軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09-17 老君の活動と洗濯機

礼子は内蔵された 魔素通信機(マナカム) を使い老君と相談をしていた。

「お父さまは凄く楽しそうです。ここしばらくの間、あれほど楽しそうなお顔は見たことがありませんでした」

『そうですか。やはり気分転換は大事なのですね』

「ええ。気分転換と言うより、お父さまはこういう生活が本質的に向いてらっしゃるのだと思います」

『確かに。 御主人様(マイロード) には殺伐とした生活は似合いませんからね』

「ですから、お父さま抜きでも、 統一党(ユニファイラー) に対処できる体制にする事が必要だと思うんです」

『なるほど、それは確かに必要でしょうね。 御主人様(マイロード) にはそちらでしばらくご静養いただくのもよろしいかと思いますから』

「おねがいします。私はこちらでお父さまをお守りしなくてはなりませんから」

* * *

そういうわけで、仁抜きでも蓬莱島の体制を充実させて仁の負担を減らすと共に、仁のアイデアを可能な限り早く実現するシステムも構築しようということになった。

『それには 職人(スミス) 500体では足りませんね』

老君は 職人(スミス) ゴーレムをもう500体準備することにした。

設計基(テンプレート) があるので作業は簡単というか流れ作業的である。

既にいる 職人(スミス) ゴーレムをフル活用して、それこそあっという間と言えるほどの短時間で 職人(スミス) ゴーレム総勢1000体が勢揃いすることになった。

制御核(コントロールコア) はコピーなので仁がいなくても可能であったのだ。

『スミス101、201、301、401、501、601、701、801、901は班長として部下99名を指揮せよ』

『スミス11から100は熟練工として、主に特殊な魔導具の製作に携わるように』

『スミス1から10は指導者として再教育する』

老君は許された権限をフルに使い、 職人(スミス) ゴーレムを再編成し、仁のアイデアを最短で実現するべく動き出した。

* * *

「わーい、ゴンとゲン、ひさしぶりー」

ピクニックと言う名の薬草取りから帰ってきた午後。

堂々と姿を現すようになったゴンとゲンを見てハンナは躍り上がらんばかりに喜んでいた。

ゴンの腕にぶら下がったり、ゲンに肩車して貰ったりしてはしゃいでいる。

ハンナ専用の 隠密機動部隊(SP) についてはまだ黙っている仁であった。

その仁が何をしているかというと、エルザを助手に洗濯機を作っている所。

昨年は気付かなかったが、冬を越えてきた、マーサを初めとするカイナ村女性達の手が荒れていたのである。

その原因の1つは洗濯である。

カイナ村では洗濯板さえなく、大きなタライで手もみ洗いがほとんど。シーツなどの大物は足で踏んだりもする。

温泉のお湯も利用できるとは言え、やはり大変な事には違いない。

「なーに、毎年のことさ。もっと暖かくなれば治るよ」

マーサはそう言って笑うが、仁は納得できなかった。

そこで洗濯機というわけだ。

イメージしているのは手回し洗濯機。卵形の容器に洗濯物と洗剤と水を入れてハンドルを回すと、容器が回って内部で洗濯物が攪拌されるもの。

普通の全自動洗濯機は動力的に難しいし、勝手な言い分かもしれないがカイナ村には合わない気がする、と仁は考えていた。

足りない材料は蓬莱島から取り寄せた。まあ、だいたいがマーサの家に残っていた青銅や銅、鉄で間に合ったのだが。

エルザはまだ見習い以前なので見学である。

仁が 変形(フォーミング) で金属を加工する様をじっと見つめるその目は真剣そのものであった。

「 変形(フォーミング) にはイメージが大切なんだ。どんな形を作りたいか、ということを隅から隅まで想像すること。それが一番のコツなんだよ」

そう言いながら、ゆっくりと 変形(フォーミング) を使って見せつつ、洗濯機を作り上げていく仁。

「イメージ……難しい。作りたいものをちゃんと頭の中に思い描け、っていうこと?」

「そうだ。初めは簡単な形からやってみることさ」

そんな話をしつつ、無詠唱で成形していく仁が規格外であることまではエルザは知らない。自分も同じ事が出来るようになりたいと努力している。

高すぎる努力目標ではあるが、決して無駄にはならないだろう。

そうこうするうちに手回し洗濯機が完成した。礼子に取りに行って貰ったのはパッキン材として使うための魔獣の革である。これがないと回した時水が漏れてそこら中に飛び散ってしまうからだ。

