作品タイトル不明
09-26 冷蔵庫?
仁はマーサ宅の台所に置いたシトランを見て、去年のことを思い出した。
初夏、暑くなる頃のこと。仁は食料保存のために冷蔵庫を作ろうとしていたが、まだ蓬莱島に帰るすべもなく、材料不足で断念したのである。
しかし今は。
「うーん、何でもかんでも便利にすればいい、ってもんじゃないよな」
もうお尋ね者ではなくなったとはいえ、カイナ村が目立ちすぎるのもどうかと思う。
「どうするか……」
仁は外へ出て、春色の山々を眺めた。
低い山はもう雪も消えているが、遠くに見える高い山は万年雪を被っていた。
「雪、か……そうだ!」
仁は食堂にとって返しシトランをぱくついているハンナに尋ねた。
「ハンナ、この村って雪は降るのかい?」
「え?」
シトランを口に入れたハンナは、仁の質問の意味を測りかねてきょとんとした顔をした。
「ジン兄、もう少しちゃんと聞かないと」
何とエルザに窘められてしまった。
「ああ、悪い悪い。ハンナ、俺は真冬の間はここにいなかったんで知らないんだ、この村って、冬にはどのくらい雪が降るんだろう?」
今度はちゃんとハンナにもわかったようだ。
「うーんとね、年があけるまではふらないよ。でもね、2月と3月はふるの。3月のゆきはすぐとけるんだけど、2月のゆきはとけないからたいへんなの」
と教えてくれたのである。
仁がいたのは年末まで。仁は積もった雪を見なかったが、年が明けるとそれなりに降るようである。
「でもね、ことしはおにーちゃんが作ってくれたおうまさんがいたから、ゆきかきらくだった、ってみんな言ってたよ」
雪かきが必要なほどには降るらしいと聞いて、仁のアイデアは固まった。
「よし。『 雪室(ゆきむろ) 』を作ろう」
「ゆきむろ?」
横にいたエルザが聞き返した。
「ああ、 雪室(ゆきむろ) っていうのは、地面に掘った穴とかに雪を詰めておいて、そこに食料を保存するものなんだ。冬に雪を溜めておいて暑い夏に利用する。手間だけで元手いらずさ」
それを聞いたエルザは感心した声をあげる。
「すごい発想。それもやっぱりジン兄の世界の?」
「そうさ。まず許可もらわないとな。ハンナ、ちょっと村長さんの所へ行ってくる」
仁はハンナにそう声を掛けた。ハンナは肯く。エルザはその隣に座り直した。
「うん、行ってらっしゃい」
エルザとハンナに見送られて、仁は村長宅へと向かう。礼子は無言で付いて行くが、楽しそうな仁を見て、その顔が綻んでいた。
村長宅には村のおかみさん達が集まっていた。
「ジン! おみやげだって? ありがとうよ!」
「おいしそうだね! さっそく帰って子供たちと食べてみるよ!」
「あんた、亭主にも残しといてやんなよ?」
「わかってるよ!」
などと賑やかである。そんな中、村長のギーベックは、
「ジン、何か用事かね?」
と尋ねてきた。それで仁は 雪室(ゆきむろ) を作りたいと話をする。
「ふむ、 雪室(ゆきむろ) か。雪がある間は雪に野菜とかを埋めて保存することはあるが、積極的に利用しようと言うんだな。確かに、暑い夏に保存がきくのは助かるな」
「ジン、ぜひ作っておくれよ! 夏は肉とか日持ちしないんで困るんだよ!」
「やっぱりジンだね! 頼りになるよ」
村長だけでなく、そこにいたおかみさん達も賛成してくれたので、残るは場所選びである。
少しずつとはいえ雪が溶けて水になるから、水はけのいい場所もしくは村の中で低い場所が望ましい。
相談の結果、結局麦の貯蔵庫のある広場に作る事になった。食糧管理の点で便利だからだ。また、水はけも良さそうである。
「よし、ゴン、ゲン、礼子、手伝ってくれ」
「はい、お父さま」
そこで仁は食料庫のある広場へと向かった。そこは村の東側になり、森に向かってごく緩い下り坂になっている。
仁はその一番南側の空いた場所を 雪室(ゆきむろ) にすることにした。
「ここにシェルターみたいな穴を掘れ」
ゴンとゲンに指示を出す。2体は1度やっている作業なので、詳細を指示せずともかなりの作業をこなせる。
しかもここは岩場ではないので、作業も早い。
礼子には 掘削(ディグ) の魔法を補助に使ってもらい、穴を広げていった。
仁は 硬化(ハードニング) で穴の壁を強化していく。
これらの連携作業により、2時間足らずで 雪室(ゆきむろ) は完成した。
斜めに地下へ向かって通路が延び、 雪室(ゆきむろ) そのものの広さは小学校の教室2つ分ほど。
