軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09-09 ジャマー

仁が蓬莱島で活動している同じ時、小群国は騒然としていた。

そんな中、ラインハルトは予定通りにショウロ皇国への帰路にあった。

その警護には中隊が付いている。指揮官はマテウス・ガイスト・フォン・リアルガー大尉。近衛部隊第3中隊隊長である。

ラインハルトの友人であり、また、ラインハルトのフィアンセの兄でもあった。

「マテウスが来てくれていたとはな」

今、ラインハルトはマテウス率いる部隊に守られて帰国の途についていた。

「ああ、陛下からもお前を警護しろとの仰せだったからな」

「陛下が?」

「そうさ。お前の 黒騎士(シュバルツリッター) の噂、国元まで聞こえてきたぞ。セルロア王国王都で行われた戦闘用ゴーレムの模擬戦に優勝しただろう! あの 金剛戦士(アダマスウォーリア) を破ったそうじゃないか」

1年くらい前の話であるが、今のラインハルトには遠い過去の話のように聞こえた。

「それにエリアス王国でのゴーレム艇競技、2位入賞だったって?」

馬車の横を馬でピッタリ付きながら話し続けるマテウス。なかなか器用である。

「うん、まあな。優勝できなかったのは残念だった」

「何の! 畑違いの競技だったしな、いきなり2位というのは大したものさ」

ラインハルトは、そういえばその競技で仁と初めて知り合った事を思い出す。あれから随分と濃い毎日を過ごしたものである。

「……そう言えば、従妹殿は?」

そんな物思いを破ったのはマテウスの声。従妹殿、というのはエルザの事である。

「エルザ、か。……それは僕の口からは言えないな。フリッツに聞いてくれ」

「フリッツ少佐、か。あの人苦手なんだよな」

ラインハルトは、小さい頃からこの友人がエルザの事を気にしていた事を知っている。だが今、既に彼には奥方がいた。

「フリッツ……」

仁からいろいろ聞いた今、もしかしたらフリッツも 暗示(セデュース) の影響を受けているのでは、と思わないでもない。

だが、それを確かめる術はなかった。

今日の泊まりは地方都市タンステンである。

* * *

仁は老君から報告を受けていた。

『レグルス4がブルーランド近郊のガラット山で遺跡発見。ギガースの封印箱を見つけ、こちらへ移動中です』

『デネブ7がクライン王国とセルロア王国の国境にあるセドロリア湖付近で遺跡発見、空だったようです』

『スピカ10がクライン王国内マヌーゼ湖畔にある遺跡奥でギガースの封印箱を発見、こちらへ移動中です』

この日はギガースの封印箱を2つ発見した。これで残るは3機である。

『セルロア王国とエゲレア王国ですが、現在セルロア王国がやや優勢ですね。国境を越えて3個大隊が攻め込んだようです』

「うーん……」

『そしてフランツ王国とクライン王国ですが、現在は拮抗しているようです。ほぼ国境でにらみ合いをしている状況です』

「……わかった」

仁は立ち上がり、工房へと向かう。礼子は無言で従っている。

「戦争はいいことじゃない。それはわかっている。だけど、人の数だけ正義はある、なんて誰かが言っていた気がするけど、それなら国の数だけ国の正義もあるんだろうな……」

歩きながら仁は考えた。

「俺は英雄でも勇者でもない。戦士ですらない。 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) なんだ」

