軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09-24 ハンナちゃんといっしょ

「うわあ、ひろい。これがうみ……」

みんなでやって来た崑崙島の海岸。

ハンナはカイナ村という山奥の村育ち。生まれて初めて見る海を前にただ立ち尽くしていた。

そんなハンナの肩を抱いて、仁は波打ち際まで歩いて行く。

ひたひたと寄せる春の海。砂浜には貝殻が散らばっている。

「わ、きれい。これ、かいがら?」

「ああ、そうさ」

桜貝のように小さく、綺麗なピンク色の貝殻を見つけてはしゃぐハンナ。

「ハンナちゃん、ここにもある」

エルザもいっしょになって貝殻を集めている。

「もう少し暖かければ泳げるんだけどな」

崑崙島はだいたい北回帰線上にある。常夏のポトロックと違い、まだ少し水は冷たい。

「じゃあおにーちゃん、夏になったらおよごうね!」

そう言い返すハンナに仁の頬も緩む。

「ああ、そうだな」

去年、エルメ川で泳いだ記憶がよみがえり、ハンナにも新しい水着を作ってやろう、と思う仁であった。

何せカイナ村の子供たちは水着といっても下着と同じようなもの、しかも下だけしか付けないで泳いでいるのだから。

バーバラくらいになると胸にも布を巻いているが。

「ポトロック、楽しかったね」

いつの間にかエルザが仁の隣に来ていた。ハンナはと見れば、ミーネと一緒に砂で山を作っていた。

「ああ、そういえば、あの時エルザやラインハルトと出会ったんだったな」

「ん。懐かしい」

まだ2月半しか経っていないのに、随分昔のことのような気がするのは、それだけ毎日が濃かったからだろう。

「お父さま、海辺は日射しが強いのでこれをどうぞ」

不意に礼子がそんな声を掛けて、麦わら帽子を差し出してきた。もちろんエルザ、ハンナ、そしてミーネにも。

「お、ありがとな、礼子。これどうしたんだ?」

麦わら帽子など仁は作った憶えがなかった。

「はい、ミーネさんが作っていたようです」

「え? ミーネが?」

ミーネの方を向くと、少し照れたように俯いた。

「ありがとう、ミーネ」

そう礼を言った仁は麦わら帽子を被る。麦わらのいい匂いがした。

潮風を吸いながら、仁は海を見つめていた。波は穏やかである。そしてすぐ後ろにいた礼子に向かい、

「礼子、こっそりハイドロを1隻こっちへ回せるかな?」

と聞いてみる。礼子は肯き、

「はい、すぐ手配します」

と答えた。そして 魔素通信機(マナカム) で老君と連絡を取り、

「すぐ来るそうです」

と答える。その言葉通り、5分ほどでハイドロ2がやってきた。操縦しているのはマリン2である。

「ご主人様、お呼びですか」

砂浜なのでそのまま浜にハイドロ2を上陸させたマリン2。

「ああ、ご苦労。早かったな」

「はい、ちょうどこの付近を哨戒していましたので」

仁がマリン2とやり取りしている間にも、ハンナはハイドロ2に興味津々だ。

「おにーちゃん、これ、おにーちゃんがつくったお船? のってみたーい!」

仁は笑ってハンナに肯く。

「もちろんさ。そのために呼んだんだ。エルザも行こう。ミーネ、悪いけど定員4人だから、ここにいてくれるかい?」

ミーネは笑って、

「ええ、もちろんです。ここでお待ちしております」

ということで、仁、エルザ、ハンナはハイドロ2に乗り込んだ。礼子はいつかのように仁の膝……と思いきや、ハンナと並んで座っている。

4人乗りと言うことで前後に2人掛けの席が付いており前にはマリン2と仁。後ろにエルザ、ハンナ、礼子の3人が座っている。3人とも小さいので何とか座れたのである。

「よし、行こう」

マリン2はハイドロ2の 魔法型水流推進機関(マギウォータージェット) を全力で逆進に入れた。その勢いは砂浜に乗り上げているハイドロ2をも動かし、水飛沫を上げながら艇体は海へと滑り出た。

