軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09-35 デウス・エクス・マキナ

城塞都市アスントは10メートルの高さを持つ城壁で取り巻かれている。

その形は1辺が5キロの正方形に近い形をしており、その内部、北側の城壁に接して王城がある。

外宮と呼ばれる防衛城郭は北側の城壁から同じ高さで伸び、ほぼ正方形に外宮を形作っている。

この外宮北側の城壁はすなわちアスントの城壁で、王軍は北にある城門から出撃することになるわけだ。

その外宮に守られて、王が住み、政治の中枢となる内宮がある。外宮と内宮を隔てる壁の高さは3メートル、城壁の3分の1以下。

ゆえに内宮の中心付近からは、外側の城壁を見る事が出来る。

その内宮から見えている城壁よりも高く聳えて、巨大なゴーレムが見下ろしていたのである。

「う、わ、わ……」

「あ、あれ、は……」

見た者が恐怖におののいていると、そのゴーレムの掌から何者かが城壁の上に立つのが見えた。

黒い服、見たことのない銀色の兜。背は高い方か。体形からして男性と思われる。

「何者だろうか。敵か、味方か」

見つめている者達全員が同じ想いを抱いていた。

「諸君!」

その謎の人物の声が響いた。何らかの魔法が使われているのであろう、内宮外宮の隅々まで届いている。

「私はデウス・エクス・マキナ。一部の者からは謎のゴーレム 使役者(マスター) などと呼ばれているようだ」

仁が、老君と相談して作った原稿を読み上げるようにして言葉を紡ぐ。声質ももちろん少し変えてある。

「デウス・エクス・マキナだと?」

「聞いたことがない。いったい何者だ? 何が目的だ?」

居並ぶ人々がざわつく。だが、デウス・エクス・マキナと名乗った人物が手を一振りすると、また静まりかえった。

「戦争は無益だ。何も生み出さない」

デウス・エクス・マキナは語る。

「土地は広く、人間は少ない。同族で争う愚を犯すな」

一部の人間は心中で肯いた。

「未だ人間は魔導大戦時の文化に追いついていない。それは事実だ。だが、過去を目指すのは馬鹿げている。過去は決して戻らないからだ」

その言葉に眉をひそめた者もいる。

「過去を目指すな。今を見据えろ。未来を切り開く努力をしろ」

デウス・エクス・マキナは更に声高く、叫ぶようにして語る。

「この忠告を聞く聞かないは自由だ。しかし、忠告を聞かない場合にはこちらにも考えがある」

そう言ってデウス・エクス・マキナは壊れたゴーレムを指差す。

「見ろ」

人々の視線がそちらに集まる。と、その目が驚愕に見開かれることとなった。

破壊されたゴーレムが見る見るうちに赤熱し、さらに白熱して融けてしまったのである。

「わかったかな? 私が望むものはただ一つ、平和だ。共存と言い換えてもいい。難しい事ではないはずだ」

デウス・エクス・マキナはそこで言葉を切り、人々を見渡す。

「私は、争いごとが起きない限り姿を現すことはしない。よく考えてくれ」

そう締めくくると、デウス・エクス・マキナは巨大ゴーレムの肩に飛び乗る。と同時に巨大ゴーレムはくるりと向きを変え、アスント城に背を向けた。

その時、1人の魔法騎士が攻撃魔法を放とうと詠唱を唱えた。

「『 風の斬撃(ウインドスラッシュ) 』……! なぜ? 魔法が使えない!」

デウス・エクス・マキナはゴーレムの肩から振り返ると、

「言い忘れた。私は魔法を無効化するどころか、使えなくすることも出来るのだ。無駄なことはやめたまえ」

そして今魔法を使おうとした魔導騎士を指差す。

「ぎっ!」

するとその魔法騎士は短い悲鳴を上げたかと思うといきなり硬直。そのまま昏倒した。

「残念だが、彼は 統一党(ユニファイラー) の操り人形だったようだな。だがこれで正気に戻るはずだ。あとで操り人形と判明している人物の一覧をお送りしよう」

