軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-10 仁の手腕

「参考になりました。ありがとうございます」

仁はダストンに礼を言った。

「ハンナ、見てたかい? ハンナのお祖父ちゃんはああやっていろいろな物を作っていたんだよ」

「うん、わかった。おにーちゃんとはずいぶんちがうんだ……」

仁はハンナの頭を撫で、

「ああ、俺は逆にああいう作り方できないからな」

と言った。そしてエルザには、

「どうだ、感想は?」

と尋ねる。エルザは少し上気した顔で答えた。

「ん。普段使ってる包丁とかの刃物がああやって作られるということがわかった。ためになった」

「そうだ。そして、最後の焼き入れと焼き戻し、鉄や鋼にはあれが大事なんだぞ」

と説明する。当然エルザは疑問をぶつけてくる。

「どういうこと?」

「いいか、鋼、っていうのは鉄の一種なんだが、シトランの色になるまで熱してから急に冷やすと硬くなるんだ。それが焼き入れ」

「ん」

「で、そのままじゃ硬いけど脆い、すぐに折れる。だから粘りを出すために焼き戻しをするんだよ。飛んだ水滴が玉になって踊るくらいの温度に保ってからゆっくり冷やせばいい」

「ん、わかった」

「これを知ってると知らないとじゃ 魔法工作(マギクラフト) の出来が違ってくるからな」

と、仁がそこまで説明した時、ダストンが険しい顔でやって来た。

「お、おい、若いの! お前、その秘伝を誰から聞いた? 普通その知識は師匠に1人前と認められてはじめて教えられるんだぞ? 俺だって30過ぎてようやく教えてもらえたんだ!」

20歳前に見える仁が知っていることに驚いたらしい(もっとも仁はもう21歳である)。

「誰って、先生から」

「お前の先生って気前がいいというか、すげえんだな……」

ダストンは呆れ顔である。

「ね、おにーちゃんもほうちょうつくってみせて」

「ん。ジン兄が作るところも見てみたい」

ハンナとエルザがそんなことを言って仁を煽るので苦笑しながら仁はダストンに、

「工房使わせていただいてかまいませんか?」

と尋ねた。

「ああ、 魔法工作士(マギクラフトマン) の仕事というやつ、見せて貰うぞ!」

そう言ってダストンは快諾した。

早速仁は鉄のインゴットの所へ行った。

「『 分析(アナライズ) 』……うーん……」

仁は鉄の品質を確認後、勉強させようとエルザを呼ぶ。

「エルザ、ちょっとおいで。……いいかい、この鉄の組成を調べるのが 分析(アナライズ) だが、知らない内容は理解できない。だから知識が必要になるんだ」

そう言って仁は 分析(アナライズ) の魔法をかけ、自分でもう一度確かめたあと、エルザにもやってみるように言った。

「ん。『 分析(アナライズ) 』」

これは1回で上手くいったが、

「……鉄はなんとなくわかった。でもその他がごちゃごちゃして全然わからない……」

と顔を顰めるエルザであった。

「はは、無理もないな。いいか、『 抽出(エクストラクション) 』銅。『 抽出(エクストラクション) 』ケイ素。『 抽出(エクストラクション) 』硫黄。『 抽出(エクストラクション) 』リン」

仁は4回の 抽出(エクストラクション) を、大元のインゴットにかけた。それにより、僅かではあるが銅、ケイ素、硫黄、リンが分離される。いずれも掌に乗るほど小さいが、不純物としてみたら無視出来ない量である。

「ほら、これが不純物だ。一つ一つはもう純粋な物質だから、それぞれに 分析(アナライズ) をかけてごらん」

「ん。『 分析(アナライズ) 』……あ」

「どうだ?」

少し驚いた顔のエルザに仁が尋ねる。エルザは頬を紅潮させて、

「銅と硫黄は少しわかった」

どちらも比較的馴染みのある物質だったからか、エルザも判別できるようになったらしい。

「よし。あまり時間をかけていると迷惑だろうから、今日のレッスンは終わり。あとは見ていてくれ」

「ん」

仁はエルザへのレクチャーを終了し、包丁作りを再開する。後ろでダストンの顎が外れそうになっているのには気が付いていない。礼子はその横で誇らしそうに胸を張っている。

「『 分離(セパレーション) 』。『 変形(フォーミング) 』」

仁は工学魔法で必要量の鉄を分離した。続いての魔法では仁の手の中で鉄が形を変え、包丁となった。

「よし、形はこんなものか。あとは熱処理、と言いたいが、ちょっと炭素が少ないよな」

仁が確認したところでは、炭素量が0.5パーセントくらいであった。炭素量は焼き入れ硬さに最も影響を与える要素であり、包丁には0.8〜1.2パーセントくらいが適する。

「『 浸炭(カービュライジング) 』」

そこで空気中の二酸化炭素から炭素を抽出して鉄に混ぜることにする。この魔法だと表面にしか炭素を含ませることができないので、 均質化(ホモゲナイズ) の工学魔法を使い、成分を均質化する。

これを数度繰り返すと、炭素量が1パーセントになった。頃合いである。

「よし、エルザ、よく見てろよ。『 熱処理(ヒートリート) 』」

ゆっくりと行ったので、魔力の流れを捉えながら観察していたエルザには、仁の持つ包丁が一瞬加熱され、次いで急冷され、もう一度軽く加熱され、そして常温に戻ったのが感じ取れた。

