軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-02 ノスタルギア

ミーネとエルザが勉強会を開く、と聞いた仁は、その夜蓬莱島へ跳んだ。今回はエルザも連れていく。礼子は言わずもがな。

新居の地下に小型の 転移門(ワープゲート) を設置したのでシェルターまで行かずに済み、楽になった。

「おかえりなさいませ、ご主人様」

転移門(ワープゲート) 室の管理をしているのは、昨日就役したばかりの執事ゴーレム、『バトラー1』である。

ベースは 隠密機動部隊(SP) の成人男性型ゴーレムで、警備を兼ねるため、 隠密機動部隊(SP) よりもう少し出力を増やしてある。

他にも、蓬莱島のいろいろな管理業務もこなしてもらう予定。

『おかえりなさいませ、 御主人様(マイロード) 』

蓬莱島の頭脳、老君も仁を迎えた。

「ああ、ただいま。老君、さっそくだが、 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸で織った布を用意してくれ」

『承知致しました。どのくらいご用意しましょう?』

「そうだな、巾が1メートルで織ってあるやつが、長さ5メートルもあればいいかな」

『はい、さっそく運ばせます』

ということで、仁が工房に行くと、家事担当であるゴーレムメイドのペリド17が布を既に運び込んでいた。

「ああ、ご苦労」

仁が礼を言うとペリド17はお辞儀をして立ち去った。

「お父さま、 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の布で何をお作りになるのですか?」

仁の一番の助手である礼子がそう尋ねた。

「ん? 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸で織った布の特性を生かしてな、ホワイトボードをな」

そう仁は答えた。

「ホワイトボード……なるほど」

礼子はすぐに理解したようだが、エルザは『?』を顔に貼り付けている。それを察した仁は説明を始めた。

「エルザ、ホワイトボードというのは、俺のいた世界で、学校で先生が生徒に教える時に説明とかを書くための板なんだ」

本来は黒板の方が使われているのだが、それを言い出すとややこしくなるので今はホワイトボードで話を進めていく。

「で、 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸というのは汚れが付きにくいんだ。礼子の服も全部それで出来ているし」

そこまで説明すると、エルザも理解できたようで、大きく頷いた。

「わかった。それに字とか書いて説明する。で、汚れは付かないというなら、軽く拭けば書いた字が消える」

「正解だ」

エルザはすぐに理解したようだ。

「そうさ。これを板に貼れば教師用のホワイトボード。小さく切って、子供たちの筆記練習用」

「よくわかった。すごく便利」

「まだエルザには加工は無理だから、俺たちがやるのを見ていてくれ。……礼子、始めるぞ」

「わかりました」

ということで、仁は礼子と手分けして作っていく。 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸は通常の工具では加工出来ない。アダマンタイト製の工具か、工学魔法を使う必要がある。

仁と礼子は工学魔法でどんどんと加工し、黒板サイズのものを1つ、30センチ角サイズのものを27枚作った。

「すごい。私もそんなふうになれる?」

目を輝かせて見ていたエルザは仁にそう尋ねた。仁はそれを請け合った。

「ああ、俺が教えてやるよ」

「ん。楽しみ」

残るはペンとインクである。

ペンはこの世界にもあるが、羽根ペンである。金属製ならと思うが、ただの鉄では 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸で織った布が相手だとすぐに磨り減ってしまうので、軽さも考慮して64軽銀で作製。

減ってきたら工学魔法で直せるよう、軸まで同じ材質で作っておく。かぶらペンと呼ばれる固めのペンである。形が比較的単純なので作り易い。

「これはエルザもやってごらん」

必要な量の64軽銀と共に見本を1本渡し、やってみるように仁は言った。

「ん。『 変形(フォーミング) 』」

64軽銀が形を変え……

「……難しい」

おかしなままで止まる。

「前にも言ったが、イメージだよ。目をつぶって、作りたい物の形を思い浮かべてからやってみるといいかもな」

「ん。わかった。『 変形(フォーミング) 』」

今度はかなり良くなった。まだ左右が対称になっていないが。

「お、随分良くなった。もう一息だ」

「ん。頑張る」

更に何度も練習するエルザ。10数回目にして、どうやら使い物になるペンが完成した。

「お、これなら大丈夫だ。よくやったな」

仁が褒めるとエルザは嬉しそうに微笑んだ。最近は表情が豊かになってきたように見える。

あとはインク。まあ色が付いた水ならいいのであるが、先日マーメイド隊がイカそっくりな魚(というか軟体動物)を見つけてきたので、その墨を使う事にした。

時間が経つと薄くなるかも知れないが、練習用だからそれでいい。

そしてミーネ用、というか教師用にはマーカーである。

軽銀をパイプ状にし、先を細くして、 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸をフェルト状に固めた筆先をはめ込む。そしてインクを胴体に満たし、工学魔法で閉じれば完成。

と思ったら、筆先から墨が溢れ出してきた。やはり綿状のものに含浸させておかないと駄目なようだ。

作り直す仁。内部に綿状にした 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸を詰めて、墨が漏れるのを防いだ。

