軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09-21 閑話10 天才と言われた魔法工作士の物語

セルロア王国東部、エゲレア王国と国境を接するような寒村に1人の 魔法工作士(マギクラフトマン) が暮らしていた。

彼は元、セルロア王国の 王国魔法工作士(ロイヤルマギクラフトマン) だったが、王都の暮らしに嫌気がさして引退、生まれ故郷に隠遁したのだった。

その彼には1人の弟子があった。

遠い親戚の子で、王都にいた際、その才能を見込んで弟子にしたのである。

他にも彼の弟子は大勢いたが、物になる者は少なく、その上彼が引退して郷里に引っ込むと言い出した時に付いて来たのは少年だけ。

他の者達は家族がいるとか、地方は苦手とか、勝手な理屈を付けて皆離れていったのである。

「お前だけが本当の弟子だな」

彼はそう言って、彼の全てを少年に伝授した。

彼の専門はゴーレムである。むろん他の魔導具も作れるが、最も得意としたのがゴーレムの製作であった。

セルロア王国は昔から労働力の不足をゴーレムで補ってきた。その一翼を担っていたのが彼の技術である。

彼のゴーレムは他の者が作るものとは一線を画していた。

『話す』事が出来る、すなわち自律性を有していたのである。

そして『強い』。一般的なゴーレムの3倍の出力を誇った。つまり1体で3体分の仕事ができるということである。数が必要な仕事は別であるが。

最後に『美しい』。作業ゴーレムであっても無骨な中に洗練されたフォルムが見受けられた。

『美しい』だけは持って生まれたセンスもあるので、簡単にはいかないが、『機能美』という点においては技術の範疇であるため、そこそこは伝授可能であった。

弟子の少年が青年になる頃には、彼の知識と技術はそのほとんど全てを少年、いや青年に伝授し終えていたのである。

そして運命の歯車が噛み合う時が来た。

* * *

「君が噂の天才 魔法工作士(マギクラフトマン) か?」

青年の前に1人の男が立っていた。歳は青年より5、6歳ほど上だろうか。30をようやく過ぎたくらいに見える。

「誰です? あんたは」

怪訝そうな顔の青年に対し、その男は、

「 古(いにしえ) からの使者、とでも言っておこう」

と答えた。

「で? その 古(いにしえ) からの使者さんとやらが何の用ですか?」

「その能力をもっともっと伸ばし、思う存分に振るってみたくないかね?」

「なんですって?」

その男の言葉は何の変哲もなかったが、『思う存分に』というところに青年は少しだけ興味を惹かれた。

「まあ、論より証拠、付いてきたまえ」

その男は踵を返すとさっさと歩き出した。まるで青年が付いてくる事が当然だ、と言わんばかりに。

多少癪ではあったが、興味がまさった。青年はその男の後について歩き出したのである。

その男が青年を案内したのは郊外にある古い館であった。

「入りたまえ」

初めて振り返った男が自らドアを開け、青年を招き入れた。

そして青年は運命と出会う。

* * *

青年の前に現れたのは完璧な美であった。

機能美、造形美いずれも非の打ち所がない。いや、ただ一つ。

その左腕が壊れていたのである。

「こ、これ、は……」

黄金の髪、深紅の瞳、白磁の肌を持った少女。

青年はこれほどまでに美しい 自動人形(オートマタ) を見たことがなかった。

その少女が口を開いた。

「こんにちは、私はエレナといいます。あなたが私の腕を直して下さる方?」

声さえも甘美。青年はいっぺんで魅せられてしまった。

しばらくは声も出せないまま、エレナという名の 自動人形(オートマタ) 、その赤い瞳を見つめているだけであった。

その物思いを破ったのは彼を連れてきた男が発した言葉。

「どうだね、君に彼女の腕を直すことができるかね?」

青年は黙って首を振った。見ただけでわかる。目の前の、エレナは芸術品である。

自分の、いや、今の自分には『まだ』直すことはできない。

だが。

「いつか、直せるようになって見せます」

その言葉が自然に口をついて出てきた。

青年もまた、エレナの魔性に魅せられたのである。

男の言葉は嘘ではなかった。

その館の地下には、見たことのないような魔導具、聞いたこともないような 古代遺物(アーティファクト) が所狭しと並んでいたのだ。

そして古代語で書かれた書物には、伝承が絶えてしまったはずの魔法や魔法技術が書かれていたのである。

青年は驚喜し、男に礼を言い、すぐさま自らを高めるための研究を開始したのである。

* * *

1年、2年、3年。

時が過ぎた。

5年、10年。

更に時は流れ、青年は壮年となった。

まだエレナを直すには到らないが、研究は着々と進んでいた。

「ふふっ、楽しみですわ」

既にエレナの動きは滑らかになっていた。関節や筋肉は修復が終わっていたのである。

だが、皮膚と骨格を再現する事はまだ出来ずにいた。

「信じてます、あなたが直して下さることを」

時折訪れる 自動人形(オートマタ) に面と向かってそう言われた青年、いや壮年はさらに努力を続ける。

何体、何十体ものゴーレムを試作する。その過程で更にゴーレム作りの技術は上がった。

戦闘に特化したゴーレムはあたりまえ。従来の物の3倍以上有った出力の更に2倍近い性能を誇るものさえ出来上がった。

特記すべきは相手ゴーレムの 制御核(コントロールコア) に命令を重ね書きしてしまう力を持ったゴーレム。

そして、研究過程でもたらされたエルラドライトという魔力増幅機能のある宝石を利用し、一時的だが十数倍の力を出せるゴーレム。

その他にも多数。

またゴーレムだけにとどまらず、魔力を付加された剣。魔法を防ぐ盾。

『 古(いにしえ) からの使者』という彼の男の言葉通り、過去の技術は今を数段上回っていた。

研究の合間には遺跡を訪ねて回り、その遺物を運び出し、研究し、少しでも過去に近づく努力を重ねた。

「ほう、この遺跡で見つけたギガースという過去の兵器だが、なかなか興味深い機能を持っているようだ」

青年は今や壮年期まっただ中。気力は充実し、その情熱の炎は衰えるどころか更に大きく燃えさかっていた。

「ギガースですって? それは失敗作よ。知能も低い、ただ暴れ回るだけ、力だけの低脳」

時々エレナは彼の研究室へやって来て、アドバイスや批評をして行く。

「それよりも、遺跡に、 自動人形(オートマタ) がまだ残っていたら破壊してちょうだい」

「なぜだい? エレナ」

「それらは全て私に劣る低級品だからよ。私は唯一無二の 自動人形(オートマタ) 。 自動人形(オートマタ) の女王。そうあるべく作られたの。遺跡に残る 自動人形(オートマタ) はそんな私へ反逆を企てた反乱分子だわ。そんなものたちを残しておかないで」

「そうか、わかったよ」

幾つかの遺跡からは青い髪の 自動人形(オートマタ) が何体か見つかっていたが、エレナの要望に従って全て解体処分にされた。

その幾つかの 自動人形(オートマタ) の身体の部品はエレナに適合したため、20年目にしてエレナは完璧な身体に戻ったのである。