軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09-25 マーサとミーネ

崑崙島で遊んだ日、ハンナは泊まっていくことになった。

マーサにはゴンかゲンを通じて連絡をしておくことにする。

「今日はおばちゃんのところにおとまりするのー」

ミーネにもすっかり懐いた様子のハンナを見て、仁は安心する。

1日遊んで疲れたハンナは夕食を済ませるとおねむになったようで、うつらうつらし始める。

それをミーネが抱えて運び、自分とエルザの部屋に敷いた布団に寝かせた。

眺めていた仁は、ミーネがすっかり母親してるなあ、と感心する。

「それじゃあ俺は蓬莱島に帰るから、ハンナをよろしく。また明日の朝迎えに来るよ」

「はい、ジン様、お疲れ様でした」

「ジン兄、また明日」

「うん、それじゃあお休み」

そう言って仁は礼子を連れて蓬莱島へ戻った。

転移門(ワープゲート) を出ると、そこにはトパズ43が立っていた。

「お帰りなさいませ、御主人様」

「お、トパズか。どうした?」

「はい。老君の命により、交代でここに詰めることになりました」

それを聞いた仁はピンと来た。エルザ失踪事件が再び起こらないようにとの老君の配慮である、と。

「そうか、ご苦労」

そう言葉を掛けて、仁は工房へ戻った。

「老君、さっそく対処してくれたんだな」

備え付けの 魔素通信機(マナカム) で老君に感謝の意を告げる仁。

『はい。暫定的にメイドゴーレムに詰めさせることとしました。将来的には専任のゴーレムに任せたいと思います』

それには仁も同意する。

「うん、そうだな。今のごたごたが終わったらじっくりやろう」

そして、

「ゴーレム達への武器は何か出来たのか?」

と質問する仁。

『はい、やはり剣と盾は欲しいと思います』

「うん、オーソドックスだがいいよな。でも普通の剣じゃつまらないな……」

すっかりリラックスした仁には、いいアイデアがひらめいたようだ。

「 超高速振動剣(バイブレーションソード) ……マギ・アダマンタイトの刃を超高速で振動させるんだ」

マギ・アダマンタイトなら、刃こぼれの心配もなく、通常より薄い剣にすることが出来る。それを魔法技術で超高速振動させれば、あらゆるものを切り裂く剣が出来るのではないか。仁はそう思ったのである。

仁のゴーレムだけに使えるセキュリティを掛ければ悪用されないだろうし、魔力を通さなければマギ・アダマンタイトはアダマンタイトよりも弱いのだ。

『 超高速振動剣(バイブレーションソード) ですか。わかりました、試してみます』

こういった武器であれば、仁の許可さえ出れば、その手を煩わせることなく老君だけで開発可能だ。

『 御主人様(マイロード) 、ラインハルトさんからの定時連絡は私が受けておきました。本日はセルロア王国の 魔法工作士(マギクラフトマン) と会って有意義な時間を過ごされたそうです』

