軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09-16 仁の家

仁が帰って来た興奮が少し収まった頃。

村長のギーベックが代表して仁に声を掛ける。

「ジン、お帰り。この村は君が帰ってくるのを待っていたよ」

「村長さん……」

「無論、君のように優秀な 魔法工作士(マギクラフトマン) が、この村だけに留まっているのは世の中にとって大きな損失だ。だが、君が疲れた時、悲しい時、帰りたくなった時、この村は君をいつでも歓迎するよ」

そう言って仁の手を取った。仁もその手を力強く握り返す。

「ありがとうございます」

そして村長は皆に向き直ると、

「さあさあみんな、もういいだろう。ジンにはまたあらためて話を聞くこともあるだろう。今は、ジンをゆっくりさせてやろうじゃないか」

そう言って解散だ、と手振りで示した。

「ジン、それじゃあまたな」

「ジン、そのうち話し聞かせてくれよ」

「ジンにーちゃん、また遊ぼうねー」

てんでにそんな言葉を投げかけて、ある者は家に、またある者は畑へと帰っていった。

残ったのは仁、礼子、ハンナ、エルザ、バーバラ、マーサ、そしてギーベック。そのギーベックが仁に告げる。

「ジン、君は知らないだろうと思うが、君はお尋ね者なんかじゃないからな。あの後、ファールハイト様がやってきて、ワルター伯爵の勇み足だったことを教えてくれた。むしろ国王様は君を召し抱えたかったらしい」

それを聞いた仁はほっとした。少なくとも自分がここにいることで村に迷惑はかからない。

更にギーベックは、

「さてジン、あとはマーサさんの所へ行くといい。バーバラ、家に入りなさい」

ギーベックはドアを開け、家に引っ込む。

「はい、叔父様。エルザさん、また後でね」

バーバラも家に入ってしまった。

「さあさ、私たちも帰ろうかね」

そう言ってマーサはハンナの手を取った。ゆっくり歩きだしたかと思うとその足を止め、立ち止まったままの仁を振り返る。

「ほれジン、なにやってるんだい。家へ帰るよ」

「マーサさん……」

「妹さん、レーコちゃんも早くおいで。帰るったら帰るんだよ」

マーサにそう言われ、仁はエルザと礼子を伴って歩き出した。

少し歩けばマーサの家である。

「ほら、ジン。あんたの家に妹さんを案内してあげないかね」

そう言われた仁は斜め後ろにいたエルザを振り返り、手をさしのべた。

「ん」

エルザは小さく肯くとその差し出された手を取った。

「いつ帰ってきてもいいようにジンの部屋もそのまんまにしてあるんだよ」

とはマーサの言葉。

綺麗に掃除がされていて、塵1つ落ちていない。

そんな部屋を見て、仁の目に涙が浮かんだ。

「おかえり、ジン」

マーサにあらためてそう言われた仁はついに涙をこぼしてしまった。

礼子はそっとハンカチを差し出した。

エルザはそんな仁を見、無言のままただ繋がれた手をそっと握りしめたのだった。

* * *

マーサが淹れてくれたお茶を飲む仁。丸いテーブルにはエルザとハンナもついている。礼子は仁の後ろに立っていた。

「あー、久しぶりの味だ」

やはり採れる場所が違うとお茶の木のお茶は味が違う。まして最近の仁はエゲレア王国産の お茶(テエエ) ばかり飲んでいたので、緑茶風味であるカイナ村のお茶は久しぶりだった。

「ふう……」

一息つく仁。目の前にはマーサとハンナの顔がある。

「あの……」

仁が何か言おうとした、その言葉を遮るようにマーサが先に口を開く。

「ジン、最初に言っておくよ。あたしゃ何も問いただす気はないからね。村の連中もみんな同じさ。あんたが只者じゃないことはみんなわかってる。普通じゃ出来ないようなことが出来るってこともね。だからどうやってここに来たとか、話したくなかったら話さなくていいからね。憶えときなよ」

