軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08-30 第6支部

ラインハルトとステアリーナを攫った黒い船はアスール川へ出た。

大河、アスール川はアスール湖から流れ出る川である。アスール湖は観光地であると共に、セルロア王国にとっては貴重な漁業資源を確保出来る場所でもある。

このあたりの川幅は300メートルほど。そのアスール川の中程に全長40メートルほどの船が4隻浮かんでいる。それらはセルロア王国国有の船で、アスール川を渡る馬車を乗せて渡すための、いわばフェリーボートである。

黒い船はその1隻に近づいていった。時刻は既に4時を回っていた。アスール川に出るまでに関門が幾つもあり、見咎められずに抜けるために小細工を弄したりしたため水路から川に出るのに時間が掛かったのである。

日が傾いてきており、黒い船を見咎めるものはいなかった。既に岸からは見えない角度である。

それ以前に距離が150メートルほども離れてしまい、折から日も翳って、肉眼ではもはや何が行われているかもわからないだろう。

大型船の1隻に黒い小船は横付けし、ラインハルトとステアリーナはそちらへ移された。既に腕は後ろ手に拘束されている。

「何だ? 大型船に乗り換えか?」

ラインハルトがそう言うと、

「アマリ サワガナイ ヨウニ」

ゴーレムがラインハルトにそう釘を刺した。

2人を乗せた大型船はアスール川を遡っていく。残った3隻は何も反応しない。

それを見たラインハルトは疑問に思う。

「3隻とも 統一党(ユニファイラー) の息が掛かっているわけでもないだろうに。それとも……?」

ラインハルトが周囲を観察しているのを察したのか、

「アナタノ ヨウニ ソウメイナ カタニ ミラレルト ノチノチ コマルナ」

ゴーレムはそう言ってラインハルトとステアリーナに目隠しをしたのである。

ゆっくりとした速度で進んでいく大型船。ダリの街は遠くなり、川の両岸には人気が無くなる。夜のとばりが下り、あたりは闇に包まれた。

2時間ほど進んだ後、大型船は右岸へと近づいていった。そこには古い砦跡がある。セルロア王国がその勢力を拡大していた時代の監視砦跡のようだ。

今はもう使われていないらしく、蔦にびっしりと覆われている。

半分は川に乗り出すように建てられたその砦は、かなり巨大である。監視砦とはいうものの戦時中は重要な砦として使われていたことだろう。

川から直接船で乗り入れられるように設計されており、大型船は黒く空いた口のような出入り口へと姿を消した。

今や目隠しをされ、確認の出来ないラインハルトは雰囲気で船が接岸した事を察した。

「目的地へ着いたのかな?」

そう言うと、そばにいたらしいスポークスマン的なゴーレムの声がした。

「ツイタ オリテ モラオウ」

人間らしき腕に引き起こされるラインハルト。

「痛い! もっと優しくしてよ」

ステアリーナの声が聞こえた。彼女も一緒らしい。

目隠しされたまま、ラインハルトは階段を登り、廊下を歩き、角を何度か曲がってまた階段を登る。

そのうち絨毯の感触が足裏に感じられ、ラインハルトは椅子に座らせられた。同時に目隠しが取られる。

「ようこそ、ラインハルト殿、ステアリーナ殿。歓迎いたしますよ」

そう声を掛けたのは目の前に座る1人の男。

「私は 統一党(ユニファイラー) 第6支部支部長、インタクト・マーゼシリア・ド・ガルバーニ。セルロア王国子爵でもある」

そう挨拶したインタクトは、30代半ばくらいか、背はラインハルトと同じくらい。だがガリガリと言っていいくらいに痩せていた。焦茶色の髪、灰色の目。曲がったワシ鼻、こけた頬。その瞳には残忍そうな光をたたえ、狂気さえ感じられた。白いローブとマント姿である。

