軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09-28 過去の亡霊

ラインハルトはセルロア王国の 魔法工作士(マギクラフトマン) ドナルド、そして 自動人形(オートマタ) のエレナと話を交わしていた。

今はゴーレムの構造についてである。

「そうですわね、今のゴーレムは単純すぎます。作りが雑です。昔のゴーレムはもっともっと作り込まれていました」

エレナが言う。

「同感です。ゴーレムや 自動人形(オートマタ) は人間を模したもの。ならばなぜ人間の身体構造を真似しないのか?」

知らず知らず、口が軽くなっていたラインハルトがそう言うとエレナの目が光ったような気がした。

「ラインハルト様。ドナルド様に伺っております。あなた様も内骨格型のゴーレムをお作りになるとか」

「ええ、少し前までは軟質魔導樹脂を使っていたんですがね。それでは駄目だと気付きまして」

エレナはそんなラインハルトをじっと見つめる。

「それはラインハルト様がお考えになったんですの? それとも何かモデルがおあり?」

その質問をした時、エレナの目が僅かに細められた。

「それはジ……アドリアナ・バルボラ・ツェツィがそういうゴーレムを作っていたと聞きまして」

危うく仁の名前を出しかけ、慌ててそれを打ち消すラインハルト。だがそれを聞いたエレナの形相が変わった。

「アドリアナですって!? ……1000年経ってもあの女は私の前に立ちはだかるのですか!」

「……え?」

深紅の目が燃えるように輝く。今まで頭に掛かっていた薄い靄のような感じが突然消えたどころか身の危険を感じ、ラインハルトは立ち上がろうとした。が、エレナはもっと素早い。

一瞬でテーブルを弾き飛ばし、ラインハルトに肉薄。その喉元に手をあてがい、絞め殺そうとした、その時。

「させません!」

ラインハルトを守る 隠密機動部隊(SP) 、セージとコスモスが姿を現し、エレナを止めたのである。

「なっ! この動き、この波動は、アドリアナの!」

そう叫んだエレナはラインハルトから2体の 隠密機動部隊(SP) へと標的を変更した。

ラインハルトは部屋の隅に退避し、 黒騎士(シュバルツリッター) 『ノワール』を起動した。

一方ドナルドはゴーレム457号を伴ってラインハルトの反対側に位置を占めていた。

セージとコスモスの2体を相手に、エレナは奮戦していた。いや、エレナの方がやや優勢であった。

「ふふ、やはりこの程度ですか。昔の方が強かったですよ、アドリアナ!」

エレナは誰に言うともなく、そんな台詞を発しながらセージとコスモスを翻弄していた。

「何事ですか!」

その時、室内の騒ぎを聞きつけて、廊下に待機していた護衛兵が3名飛び込んできた。それを見たドナルドは、

「457号」

と、指示とも言えない指示を出した。その瞬間。

「ぎゃああっ!」

火の弾丸(ファイアバレット) が457号の手から発射されたのである。その数、実に60発。

3人に放たれた20発ずつの 火の弾丸(ファイアバレット) は、護衛兵達の頭、胸、肩、腹、そして両手両脚を貫き、命を瞬く間に刈り取る。

「貴様! 『 炎玉(フレイムボール) 』!」

それを見たラインハルトは 炎玉(フレイムボール) をドナルドに向け放った。 炎玉(フレイムボール) は直径1m程の炎の弾である。本来部屋の中で使うような魔法ではない。

だが、迫り来る 炎玉(フレイムボール) の火球を、457号は掌を当てただけで消してしまったのである。

「何だと……?」

「ふふふ、ラインハルト君、残念だよ。私としては君を仲間に引き入れたかったのだが、エレナがああなってしまってはそれも無理だ。ならば私の取る道は1つだけ。我々の未来のため、死んでもらう」

