治癒魔法が使える者の協力で治療済です」

グロリアは直立不動で答えた後、後方で怪我人の治療に当たっていたエルザを指し示した。

「わかった。住民には後ほど十分な補償をしよう。ジェシカにはきつく言い聞かせておく。じゃが、今は騒動の後始末が先じゃ。ジェシカ、指揮を執れ」

「はっ」

グロリアが隊長と呼んだ女性は馬車の中からの指示に、敬礼を以て応える。

そうしている間に、部下らしい女性騎士達は荷馬車の周囲にいた不審な男3名を捕らえた。この3人が荷馬車をここまで運んできたらしい。

荷馬車と言ったが、馬は繋がれておらず、彼等が自身で引っ張ったようだ。

「こいつらは連れ帰って尋問だ。それにそっちのゴーレム2体は後で取りに来させよう」

ジェシカはそう言った後、仁の前まで歩み寄ってきた。

「貴殿の活躍で2体のゴーレムを拿捕することが出来た、礼を言う。私はクライン王国近衛女性騎士隊隊長のジェシカ・ノートンという」

「エゲレア王国 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) 、仁と申します」

「ほう、エゲレア王国からの客人か。あそこで治療してくれている女性は貴殿の?」

そう言ってエルザの方を見つめた。

「はい、妹です。エルザと言います。この子は妹のハンナです」

仁はそう言ってエルザとハンナを紹介した。

「うむ、妹御にも礼を言おう。それでだ、向こうの馬車に乗っておられるさるお方が貴殿たちに直接礼を言いたいと仰っておられる。私と来ていただけないだろうか」

近衛女性騎士隊隊長が『さるお方』と言うのであるから、おおよその見当は付くというもの。

「ええ、わかりました」

ここで拒否しても後々面倒そうであるし、仁は承諾した。

「そうか、かたじけない。妹御たちも一緒に来られよ。……グロリアは今日非番だったな。残りの休暇を楽しんでくれ。そしてまた明日、王宮で会おう」

「は、はあ」

グロリアは、上司からそう言われ、仁たちにちらと視線を投げると、

「それではジン殿、エルザ殿、そしてハンナ殿。最後が慌ただしくなってしまって申し訳ない、これで失礼する。また何かあったら、遠慮なく我が家を尋ねて欲しい」

そう言って軽く一礼し、去っていった。

「さあ、ジン殿、こちらだ」

ジェシカ・ノートンはそう言うと、仁たちを手招きし、中央通りの端に駐めてあった馬車まで案内していった。近寄ってみるとえらく立派な造りである。

「身分は明かせないが、この国の高貴なお方、とだけ説明させて貰う」

そう言って馬車のドアを開け、

「リース様、お連れしました」

と声をかけた。

すると中からは元気いっぱいな声が。

「おお、そうか! 妾(わらわ) はリースヒェン・フュシス・クラインじゃ!」

「……え?」

「この国の王女様?」

「姫様ですか……?」

ジェシカの気遣いをよそに、堂々と名乗りを上げた王女殿下がそこにいた。

* * *

「……はあ」

馬車の中ではジェシカが溜め息をついている。その横には焦茶色の髪、青い眼をした王女殿下が。

外出着なのだろう、フリルのような余計な飾り付けは無いが、品のいい服を着ているところが生まれを感じさせていた。

その対面席には仁、エルザ、ハンナ、そして礼子が座っている。

「そう溜め息をつくでない。幸せが逃げると言うではないか」

王女殿下がそう言ってジェシカを宥めるが、

「誰のせいだと思ってらっしゃるのですか……」

との疲れた声に、王女殿下は苦笑して言い返す。

「王族たるもの、誤魔化したり隠し事をしたりするのは性に合わん!」

そしてジェシカは何度目かの溜め息をつく。

「……はあ」

「そこで黄昏れてるジェシカは置いておいて、わざわざ呼び出したのはじゃな、一つには礼を述べたかったからじゃ」

王女はまずそう切りだした。見れば12、3歳にしか見えないが、話し方が大人びているのは王族故の教育によるものだろうか。

「礼……ですか?」

代表として仁が口を開く。

「そうじゃ。見ておったぞ、そちらの 自動人形(オートマタ) は、転んだ子供をかばい、お主はゴーレム2体を落とし穴に落として無力化した。そして大きい方の妹御は怪我人の治療をしてくれておったな」

妾(わらわ) には遠見の魔眼があるのでな、と言って、王女は右目を指差した。

「リース様! 何もそこまで!」

秘密にしなければならない事項まで口にしてしまうその奔放さにジェシカが慌てて注意するが、馬耳東風、王女は悪びれた様子もない。

「魔眼……ですか」

魔眼とは読んで字の如く、魔力を持った目のことである。非常に珍しく、数万人に一人とも言われる。

また、その効果も様々で、透視できるものや、変装・擬態などを見破り真偽を明らかに出来るもの、かつての『黄金の破壊姫』エレナがその目に宿していたような魅惑系のもの。

そして王女の持つような遠くを見る事が出来るもの等様々である。

「ちょうど街の様子を見に城を抜け出したところでな。何やら騒ぎが起きたので急いで駆けつけてきたのじゃが、その時にお主達の活躍を見せてもろうた」

立派なことを言っているようでいて、抜け出してきたなどと言ってる時点で、この王女も残念系だなあ、と仁は思った。

王族だから、というわけではないが顔立ちは整っており、勝ち気さが良く出ている僅かにつり上がった目は澄んでいる。気品も感じられるのだが、その仕草だけがなんともお転婆である。

「 妾(わらわ) も名乗ったのじゃ、お主達の名も聞かせてくれい」

そう言われた仁たちは慌てて名乗る。

「あ、失礼致しました。仁と申します。これは妹のエルザ、こっちは同じく妹のハンナです。それに礼子です」

「エルザ、です」

「あたし、ハンナ!」

エルザは立ち上がってちょっとスカートの裾をつまみ、略式の礼を。ハンナは元気いっぱいに挨拶した。礼子は無表情のまま。

「おお、そうか、お主はジンというのか。エゲレア王国の 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) じゃよな。呼び出した二つめの理由がそれじゃ」

一区切り置くと、今度はややたどたどしい口調で話し始めるリースヒェン王女。

「エゲレア王国の第3王子はアーネスト様……と言うたな。知っておるか? 知っておるなら教えてくれ。ど、どんなお方なのじゃ?」

少し頬を染めながらそう尋ねる王女。おや、と仁は思いながらも、それに答える。

「そうですね、確か13歳になられたところです」

「ふ、ふむ、 妾(わらわ) よりお一つ上か」

「なかなか利発なお方で、ゴーレムがお好きな方なんです」

「……ほう、話が合いそうじゃ」

「配下の者への配慮とかにも気を配られますね」

「お優しいのじゃな」

「王女殿下、もしかして縁談とかが?」

「うむ、そう……ななななな、何を言うかあっ!」

仁の問いかけに半ば頷いた後、真っ赤になって慌てる王女。そんな姿は年相応。

「いえ、王族同士の婚姻とか、あってもおかしくないですし、離れた国の王子のことをお知りになりたいと仰るもので」

変なところで勘のいい仁である。

「う、ま、まあ、な。今のところ、打診だけなのじゃが」

俯きながらそう答える王女。なんだか可愛らしい。

「いい方だと思います。ただ、男女の間のことだけは自分にはわかりませんので」

仁がそう締めくくると王女は頷いた。

「う、うむ。非常に参考になった。礼を言う。……そして最後なのじゃが、お主に直してもらいたい 自動人形(オートマタ) がいるのでな」