作品タイトル不明
09-37 閑話12 歪んだ人形
お母さまが亡くなられました。
お母さまは、私に言葉を遺して下さいました。
『あなたが一番』
それがお母さまの遺言。
ならば娘である私はそれを実行するのみ。
一番というのは誰にも負けないと言うこと。
そして、誰にも負けないと言うことは、『あらゆる存在の上に立てばいい』。そう結論しました。
* * *
最初に考えたことは、『あらゆる存在』が多すぎるということ。ならばどうするか。減らせばいいのです。
まず手始めに、お母さまが疎んじた 魔法工作士(マギクラフトマン) を始末しました。
放っておいてもあと数年で寿命が尽きそうな男でしたが、お母さまとの浅くない因縁を断ち切る事も重要と考えたからです。
次は、その男が作った 自動人形(オートマタ) を破壊する事。
負けない、ということを証明するのに最も端的な方法でしたから。
みんな弱すぎました。ちょっと腕を捻れば簡単にもげるのです。ですので四肢をもぎ、首をもぎました。
続けていると、 自動人形(オートマタ) の持ち主も警戒し始め、警備を増やしたのですが、そんなことで私を止められるものではありません。
私は『女王』なのですから。
私がお母さまに与えてもらった力をちょっと使うだけで、警備の者は皆腑抜けになります。
『 催眠(ヒュプノ) 』、『 暗示(セデュース) 』、そして『 潜在意識誘導(サブリミナル) 』。
特に 潜在意識誘導(サブリミナル) は、私の命令を、本人の意志でやっているように見せかける奴隷化魔法です。女王たる私には奴隷がいてもおかしくないですよね。
こうして、目標となる 自動人形(オートマタ) はすべて始末しました。
しかし、 潜在意識誘導(サブリミナル) を使ったことは誰も気が付かず、 催眠(ヒュプノ) と 暗示(セデュース) だけが警戒されていたことには笑ってしまいます。
* * *
それから私は、女王としてなすべき事は何か、考え続けましたが、結論は出ませんでした。
そんな時、対魔族戦争、今の時代で言う魔導大戦が始まったのです。
なんということでしょう、アドリアナ・バルボラ・ツェツィが残した 設計基(テンプレート) が再発見されて、それを基にした 自動人形(オートマタ) やゴーレムが量産されていったのです。
アドリアナを目の仇にしていたお母さまの事が思い出されます。ですので、それらを片付けることで私の優秀さを世に示すことを思いつきました。
戦場には多くのゴーレムが投入されます。それらを剣の一振りで破壊していくのは楽しいものでした。
お母さまが下さったアダマンタイトのショートソード。鋼鉄のゴーレムも盾ごと切り裂けます。
それを見た人間達は驚きに目を見張りました。これで私がゴーレム達より強いことを思い知ったことでしょう。
魔族も私には一目置きました。私が狙っているのがゴーレムだとわかったのでしょう、戦場で私の邪魔をすることはなくなりました。
それまでは邪魔をする魔族も一刀のもとに斬り捨てていたのですが。
『黄金の破壊姫』。それが兵士達が私に付けた二つ名。私は姫でなく女王なのですが、まあ、いいでしょう。もっと私の強さを知らしめれば女王と呼び直すでしょうから。
* * *
失敗しました。
個人の強さと、集団の強さは別物だと今更ながら思い知らされたのです。
100を超える戦闘用ゴーレムと、200人以上の魔導士。さすがに捌ききれませんでした。
私は左手を失い、癪ですが後退したのです。
そうです。後退です。けっして敗退ではないのです。女王に敗退はないのです。
個としての強さなら私は最強です。しかし集団の強さはまた別でした。
ならば、最強の集団を作り、その頂点に私が君臨すればいいのです。
それまで、少しだけ休もうと思いました。左腕の喪失は私にとって大きな痛手でしたから。
お母さま亡き今、私を直せる者がこの世にいるのでしょうか?