そしてすぐにハイドロ2は向きを変え、一気に沖へと進んでいく。皆、麦わら帽子は飛ばされないよう手に持った。

「わあ、はやーい!」

「……すごい」

初めて船に乗るハンナはともかく、ポトロックでゴーレム艇競技に出たエルザとしては、この船のとんでもなさが身に染みてわかる。

「倍じゃきかない。3倍は速い」

当時エルザの乗っていたボートの巡航速度は推定で時速20キロくらい。今、ハイドロ2は時速60キロ近くを出していた。

「すっごーい!」

きゃあきゃあとはしゃぐハンナ。酔うようなら直ぐに癒してあげようと思っていたエルザも肩の力を抜く。

そんな時、仁が、礼子にだけわかる合図をした。悟った礼子はこっそりと『 癒せ(フェルハイレ) 』を仁にかけた。つまり仁は船酔いしかかっていたのである。

水飛沫を上げ、波を蹴立ててハイドロ2は崑崙島を1周した。

「あー、おもしろかった。おにーちゃん、ありがと!」

ミーネの待つ砂浜へ戻ってきた時にはちょうどおやつ時である。

崑崙島専属メイドゴーレムのペリド100が気を利かしておやつを運んできた。

「お、気が利くな」

仁が褒めると、

「いえ、老君からの指示です」

とあっさりばらすペリド100。

砂浜に布を広げ、皆で座っておやつである。

剥いたシトラン、それにシトランジュース。

「わあ、おいしい!」

初めて食べるシトラン、ハンナは気に入ったようだ。

「ハンナちゃん、これもどうぞ」

エルザが自分も好物のシトランをハンナに分けているのを見た仁は心がほのぼのするのを感じた。

「今度は泳ぎに来ような」

「うん!」

ゴーレム馬に跨ってぽくぽくと歩きながら、ハンナはご機嫌だ。

ミーネはエルザの馬に同乗。

「エルザ、ハンナちゃんにシトラン分けてあげてたわね、偉いわ」

「うん、だってハンナちゃん可愛いし」

「ふふ、エルザもお姉さんらしいこと出来るのね」

ミーネは母親の顔である。

ゆっくりと寄り道しながら帰ったので、館に着いたのは3時過ぎであった。

「ちょうどいいわ。お茶にしましょう」

ミーネはそう言って仕度に掛かる。ルビー100がお湯を沸かしてくれていたのですぐに用意は調った。

「はい、ハンナちゃん、どうぞ」

今回淹れたのはエゲレア王国特産の お茶(テエエ) 。ハンナ用に砂糖を入れてある。

それを一口飲んだハンナ。

「あまーい! おいしー!」

にっこりと笑う。それを見てエルザの顔も自然にほころんだ。ミーネもにこにこしている。

「はい、これもどうぞ」

お茶請けに出したのは乾燥ブルール。仁の好物である。

「あー、これもおいしい!」

仁も、エルザも、ミーネも。みんな、ハンナの笑顔が見たくて仕方がないのだった。

そのあとは館の温泉。女性3人いっしょの入浴である。

「わーい、ここもおんせんだー!」

ハンナが一番に浴場に駆け込んだ。

カイナ村で入り慣れているハンナは、ちゃんとお湯を身体に掛けてからお湯に浸かる。

そこへエルザ、ミーネもやってくる。

「潮風でべたついたからお湯が気持ちいいわね」

そう言いながら湯船で身体を伸ばすミーネ。

「馬に乗ってたから少し疲れたわ」

するとハンナがミーネの後ろに回り、

「おばちゃん、肩もんであげる」

と言った。

「え、いいわよ、大丈夫よ」

とミーネはそれを断るが、ハンナは承知しない。

「だいじょうぶ。おばあちゃんにまいにちもんであげてるんだから」

そう言って、半ば強引にミーネの肩を揉み始めた。疲れているのは腰とお尻なのだが、それを口にするほどミーネは馬鹿ではない。

「ああ、気持ちいいわ。ハンナちゃん、お上手ね」

そう言ってハンナの好きにさせた。

「でしょー! どう? このへんがいい?」

「ええ、その辺が気持ちいいわ」

ハンナの握力は意外と強い。毎日家事手伝いをしているおかげだ。

「ありがとう、ハンナちゃん。何かお礼しなくちゃね。何がいいかしら?」

しばらく肩を揉んで貰ったミーネがハンナにそう言うと、ハンナはぴくっとした後、少し恥ずかしそうに、

「あ、あの、ね。おばちゃん、あのね」

と言いにくそう。ミーネは優しく微笑んで、

「なあに? 言ってご覧なさいな」

とハンナを促す。するとおずおずとハンナが願いを口にする。

「いちどでいいから、おばちゃんにだっこしてほしいの」

ミーネは、ハンナの両親がもういない事を聞いていたので、

「ええ、いいわよ。いらっしゃい、ハンナちゃん」

そう言って両手でハンナを抱きしめた。

ハンナはそんなミーネの豊かな胸に顔を埋めて、

「……おかあちゃん」

と聞こえないくらい小さな声で呟いたのだった。