作品タイトル不明
09-22 ハンナの活躍
「老君、まず報告を聞こう」
ハンナを崑崙島に預け、蓬莱島に戻った仁は開口一番そう言った。
『はい。まずはセルロア王国とエゲレア王国の戦況ですが、セルロア王国有利です。現在、3個大隊と思われる軍がイカサナートを抜きました』
仁は旅をしてきた道中を思い出す。イカサナートは国境の街。砦も兼ねており、城壁は高く、周りには堀もあった。
「あそこが抜かれたということは、勢いづくだろうな」
軍事に疎い仁でもそのくらいはわかる。
『フランツ王国とクライン王国の戦況ですが、ストルスクが抜かれました。クライン王国軍は40キロ、1日行程ほど退き、軍を再編成しているようです』
どちらも攻めている方が優勢であった。それも当然かもしれない。
今は春、人口不足により職業軍人の少ないこの世界では農繁期の戦争は避ける不文律がある。それは取りも直さず国力の低下に繋がるからだ。
「だが、セルロア王国は、多分ゴーレムによる農業を推進しているに違いない」
それは仁の推測ではあったが、ほぼ的を射ていた。
「どうするべきか……」
仁は迷っていた。侵略側を悪として討伐する、その力を仁は持っている。だが同時に、仁の力は世界のバランスを崩しかねないもの。力ある者を人は恐れる。
結果、この世界から疎まれ、恐れられ、排斥される。それを仁は恐れていた。
「わかった。それじゃあ老君、俺を呼んだ一番の目的は何だ?」
結論を保留した仁は次の質問を老君に投げかけた。
『はい。 御主人様(マイロード) にお願いしたい作業がありまして』
「よし、聞こう」
そこでまず老君は、仁がいない間に進めているプロジェクトについて説明した。
1.空母用の港を作る。
2.セルロア王国を初めとする政府の要人が 催眠(ヒュプノ) や 暗示(セデュース) に掛かっていないかを調査する。
3.マーメイド隊の活用法として海底資源の調査を進める。
4.ゴーレム達の武器を製作する。
5.受け入れ無し 転移門(ワープゲート) の更なる改良をする。
6.タイタンを運べる航空機を開発する。
7.重作業用として、タイタンをベースにした重作業用ゴーレムを製造する。
8. 魔力妨害機(マギジャマー) 、 麻痺銃(パラライザー) の量産。
それを聞いた仁は感心した。
「流石だな。俺の意図する目的を叶えるためのもの、俺が忘れているもの。助かるよ」
『お褒めにあずかり光栄です。それではこのまま進めてよろしいですね?』
「ああ、是非頼む」
正直老君はほっとしていた。僭越な行為をしたのではないかと気になっていたのだ。一つ間違えば反乱の兆し有り、と仁に断定される虞もあった。
だが仁は純粋に老君の手配りを賞賛していたのである。
「それでわかった。重作業用ゴーレムの 制御核(コントロールコア) を作ればいいんだな?」
『はい、ご明察の通りです』
制御核(コントロールコア) のコピーと既存のゴーレムの量産までは老君に許されている。だが、新たな種類のゴーレムを開発することは権限外であった。
制御核(コントロールコア) は基本、仁が作り、仁に従うのであるから、この処置により、老君が自分だけに従う配下を製造する事は出来なくなっており、今回のように作業効率は若干落ちるが、必要になる度に仁に作ってもらう必要が出てくる。
一度作ってもらえば後はコピーすればいくらでも出来るのだが。
「ごしゅじんさま、これでお願いします」
アンが大きめの 魔結晶(マギクリスタル) を持ってきた。色は黄色。土属性である。
「えーと、大きさはタイタンと同じ、だが重作業用ということだから……」
試作された重作業用ゴーレムを見ながら仁は考える。その構成素材は18ー12ステンレスの骨格、 魔法繊維(マジカルファイバー) の筋肉。材質に見合う 魔法制御の流れ(マギシークエンス) を構築していく仁。
「速度はいらない。代わりに出来るだけ精密な動作、そして堅牢性が要求される、と」
5分ほどでそれは完成した。
