作品タイトル不明
10-03 勉強会
「おはよーございまーす!」
「おはようございます!」
カイナ村には子供たちの元気な挨拶が響いていた。
「はい、おはようございます」
「おはようございます」
村長ギーベック邸に集まってくる子供たち。ミーネとエルザの勉強会に参加する子供たちである。
その数9名。やはり少ない。それは単純に子供の数が少ないのである。
「やっぱり少ないわね」
ミーネもそれには気が付いていた。普通の家なら子供が3人以上いてもおかしくないのであるから。
現にエルザも母親が違うとはいえ3人兄妹であるし、ミーネに到っては7人兄弟である。
「食糧事情だって悪くないのに、ねえ」
そんな独り言を聞きつけたのは村長のギーベック。
「ミーネさん、それはな、徴兵で男衆が取られたことと、8年前の流行り病のせいなんですよ」
まだ少し他人行儀な話し方である。
「流行り病、ですか」
以前、ロックが仁に話した事もある内容。ロックは徴兵が主な原因であるように仁に話したのだが、実は流行り病の方が深刻だった。
ロックはその時、騎士に憧れて王都に行っていたのでよく知らないのである。
「あの時はひどかった。村の半数がやられ、伝染するといけないというので、死者は全て灰になるまで焼かざるを得なかった。だから彼等の墓らしい墓が無いのです」
「そうだったのですか……」
だが、なんとなく重くなった空気を振り払うようにギーベックは話を続ける。
「ですが、もうすぐ住人が増えますからな」
「え?」
俯いていたミーネが顔を上げる。
「去年ジンが来てくれてから、村人の負担も少し減ったためか、それとも温泉のおかげかはわかりませんがな」
「ああ、ご懐妊された人がいらっしゃるんですね?」
隣でエルザが『?』という顔をしているが、さすがにミーネは察しがいい。
「ええ。5人の奥さんたちのお腹が大きくなっていますよ」
「それはおめでたいですわね」
そんな話をしていると、ハンナがやってきた。
「おばちゃん、じゃなかった、せんせー、おはようございまーす!」
「はい、おはようございます、ハンナちゃん。それじゃあそろそろ始めましょうか」
家でおはようの挨拶はしているが、勉強会は勉強会とけじめを付ける、と教えたのでさっそく実践しているのである。
ハンナを入れて10名。7歳から14歳までの子供が集まっていた。
「おはようございます、みなさん。私は先生を務めますミーネです。こっちは私の娘で、助手を務めますエルザです」
「ミーネせんせー! エルザせんせー!」
子供たちは賑やかである。
「はい、静かに」
ミーネは手を叩いて黙らせると、
「今日は最初ですから、まず自己紹介をしましょう。みなさんはお互いに見知っているかもしれませんが、先生は先日この村に来たばかりなのでみなさんのことをよく知りません。なので教えて下さいね」
はーい、と答える子供たち。
「ではまず先生からね。名前はミーネ。35歳。出身はこの国じゃなくて、エゲレア王国なの。このエルザは先生の娘です。それじゃあエルザ、自己紹介してちょうだい」
「……エルザ、です。17歳。出身はショウロ皇国。話すのがすこし苦手だけど、仲良く、してね?」
エルザがそう言い終わると、子供たちから拍手が湧いた。
「ミーネせんせー! エルザせんせー!」
「またまほうみせてねー!」
雪室を作った時に魔法を見せたことで、エルザは子供たちの憧れの存在になっていた。
「それではそっちから順番に1人ずつ自己紹介して下さい」
「うん! あたし、パティ! この前、8さいになったの。えーっと、お父さんはライナスっていって、木でいろいろなものをつくるのがとくいなの。お母さんはセラ。おこるとちょっとこわいけど、おりょうりがじょうずなの」
「はい、ありがとう、パティちゃん。じゃあ、次お願いね」
「はい! 俺……じゃなかった、僕、マリオ。おと……父はロック、母はモーリーです」
そんな風に、子供たちが自己紹介をしていった。
一通り終わるといよいよ授業である。
* * *
少し離れてその様子を見ていた仁だが、礼子が服の裾をつん、と引いたので、何か話があるものと察し、その場を離れて村長宅の裏手に行く。
「どうした、礼子?」
「はい、申し訳ないのですが、老君からの問い合わせがありまして」
「ふうん、何だろう。じゃあちょっと行ってみるか」
新居の地下に 転移門(ワープゲート) があるので、気軽に研究所へ戻れるようになった。
転移門(ワープゲート) 室の管理ゴーレム、バトラー1の挨拶を受け、馴染んだ居間へ向かう。
老君の移動用端末、老子がそこに待っていた。
『 御主人様(マイロード) 、わざわざのお運び、恐縮です』
