軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09-51 閑話13 とある第5列の活躍

『 第5列(クインタ) 』とは、元々はスペイン語だったようだ。

スペイン内戦で反政府軍側の将軍がラジオで『我々は4個軍団をマドリードに向け進軍させている。マドリードでも我々に呼応する5番目の軍団(第5列)が戦いを始めるだろう』と放送したことに起源があるという。

つまりは内通者とかスパイ、敵性工作員の意味らしい。

そんなこととは関係なく、蓬莱島の 第5列(クインタ) は、『間者』として各地へ送り込まれていた。

「こちらデネブ20、ただいま第8砦跡基地に到着。周囲に人影は無し」

『蓬莱島了解。周辺の情報を集めつつ、所定の地域に向かうように』

デネブ20は成人女性型の 自動人形(オートマタ) である。その目的のため外見は人間そっくりである。

髪色や瞳の色は自由に変えられる。デネブ20は茶色の髪、茶色の目に装っていた。この世界では一番多い色であり、目立ちにくいとの判断からである。

「まずは服装を整えましょうか」

一応庶民の服を着てはいるが、エリアス王国の都市ポトロックで購入したもの。であるからして、このあたりの風俗にあっていない可能性が高い。

老君から指示された街へと向かうデネブ20。一応10000トール程度の所持金は与えられている。

街の名はササリ。トーレス川にほど近く、中規模の街である。

昼間は誰でも出入り自由らしい。それでもデネブ20は入り口付近に立って、行きかう人たちの服装を眺めていた。

「なるほど、ああいう服装がいいんですね」

古着屋を探しながら街を歩き出す。割合すぐに見つかった。そこでお目当ての服を購入。

まず購入したのは足首が出るくらいのスカート、素材は毛。チョッキ風の毛の上着を1着、ブラウスは今のまま。

色はスカートが明るい茶、上着がグレー。あまり派手な色合いは流行っていないらしい。

締めて1200トール。店内で着替えたデネブ20は、すっかり街に溶け込んでいた。

「さて、どうやってケマイまで行きますかね」

ケマイはデネブ20の担当地域、その中心になる街である。アスール湖の南西側に位置する。

まず問題になるのはトーレス川とアスール川をどうやって渡るか、であった。

方法は幾つかある。

一般人同様、船で渡る。これは身分証明の出来ないデネブ20には不可能。

次は闇業者に頼んで渡る。これはエルザとミーネが襲われた過去があるように、危険を伴うので、正体がばれる可能性を考えて没。

「やはり泳ぎますか」

第5列(クインタ) は人間そっくりに作られているため、辛うじて水に浮く。だが水上を泳いでいたのではかえって夜間巡視艇に見つかる 虞(おそれ) がある。いっそ水面下を行く方が望ましい。