そう言ってドナルドはゴーレム457号に指示を出した。

「ラインハルトを殺せ!」

「そう簡単にやられてたまるか! ノワール、迎え撃て!」

ここに、 黒騎士(シュバルツリッター) ノワール対ゴーレム457号、そして 隠密機動部隊(SP) セージとコスモス対エレナ、の二極化した戦闘が開始された。

セージとコスモスは苦戦していた。彼女達に与えられた、ベテラン諜報員の持つ格闘技をもってしても、エレナには及ばないのだ。

「駄作の分際で生意気よ!」

だが、2対1ということもあって、辛うじて互角に持って行けてはいた。加えて、エレナの左腕の動きが、右腕に比べてやや悪く、そのため何とか隙を突くことができている状況だ。

しかし速さ、力共にエレナの方が上回っていた。セージとコスモスは同型同士にのみ可能な連携でエレナに対抗し、致命的な攻撃を受けることなく戦えていたのである。

一方、ノワールと457号は、壁をぶち抜きながら戦闘を続けていた。

力、速さはノワールが上。対して技と魔法を駆使する457号。

今、457号が発した 風の刃(ウインドカッター) が更に壁を崩したところである。

「な、何事ですか!?」

宿の人間が騒ぎを聞きつけてやって来るが、

「ひ、ひええ!」

所狭しと戦いを繰り広げるゴーレムを見ると身を翻して逃げていった。

「ラインハルト!」

そこへマテウスが10人の部下を引き連れて駆けつけてきた。うち3名は魔導士である。

「おお、マテウス!」

「いったい何事だ、これは?」

「僕にもわからない。いきなり襲ってきたんだ」

仲間に引き入れたい、とドナルドが言っていたことから、 統一党(ユニファイラー) 絡みではないかとラインハルトは思ったのだが、証拠もない今、口にするのは憚られた。

「ドナルド・カロー・アルファ! ショウロ皇国外交官への乱暴狼藉、正気か!?」

一応マテウスがそう呼びかけるが、ドナルドは耳を貸そうともしない。

「まさかとは思うが、 暗示(セデュース) ……?」

ラインハルトのその呟きに反応したのはエレナであった。

「 暗示(セデュース) を知っているのね! ますます生かしておけないわ!」

そう言うと、一瞬でセージをコスモスに向けて投げ飛ばした。折り重なって倒れる2体。

その僅かな隙に、エレナはラインハルトに迫り、 風の斬撃(ウインドスラッシュ) を放った。

不可視の風の刃がラインハルトを切り裂くかと思いきや、ラインハルトに当たる手前で風の刃は弾けて消えた。

「なっ!」

ラインハルトが戦闘が始まって早々に起動しておいたバリアに阻まれたのである。

「ふう、ジンに感謝だな」

内心胸を撫で下ろすラインハルト。

風の斬撃(ウインドスラッシュ) を防がれたのを見て僅かに動きが鈍ったエレナを捕らえたのはセージ。

左腕をひねり、背負い投げ式に投げ飛ばした。投げた先にあったのは窓。エレナは窓を破って外へと投げ出された。

ここは2階。だがエレナは空中で体勢を立て直すと危なげなく着地。そして大声で叫ぶ。

「ドナルド! もういいわ! 奴らの実力はわかったから引き上げましょう!」

それを聞いたドナルド。だが、今やマテウスの部下達に取り囲まれている。

ゴーレム457号は、 黒騎士(シュバルツリッター) ノワールと、セージ・コスモスの3体がかりで取り押さえられていた。

「ドナルド・カロー・アルファ! ショウロ皇国は貴殿を外交官への傷害現行犯で拘束させていただく!」

そう宣言したマテウスは、部下に命じてドナルドを縛り上げていく。

「くっ、くくくく……これで私を捕まえたつもりかね?」

縛られてもドナルドは不敵な態度を崩さない。

「私が何の後背援護も無しにこんなことをすると思っているのかな?」