デウス・エクス・マキナはそう言ってまた人々に背を向ける。

「では、また会うときが来ないことを祈るよ」

そして、今度こそデウス・エクス・マキナは巨大ゴーレムと共に去っていった。

* * *

蓬莱島司令部では仁が悶絶していた。

「うあああああ、こっ恥ずかしいいいいい!」

台本を読み終え、そのあまりにもアレな口調に耐えきれなかったのである。

「ごしゅじんさま、落ちついて下さい。格好良かったですよ」

アンが慰めている。

「魔導大戦の前はああした話し方や見栄の切り方が普通でした」

国同士の小競り合いとかでは貴族がああした大げさな物言いをしたものだ、とアンは語る。

「……やっぱり大げさだよな」

あまりアンの慰めは役に立っていないようだ。

『 御主人様(マイロード) 、この後の指示をお願いします』

そこに老君からの要請が入ったので、仁も気持ちを切り替えた。

「だいたいこっちの予想通りに展開したからな、事後処理も計画した通りでいいだろう」

『わかりました』

「じゃあ、俺はカイナ村に行ってるから、何かあったら連絡をくれ」

* * *

戦争を止める、という柄にもないことをやった仁は、どうにも落ちつかず、癒しを求めて大急ぎでカイナ村へ跳んだ。

「あー、おにーちゃん! なにやってたの? もうじきおひるだよ?」

仁の顔を見るなりハンナがそう叫んだ。戻ってくるのが遅かったのでややおかんむりだ。

「ごめんごめん、ちょっと向こうの家でやっておくことがあってさ」

「もう。またいなくなっちゃったのかとおもってびっくりしたんだからね!」

「ごめんな。これからはちゃんと連絡するから」

ハンナの頭を撫でながら仁は謝った。撫でながら、ささくれ立った心が落ちつくのを感じる。

「あのね、きょうは森へたきぎひろいにいってきたの。けさロックおじちゃんたちが山鹿いっぱいとってきたから、くんせいつくるんだって」

雪室を見たロックがそんなことを言っていたのを思い出した仁。

「そうか、わかった。作るの手伝うか」

「うん!」

機嫌を直したハンナは、仁の手を引っ張って燻製を作っている広場へ向かっていった。

* * *

その頃、タイタン2号と礼子が蓬莱島に帰還していた。 転移門(ワープゲート) 経由なので一番早い帰還である。

『おかえりなさい、礼子さん』

「老君、お父さまは?」

いつもならいるはずの仁の姿が見えないので礼子はそう尋ねた。

『 御主人様(マイロード) は……一足先にカイナ村へ行きました』

老君は、礼子の機嫌が悪くならないか、少しだけ心配しながら真実を告げる。

「そうですか。ハンナちゃんに会いに行ったのですね」

だが、そんな心配をよそに、礼子は微笑みながらそう言ったのである。

「お父さまはハンナちゃんが一番大事なようですものね」

少しだけ不思議な気がしたので、老君は思い切って礼子に尋ねることにした。

『礼子さん、貴女にとってもハンナちゃんは特別なように見受けられますが、あってますか? もちろん 御主人様(マイロード) を除いて、の話ですが』

すると驚いたことに礼子が笑ったのである。

「ふふ、気が付きましたか。はい、私はお父さまの次にハンナちゃんが大切ですよ」

『理由をお聞きしても?』

「もちろん。ハンナちゃんは、お母さまに良く似ているのです」

『礼子さんのお母さま、といいますと、先代ですか』

「ええ。アドリアナ・バルボラ・ツェツィお母さまに、です。もちろん魔力パターンが似ているなどと言うことはありませんよ。それどころか、ハンナちゃんは魔法使えませんしね」

『と、いうことは外見が?』

「そうです。お母さまがお若かった時、いえ、幼かった時、きっとあのようなお姿だったことでしょう」