軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09-36 夢の後

『それでは私は事後処理を始めるとしますか。捕虜にした2名がいますしね』

「ええ、それでは私はお父さまの後を追います」

『はい、礼子さん。 御主人様(マイロード) をよろしく。そして、昨夜、ラインハルトさんの傍にいた精神操作された者を解放した、とお伝え下さい』

「了解しました」

礼子はカイナ村へと向かう。そして老君は、己の責務を全うすべく活動を開始した。

『さて、それでは事後処理として、まずは尋問からですね……』

老君は、まだクライン王国に残っているファルコン、その中に捕らえてある捕虜の尋問をさせるべく、指示を出した。

* * *

ラインハルトは補給基地にいた。

アスタンの街の外、北へ1キロメートルほど離れた場所。

周囲は露岩地帯で、岩を削り、柱を立て、梁を渡し、とうまく利用して櫓、倉庫、宿舎、厩舎などが作られている。

「気が重いよ」

独り言を呟きながらラインハルトはマテウスと共に宿舎の間を歩いていた。朝食を済ませたところなのである。

昨日はここに着くまでの道中、警護をしているマテウスに、『あの2体の黒いゴーレムは何だ』『新しい黒騎士か』『なんでいつの間にかいなくなったんだ』などと尋ねられ、『よくわからない』『俺は知らない』『味方らしいからいいじゃないか』『もう疲れて眠いんだ』などとなんとか誤魔化し、追及をかわした。

マテウスもなんとなく事情を察してくれたのか、それとも単純に諦めたのか、今朝は何も追及してこなかった。

だが、この補給基地にはもう1人、会いたくない人物がいたのである。

「おお、ラインハルトじゃないか。こっちに来たのか」

内心でだけ、ラインハルトは顔を顰めた。

そこに現れたのはエルザの兄、フリッツ。

交代の時期なので、彼も帰国の途にあったのである。

周りには心配そうな顔をした部下が数名付き従っている。

「襲われたそうだな? セルロアには俺が厳重に抗議しておくからな。まあ居心地は宿屋より悪いだろうが、その代わり安全だ」

フリッツはにこやかにそう言った。ラインハルトは少し違和感を感じる。

「ん? どうした? 俺の顔に何か付いているか?」

まじまじと見つめていたらフリッツが怪訝そうな顔をしてラインハルトにそう尋ねた。

「い、いや、何も付いていないが、なんとなく雰囲気が変わったかな、と思ってな」

「うーん、そうかあ? 今朝から会う奴会う奴みんなそう言うんだが、俺は俺だぞ?」

苦笑いするフリッツを見て、マテウスも黙っていられなくなった。

「少佐、本当に、何かあったのではないのですか?」

その問いにフリッツは眉を少しだけひそめた顔をした。

「何もないなあ。強いて言えば、夢見が悪かったくらいだ」

「夢見?」

「ああ。あろう事か、頭を殴られて気を失う夢を見てしまった」

「……」

「夢だからな? 頭にコブができているわけでもないし」

ぽんぽん、と頭を叩いてみせるフリッツ。それを見たラインハルトはわけがわからなくなり、

「ま、まあいい。僕は部屋へ行くよ」

と、とりあえずこの場を去ることを選んだ。

「ああ、わかった。勤務時間が終わったらそっちへお邪魔するとしよう。……マテウスは一緒に来い。昨日の話を詳しく聞かせてもらおう」

ラインハルトが宿舎に戻ると、テーブルの上に見なれた魔導具が乗っていた。 魔素通信機(マナカム) である。

「いつの間に……さすがだな、ジン」

一つ頷いてそれを懐にしまうラインハルトであった。

* * *

『首尾はどうでしたか?』

老君は、浮沈基地から密かにラインハルトの元へ派遣した 第5列(クインタ) の1体、デネブ30に 魔素通信機(マナカム) を通じて尋ねた。

「はい、 衝撃(ショック) の魔法を使い、上手く処理しました。誰にも気付かれておりません」

『そのようですね。つい今し方、ラインハルトさん専用 隠密機動部隊(SP) のコスモスから報告が入りました。フリッツ少佐に掛けられていた 暗示(セデュース) と思しき魔法は解除されている、と』

