軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-04 閑話14 リシアのこれまで

リシア・ファールハイトは新貴族である。

父親のニクラス・ファールハイトはクライン王国の兵士長であったが、国境紛争で功を上げ、 騎士(リッター) の地位を授かったのである。

その長女であるリシアも、騎士見習いとして頑張っていた。

「次、ファールハイト!」

「はいっ、お願いします!」

女性騎士見習い達の訓練が行われている。今行われているのは木剣を使っての教官との模擬戦だ。

王族や上位貴族の女性警護など、女性騎士が必要とされる場面は少なくない。

ここクライン王国でも、近年、女性騎士の数は増加していた。

稽古をつけている教官はその近衛女性騎士隊の副隊長である。名はグロリア・オールスタット。

明るい茶色の髪はベリーショートに整えられ、鳶色の目と相まって快活な印象を与える。身長は168センチと女性にしては高い方で、すらりとした容姿は同性の憧れの的であった。

女性騎士の多くは下級貴族、もしくは騎士の家系の子女である。グロリアの家は代々騎士や女騎士を輩出してきた名家であった。

そんな中にあって、新貴族の父親を持つリシアはやや浮いた存在であった。

「あの子、頑張るわよね」

「まあ、家が新貴族だから、頑張らないと自分の代で没落だしね」

リシアの訓練を眺めている同僚の半分は貴族の子女。騎士になれなくても困りはしない身分である。

「私、早々に不適格にされて嫁いだ方がいいわ」

そう言って憚らない者さえいる。

対して、騎士の家に生まれた者達は違う。

「代々続く騎士の家に生まれた私があんなぽっと出の子に負けるわけに行かないのよ」

「見てよ、あの格好。型も何もあったものじゃないわ。優雅さの欠片もない」

そんな揶揄を知ってか知らずか、リシアは木剣を何度弾かれても教官に向かって行く。そして最後。

「きゃあっ!」

大きく弾き飛ばされて訓練は終わる。

「あ、ありがとうございました」

苦しそうに肩で息をしながら、教官に礼を言うリシア。

「よし、これで全員終了したな? 次は巻藁斬りを行う。当番、準備せよ」

「はい」

麦わらを束ねた物を地面に差した杭に取り付けていく。これを剣で斬る訓練である。

「いいか、剣で切る時には、刃筋というものを考えろ。刃を切る物に対して垂直に当てることだ。そうしないと切れないし、剣が弾かれ、曲がったり折れたりすることもある」

教官が説明する。

このあたりは、日本刀での居合いとは大きく違っている。居合いでは斜め45度で斬り込む事が多い。それは巻藁が固く巻かれた畳表で出来ていて、非常に切りづらいことにもよる。

だが、リシア達に課せられる巻藁斬りは、単に剣の刃筋を立てることと、剣を僅かに引き気味にして切れ味を増すことの2点を憶えさせるためのもので、巻藁の強度も非常に低いものだった。

「まずは私がやって見せよう」

女性騎士達が扱うのは基本的にショートソードである。教官は自分の腰に提げたショートソードを抜き放つ。

「はあっ!」

裂帛の気合いと共に、ショートソードを横一文字に一閃。巻藁は見事に真っ二つになった。見ていた見習い女性騎士たちから溜息が漏れる。

「オールスタット教官、素敵」

そんな囁きも。

「よし、やってみろ。横一文字は難しいぞ。まずはアンダーソン」

「はい。たあっ!」

「駄目だ。刃筋が立っていない。素振り100回。次、ボガード」

「はい。……やあ」

「何やってる! 全然勢いもないし、横一文字にもなっておらん! 素振り300回だ! 次、カーター」

「はいっ。……やあっ!」

今度は見事に巻藁が斬れた。

「よし、まあまあだな。次……」

こうして総勢33名の見習い女性騎士達は次々に巻藁斬りに挑戦していく。斬れなかった者はその程度に応じて素振りだ。

そして最後はリシアの番である。

「ファールハイトで最後だな。よし、やれ」

「はいっ。……たあっ!」

リシアは見事に巻藁を両断した。

「うむ、よし。……ん? ファールハイト、剣を見せてみろ」

「は、はい」

突然教官から剣を見せろと言われ、リシアは焦りながら剣を差し出した。

「ふむ。うーん、実に良い剣を使っているな。どこで手に入れた? この出来なら私も欲しいものだ」

「え、えっと、あ、あの、それが、知り合いの 魔法工作士(マギクラフトマン) に修理してもらった剣なんです。元々はただの鉄だったそうで、曲がってしまって、それを直してもらって」