床は水はけを良くするため、石組みとした。石の隙間から水は地面に染み込んでいく。
大体地下3メートルくらいになっており、断熱効果も高い。加えて掘り出した土を更に上に盛り上げたので、その分も断熱効果を高めるだろう。この先草が生えれば、尚良し。
「これでいいな。後で魔導ランプを設置するとして、肝心なのは雪か」
今年カイナ村に降った雪は既に溶けてしまっている。
「山から持ってくるしかないか……いや」
魔法で雪を出せばいいではないか。
折からそこにエルザとハンナが連れ立ってやって来た。
「おにーちゃん、おひるごはん……って、なにつくったの?」
「やあハンナ。もうそんな時間か。一旦帰ろうか。道々説明するよ」
それで仁は 雪室(ゆきむろ) を後にし、マーサの家へと向かった。途中、ハンナにもわかりやすく説明した。
「ふうん、ゆきをためておくんだ。きっとすずしいよね! そこにたべものをほぞんするんだね!」
「ああ、そうさ。来年からは村に降った雪を詰め込むんだ。でも今年はもう遅いから……」
仁はちらりとエルザを見た。
「?」
エルザはその意味が初めわからなかったが、仁が自分に考えさせようとしているのだと気づき、首を捻って考え込む。
そしてマーサの家が見えた頃。
「わかった。魔法で雪を出せばいい」
と正解を口にした。
* * *
昼食後、仁はマーサやハンナに頼んで村人を貯蔵庫広場に集めてもらった。
先ほど仁の話を聞いていなかった村人が首をかしげている。
「おいおいジン、なんだいこりゃ?」
昼時なので、家に戻ってきた村人達が、仁がまた早速何かをやらかしているということで集まってきた。ほとんどの村人が集まったのを確認した仁は説明を始めた。
「これは 雪室(ゆきむろ) って言いまして、中に雪を詰め込むんです。そうすると、夏になっても雪が残っているんですよ。そこに傷みやすい食料を保存しておくんです」
そんな簡単な説明でも、その有用性は伝わったらしい。
「ほう! そりゃあいいぜ! 夏は肉がすぐに腐るから困るんだよ、だから干し肉か塩漬けにするんだよなあ」
「でもよ、もう今年は雪なんて無いぜ。まさか山から持ってくるなんて言わないよな?」
仁は笑って答える。
「言いませんよ。来年からは村に降った雪をかき集めて詰めてもらうとして、今年は……」
そこで仁はエルザを見る。
「エルザ」
「はい」
エルザは右手を 雪室(ゆきむろ) に向けて伸ばし、
「『 雪弾(スノーバレット) 』」
魔法を放った。それは水属性中級魔法。また、氷属性(水属性派生)初級でもある。
詠唱と共に、雪つぶてが雪室目掛けて飛んでいく。水源はそばを流れている小川であるから、量も十分だ。
「おおー!」
「すげー!」
「初めて見たぜ!」
「さすがジンの妹だぜ! 美人だしな!」
「あんた、美人は関係ないだろう?」
それを見た村人達、口々に感心する声を上げる。忌避したり畏怖するような者は一人もいない。皆、仁の規格外さに慣れているからでもある。
因みに仁はこういう攻撃系魔法は使えない(腕輪を使えば別)。過熱したものを冷やす『 冷却(クーリング) 』か、氷を出す『 氷(アイス) 』くらいである。
氷(アイス) では出来るのが氷ということで、穴を掘って中に食べ物を押し込むような使い方には向かないため、またエルザを村人に印象づけるためエルザにやらせたのである。
腕輪に貯まっていた余剰魔力のおかげもあって、5分ほどで 雪室(ゆきむろ) はいっぱいになった。
「よし、それでいいよ。エルザ、ご苦労様」
ゴンとゲンに雪を突き固めさせながら仁はエルザを労った。
そして村人達に、
「これで 雪室(ゆきむろ) はいつでも使えます。冷やしたいものを入れてもいいですよ。ただし、扉は必ず閉めてくださいね」
「おう、わかったぜ! あとは何か気を付ける事はないのか?」
「そうですね。穴の中なので、空気が悪くなっていることがありますから気をつけて下さい。息苦しかったりしたらすぐに外へ出ることです」
そう言いながら仁は、酸欠対策にとりあえず補助ゴーレムを置こうと考えていた。入った人の健康状態に気をつけさせ、また食料の出し入れを手伝うこともさせられる。
「わかった。もう使えるんだな?」
「はい」
「よーし! 暇な奴ら集めて山鹿狩りに行くとすっか!」
そう言ったのは男衆の兄貴分、ロックであった。
「帰ったら一杯やれるように酒冷やしておこうぜ!」
「あんた! 飲み過ぎは駄目だからね!」
今日もカイナ村は平常運転である。