そして以前、クライン王国の新貴族の少女、リシアに聞かれた事を思い出した。

「『私、今のままでいいんでしょうか……?』」

彼女はそう言った。

そしてそれは今の仁の心境でもあった。

「お父さま、どこへいらっしゃるんですか?」

考え事をして工房を通り過ぎ掛けた仁を礼子が呼び止めた。

「あ、ああ。すまん」

頭を掻きながら戻ってくる仁。そんな仁を礼子は心配そうに見つめていたが何も言わなかった。

「さて、今日は新しい兵器を開発しようと思う」

工房に入った仁は開口一番そう言った。

「この前、ラインハルトとステアリーナに嵌められていた『詠唱妨害の首輪』だが、あれを解析したらいろいろ面白いアイデアを思いついた」

「お聞かせください」

「もちろん。まずは、あの首輪が魔力の集中を妨害する効果を持っていたことだ」

さっきまでの悩みはどこへやら、仁は次第にヒートアップしていく。

「魔法を使う時、『言霊』としての詠唱の存在がある。それは『 引き金(トリガー) 』として、微少な魔力を以て完成される」

詠唱せずともその 引き金(トリガー) を構成できれば無詠唱で魔法が発動するのだがそれは今は置いておく。

「その発動のための微少な魔力を拡散させてしまうのがあの首輪の機能だったんだ」

例えるならガソリンという魔力を発火させるためのマッチの火。それを吹き消してしまう機能ということである。

「これを大規模にしたら、魔法の発動が出来ないフィールドが出来るぞ」

と仁は締めくくった。

「凄いです、お父さま」

素直に礼子は感心した。

「そしてもう一つは、装着者の体力を削る機能だ。これも大規模にしたら、それこそ軍隊を丸ごと気絶させられるぞ」

これも有効な兵器である。2つとも完成すれば、一時的にせよ戦争を止めることも出来そうだ。

「素晴らしいです、お父さま。早速開発しましょう」

礼子がそう言った時、アンがやって来た。

「ごしゅじんさま、老君経由でお話しは伺いました。それに近いものがかつて存在していました」

「何?」

アンによれば、魔導大戦の初期、魔法妨害の魔法、というものが有ったそうである。

「でも、味方も魔法が使えなくなるのであまり効果はありませんでした」

力において優勢な魔族相手に、こちらも魔法が使えなくなるのでは反って不利になる場合が多かったそうだ。

「うーん、この場合、発動のための魔力妨害だから、礼子やゴーレム達は平気で動けると思うんだが、どうだ?」

考えながら仁がアンに質問をした。

「はい、あくまでも『発動妨害』ですから、内部魔力で動いているゴーレムには影響有りません。ただ外部魔法は使えませんが」

最近はそのパワー主体で戦うことが多いが礼子も魔法攻撃の手段は持っている。しかし礼子の強さなら問題は無いだろう。

「魔法部隊には効果あるな。で、その方法はわかるのか?」

「はい、記憶しています」

それでまずアンの記憶を元に、『 魔力妨害機(マギジャマー) 』の試作を作った。アンがいたので簡単に完成。

要所要所に仁独自の工夫や改良を加えた。

「ごしゅじんさまの方法ですと効率が倍以上になりますね」

とはテストに立ち会ったアンの台詞。

そして続けて仁は『体力を削る』武器の開発に取りかかった。

「これは首輪の機能をそのまま拡大すればいいんじゃないかな?」

「でもそれでは必要魔力が大きすぎます」

「うーん、そうか。ああ、それじゃあこうしたら……」

「お父さま、この際、1から 魔法制御の流れ(マギシークエンス) を見直してしまった方が早いかと」

「それもそうだな」

仁、礼子、アン。この3者で検討していく。仁の閃き、礼子の検証、そしてアンは別角度からの考察。

一応のお手本があり、目標もはっきりしていたため、昼前にはおおよその構成が固まったのである。

「お父さま、これ以上根を詰められるのはお身体に毒です。ちょうどお昼ですから、エルザさん達の所へまいりましょう」

礼子はそう言って仁を半ば強引に試作の海から引きずり出した。

「ごしゅじんさま、お昼を召し上がってきてください。その間に私が試作を組んでおきます」

アンにもそう言われ、仁は頭を切り換えて崑崙島へと跳んだ。

「いらっしゃい、ジン兄」

今日の崑崙島は晴れていた。故にランチは外である。

元々器用な質だったのだろう、エルザも簡単な料理なら大分上達した。

魔法工作(マギクラフト) を離れた仁はまた少し考え込みながらパンを食べていた。それをエルザが見咎める。

「ジン兄、何か考え事しながら食べてる?」

ぎくっとする仁。エルザに看破されてしまったので、簡単に今の大陸情勢を説明した。

「戦争……」

少し青ざめるエルザに仁は、安心材料と思われる説明をする。

「ああ、だが幸いというか、ショウロ皇国は戦火に見舞われてはいない。ラインハルトも、昨夜聞いた話では、マテウスという大尉が指揮する部隊に守られて帰国中だと言ってた」

「マテウス?」

その名前を聞いたエルザが一瞬懐かしそうな顔をした。

「ああ。知り合いか?」

「マテウスはライ兄の友人で、フィアンセのお兄さん」

「へえ。つまりラインハルトが結婚したらそのマテウスって人の義理の弟になるわけか」

「そう。マテウスが一緒ならライ兄は安全」

エルザがそう言ったので仁も少し安心した。それで、というわけでもないが、

「なあ、エルザは今始まってしまった戦争をどう思う?」

と聞いてみる仁であった。

そう聞かれたエルザはすぐさま答える。

「戦争はきらい」

そして言葉を続ける。

「……フリッツ兄さまは一度捕虜になったことがある。あの時は心配で仕方がなかった」

まだフリッツが優しい兄だったときのことだ。

エルザのその言葉を聞いた仁は、もしかしてフリッツも 暗示(セデュース) の影響を受けているのでは、と奇しくもラインハルトと同じ想像をした。

「父さまは軍人。戦争で出世したと聞いてる。でも私は戦争は嫌い。無い方がいい」

横で聞いていたミーネはエルザを身籠もった時のことを思い出したのか、若干辛そうな顔をしていた。

「わかった。変なことを聞いてごめんな」

そう言って仁は軽く頭を下げた。