「うん、今度は成功かな」

筆記具の準備が整ったので、礼子に頼んで一まとめの荷物にして担いでもらう仁。

『 御主人様(マイロード) 、最後に一つ報告が』

「ん、何だ?」

『空母が完成しました。1番艦『穂高』です』

「おお、それは良かった」

『竣工が遅れた理由と致しまして、何点か試行錯誤し、修正をかけたためです』

浮沈基地を1日で建造してしまう蓬莱島の実力的に見て、10日以上かかっているのはある意味異常である。

どちらにしても異常だ、との突っ込み役がいないのは毎度のことであるが。

『甲板の2層構造は駄目です。着艦にかえって時間がかかります。 転移門(ワープゲート) を使えるのですから、空母自体に搭載する飛行機は最小でかまわないのですし』

更に説明が続く。

『甲板は、艦の中心線に対して斜めに配置するのが発進・着艦のために効率的でした』

アングルド・デッキとして実用化されている構造であるが、仁は知らなかったため、老君は自力でその結論に辿り着いたのである。

『武装はご指示通りです。他にも細かな改良・修正を施してあります。しかし1番艦が出来た以上、2番艦、3番艦はすぐに竣工するでしょう』

「わかった。ご苦労。そのまま続けてくれ」

『はい、承りました』

いろいろな用事を片付けていたら、夜中近くなってしまった。

「さて、寝不足にならないよう、そろそろ寝た方がいいな。カイナ村に帰ろう。……空母についてはまた後で説明するよ」

「ん、ジン兄」

地下室の 転移門(ワープゲート) から出ればカイナ村時間は夜の9時、みんな寝静まっている。

エルザはマーサやミーネ、ハンナを起こさないようそっと家に戻り、仁は出来たばかりの寝室へ。

そして気が付く。

「布団が無い」

うっかりしていた。

「お父さま、館から持ってきます」

礼子が身を翻し。 転移門(ワープゲート) で蓬莱島へ跳んだ。そして数分で戻ってくる。

新しい敷き布団と掛け布団、そして枕。これでようやく寝ることが出来る。

「おやすみ、礼子」

「おやすみなさいませ」

そして夜は更けていく。

* * *

仁が眠ったあと、睡眠を必要としない礼子は内蔵された 魔素通信機(マナカム) で老君といろいろ相談するのが日課になっていた。

『今日もラインハルトさんからの定時連絡は私が受けました。変わりはないようですが、アスタンに足止めされたままなようです』

「セルロア王国は一番洗脳されていた閣僚が多い国でしたからね、機能が回復しないのでしょう」

今、各国は 統一党(ユニファイラー) が事実上崩壊し、その影響力が消えたため、混乱している。

最も混乱していたのがセルロア王国で、実に4分の3の閣僚が 統一党(ユニファイラー) の傀儡であった。

洗脳された人員名簿は 第5列(クインタ) を使い、ばらまいてあるが、国によって対応はまちまち。

『エゲレア王国では洗脳解除の魔法、 衝撃(ショック) を試しているようです』

老君の元には 第5列(クインタ) 経由で情報が入って来ている。

『クライン王国も同様ですね。貴族の、というより指導層の絶対数が足りていない国は大変そうです』

「フランツ王国はどうなのですか?」

『あそこは簡単に首を切っています。あ、肉体的に、ではないですよ? そのポストから外しているという意味です』

「それくらいわかりますよ、老君。フランツ王国は比較的小さいからそれでも何とかなるのでしょうね」

『ええ。大変なのはセルロア王国ですよ。同様に首切りをして人員の入れ替えをやっていますが、何せ人数が多いので、業務が止まってしまった部署の多いこと』

「それでラインハルトさんも出立できないんですね」

『そうみたいです。軍関係が一番混乱の度合いがひどいようですから』

* * *

仁が修理、改造したエレナを送り込んだ 統一党(ユニファイラー) 本部では、主席であるジュール、次席のドナルドが協力して組織の再構成を計画していた。

「なあドナルド、私たちはいったい何をやっていたのだろうな」

「まったくですな。過去に憧れるあまり、それに囚われ、縛られてとんでもない事をしてしまいました」

「責任を取るということは、死ぬことでもなければ辞めることでもない、とエレナに言われた時ははっとしたよ。確かにそれは逃げだからな」

そこに鈴を転がすような声が加わった。

「ええ、そうですよ、我が君様。混乱を収め、世の中に貢献してこそ、責任を取ったことになるのです。私も精一杯お手伝いさせてもらいます」

「ああ、エレナがいてくれれば百人力だよ」

仁以外には 統一党(ユニファイラー) 本部の位置は知られていない。であるから、当分、ジュールとドナルドは秘密裏に動くことが出来る。

そして彼等は、 統一党(ユニファイラー) の組織を再構成して、世の中に貢献できる集団に作り変えることを残りの人生の目的にしていた。

この事はエレナを通じて老君にも伝わっており、老君はまた仁の許しを得て、可能な範囲での援助をする事になる。

「それでだ、再出発の証として、『 統一党(ユニファイラー) 』という名前を廃して、『 懐古党(ノスタルギア) 』としようかと思うのだが」

「 懐古党(ノスタルギア) ですか、いいですな」

「ええ、素敵だと思いますわ」