天然ゴムでもいいのだが、やはり耐久性が違う。

「面白い形」

完成した洗濯機を見てエルザが素直な感想を口にした。ハンナもやってきて興味深そうに見ている。

「おにーちゃん、これなあに?」

「これは洗濯機さ。何か洗濯したいものあるかい?」

仁が試しに何かないかとハンナに聞いた。するとハンナは、

「うん、あるよ! 昨日きがえたあたしのぱんつ」

と答え、洗い物置き場へ取りに行ったのである。苦笑して眺める仁とエルザ。

試作手回し洗濯機を礼子に持って貰い、井戸端へ。陽気もいいので数人おかみさん達が談笑していた。

「おや、ジンじゃないか。また何か作ったのかい?」

「そっちはジンの妹さんだって? あんまり似ていないねえ。でも美人さんだ」

などと声を掛けられる。面と向かって美人さんだ、などと言われたエルザはさすがに面食らって頬を染めた。

「これは洗濯機、っていうんですよ」

仁は洗濯機の蓋を開けてハンナのぱんつを入れ、井戸から水を汲んで注ぎ込む。最後に洗剤がわりのリタの実の粉を少量。そして蓋を閉める。

井戸端にいたおかみさん達は興味津々でその様子を眺めている。

「そしてこの取っ手を回します」

洗濯機の大きさは試作ということもあって、1人用の大きさ。村では洗濯物の量はそう多くないためこの大きさでも十分と考えたのだ。

大きくなれば回す力も大きくなり、それはそれで大変になる。ゴンやゲンにやらせるという手もあるが。

3分ほどぐるぐると回していた仁は手を止める。と、ゆっくりと回転速度を落とした洗濯槽は重さのバランス加減のため、蓋を上にして停止した。

「底の栓を開けて水を出します」

汚れた水が出てくる。(ハンナの名誉のため言っておくと、本当の意味で「汚れ」てはいない。洗濯した後の水、と言う意味である。)

「濯ぎの水を入れます」

底の栓を閉めて、今度は蓋から水を注ぐ。

「また回します」

回しながら仁は、

「あ、そうだ。汚れがひどくなければ水だけで綺麗になりますよ」

そういいながら今度は1分ほど回し続けた。

もう一度水を替えた仁は次で終わり、と言ってから底の栓を開けたまま回す。水が少し飛び散る。

「こうやれば絞れるわけです。もちろん手で絞ってもいいですけど」

一通り説明した後、洗濯機を止めて蓋を開け、ハンナのぱんつを取り出す。

「で、蓋を開けて洗濯物を取り出します」

出したぱんつをぱん、とはたいて水を切り、シワを伸ばす。

「後は干すだけです」

どうです? とおかみさん達の顔を見回す仁。

「……」

「…………」

反応が薄いな、と仁が思った矢先。

「ジン! これってもっといろいろ洗えるんだよね?」

「1つ作っておくれよ!」

「面白そうだねえ!」

便利、というより面白そうだという理由の方が多そうだが、とりあえず手回し洗濯機はカイナ村に受け入れられたようである。

「おにーちゃん、洗ってくれてありがとー!」

ハンナの笑顔が仁には一番嬉しかったが。

そして洗濯機は礼子を通じて、蓬莱島で量産させ、運び込ませるよう段取りを付けたのである。

* * *

仁は当然として、エルザももう1泊する事になった。

魔素通信機(マナカム) でエルザと話をしたミーネも、『エルザもこの機会にいろいろ見たり聞いたりしていらっしゃい』と言っていたらしい。

「ジン兄、今日のジン兄、すごくいい顔してた」

夕食後、唐突にエルザがそう言った。

「え?」

言われた意味が良くわからない仁。

「ここ数日、ジン兄、時々つらそうな顔してた。でも今日は1日すごく楽しそうだった」

「そ、そうか……」

エルザにそう言われた仁は考え込む。内心、思い当たる節もあった。

(やっぱり、 統一党(ユニファイラー) の事とかで疲れていたのかなあ)

やはり自分に荒事は向かないか、と苦笑する仁。

「ねえねえエルザおねーちゃんもまほうつかえるの?」

食器洗いを手伝っていたハンナが、戻ってくるなりエルザにそう尋ねた。

「ん。でもジン兄ほど上手くない」

だがハンナはキラキラした眼で期待を込めてエルザを見つめ、

「なにかつかってみせてー」

と言った。乞われたエルザは少し考え、マーサがいる台所が薄暗くなっているのに気が付いて、

「『 光の玉(ライトボール) 』」

と唱えて明かりを灯した。台所が一気に明るくなる。驚くマーサ。

「わっ! びっくりした。……ああ、エルザちゃんかい。これも魔法かい? 便利なもんだねえ」

その様子を見たエルザはぽつりと、

「魔法で生活を豊かにするってやりがいがある、ね」

その言葉を聞いた仁は微笑んで、エルザに向かい、

「いいところに気がついたな。きっとエルザはいい 魔法工作士(マギクラフトマン) になれるよ」

と言ったのだった。

「ほんと? ジン兄、ありがと」

そういわれたエルザは本当に嬉しそうに微笑んだのである。その笑顔は仁もまた初めて見るものだった。