軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-11 やっぱり騒動が

そろそろ昼時である。

「よし、それでは昼食は私が世話しよう」

そう言ってグロリア・オールスタットは仁たちを昼食に誘った。ダストンも誘ったのだが、奥さんが作った弁当があると言って断られたのだ。

「私は小さい頃、よくダストンの仕事場に遊びに行っては刃物作りを眺めていたのだ」

その頃にもう残念美人の芽は出ていたようである。

家に立ち寄って剣を置き、それから中央通りへ。大日時計の示す時刻は11時45分頃。朝に比べて人通りも増えていた。

「行きつけの食堂があるのだ」

そう言いながらグロリアは先頭に立って仁たちを案内した。

「ここだ」

その店は、中央通りを、仁たちのやってきた城門方向へ少し戻ったところにあった。

看板には水晶亭と書かれており、店構えはこぢんまりしているが、中の雰囲気はいい。

12時には少し早いので、客もまだ多くはなかった。

「いらっしゃいませ、オールスタット様」

常連らしいと見え、親しげな態度でウェイトレスが挨拶した。

「やあ、フェオ。今日はお客人を連れてきたのだ。おすすめを4人前、頼む」

「かしこまりました」

フェオと呼ばれたウェイトレスは一礼すると厨房へ注文を告げに行った。

「ここの昼食は評判が良くてな。非番の兵士や騎士もよく利用するのだ」

そうグロリアは説明した。

「先日までずっと西にあるテトラダ付近で戦闘が行われていたのだが、今は終わったらしい。昨日、早馬が着いた。エゲレア王国はセルロア王国と戦っていたようだが、それも終わったらしい。こっちは一昨日鳩がもたらした情報だ」

「そんなこと我々に聞かせていいんですか?」

「何、構わん。貴殿も国の様子が心配だろう? ショートソードを作ってもらった礼の一部と思ってくれ」

「それはどうもありがとうございます」

知っている内容、というより張本人なのではあるが、好意で言ってくれているので仁は礼を言っておく。

「お待ちどおさま」

なかなか早いタイミングで料理が運ばれてきた。

「このようにな、料理の種類を減らす代わりに味を吟味し、調理時間を短縮したりと工夫しているのだ」

グロリアが説明する。要するに日替わり定食と言うことだが、この世界でその発想に到った事は評価できよう。そしてその説明通り、味もなかなかのものだった。

焼きたてのパン、野菜のスープ、干し魚の煮物、そして焼いた鹿肉。それにアプルルが付く。

高級料理ではないが、馴染みやすく、庶民も下級貴族も楽しめそうな献立ではあった。

ところで仁が気になったのはパンである。真っ白ではないが、全粒粉ではないパン。はっきり言えばカイナ村で食べているものとそっくりだ。

「このパン……」

そう言いかけるとグロリアはわかっている、と言わんばかりの顔で説明する。

「ああ、美味いだろう? 最近増えてきたのだ。ラグラン商会という急成長した商会が販売している小麦粉で作っている」

やっぱり、と仁は思った。こういう形で自分が世の中の役に立っていることを実感するというのは嬉しいものだ。

ハンナが何か言うかと思ったが、干し魚の煮物に夢中のようだ。

「お詳しいんですね」

騎士なのにずいぶん世情に詳しい、と思った仁がそう言うと、

「何、ここの店主の奥さんと私が幼馴染みなものでな」

とグロリアは答えた。仁もそれを聞いてなるほど、と思ったのである。

* * *

食後のお茶が運ばれてきた。

「それで、剣の謝礼なのだが」

お茶を飲む前にグロリアが口を開いた。

「いくらお支払いすればいいだろうか? 糸目は付けない、と言いたいが、払える額にも限度があるのでな……」

そんなグロリアに向かって仁は、

「材料費は掛かってませんから、グロリアさんがあの剣に認めた価値でいいですよ」

と答えておく。正直仁も剣の相場など知らない。

だが、そう言うのが一番困るのだ、とグロリアは呟き、考え込んでしまった。が、やがて心を決めたらしく、顔を上げ、腰に付けたポシェット状の革袋から、更に小さい革袋を取り出し、仁の前に置く。