「よし、これで試してくれ」
土系統の 魔結晶(マギクリスタル) で作り上げた 制御核(コントロールコア) を老君に渡す仁。
『ありがとうございます、 御主人様(マイロード) 。つきましては重作業用ゴーレムシリーズの名前を付けて下さい』
「うん、そうだな。えーと、『ダイダラ』にしよう」
だいだらぼっちから付けたらしい。いかにもな仁流ネーミングである。
『ダイダラですね、承りました。とりあえず50体製造予定です』
名前はともかく、これらのプロジェクトにより、蓬莱島は更に充実していく事になる。
仁は残りのプロジェクト内容を確認すると、ハンナの待つ崑崙島へと跳んだ。
礼子はその間中、何も言わず仁の様子を見ていたが、いつもの仁に戻ったことを感じ取り、エルザ、ハンナ、そしてカイナ村に内心感謝するのであった。
* * *
「ちがうの。あのね、こうやって剥くの」
「……こう?」
「うーん、まあそんなかんじ。でね、こっちはこまかくきざむの」
「ハンナちゃん、これでいいかしら?」
崑崙島に跳んだ仁の目に映ったのは、青空の下でなにやら料理している3人の姿であった。
「あ、おにーちゃんおかえりなさい」
「ジン兄、もうすぐ出来るから待ってて」
「ジン様、今、ハンナちゃんに教わって、カイナ村風雑炊を作ってるんです」
要するに大麦を水で煮て、そこに野菜や乾燥肉、干し果実を入れて味を調えたもの。デンプンでとろみを付けたりもする。
朝食や昼食に良く食べられている。
材料を吟味し、出汁を取ったり、調味料を工夫することで幅広いバリエーションが生まれる。
仁は、山ブドウに良く似たビチスという果実を干した、パッサと呼ばれるものを入れた雑炊が好きだった。
崑崙島にはもう少し大きな実のなるビチスが自生していたので収穫して乾燥果実にしてあった。それを使っているらしい。
他にも、蓬莱島の山岳地帯にはかつてモフト村で見かけたフレープやブルールもあったので、収穫したり栽培地を作ったりしている。
その乾燥ブルールも入れたら美味いかも、と仁は思いながら3人が料理する様を眺め、目を細めていた。
「おにーちゃん、できたよー」
味を見ていたハンナが一声そう言うと、ミーネはコンロの火を止めた。エルザはテーブルに食器を並べていく。
今日の仁はテーブルについたまま、運ばれてくるのをただ待っていればよかった。
「ああ、懐かしい匂いだな」
熱々の雑炊が運ばれてきた。全員が席に着き、すっかり習慣となった『いただきます』の合図で食べ始める。
ミーネとエルザもすっかりこの習慣に馴染んだようだ。
「うん、美味い」
「えへへ、おにーちゃんのこのみ、あたしちゃーんとおぼえていたでしょ!」
指導したハンナも鼻高々である。
「ええ、いい味付けですね」
ミーネもカイナ村風の味付けが気に入ったようだ。そしてそれ以上にハンナのことが気に入っていた。
「ハンナちゃんはいい子ですね。働き者だし、明るくて可愛いし」
「えへへ、そうかな」
褒められたハンナは嬉しそうだ。エルザもそんなハンナを見て微笑んでいた。
食後のお茶はカイナ村のお茶。
「綺麗な緑色ですね」
ミーネは初めて見る緑色のお茶を見て感心している。エルザはカイナ村で体験済み。
「ああ、味もいいです。爽やかな苦みの中にほのかな甘みがあって、あとくちがすっきりしています」
味も気に入ったらしい。
「ハンナちゃん、またいろいろ教えてちょうだいね」
「うん!」
どうやらハンナもミーネに懐いたようだ。仁としては一安心である。
後片付けも3人一緒にやっており、仲睦まじい様は親子姉妹にも見える。
(そうか、ハンナも両親亡くしてたんだったな)
まだまだ母親が恋しい年頃のハンナが、ミーネに懐くのは当然かもしれない。連れてきて良かった、と思う仁。
「よしハンナ、片付け終わったらみんなで海へ行こう」
仁はそう言って、自分も片付けを手伝いに台所へ。
礼子はそんな仁をほっとしたような顔で見つめていた。そしてゴーレム馬を崑崙島へ寄越すよう、老君に連絡を取るのであった。