その言葉が終わるか終わらないうちに、廊下側の壁が崩れて、ゴーレム10体が雪崩れ込んできた。

「うおお!」

「マテウス!」

マテウスとその部下10名はあっけなく吹き飛ばされた。続いて、ノワール、セージ、コスモスが。さすがに不意を突かれたのである。

「くくくく、これが私の実力だ。 黒騎士(シュバルツリッター) や得体の知れないゴーレムなんぞ相手になるものか」

ドナルドはゴーレム457号の肩に乗り、居並ぶ面々をあざ笑っていた。

「貴様は 統一党(ユニファイラー) だな?」

ラインハルトが発したそれは、質問と言うより確認に近い。

「くっくっくっ、その通りだ。私は 統一党(ユニファイラー) 第2席。『過去を知る智者』ドナルド・カローだ」

最早勝ち誇ったように尊大な態度になるドナルド。

「過去を知る、だって?」

「ああ、そうだ。魔導大戦の前、魔法も魔法技術も今よりずっと進んでいた。その時代を取り戻すのが我等の悲願」

「黙れ! そのために戦争を起こし、罪もない人々を苦しめておいて偉そうに」

「ふふん、魔法を使えない者なぞ所詮は劣等種。魔導大戦で減ってしまったとはいえ我等魔導士は生まれながらの支配者なのだ」

その声には狂気がにじんでいる。

「狂信者め!」

「何とでも言うがいい。所詮負け犬の遠吠えに過ぎないのだからな。だから残念だよ。ラインハルト君、君は我等の仲間になる資格があったのにな」

「頼まれてもお断りだ。僕はもっと素晴らしいものを知っている」

ラインハルトのその言葉に、少しだけドナルドは興味を惹かれたようだ。

「ほう、それは何だ?」

ラインハルトは大きく息を吸い込み、答えた。

「それは未来だ」

「何?」

思わぬ答えに面食らうドナルド。

「過去の亡霊に囚われているお前達にはわかるまい。魔法は確かに有用だ。だが絶対じゃない。魔法以外にも、この世界には理解し、利用すべき力があると言うことを」

「理解し、利用すべき力だと?」

「いつか、お前達にもわかる時が来るだろう。だがその時にはもう手遅れだと知るがいい」

真っ直ぐドナルドの目を見据え、ラインハルトはそう告げた。

「ふんっ、世迷い言を。もう話すこともない。ゴーレム達よ、奴らをひねり潰せ」

ドナルドが命令を下した。マテウスも部下に号令を掛ける。

「迎え撃て!」

襲い来る10体のゴーレム。迎え撃つはラインハルト、マテウス、以下10人の兵士と 黒騎士(シュバルツリッター) ノワール、 隠密機動部隊(SP) セージとコスモス。

この戦闘は長くは続かなかった。

隠密機動部隊(SP) は仁謹製。ドナルドの作とは言え、番号無しのゴーレム達では相手にならなかった。それからすると、エレナの強さがわかろうというもの。

ノワールも活躍。マテウスの部下達も奮戦し、5分足らずで10体のゴーレムは沈黙した。

だが、ドナルドとゴーレム457号は姿を消していたのである。

「いったい何だったんだ?」

ようやくマテウスとラインハルトは落ちついて話が出来る状態になった。

「奴らは 統一党(ユニファイラー) だったんだ。で、僕を殺しに来た」

「だからこんな宿屋でなく、補給基地に泊まれと忠告しただろうに」

マテウスが苦言を呈する。

「いや、あそこって、ちょうど、ほら、あの人もいるんだろう?」

それに反論しようとしてラインハルトは言いにくそうに口ごもった。

「……まあ、気持ちはわかる。フリッツ少佐は俺も苦手だが。でもな、命あっての物種だぞ?」

「まあ、な……」

友人の忠告に、今は従うしかない、と思うラインハルトであった。

更に、仁から預かっていた 魔素通信機(マナカム) が壊れてしまっている事に気付き、落ち込んでしまう。

そんなラインハルトを見たマテウスは落ち込んだ理由を知りもせず、訳知り顔で肩を叩くのであった。