焦っているので説明がたどたどしかったが、教官は理解したようだった。

「ふむ、そうか。いい知り合いを持ったな。この剣、大事にしろよ」

そしてグロリアは全員に向かい、

「訓練場を10周して今日は終わりだ。全員、駆け足!」

そう号令を掛け、自ら先頭に立って走り出した。

1日訓練をした後の訓練場10周はなかなかきつい。脱落者も出る中、あえぎながらもリシアは最後まで走り通した。

* * *

そして、大陸暦3457年、年明け早々、隣国のフランツ王国軍が国境を侵し、リシアも救護騎士隊員に任命され、戦場に駆り出された。

近衛女性騎士隊になれなかったのを残念と見るか、それともこの役職を天職と見るか。リシアは後者であった。

戦場で、リシアはかつて仁と話した事を思い出す。

『自分に出来る事をやっていけばいいんじゃないでしょうか』、仁はそう言った。

「私に出来ること……やっぱり癒すこと、でしょうね」

日々の訓練と努力により、リシアは治癒の中級魔法までを使いこなし、救護騎士隊でも腕利きの治癒師となっていたのである。

* * *

その年は小競り合いが3度ほど繰り返された。

その3度目の戦闘は今までで一番激しかった。死傷者も多く、クライン王国軍は後退を強いられ、国境線から50キロほど後方のテトラダでフランツ王国軍を迎え撃った。

その時。

巨大なゴーレムが現れ、戦闘を出来なくしてしまったのである。

フランツ王国軍は武器から防具、ゴーレムから食器に到るまで、金属製のもの一切合切を溶かされてしまい、クライン王国軍は訳のわからないうちに気絶させられ、気が付いたら武器や防具を取り上げられていたのである。

武器や防具が無くてはまともな戦闘になるはずもなく、フランツ王国軍は撤退した。リシア達もテトラダに籠もり、大本営からの指示を待っていた。

「リシア、活躍したそうだな」

そんな中、勤務時間外に父ニクラスが訪ねてきた。ニクラスはクライン王国第3騎士団副団長を務めているのだ。

「お父さんも無事だったのね!」

父と娘は手を取り合い、互いの無事を喜び合う。

「リシア、お前も頑張ったそうだな」

「うん……救えなかった人もいるけど」

そう言って俯く娘に、ニクラスは優しく諭すように言う。

「それは仕方がない。みんな、覚悟の上で戦場に来ているんだから。一般庶民に死者がいなかったのは幸いであったよ」

「それはお父さんたちが頑張ったからでしょう?」

「それが父さんたちの仕事であり、誇りだからな」

そんな会話がこの日、父娘の間でなされた。

「ところで、ラッシュ家の3男なんだがな」

いよいよニクラスが父親として一番気になったことを口にした。だがリシアの答えは、

「え? 誰それ?」

であったので内心胸を撫で下ろしていたという。

* * *

翌日。

「あ、リ、リシアさん、おはよう」

「あ、パスコーさん、おはようございます」

心なしかパスコー・ラッシュの顔が赤い。おまけにセリフも棒読みである。

「きょ、きょうもいいてんきですね」

「曇ってますけど……」

「あ、そ、そうですね、あ、あはははは……」

笑って誤魔化すパスコー。そしてリシアに向かい、

「そ、そんじゃあ、自分は警護の仕事がありますので!」

敬礼をして去っていった。

「くすっ、面白い人」

そしてリシアは空を仰ぐ。

「警護、かあ……」

ふと腰に手をやり、そこに馴染んだ感覚がないことに気づいてはっとする。

「無くなっちゃったんだ、なあ……」

仁に直してもらい、以来愛用していたショートソードを無くしたリシア。

それもまた彼女が落ち込む理由の一つだったかも知れない。