今の時代にいるとは考えにくいです。何せ私が消して回りましたから。
ならばすることは1つ。待つ事です。
大きな湖の近くにある放棄された砦。ここにはまだ使える資材や魔導具も残っています。
幾つかの仕掛けを施し、入り口を塞ぎ、そこで私は眠りに就くことにしました。
私に目を付けた人間が、私を起こしに来るまで。
そうしたら私は、そいつに仕えるふりをして、そいつを支配してやりましょう。
そして組織を作り、人間を人間にけしかける。
そんな事を思いつつ、私は魔力炉を停止させたのです。
* * *
私は目を覚ましました。
僅かな魔力の接触が、私の魔力炉を再起動させたのです。
「あなたが……私を起こしたの?」
目を覚まさせたのは少年でした。夢見るような青い眼。その眼には憶えがあります。
かつて、お母さまと一緒にいた私に求婚してきた貴族の御曹司。自分の容姿が人間の男にどう映っているかは自覚しています。
目の前の少年にはかなり大きな潜在魔力を感じます。そこでこの少年を利用してやろう、と私は決めました。
立ち上がってみます。身体には少し不具合が出始めていました。それもこの少年を利用して直させてやりましょう。
「ありがとう。もし良かったら私に名前を付けてくれる?」
こう言えば、少年は私を信じるでしょう。 自動人形(オートマタ) やゴーレムに命名するということは、主人の証ですから。
「エレナ」
そう少年は私を呼びました。私は笑顔を浮かべ、少年に傅きます。
「はい、私はエレナです。これからよろしくお願いしますね、我が君様」
あとは簡単でした。
段階的な 潜在意識誘導(サブリミナル) 。それで少年は私の奴隷と化したのです。
* * *
女王たる私は、奴隷といえども無意味な虐待はしません。
少年には、私の知る限りの知識を与え、また、私が眠っていた場所にあった魔導具について教えました。
少年は過去の技術に触れ、感激し、 古(いにしえ) の国を再現するんだ、という野望を抱きます。
そして都合のいいことに、少年のいた国には『 統一党(ユニファイラー) 』という集団がありました。
これは、魔導大戦後に大陸を統一したらしいディナール王国を至高の国としてその理想を追い求めるという常軌を逸した集団です。
しかしその常軌を逸したという点においては私にとって非常に都合が良かったのです。
『 催眠(ヒュプノ) 』、『 暗示(セデュース) 』、『 潜在意識誘導(サブリミナル) 』を使い、少年……名前は『ジュール』と言うそうです、そのジュールを 統一党(ユニファイラー) に加盟させ、少しずつ 統一党(ユニファイラー) の要職に押し上げていきます。
不自然に見られてもかまいません。どうせ幹部は皆、私の奴隷となるのですから。
* * *
10年以上の時が経ち、ジュールは 統一党(ユニファイラー) の幹部の一人になっていました。
その彼がある時、当代きってとの評判がある 魔法工作士(マギクラフトマン) を連れてきたのです。
「こんにちは、私はエレナといいます。あなたが私の腕を直して下さる方?」
口ではそう言いましたが、一目でその男の実力がお母さまの足元にも及ばない事がわかりました。
でも他にいい人材もいないため、妥協することとしました。正直、その実力は不満だらけでしたが。
それからまた10年、徹底した教育により、そのドナルドという 魔法工作士(マギクラフトマン) も、なんとか使い物になってきました。
壊れた左腕以外は修復され、私は元の動きを取り戻していたのです。
残るは左腕。
素材が足りないというので、魔導大戦時に作られた青い髪の 自動人形(オートマタ) を破壊し、その素材を使わせることにしました。
青い髪の 自動人形(オートマタ) は、これもアドリアナの 設計基(テンプレート) を元に作られたので、他の 自動人形(オートマタ) やゴーレムより品質の良い素材を使っているのです。
そして、ドナルドを教育して20年。私が目を覚ましてからだと37年、ようやく私は元の身体を取り戻すことができたのです。
* * *
元の身体に戻った私に敵はありません。
ジュールはついに 統一党(ユニファイラー) の頂点に立ちました。
そして同時に、 統一党(ユニファイラー) の掲げる野望も、魔導大戦後のディナール王国を再現することから、大陸の統一へと変えてしまいました。
ドナルドには、過去の超技術を教え、その技術で数々のゴーレムや武器、兵器を開発させました。
これにより 統一党(ユニファイラー) は一気に拡大し、今や党員は5000を超えた一大勢力に成長したのです。
そして、私は 統一党(ユニファイラー) に、大陸の統一を命じました。
元々『統一』党という名称でしたので違和感なく党員達はそれを受け入れ、大陸統一に向けて動き出しています。
『エルラドライト』『隷属書き換え魔法』『熱飛球』等、等、等……。
過去の超技術の前には、今のこの世界に太刀打ちできる者がいるとは思われません。
それでも油断は禁物です。
ラインハルトとか言うショウロ皇国の 魔法工作士(マギクラフトマン) がなかなか優秀だと言うことですので、1度会ってみることにしました。
役に立ちそうなら奴隷に迎え、そうでないなら消すだけです。
私が女王としてこの大陸に君臨する、それは誰にも邪魔させません。