軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-01 新居

4月の25日、カイナ村。

日射しは強くなり、初夏の陽気になる日も出てきた頃。

山々はすっかり新緑で覆われ、畑の麦も穂を伸ばしてきた。吹く風にももう冷たさはなく、心地よさを感じる季節。

マーサ宅では増築工事が行われていた。

仁が使っていた作業場は、鍛冶士だったマーサの亡くなった夫が使っていたもので、6畳ほどの広さがある。

それを倍の12畳に広げると共に2階建てにして居住空間を作ろうというのだ。

マーサ宅にはエルザとミーネが同居することになったので、仁はこの機会にちゃんとした居場所を作る事にしたのである。

「おうジン、手伝いに来たぜ……って、もう半分出来上がってるじゃねえか」

カイナ村の男衆が仕事の合間に入れ替わり立ち替わりやって来ては手伝っていってくれている。

仁は例によって工学魔法で丸太を加工して柱を作ったり床板を作ったりしている。

また、柱を立てるなどの力仕事はゴンとゲン、それに何と言っても礼子がいるので、あっという間に柱が立ち、床が張られていく。

午前中には建前どころか、8割方出来上がってしまった。

お昼を挟んで午後は内装である。

「しっかし 魔法工作士(マギクラフトマン) ってのはすげえよなあ」

家が出来ていくそのあまりといえばあまりの早さに、見に来た者はみな一様に驚いてはいる。だが、

「まあ、ジンだしなあ」

それで納得してしまうのがなんというかカイナ村ではある。

外観は片流れの屋根を持つ2階屋で、1階が工房、2階が住居である。

1階正面は大きく間口を開け、 土庇(どびさし) と呼ぶ、大きく張りだした庇を設けた。陽気の良い時はこの下で作業することも出来る。

あらためて地下も掘り、素材置き場とした。もちろんこっそり小さな 転移門(ワープゲート) も設置。

一方2階は6畳2間。階段で上がったすぐの部屋は居間で、奥が書斎兼寝室である。

カイナ村付近にはイグサが無かったので畳敷きには出来なかったが、寝室は板張りではあるものの靴を脱ぐ部屋としたのは日本人である仁の拘りであった。

「おにーちゃん、そっち行っていい?」

ハンナが階下から仁を呼ぶ。

そんなハンナは朝から仁にくっついて作業を眺めていた。今は部屋を見て回っているところ。2階のある家は村長宅だけだったので珍しいのだろう。

「ああ、いいよ」

2階の掃除が終わったところなので、もう床に木くずなど危なそうなものも落ちていない事を確認し、仁はハンナを呼んだ。

「わーい」

喜々としてハンナが上がってきた。そして早速窓に取り付く。

「わあ、いいながめ」

2階から見る村の景色はまた違って見える。

「あー、いどがみえる。あっちはおんせんのやねだー」

はしゃぐハンナ。

ところで食堂や台所はないが、それはマーサが、

「食事を別々にするなんて言ったら許さないからね!」

と断固として言い張ったからだ。仁は有り難くそれを受けたのである。

代わりに、マーサの家にも少し手を入れて、行き来がしやすいように仁の家とマーサの家が向かい合わせになるよう玄関と勝手口を改築してある。

「お父さま、屋根の方も終わりました」

一番身が軽いので屋根を葺く工事を担当していた礼子も下りてきた。

「レーコおねーちゃん、ごくろーさま」

「はい、ハンナちゃん」

礼子はハンナに笑いかけると、

「あとは机と椅子、それにベッドですね」

と仁に言った。仁は一つ頷き、

「ああ。それはライナスさんが新築祝いに作ってくれるってさ」

村の男衆の1人であるライナスは意外にも木工が上手い。村で使われているテーブルや椅子の大半は彼の作である。

「お前には敵わないけどよ、まあ気持ちだからさ」

そう言ってくれたのである。だから仁は礼子にもケチを付けたりしないよう念を押した。

「ジン兄、ライナスさんが見えた」

今度は階下からエルザの声。窓から見下ろすと、リヤカーに木製ベッドを積んだライナスの姿があった。

急いで仁は階段を下り、

「ライナスさん、わざわざ済みません」

と礼を言う。ライナスは笑って手を振り、

「なーに言ってやがる、こんな事、お前が俺たちにしてくれた事を思えば10分の1にもなりゃしねえ」

と言ったのである。

「まずはベッドな。これ置いたらテーブルと椅子を持ってくっから」

「ありがとうございます。礼子、悪いが運んでくれ」

「はい」

礼子は頷くと、ベッドを軽々と持って運んでいく。それを見送ったライナスは、

「ジンもたいがいだけどよ、レーコちゃんもすげえよな」

と感心しながらリヤカーを牽いて戻っていった。

結局1日で増改築は終わり、夕方はささやかながら落成祝いである。

とはいってもメンバーは主催者である仁、礼子(飲み食いはしないが)、ハンナ、マーサ、エルザ、ミーネ。

手伝ってくれた人たちには明日、シトランの箱詰めを贈る予定だ。

「それじゃあ、今日は、どうもありがとうございました!」

「ジン、家の完成、おめでとう!」

「おにーちゃん、おめでとー!」

「ジン兄、おめでとうございます」

「ジン様、おめでとうございます」

みんな、笑顔で唱和してくれた。

そしてマーサとミーネの心づくしの料理を楽しむ。いや、

「ジン兄、このスープ、私が作った」

と、エルザも頑張ったらしい。

「うん、うまい。エルザも料理頑張ってるんだな」

「ん」

「おにーちゃんおにーちゃん。あたしも野菜刻んでシトランの皮剥いたの!」

ハンナもアピールしてくる。

「ああ、ハンナ、ありがとう。美味しいよ」

「えへへー」

和やかなマーサ宅、静かに暮れていくカイナ村。全て世はことも無し、と続けたくなる1日であった。

夕食後、ミーネから仁に報告があった。

「ジン様、明日から勉強会を始めることになりました」

少し前に言っていた、読み書き計算を教えることになった、とミーネは説明する。

「場所は村長さんのお宅をお借りして、1日2、3時間くらいから始めようと思います」

「ああ、村長さんの居間は広いからな」

村長宅は村の会議にも使う事があるため、広い部屋があるのだ。そこを貸して貰える事となった、とミーネは言った。

「それは良かったな。頑張ってくれ。何か手伝える事があったら遠慮なく言ってくれよ」

仁がそう言うとミーネは微笑んで一礼。

「はい、ありがとうございます。エルザも一緒にやってくれるというので大丈夫ですよ」

「そうか、エルザもか。しっかりな」

「ん、ジン兄」

エルザはああ見えて子供好きである。それを知っている仁は、エルザ自身にも意外といい刺激になるかも、と思った。

「そうだ、書き取りに使う筆記具を俺が用意しよう」

ちょっと思いついた事のある仁はそう提案した。

「まあ、よろしいのですか? 最初は石板に水で書こうかと思っていたのですが」

平らに削った石板に水を垂らすと色が変わる。これを利用しようと考えていたらしいが、

「いや、もっといいものがある。明日渡すよ」

そう言って仁は請け合ったのだった。