* * *

エゲレア王国首都アスント。

ブラオロート財務相は頭を抱えていた。今回の襲撃により、更に国庫の負担が増えたのである。

そして、ジュードル防衛相と宰相であるボイド・ノルス・ガルエリ侯爵も2人揃って頭を抱えていた。

「とにかく、このリストが本当であったら一大事ですぞ」

ジュードル防衛相の前に広げられた1枚の羊皮紙。そこには十数名の名前が列挙されている。いずれも各省庁の要職にあったり、重要都市の統治に関わっていたりする貴族だ。

そのリストのタイトルには『 統一党(ユニファイラー) の傀儡』と書かれていたのである。

「とにかく、1人1人当たってみないことにはどうしようもないですな」

「うむ。一番最後に、『 暗示(セデュース) の解除には 衝撃(ショック) の魔法を使うべし』とありますが、真実でしょうか?」

「さて、な…… 暗示(セデュース) などという魔法は聞いたこともない。そなたもそう言っていたではないか」

「は。このジュードル、不勉強でありました」

* * *

クライン王国西方の都市、テトラダは午後になりようやく秩序が回復してきたところであった。

「副団長、全員整列、終わりました!」

「うむ、ごくろう」

クライン王国第3騎士団が整列している、が、鎧兜もなく、剣や槍もない状態なので、どうにも様になっていない。

「未だに状況は不透明であるが、フランツ王国軍は撤退した。1班と2班が偵察に出て、確認した。間違いない」

僅かなざわめきが起こる、がそれもすぐに消えた。

「あの巨大ゴーレムはその気になれば我々を、いや敵軍も含めて殲滅できたはずだ。皆、一様に気を失っていたのだからな。おまけに武器防具も無くなってしまった」

隣にいる臨時副官に話しかけるニクラス副団長。

「確かに、そうですね。いったいどこから来たものか」

「考えても答えは出るまい。それよりもこれからの事を考えねばならん。今回の死傷者はどれくらいいる?」

「そ、それが……」

「ん? どうした?」

口ごもる臨時副官。それを訝しんだニクラスは眉をひそめる。

「まさか、かなり多いのか?」

すると臨時副官は慌ててそれを否定。

「い、いえ、逆です! 死傷者はおりません!」

「何?」

「昨日から本日に掛けての戦闘で負傷した者は多数おりました。特に昨日の戦闘で瀕死の重傷を負った者も。しかし、先ほど確認したところ、全員が回復しております」

「なん……だと……」

それこそ訳がわからない話である。何もしていないのに重傷者が回復した。いや、もしかして……、とニクラスは想像する。

「あの巨大ゴーレム、あれが何かしたのかも知れんな」

そして更にその巨大ゴーレムが言った言葉を思い出す。

「『過去を振り返るのではなく、未来を築くために力を振るいなさい。破壊のためでなく、創造のために生きなさい』、か。そんな世の中、あながち、夢物語でもないかも知れないな」

* * *

「クライン王国とエゲレア王国に派遣した熱飛球が連絡を絶ちました」

「何!? あれを落とせる者がいるというのか? 1つ2つならまだしも、全部をだぞ?」

「フランツ王国軍は国境に向けて撤退中だという事です」

「ゴーレムは! ゴーレムはどうした! 密かにアスント城に運び込んだ戦闘用ゴーレムは!」

「それも破壊されたと、鳩が報告を運んできました」

「うぬぬぬ……いったい、何が起こったというのだ!」

『我が君様』

そこへ鈴を転がすような声が割って入った。

「お、おお、エレナか。今、どこだ?」

『はい、ドナルドと共にそちらへ戻る途中です』

「ふむ、ようやくお前の顔が見られるな。楽しみだ。で、ラインハルトはどうなった?」

『消そうとしたのですが、忌々しいゴーレム達に邪魔されました』

「何? エレナがそう言うところを見ると……」

『はい、以前にも言いましたが私の仇敵、その流れを汲む者がいるようです』

「ううむ、まさか……」

『何か心当たりがおありなのですか?』

「ああ、少し前に、第8支部を壊滅させた者がいてな、ジンとかいうゴーレム使いらしい」

『詳しくお聞かせ下さい』

「うむ、そやつは…………」

エレナは説明を黙って聞いていたが、聞き終わると少し声を荒らげた。

『我が君様、もう少し早くそれをお聞かせいただきたかったですわ』

「す、すまない。我々に匹敵するゴーレムなどおらぬと思っていたのでな」

エレナは一方的に連絡を切ったようで、声はもう聞こえなかった。

* * *

カイナ村の広場は煙でもうもうとしていた。

「ゲホッ、煙い。あとはサラ、頼むよ」

「はい、ご主人様」

今、カイナ村ではロック達が獲ってきた山鹿の肉を燻製にするため、クェリーの木を細かく砕いたチップを燃やしているところ。

燃やすと言うより燻らせて煙を出しているので煙い。そこでサラの出番だった。呼吸しなくていいゴーレムメイドのサラは黙々と作業をこなし、あっという間に燻製の準備は終わってしまう。

あとはこのまま肉の水分が抜けるまで煙で燻し続けるだけだ。

「楽しみだなあ、今晩の酒はさぞ美味いだろうぜ」

「あんた、飲み過ぎは駄目だからね!」

カイナ村は平和である。