軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09-29 お引っ越し

雪室(ゆきむろ) を作り終えた仁は、マーサの家に戻った。

昼食時、ミーネから相談したいことがある、と言われていたのである。

「で、何だろう?」

マーサの家の食堂で、仁、ミーネ、エルザ、マーサ、ハンナは顔をつきあわせた。

「はい、率直に申し上げますと、私とエルザはこの村で暮らしたいと思うんです」

「何だって?」

流石にいきなりのことで仁も驚いた。

「マーサさんとお話をさせていだきまして、この家に置いていただける事になりました」

そのミーネの言葉にマーサも続けて説明する。

「いろいろ話したんだよ。ミーネさんは読み書きが出来るって言うじゃないか。この村に慣れてもらったら、ゆくゆくは子供たちに読み書きとか教えてもらえたら、と思ってね」

仁は納得する。

「ああ、それはいいですね。読み書きが出来て悪い事はないですし」

「繕い物なら得意ですから、他にも洋服の仕立てでなんとかやっていけるのではないかと思います」

他にもいろいろな手伝いが出来ると思う、とミーネは締めくくった。そして最後に、

「いつまでも母子でお世話になっているのは心苦しいですし、ね」

「わー! おばちゃん、ずっとうちにいてくれるの?」

今まで黙って聞いていたハンナが声を上げた。

「ええ、そうよ。いいかしら?」

「うん! うれしいなあ! おねーちゃんもいっしょ?」

「ええ、そうよ。ね、エルザ?」

「ん、もちろん」

予め話し合っていたのだろうか、エルザも即答した。

仁はそんな2人を笑って見つめる。

「そうか、2人で決めたんなら俺は何も言うことは無いな。むしろ応援するよ」

「ありがとうございます、ジン様」

「ありがとう、ジン兄」

「そうなるといろいろ忙しくなるな。まずは荷物を持ってこないと。それから部屋の片付け、かな?」

仁がそう言うとマーサが笑いながら言った。

「ジン、部屋の方はあたしが仕度しておくから、荷物を持ってきてお上げ」

「わかりました」

それで仁はミーネと2人、崑崙島へ荷物を取りに戻ることにした。もちろん礼子は付いてくる。エルザはハンナと待っていることになった。

コマともう1体のゴーレム馬を使ってシェルターに行き、蓬莱島経由で崑崙島に跳ぶと、ミーネは早速荷造りを開始した。

とはいえ、まだそれほど多くの荷があるわけではない。旅行鞄3つ分、と言えば見当が付くであろうか。

「お待たせしました、ジン様」

両手に大きな荷物を提げ、背中にも背負っている姿を見て、

「礼子、1つ持ってやってくれ」

と仁は言い、自分も荷物を1つ、ミーネから半ば強引に受け取った。

「済みません、ありがとうございます」

恐縮するミーネだが、仁は笑って荷物を運んでいく。かなり辛いがそこは矜恃があるので顔には出さない。

カイナ村に戻れば、シェルターにはゴーレム馬が待っているから楽である。

マーサの家に戻ると、既に部屋の掃除は終わっていた。マーサの息子夫婦が使っていた部屋だそうである。

因みに仁が使っているのは客間。ハンナは両親が亡くなってからはマーサといっしょの部屋であった。

礼子も手伝い、荷物の片付けはすぐに終わる。

「何か足りないものがあったら言ってくれよ」

仁がそう言うと、ミーネは嬉しそうに肯き、

「はい、その時はよろしくお願いしますね」

と言ったのである。エルザもどことなくほっとした顔をしていた。

急に家族が増えたので、小麦や大麦の備蓄が足りなくなるだろうと、今度は仁1人で蓬莱島へ戻った。礼子はもちろん一緒である。

「うーん、何かあった時のために、専用ゴーレムも付けておくか」

そろそろ仁の平常運転が始まった。

ゴーレムメイドと同じスペックで1体作り上げる。但し多少のカスタマイズは施しておくことにした。

その内容としては、いざという時の戦闘力を上げたこと。具体的には右手に 麻痺銃(パラライザー) を仕込み、左手には 魔力妨害機(マギジャマー) を仕込んだ。

他にも仁がずっと 麻痺(スタン) だと思っていた 衝撃(ショック) や 電磁誘導(インダクション) も使える。

そして 消身(ステルス) 機能と 魔法障壁(マジックバリア) も備えていた。もちろん 魔素通信機(マナカム) 内蔵。

服は蓬莱島ゴーレムメイドの標準服だ。つまり 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸で織った布。