「ふうん、ラインハルトにはあとで話を聞いてみたいな」

そう言いながら仁はあくびをした。

『 御主人様(マイロード) 、お疲れでしょう、お休みください』

蓬莱島は崑崙島より1時間ほど夜が早い。仁も少し疲れが出ていた。

「お父さま、老君もこう言っています。今日はお休みください」

礼子も仁の体を気遣ってそう提案した。仁はそれに素直に従う。

「ああ、そうするよ」

その後ろに付き従って寝室へ向かう礼子。その礼子は、

「よかった、すっかり元のお父さまですね」

誰にも聞こえないような小さな声でそう呟いたのである。

* * *

翌朝、仁は朝食前に崑崙島へ跳んだ。

崑崙島現地時間で6時。どんぴしゃでハンナが起きたところだ。

顔を合わせたのは館の洗面所。ハンナは驚きつつ、水道から出る水で顔を洗っているところだった。

「おはよう、おにーちゃん」

「おはよう、ハンナ」

仁とハンナは朝の挨拶を交わした。

「よく眠れたかい?」

「うん! あのね、おばちゃんといっしょにねたの!」

「ミーネと? そうか、良かったな」

「うん」

そこへミーネとエルザもやってくる。

「おはようございます、ジン様」

「ジン兄、おはよう」

「おはよう」

朝の挨拶後、外へ出てみる4人。今日も快晴だ。

「わー、いいてんき!」

ハンナは館前の庭を駆け回ってはしゃいでいる。

「ジン様、今日ハンナちゃんを送っていくのでしょうか?」

ミーネがそう尋ねてきた。仁は肯く。

「でしたら、エルザがお世話になったことですし、むこう様にお礼方々御挨拶してきたいのですが」

「なるほどな、いいよ、一緒に行こう」

ミーネの気持ちもわかるので、朝食を済ませたら、仁、ハンナ、ミーネ、そしてエルザの4人でカイナ村へ行くことにした。

朝食はパンと燻製肉の薄切り、サラダ、シトランジュース。

ハンナはサラダ作りの手伝い、エルザは燻製肉を薄く切ったり、シトランを絞ってジュースを作ったり。

「おみやげにシトランを持っていくというのもいいな」

仁はそう思いついた。この島、というか蓬莱島と崑崙島のシトランやペルシカ、アプルルなどは四季成りである。気候のせいか、それとも別の要因があるのかはわからない。

仁は地中に含まれる 魔力素(マナ) が影響しているのではないかと推測してはいたが。

「いただきまーす!」

ハンナの音頭で朝食が始まる。

「ハンナ、朝ご飯食べたらカイナ村へ送っていくからな」

「……うん、わかった」

少しだけ寂しそうな顔をしたが、ハンナは素直に肯いた。そんなハンナを見たミーネは、

「大丈夫よ、ハンナちゃん。おばさんとエルザも一緒に行くから」

と言って慰める。

「え、ほんと? おばちゃんもいっしょ? わーい!」

1日で随分と懐いたようである。

ゆっくりと食事の後片付けをしたあと、シトランを冷蔵庫から出して籠に入れていく。少なくとも1人1個は渡したいから、と仁は思った。

カイナ村は29戸。一家平均3人から4人として、120個持っていけば大丈夫だろう。

1人で持てる量ではないが、4人いや礼子もいるので5人で分けて持てば大したことはない。

だが仁はハンナを背負っていくので、結局礼子が3人分持つ事になった。

「忘れ物はないかな?」

一応言ってみる仁。

「だいじょうぶ!」

ハンナの元気な答えを聞き、

「それじゃあ行こうか」

と、一行は 転移門(ワープゲート) 室へ向かった。もちろんハンナには目隠しをしてもらい、仁の背中である。

一瞬で転移。

外へ出ると、カイナ村も晴れていた。時刻は7時半頃。

まず向かったのは村長の家。ギーベックは家の前を箒で掃いていた。

「おや、ジン、どうした? そっちの人は?」

ミーネについてそう尋ねるギーベック。ミーネは丁寧にお辞儀をして言った。

「村長様ですか。わたくし、エルザの母でミーネと申します。その節は娘がいろいろとお世話になりましたそうで、一言御挨拶をと思いまして伺いました」

「これはご丁寧に。すると、ミーネさんはジンとは……?」

「ええ、エルザとジン様とは義理の仲ですので、血は繋がっておりません」

「そうでしたか。いろいろご事情もおありのようですな」

年の功なのか、ギーベックはそれについていろいろと詮索したりすることはなかった。

「それで、つまらないものですが、手土産がわりにこれを持ってまいりましたの。お納めいただけますか」

籠3つに山盛りのシトランを差し出した。それを見た村長は目を丸くする。

「おお、これはすごい。見たことのない果物です。有り難くいただきましょう。村中に配っても?」

「ええ、そうしていただければ」

そこへバーバラが出てきた。

「あ、おはようございます。まあ、なんですか、この果物!」

「シトランっていうの。あまずっぱくておいしいの!」

村長とミーネが話している間は大人しくしていたハンナであるが、バーバラが出てきたので元気な声でそう説明した。

「へえ、シトラン。あ、いい匂い」

バーバラは1個手にすると匂いを嗅ぎ、顔を綻ばせた。仁は潮時と、

「それじゃあ村長さん、配るのはお願いしていいですか?」

と頼む。村長は任せろ、と肯いた。

「それじゃあ、これからハンナを送っていきます。なのでマーサさんには俺からシトランを手渡しますので」

「うむ、わかったよ、ジン」

そういうわけで、仁達はハンナの家へ。ちょうどマーサが洗濯物を干し終わったところであった。

「おばあちゃん、ただいまー!」

「おやハンナ、おかえり。楽しかったかい?」

「うん、とっても! あのね、海へいって、おふねにのったの! はやいのよ!」

「そうかい、よかったね。……ジン、そっちの人は?」

マーサもミーネを見て誰かと尋ねた。

「マーサさん、ですね。ミーネと申します。エルザの母親です。このたびはエルザがお世話になりまして」

隣でエルザも頭を下げた。

「へえ、あんたがエルザちゃんの母親かい。確かに似てるね。でもジンとは似てないね」

「ええ、実は……」

マーサにも仁との関係を説明するミーネであった。

一方、ハンナはシトランの入った籠を台所に置き、一緒に来た仁に向かって、

「1つたべてもいいかな?」

と上目遣いで尋ねた。仁は笑って肯く。

「やったー! じゃあ、おばあちゃんにもむいてあげよう!」

ハンナはそう言ってシトランを剥きに掛かる。熟したシトランはハンナの手でも簡単に剥ける。

たちまち皮を剥いたハンナは、それを持ってマーサの所へ。

「おばあちゃん、これ、おみやげ!」

マーサはミーネといろいろ話をしていたが、ハンナに声を掛けられたのでそちらを見た。

「ハンナ、なんだい、これ?」

「あのね、とってもおいしいくだものなの!」

「そうかい、ありがとうよ。……うん、こりゃ美味しいね」

「でしょ! いっぱいもらってきたからまたあとでたべてね!」

そう言ってハンナは台所に戻っていった。

「いい子ですね、ハンナちゃんは」

その後ろ姿を見てミーネがぽつりと言った。

「うん、頭も悪くないと思うんだがね、この村にいたんじゃ結局あたしと同じようにしかなれないだろうね」

少し残念そうなマーサ。それを聞いたミーネは少し考え込むのであった。