マーサにそう言われてしまった仁は言葉を無くす。

どうやって説明しようかと悩んでいたのだ。

「ありがとうございます。全部打ち明けるとかえって村に迷惑を掛ける事にもなりかねないので、そう言ってもらえると気が楽になります」

村人だけならいいが、それ以外にも領主を初めとする王国の関係者だってくることがあるだろう。余計なトラブルは避けたかった。

その時ハンナが、こらえきれないように口を開いた。

「ねえねえおにーちゃん、山へ薬草とりにいこうよ!」

それを聞いた仁はハンナと一緒に薬草を採りに行った去年のことを思い出した。

「うーん、そうだな。エルザを送り届けてきたら行こうか」

ミーネが心配しているだろうと思い、そう返事したら意外な答えが返ってくる。

「えー、エルザおねーちゃんもいっしょにいこうよ」

「ジン兄、私も行ってみたい」

仁は苦笑して肯く。

「わかったよ、一緒に行こう。……歩いてじゃないよな?」

ハンナはこくんと肯いて、

「うん! あたし、みんとに乗っていく!」

と答えた。それを聞いた仁は考える。

「うーんと、他のゴーレム馬とかは空いているのかな?」

今は農繁期の初め。ゴーレム馬は開墾や耕作、資材運搬などに重宝されているはずであった。

「ああ、そうだね。馬たちは多分みんな借り出されているね」

マーサが現状を踏まえた推測を述べた。

「えー、それじゃあいけないの?」

残念そうなハンナの顔を見た仁は、ちょっと席を立つ。

そして部屋の外でポケットから 魔素通信機(マナカム) を取り出し、蓬莱島と何やら連絡を取る。そして部屋に戻るとハンナに向かい、

「ハンナ、大丈夫だよ。それよりお弁当の用意をしなくちゃな」

と言った。それを聞いたハンナは大喜び。

「ほんと? いけるの? わーい! おばあちゃん、おてつだいするからおべんとう作って!」

「はいはい、ちょっとお待ち」

マーサは笑いながら立ち上がるとハンナを連れて台所へ向かったのである。

「ジン兄?」

怪訝そうな顔のエルザに仁は何をしたか説明する。

「蓬莱島からゴーレム馬をこっちへ送り出すように指示を出したんだ」

そしてまたどこかと通話した後エルザに 魔素通信機(マナカム) を渡し、

「ミーネが心配してるぞ。ちゃんと謝っておけ」

と言った。それを受け取るエルザ。

「あの……母さま? ……うん、ごめん、なさい。あの、今、ジン兄といっしょ。それで、もう少し、こっちでいろいろ見てから帰りたい。……うん、わかった。ありがとう」

ミーネと何か話をしていたようで、話し終わると仁に 魔素通信機(マナカム) を返した。

「ジン兄、ありがとう。母さま、ジン兄が一緒だと言ったら仕方ないわね、と言って許してくれた」

「そうか、良かったな」

そして仁は礼子に向かって、

「礼子、あれをエルザに渡してくれ」

「はい、お父さま」

礼子がポケットから出したのは腕輪。魔力過多症を防ぐ腕輪である。

そもそも、これを渡すために礼子を一旦呼び戻し、今回の騒ぎになったのである。

怪我の功名というか、そのおかげで仁はカイナ村に帰れたとも言えるわけだが。

「これはエルザの魔力過多症を防ぐ腕輪だ。余剰魔力を溜め込んでもくれる。魔法を使う時、腕輪に魔力を通す感じで使えば、優先して腕輪の魔力から使ってくれる」

「ほんと、に?」

エルザはその腕輪をまじまじと見つめる。そんな魔導具があるなんて知らなかった。いや、仁でなければ作れなかったのだろう、エルザは直観的にそう思った。

「ああ。これを付けている限り、もう魔力過多症を気にする必要は無いよ」

「あり、がと、う……」

自分の欠陥とも言える魔力過多症、それがこの腕輪で抑えられる。ずっと気に病んでいた病気を気にする必要が無くなる。夢のようだ、とエルザは思った。

その時、礼子が何かに気付いたように外を見た。

「お父さま、馬が着いたようです」

「そうか、早いな」

仁が立ち上がって外に出る。エルザもぐい、と目をこすってそれに続いた。

仁、ハンナ、エルザ、礼子が外に出てみると仁の愛馬ゴーレム馬の『コマ』と、以前エルザやラインハルト達を崑崙島に招待した時に作ったゴーレム馬がそこにいた。

おそらく 隠密機動部隊(SP) の誰かが連れてきたのだろうが、その連れてきた者はもう姿が見えなかった。

「あー、お兄ちゃんのおうまさんだー」

ハンナはコマを憶えていたようである。

エルザも、以前乗ったゴーレム馬だと知り、早速跨っていた。……スカートで。

まあ、今回はドレスではないし、前を押さえていればなんとかなりそうではある。

「お弁当出来たよ。おや、コマじゃないかい、それにそっちのは? ジンが呼んだのかい? あいかわらず凄いねえ」

弁当を入れたバスケットを持ったマーサが家から出て来てそう言った。『あいかわらず凄いねえ』で済ませてしまうあたり、慣れていると言ったらいいのだろうか。

「ありがとうございます。それじゃあ行こうか」

バスケットと水筒は礼子が持った。

そして3頭のゴーレム馬と1体の 自動人形(オートマタ) は山へと向かう。

* * *

「あー、久しぶりだな、この眺め」

「いい景色」

仁は久しぶりに眺めるカイナ村の全景を、そしてエルザは初めての景色を堪能した。

この後、3人と1体は、薬草採りとは名ばかりのピクニックを楽しんだのである。