「持ち合わせ全部だ」

「え?」

若干慌てて仁が革袋の中身を確認すると、金貨が7枚、銀貨が15枚入っていた。7万1千5百トールである。おおよそ71万5千円。

「多すぎます」

と仁は言ったが、グロリアは、あの剣には10万トール出しても惜しくはない、値切るのは冒涜だ、と言って憚らない。

仁も少し困ったが、いい説得のセリフを思いついた。

「職人は、自分の作ったものの価値を認め、大事にしてくれる人になら只で使って貰ってもいいと思うものです。ですからこれだけいただいておきます」

そう言い、金貨を2枚抜いて残りはグロリアに返した。

「大事に、というか、お役に立てて下さいね」

そう言った仁に向かい、グロリアは『必ず』と答えて頭を下げたのである。

少し冷めてしまったお茶を飲み始めた時、表が騒がしくなった。

「ん? 何事だ?」

とのグロリアの言葉が終わらないうちに、更に何かが壊れる音、人々の悲鳴。

これは只事ではないと、グロリアは外へ飛び出した。このあたりは騎士である。因みに勘定はツケらしい。

仁たちも続いて外に出てみた。すると。

「……ゴーレム?」

「あれは見覚えがあるぞ。 統一党(ユニファイラー) の旧式ゴーレムだ」

ゴンやゲンの原型となった旧式ゴーレム、それが3体も、中央通りを荒らし回っていた。

「何だ、これは!」

グロリアが、そばにいた兵士に尋ねている。

「あ、グロリア様。い、いえ、よくはわからないのですが、12時になった時、荷馬車の中からあの3体が現れ、暴れ出したと言うことです」

確かに、通りの先には半分壊れた荷馬車が3台転がっていた。

「止められないのか!?」

「は、はい。我々の剣では歯が立ちません。魔導騎士隊を要請していますが、まだ……」

「そんなことを言っている場合か!」

グロリアは3体のゴーレムに向き直る。ゴーレムは通りに沿った店を破壊し始めていた。逃げ惑う人々。

破壊された店からは大勢の人々が飛び出してくる。そしてゴーレムの姿を見て、引き返す者も。

そんな中、親からはぐれたらしい小さな子供が、ゴーレムの前で転んでしまった。

「危ない!」

ゴーレムは一切躊躇せず、その子供を踏み潰すかに見えた。

「礼子! あの子を助けろ!」

「はい」

仁の命令。礼子はそれに応え、一瞬で移動した。

仁の指示は『助けろ』であった。子供を助けるには、抱き上げてその場から逃れるのがいいのだが、今のタイミングでは難しい。

礼子の速度で子供を抱き上げ、離脱したら、華奢な子供の身体はその加速度に耐えられないだろう。そう瞬時に判断した礼子が取った行動は、子供の盾になることだった。

両手と両膝を付いて、子供を守るように覆い被さる。そこへ襲いかかるゴーレムの足。

そこに居合わせた者達は、一瞬で移動した礼子を訝しむ間もなく、小さな子供をかばって伏せた礼子にゴーレムの足が降ろされるのを見た。

何人かの女性は、たちまち潰されるであろう礼子と子供の姿を見るに耐えず目を覆った。

が、礼子の身体は、ゴーレム如きに踏み潰されるようなちゃちな物ではない。

「おお!?」

目を離さなかったグロリアが、その目を見張った。

ゴーレムの足をその背で受け止めた礼子はびくともしなかったのだ。

「『 風の一撃(ウインドブロウ) 』」

そこへ、エルザが放った風魔法が炸裂した。片足を持ち上げた状態で喰らったため、簡単にひっくり返る。

その機に、転んだ子供を抱きかかえ、礼子はゆっくりと起き上がった。そして仁たちの元へ駆け戻る。

「お父さま、子供は無事です」

泣いてべそをかく子供を抱いて戻ってきた礼子の頭を、仁は撫で、褒めた。

「礼子、良くやった。判断も適切だったぞ」

「レーコおねーちゃん、すごーい!」

ハンナにも褒められ、礼子の顔が綻ぶ。子供は膝を擦りむいていたので、エルザが治癒魔法を使う。

「『 治せ(ビハントラン) 』」

血が止まり、子供もようやく泣き止んだ。

「はい、これで大丈夫。もう痛いところはない?」

「……うん」

よかった、とエルザはゴーレムに注意を戻した。

「『 掘削(ディグ) 』」

仁が土属性魔法である 掘削(ディグ) を使い、ゴーレムを落とし穴に落下させ、その動きを封じている。

礼子が暴れればすぐにケリが付くのだが、悪目立ちを避けるため、礼子は周囲の人間を守るように動いていた。

「『 停止(スタンドスティル) 』」

そして動きを封じられたゴーレムを停止させる仁。実は 消身(ステルス) で姿を消している 隠密機動部隊(SP) も密かにサポートしていたりする。

仁自身もバリアを張りながらの行動だ。

2体目が停止し、残るは1体。その時。

「『 炎の槍(フレイムランス) 』」

炎魔法が炸裂し、残ったゴーレムが吹き飛んだ。