老子はそう言って一礼すると、
『実は、先日テトラダ周辺で回収した武器の中に気になるものがありました』
そう言って一振りのショートソードを差し出した。
「テトラダ……ああ、クライン王国勢は武装解除したんだよな。その中にあったということか」
そう言いながら仁はその差し出されたショートソードを眺める。別段変わり映えのしない、どこにでもあるような剣だ。手に取ってみたが、何かあるわけでもない。
「これがどうしたって?」
『はい。不思議なことに、その剣から 御主人様(マイロード) の魔力の残滓を感じました』
「え?」
思わぬ事を聞いた仁は、
「『 精査(インスペクション) 』」
魔力の働きを調べる魔法を使ってみる。
「確かに、これは俺の……ああ、思い出したぞ。これはきっとリシアのショートソードだ」
仁は思い出した。去年の秋、カイナ村から村の男衆と一緒に税である麦をトカ村まで運んだ際、ゴーレムに襲われ、その時に徴税官だったリシアが無謀にもこの剣でゴーレムに立ち向かった。
ところが、鋼ではなく軟らかい鉄製だった剣は簡単に曲がってしまった。それでゴーレム撃退後、リシアはトカ村の鍛冶屋に直してもらおうとしたら直せないと言われて落ち込む。
そんなリシアを見かねた仁が『 変形(フォーミング) 』で曲がりを直し、『 浸炭(カービュライジング) 』や『 熱処理(ヒートリート) 』で鋼の剣に変えてやったのだった。
「これはその時の剣だ。そうか、テトラダにリシアもいたんだっけな」
「リシアさん、というのは以前、お父さまに逃げてくれ、と言ってきたあの人ですよね?」
ゴーレム撃退の時には礼子はいなかったが、その後、ワルター伯爵が誤解して捕縛に来るという情報を持ってきてくれた時の事を言っているのだ。
「ああ。大事にしてくれていたみたいだな」
手の中のその剣は、錆びもなく、良く研がれている。リシアのことだから実戦に使ってはいないだろうが、大切に扱ってくれていたことがうかがえた。
「確かに。お父さまからの贈り物を大事にしてくれる人はいい人です」
礼子の判断基準は単純明快だ。仁は苦笑した。
「出来れば返してやりたいな」
武装解除した剣・槍・盾・鎧などは、一応品質チェックして、魔法が付与されていたり、レア素材が使われていたり等、明らかに特別製と思われるもの以外は一旦鋳つぶしてインゴットにしてしまうよう指示を出していたのである。
そういった意味では、この剣を見つけだした老君(や配下)は褒められるべきだろう。
「確か王都にいるんだっけ」
仁のその呟きを、耳聡く礼子は聞きつけた。
「お父さま、まさかお行きになるのではないでしょうね」
「ん? 何かまずいか? クライン王国には俺の顔は売れていないし、特に危険もないと思うんだが」
「それはそうですが……」
最近過保護の礼子は渋い顔。そこに老君が助け船を出す。
『礼子さん、 御主人様(マイロード) が行きたいと仰るのですから、今回は御希望に沿うのがよろしいかと。ですが、 御主人様(マイロード) には幾つかの予防措置をお願いできればと思います』
「予防措置って何の予防だ?」
当然の疑問である。
『 御主人様(マイロード) の危険への対処です』
そう答えた老君は、
『これをごらん下さい』
と、移動用端末である老子が籠に入れて何やら持ってきた。
「ん? 服じゃないか」
『はい。その服は、 海竜(シードラゴン) の革を削いで薄くしたもので作っています』
「 海竜(シードラゴン) の革? するとこれも衝撃硬化するのか」
『はい。テストによりますと、強化服ほどではありませんが、アンの全力くらいまでなら防ぎきります』
アンの全力はかつての礼子の10パーセントくらい。つまり人間の力なら防ぎきれるということである。
『銀面が一番重要なようで、魔力を通せば更に丈夫になります』
銀面というのは皮革の表側、つるつるした面の事である。防御に一番優れているのが表面であるというのは納得できた。
「わかった。ズボンと上着か。ありがとう、老君」
『いえ、 御主人様(マイロード) のお役に立てて光栄です』
籠の底にはもう一つ何か入っていた。襟章のようである。
「あとこれは何だ? ……いやまて、魔導具か。何々……服の反応に呼応してバリアを発生させる、だって?」
『はい。それは上着の襟に付けて下さい。攻撃を受けて上着が衝撃硬化や魔力硬化した際、瞬時にバリアを発生させます。小さいので短時間しか持ちませんが、切れる前にお持ちの腕輪を作動させてください』
至れり尽くせりの装備である。前回の専用機ペガサスといい、最近の老君は実にいい仕事をしている。
「わかった、有り難く使わせてもらおう」