「錘を付ければいいでしょう」

石などを抱えれば楽に水中を行けるはず、とデネブ20は考え、その夜、計画を実行に移した。

服は全て脱いで厳重に梱包する。そして背中に背負った。錘の石は両手に抱える。いざとなったら石を手放して泳げば速度倍増だ。

まだ水は冷たいが、デネブ20は何ら気にすることなく水中に身を投じた。

無限に近い持久力があるデネブ20、楽にトーレス川を泳いで渡ることが出来た。いや半分は水中を歩いていたようなもの。

ここで、上陸時に一騒動起きる。

裸で川から上がったデネブ20を見つけた者がいたのである。それは川原を巡回中の兵士。

渡った川は首都エサイア側のため、少し警備が厳しいのである。

反対側には兵士の影すら無かったのでデネブ20も油断をしていたのだ。

夜、川から上がってきた全裸の女を見た兵士は仰天した。

「き、きさま、何をしている!」

手にした魔導ランプでデネブ20を照らす。

茶色の髪は濡れそぼち、水を滴らせている。白い肌は水を弾くように艶やかで、隠そうともしない胸の双丘はふくよかに盛り上がっていた。

「こんな夜、このような所で水泳とも思えない。怪しい奴」

そう言いながら舌なめずりをする。

「黙って俺の言うことを聞くなら見逃してやってもいいんだぜ?」

そう言いながら兵士はデネブ20の首筋に剣を突きつけた。

「……兵隊さん、1人ですか?」

デネブ20の質問を、兵士は別の意味に捕らえたらしい。

「あ、ああ。俺1人だぜ。感謝しな? まあせいぜい可愛がってやるからよ?」

「……」

また何かデネブ20が呟いたのだが、兵士には聞こえなかったようだ。

「あん?」

聞き取ろうと顔を寄せた兵士の耳に、今度ははっきりと聞こえた。

「下種ですね」

「うあああっ?」

天地がひっくり返る。

「ぐえっ」

川原の石に背中を打ち付け、兵士は気絶した。

第5列(クインタ) の仕様は 隠密機動部隊(SP) に準じている。材料の違いがあるため、同等のパワーは出せないが、それでも人間の5倍近い力を出せるし、対人格闘技はそれなりに使える。

兵士の1人や2人、どうということはない。

だが、不慮の事態であったので、内蔵 魔素通信機(マナカム) で老君に報告をし、対処方法の指示を仰ぐことにした。

『おそらくですが、その兵士はあまり真面目な者ではないでしょう。なのでそのまま放置でかまいません』

老君の指示は簡潔であった。

『その代わり、すぐにその場を離れなさい。証拠になりそうなものを残さないように。そして、以後気を付けること』

デネブ20はそれに従い、大急ぎで身体を拭い服を着ると、全速力でその場を離れた。

夜の闇の中、疾駆するデネブ20は誰にも見咎められることなく、アスール湖までの100キロ近い距離をこなしたのである。

アスール湖畔の町、ロク。

昼間はあまり目立つ行動を取れないので、ここロクでデネブ20は情報収集をしていた。といっても噂話に耳を傾けるだけである。

それでも、人間の数倍の聴力を持つデネブ20には、1日でかなり有用な情報を得る事が出来た。

1。アスール湖畔は 統一党(ユニファイラー) 勢力が強い。

2。 統一党(ユニファイラー) はセルロア王国中枢にも食い込んでいるらしい。

3。 統一党(ユニファイラー) は各地の遺跡を発掘して回っているらしい。

2と3は噂の範囲を出ないが、それでも数箇所で同じ内容が聞けたと言うことは信憑性が高そうである。

デネブ20はそれらを老君に報告した。

『なるほど、興味深い情報です。こちらからも伝えておくことがあります。まずは、精神操作を受けた人間の見分け方が判明しました』

老君は説明を続ける。

『魔力パターンを検知してみた時、通常状態がフラット、興奮状態が山型になるのが普通の反応ですが、精神操作を受けていると、常にフラットな状態を保っています。但し、そのレベルは興奮状態に匹敵しています』

つまり、常に興奮している状態が通常状態といえばいいか。もしくは恒常的な興奮状態と言ってもいいかもしれない。

『と言っても、魔力を持つ人間に限定されますが』

魔力パターンでの話であるから、魔力を持たない人間の判別は出来ない。とはいえ、魔力を持たない人間を精神操作するメリットはほとんど無いから、十分実用的であると言えよう。

この発見は、別の地域に派遣された 第5列(クインタ) の手柄であった。

「了解です。有益な情報、ありがとうございます」

早速デネブ20は、町の人間の魔力パターンを検知してみる。すると、町長らしき人物と助役らしき人物の2人は間違いなく精神操作を受けているようであった。

(解除は 衝撃(ショック) の魔法でしたね)

ケウワン遺跡で 催眠(ヒュプノ) に掛かったルコールを正気に戻したときは、興奮状態でショックを与えるということであったが、その後の実験により、 衝撃(ショック) の魔法だけで十分解除できることがわかってきていた。これも別の地域で活動している 第5列(クインタ) の報告による。