そして今いる部屋は石造りの広い部屋、床には絨毯が敷かれ、壁にはタペストリーが掛かっていた。無数の魔導ランプが灯され、昼間のように明るい。

「優秀な 魔法工作士(マギクラフトマン) 、ラインハルト殿とステアリーナ殿をわが支部に迎えられて光栄ですよ」

「ふん、パーセルとかいう奴と同類か」

吐き出すようにラインハルトが言う。するとインタクトは顔を顰めた。

「パーセル? あんな無能と一緒にしないで欲しいな。私は最新の万能ゴーレムを授かった数少ない支部長の1人なのだからな」

「万能ゴーレム?」

「そうだ。貴殿の 黒騎士(シュバルツリッター) よりも強く、しかも自律行動が取れる。身を以て知ったであろう、その威力を」

「まあ、な」

一応肯定しておくラインハルト。

「そしてステアリーナ殿には何度も打診していたと思うのだが、残念だよ、こんな強引な手を使う事になってしまって」

「ふん、わたくしは何があってもあなたたちに協力なんてしませんよ」

気丈にそう言い放つステアリーナ、だがその声は若干震えている。

「ふふ、強がっても無駄だ。我々にはその意志に関係なく協力させる手段だってあるのだ」

「 催眠(ヒュプノ) の事か?」

思わずラインハルトが叫ぶ。

「ほう? それを誰に聞いた?」

インタクトは険しい目でラインハルトを睨んだ。

「さあてな。誰から聞いたか忘れたな」

「ふん、とぼけても無駄だ。 催眠(ヒュプノ) にかかれば全て白状するだろうからな」

そう言われたラインハルトは唇を噛んだ。

「まあ、よく考えろ。我等に協力すれば、貴殿の魔法技術も格段に進歩するだろう。何せ我等には世界一の天才 魔法工作士(マギクラフトマン) がいるのだからな」

「ああ、そうかい」

世界一とか言われても仁を知っているラインハルトにはピンと来ない。

「ふん、信用しておらんな。だが、あの万能ゴーレムの力を見たであろう。あれは、エゲレア王国で行われたゴーレム 園遊会(パーティー) 、その時に起こした騒動を利用して各国のゴーレムを調査させて貰ったのだ。その情報を元に作られたのがあのゴーレムというわけだ」

「やはり、あの騒動は情報を集めるための陽動だったのか」

「そうだ。そしてかの『タウロス』をも上回るゴーレムがいたらしいな?『レーコ』とか言うのか? そいつの力を計測し、それを上回る力を発揮できるようにしたのがあの万能ゴーレムなのだ」

得意になって話をするインタクト。瞳の狂気が更に増したようだ。

「更に、戦闘に特化した戦闘ゴーレムも1体授かっている。万能ゴーレムの倍近い強さを誇る。正に無敵の名が相応しいゴーレムだ」

ラインハルトは礼子の力を全て知っているわけではない。だが、仁の技術と、先日見せられた蓬莱島。それを知っているだけに、目の前の男が言うことが空々しく聞こえる。

「まあ、無敵とかそんな簡単に使わないほうがいいと思うよ」

皮肉を込めてそう言ったラインハルトを、インタクトは 黒騎士(シュバルツリッター) の事を踏まえての事だと捉えたらしく、

「まあ、貴殿ならそう言うと思ったよ」

と笑い飛ばしたのである。

「とりあえず、ラインハルト殿、ステアリーナ殿、ここにいる限り、助けは来ない。そして来たとしても1000を超える軍隊でもなければ落とせはしない。よく考えて返事をきかせて貰おう」

そう言ってインタクトが顎をしゃくると、黒覆面をした男が4人、ラインハルトとステアリーナを無理矢理立たせ、部屋から連れ出した。

「どこへ連れて行くつもりだ」

ラインハルトがそう言うと、

「客室、さ」

男の1人がそう答え、再び階段を下りた先にある部屋へ2人を閉じ込めたのである。窓はなく、簡素なベッドが2つあるだけ。魔導ランプが1つだけ点いており、薄暗い。

「ふう」

後ろ手の拘束が解かれ、ほっとするラインハルト。ステアリーナは項垂れている。2人ともなんとなく気怠い。

「ステアリーナ、元気出せ」

ラインハルトがそう言っても、彼女は俯いたまま。なんとなく身体が怠いのも意気消沈している原因だ。

「……もう駄目よ。いくら拒んでも、結局はあのドミニクみたいにされてしまうんだわ」

ドミニクが洗脳というか 催眠(ヒュプノ) に掛かっていたらしいことをラインハルトが先日話していたので、あの狂態を思い出してステアリーナは身震いしていた。

「あんなのいやよ! 自分が自分でなくなってしまうのなんていや!」

自分で言った言葉に衝撃を受け、だんだんとパニックになってきているようだ。

「大丈夫、僕が付いている」

ラインハルトは自分も身体が怠いのを隠し、そんなステアリーナを優しく抱きしめ背中を軽く叩いてやる。そうすることでステアリーナの興奮は醒めてきたようだ。

「ごめんなさい、ラインハルト君」

ラインハルトから離れる時、ステアリーナは少し頬を赤らめていた。そのままベッドに倒れこむ。

「さて、これからどうするか、だ」

怠い身体をベッドに横たえ、ラインハルトは考え込む。

連絡しようにも 魔素通信機(マナカム) はダリの街の宿屋である。 保護指輪(プロテクトリング) は取り上げられた。

攫われたのが昼過ぎだった。ここに着くまで5、6時間。そしてなんやかんやで1時間くらいか。

仁に定時連絡をしないことから異常に気が付いてくれるならそろそろだ。エルザを捜し出したあの装置で自分を捜してくれればおそらく明日の朝には助けが来るだろう。

ラインハルトはそう考え、なんとか明日の朝まで頑張るつもりでいた。

だがそれは大きな考え違いを含んでいた。

1つには、仁はラインハルトの魔力パターンを知らないということに気付いていなかったこと。

そしてもう1つは。

「ラインハルト様、ですね?」

本気になった仁と蓬莱島の実力を。