「熱くないの?」

一瞬とはいえ鉄がシトラン色(橙色)になる温度まで上がったのを感じ取ったエルザが心配そうに尋ねた。

「ああ、大丈夫さ。エルザが感じ取ったのはあくまでも鉄の状態変化であって、その温度になったわけじゃない。それが工学魔法のいいところさ」

そう言って仁はエルザに包丁を手渡した。確かに熱くない、とエルザは実感する。

後ろではハンナが目を輝かせており、その隣にいるダストンは外れそうな顎に続いて目もこぼれ落ちそうに見開かれていた。

「最後に刃を付けような。『 成形(シェーピング) 』。表面も綺麗にしよう、『 仕上(フィニッシュ) 』」

黒っぽかった包丁が銀灰色に輝いた。

「よし、完成。ダストンさん、こいつにすげる柄はありますか?……?」

そう言って仁が振り向くと、そのダストンはえもいわれぬ顔をしていた。

「もしもーし。ダストンさーん」

そう仁が声を掛けると、ようやくダストンは再起動した。

「あ、ああ。 魔法工作士(マギクラフトマン) の仕事ぶりを初めて見たんで驚いちまったぜ。で、でだ、ちょっと待て、そのインゴットに何をした!?」

仁が不純物を分離したことを言っているらしい。

「ええ。ちょっと不純物が多かったんで分離を」

「……そんなことまでできるのか……」

ちょっと脱力した感のダストンであった。

「で、柄だったな。俺の使っている標準の柄はこれだ」

堅い木で作られた包丁の柄。仁が作った包丁もダストンの物とほぼ同サイズなのでそれをすげて終了である。

同じように仁の仕事ぶりを見ていたグロリアは、それまでやはり放心していたが、こちらは自分で再起動した。

「ジ、ジン殿! 貴殿はすごい! やはり、リシアの言うことに嘘はなかった! 早く私にも剣を作ってくれないか!?」

残念美人の本領発揮である。

仁は一つ頷くと、

「わかってますよ。で、どんな剣がいいんですか?」

と尋ねた。

「我々女性騎士は制式装備がショートソードなのだ。刃渡りは50センチ、柄は20センチくらいが望ましいな」

ここでいうショートソードは、馬上で振るうロングソードに対してそう呼ばれている。別に短剣という意味ではない。

「わかりました」

仁はそう言って、先ほどのインゴットから 分離(セパレーション) で必要量を確保した。リシアの剣を知っているので、大体の量は見当が付いている。

そして 変形(フォーミング) 、 浸炭(カービュライジング) を経て、 熱処理(ヒートリート) 、 成形(シェーピング) 、そして 仕上(フィニッシュ) 。

更に 硬化(ハードニング) を掛けて剣本体は完成である。

それまで見ていたエルザが質問してきた。

「ジン兄、さっきと比べて 浸炭(カービュライジング) の回数が少なかったのは何故? それに 均質化(ホモゲナイズ) を使ってなかった」

「お、よく見てたな。剣というのは、折れるのが一番まずいんだ。折れず、曲がらず、良く切れる、と言うのが理想なんだ。これを実現するのが複合材なんだよ」

と説明する仁。

「複合材?」

「ああ。つまり、芯になる部分には比較的軟らかい鉄を使い、刃の部分には硬い鋼を使う。そして表面を硬化させる」

そこまで言うと、エルザはわかった、と顔を上げた。

「芯は軟らかいから折れにくい。表面だけ 浸炭(カービュライジング) して硬くすれば、曲がりにくい。そして硬化させれば良く切れる」

「正解」

仁が褒めると、エルザは嬉しそうに頬を少し染めた。

「お、お、お、おめえ! そ、その製法は、初めて聞いたぞ! そんな秘伝をほいほい口にしていいのかよ?」

後ろで聞いていたダストンが興奮気味にそう言ってきた。

「え、いいですよ。ダストンさんの工房使わせて貰いましたし、鉄も分けて貰ってますし。あ、剣の鞘とか柄を作る素材ってありますか?」

平然とそう言った仁にダストンも毒気を抜かれ、興奮を収める。

「はあ。嬢ちゃんはまったく大した奴を連れてきたもんだよ」

そう言いながら、奥の素材棚を指差す。

「あそこにあるものなら何でも使ってくれ」

それで仁は棚を物色する。

鞘には分厚い革、鍔には青銅、柄には堅い木を選ぶ。これらも工学魔法で短時間に成形処理され、ついにショートソードが完成した。

「グロリアさん、大変お待ちどおさまでした。確認して下さい」

「うむ、ありがとう」

ショートソードを受け取ったグロリアは、早速鞘を払い、軽く振ってみる。

「どうです? 重さの加減は少しなら調整できますから、遠慮なく言って下さい」

「そうだな。若干先が重い気がするのだが」

仁に言われ、グロリアは感想を述べた。

「わかりました。そのまま持っていて下さって結構ですよ。……『 変形(フォーミング) 』」

先細りの形状を更に少し強める仁。

「これでどうです?」

もう一度ショートソードを振ってみたグロリアは、

「うむ、これでいい! 感謝する、ジン殿!」

と、満面に笑みをたたえて礼を言ったのである。