その夜、行きがけの駄賃として、デネブ20は町長と助役が眠っている所を襲い、2人に 衝撃(ショック) の魔法をお見舞いしておいた。

デネブ20はそれが済んでから、任地であるケマイへ向かうべく、またもや全裸でアスール川を泳いで渡ったのである。

今度は見つかることもなく川を渡りきったデネブ20は、その夜のうちにケマイへ着いた。

そしてケマイで本格的に情報収集を開始したのである。

日中は噂話に聞き耳を立てるのを基本として、夜は怪しい人物の家に忍び込み、精神操作を受けている事がわかれば 衝撃(ショック) の魔法をお見舞いする。

また、夜の酒場裏で聞き耳を立てることもあった。流石に酒場内に入り込むのは 自動人形(オートマタ) と見破られる可能性があり、避けざるを得なかったのである。

だが、3日目の晩のこと。酒場裏で噂話を聞いていたデネブ20の前に、2人の男が立った。

「おいおい姐ちゃんよう、こんなとこでなにやってんだい?」

「呑みすぎて気分でも悪りぃのかい? だったら俺たちが看病してやるぜぇ」

2人ともかなり酔っているようであった。だが、それ以上に、特徴的な魔力パターンをデネブ20は検知していた。

「あなたたち、 統一党(ユニファイラー) って知ってる?」

試しにそう質問してみるデネブ20。すると男達の態度が目に見えて硬化した。

「何? なんで 統一党(ユニファイラー) の名前がここで出てくる?」

これはあたりかもしれない、と感じたデネブ20は、

「あたしも 統一党(ユニファイラー) に入りたくてこの街に来たからよ」

そう答えておく。すると男達は疑り深そうな目つきでデネブ20を睨み付けた。

「ふん、それが本当なら、教えてやらないでもない」

「本当?」

「だが、教えるには条件がある」

「条件って? あたしに出来ることなら何でもするわ」

初めて掴んだ重要な手がかりである。デネブ20はここぞと食い下がった。

だが、男の1人がにたりと笑ってデネブ20を上から下まで嫌らしい目つきで舐めるように見た後、

「今夜一晩、俺たちに付き合ったらな」

と言った。その意味がわからないようなデネブ20ではない。

「そうですか、残念ですね。私はそのような行為ができる身体ではないのです」

そう言って素早く2人を 衝撃(ショック) の魔法で気絶させた。そして縛っておく。

「さて、こいつらはある程度の情報を持っている事は間違いないのですが、どうしましょうか」

拘束した2人を見下ろしながらデネブ20は考え込んだ。その時である。

『デネブ20、話があります』

老君から連絡が入った。

『これより、アスール湖に『浮沈基地』を建造しますので協力しなさい』

「了解です」

老君は、主人である仁が作った巨大ゴーレムの発進基地として、小群国の要所にあるアスール湖に橋頭堡を作る事にしたのである。

垂直離着陸機(VTOL) ファルコンが 転移門(ワープゲート) の資材を運んでくる。場所は南岸にある岬。

そこなら人の目が届かないことをデネブ20が確認したのである。

転移門(ワープゲート) が設置され、そこからまず 職人(スミス) ゴーレムがやってくる。次いで浮沈基地の資材。そして水中用ゴーレムであるマーメイドが。

資材は全て水中に投じられ、組み立ては水中で行われる。

マーメイドゴーレムが構造材を組み立て、 職人(スミス) ゴーレムが 融合(フュージョン) で接合していく。

デネブ20は周囲を警戒し、近づく者があった場合の対処をする。他にもデネブ21とデネブ19もいた。

水中での作業のため、昼夜の区別無く建造が進み、1日でほぼ浮沈基地は完成した。

それは球形の建造物。内部は上下に仕切られており、上半分は 転移門(ワープゲート) のための空間。球の天井は開閉できる。

下半分にはさまざまな 魔導装置(マギデバイス) が収められているが、大半はバラスト(錘)である。

沈むためにはバラスト部分に水を注入し、浮かび上がるときには水を排出するという潜水艦に似たシステムである。

完成を見たのち、デネブ20は、捕らえた2人の事を老君に報告した。

『それはお手柄ですね。こちらで尋問しましょう』

老君はデネブ20を褒め、捕虜2人を引き取った。1日以上放置されていたのでかなり大人しくなっていた。

どんな尋問がなされたかは定かではないが、これが切っ掛けになって 統一党(ユニファイラー) 本部の場所が明らかになったことは間違いない。

そしてデネブ20は、いや、 第5列(クインタ) 達は、今日も、そして明日も仁のために情報を収拾しつづけるのだ。