目は礼子と同じ 黒曜魔石(マギオブシディアン) を使って黒にしてみた。

「礼子もそうなんだけど、 黒曜魔石(マギオブシディアン) って光と闇の属性があるんだよな。闇に偏っている分、光を受ける、つまり『視る』ためには絶好なんだよなー」

誰に言うともなくそんな独り言を言いながら、仁はカスタマイズを終えた。

「起動、命名、……『サラ』」

「はい、ご主人様。私は『サラ』です」

女性型ゴーレムとして悪くない名前のようだが、食器の皿からの命名であることは仁の脳内だけの秘密である。

「よし、早速だがサラ、倉庫から小麦と大麦を1袋ずつ持ってくるように」

「わかりました」

知識転写のおかげで、蓬莱島の勝手も知っているサラは倉庫へと向かった。

最近、老君が一部の 第5列(クインタ) に命じて食料備蓄にも励んでいるため、麦関連はかなり潤沢な在庫があった。

「ごしゅじんさま、お帰りでしたか」

そこへアンがやってきた。

「老君からの報告はありましたか?」

そう尋ねられたので仁は首を振った。

「いや、何も」

「そうですか。緊急ではないのですが、幾つか報告があるのです。どういたしましょうか?」

「うーん、そうだなあ。緊急じゃないのなら、カイナ村に行ってまた戻ってくるから、その時に聞こう」

仁がそう言うとアンは肯き、

「わかりました。では資料なども確認しておきます」

そう言って部屋をあとにした。仁はその背中に向かって、

「うん、そうしてくれ」

と言ったのである。

ちょうどアンと入れ替わりにサラが戻ってきた。小麦と大麦の袋を両肩に担いでいる。

「よし、じゃあ行くか」

マーサの家では仁がわざわざ麦を持ってきたので苦笑いしていた。

「ジンも律儀だねえ。でも折角だからいただいておくよ」

マーサにはそんなつもりはないが、ミーネやエルザもその方が肩身の狭い思いをしなくて済むだろう、との判断である。

「で、せっかくなんで、専用にメイドゴーレム作ってみた」

そう言って仁はサラを紹介する。

「サラと申します、よろしくお願いいたします」

「まあまあ、なんてことだろうね、ジンも大概だねえ」

「きょ、恐縮です」

マーサは更に苦笑する。ミーネもまさか元侍女である自分がゴーレムとは言えメイドを持つ事になるとは思わなかったようだ。ハンナも目を丸くしている。

まあいろいろあったが、命令権の優先度を決めることになった。製作者である仁は別格として、話し合った結果、マーサ、ミーネ、エルザ、ハンナの順とした。

「しかし侍女なんてわざわざねえ、ジンらしいっちゃらしいけどね」

マーサはまだ言っている。

「まあ、力仕事とかにも使えますから」

カスタマイズしてあるので5色ゴーレムメイドの1.5倍の力がある。普段は2人力くらいで抑えているがだいたい10人力まで出せるとみていい。

見かけからは想像できないだろう。

「まあ留守番とかしてもらおうかね」

マーサが笑ってそう言った。畑仕事で留守の間などの来客とかには便利だろうとの思いからである。

便利になってもそれに寄りかからないのはカイナ村の美徳とも言える。

「まあ、俺からの引越祝いだと思ってもらえればいいかな」

そう言って仁も笑った。

そしてハンナのミントを改造がてら整備していく。そんな作業をエルザは興味深そうに見つめる。ハンナはミーネと一緒にサラを眺めていた。

「その部分が隷属書き換え魔法への対策なの?」

エルザの質問。

「ああ、そうさ。人型ゴーレムだけじゃなく、ゴーレム馬だって操られたら嫌だからな」

「うん、あれは非道い。対策はしておくべき」

その被害を身を以て体験したエルザは深く肯いた。

「よし、これで終わり。あとはエルザ、こっちのゴーレム馬はエルザ用に置いていくから、名前を付けてやってくれ」

そう言って、白銅製のゴーレム馬を指し示した。

「え? 私のなの?」

仁が肯く。エルザは顔を僅かに紅潮させ、

「じゃあ、『スノウ』」

と名付けたのである。