軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08-28 敗北

その日、ラインハルトは朝からステアリーナ宅を訪れていた。

ゴーレム制御についての議論をするためである。そのため、自分の作である 黒騎士(シュバルツリッター) を伴っていた。

仁からの警告もあったので、護衛を5名、家の周囲に配備してもいた。元からの護衛と、ショウロ皇国から派遣された兵達だ。

「いらっしゃい、ラインハルト君」

昨日の夜以来、ステアリーナはラインハルトを君付けで呼んでいた。

「やあ、おはよう、ステアリーナ」

ラインハルトも呼び捨てている。

中に通され、広い居間へと案内された。そこにはステアリーナ作のゴーレム2体、 自動人形(オートマタ) 2体が立っていた。

「これが今のわたくしの最高傑作よ」

「うーん、すばらしい」

ゴーレムの1体は先のゴーレム 園遊会(パーティー) で破壊されてしまったクリスタルゴーレム『セレス』と同型、もう1体は鋼の男性型ゴーレム。

自動人形(オートマタ) は10代後半の少女型と成人女性型である。

「ゴーレムは『エリス』と『カスター』です。 自動人形(オートマタ) は『シレーヌ』と『ミレーヌ』ですわ」

挨拶もそこそこに、2人は談義に入った。このあたりは職人気質といえよう。

「クリスタルゴーレムですが、見たところ、 変形(フォーミング) の魔法で動作させてるよね? 魔力効率悪すぎないのかな?」

とラインハルトが問えば、ステアリーナが答える。

「そうね。だから 変形(フォーミング) と同時に、可動部分に 軟化(ソフトニング) を弱くかけているの」

「うーん、なるほど。 変形(フォーミング) だけの時に比べて3割くらい節約になるのかな?」

「さすがね。実際には2割5分、ってところ。長時間の稼働は無理ね。もっとも、クリスタルゴーレムの意義は実用じゃないから」

それにはラインハルトも肯く。

「そうだな。セレスを初めて見た時は衝撃的だった。僕のような者には考えつかない方向性だ」

「あら、ありがとう。……で、カスターの方はどうかしら?」

もちろん男性型のゴーレムのことである。

「うーん、同じ男性型でも、女性の 魔法工作士(マギクラフトマン) が作るとこうなるのか、という典型、かな」

いかにも優男、といった体形なのである。少女漫画家の描く男性キャラ、と言えばいいだろうか。

ラインハルトにそう言われたステアリーナはふ、と笑って、

「ごつい男性って苦手なのよね」

と言った。ラインハルトはそれを聞き流す。

「構造としてはゴーレム本体は何使ってる?」

「軟質魔導樹脂、ね」

軟質魔導樹脂は一般的なゴーレムの本体に使われる素材。魔力を持つ樹木、『マギピーネ』から採った樹脂である。

要は魔力を持った松ヤニのような物と思えばいい。粉末状のミスリルを混ぜて魔力重視にしたり、鉛を混ぜて重くしたりと、用途に応じて添加物を変えるのが一般的。

戦闘用ゴーレムになると、魔力を帯びた石、魔石の最低品質のものを使うことさえある。かつて仁が倒した、ゴンとゲンの元になったゴーレムがそうであった。

仁の作るゴーレムのように骨格、筋肉をもつゴーレムは希なのである。

「添加物は? 僕の 黒騎士(シュバルツリッター) はミスリルとアダマンタイトの粉末を使っている」

ラインハルトが自らの 黒騎士(シュバルツリッター) について、少し秘密を明らかにした。

「まあ、アダマンタイト粉末ですって? どんな効果があるの?」

「一つは重さ。アダマンタイトは鉛よりも重いからね。もう一つは……当ててごらん?」

悪戯っぽく笑ってラインハルトはそう言った。

「うーんと、そうね……わからないわ。アダマンタイトは魔力を減衰させるし、ミスリルは魔力を通す。相反するのよね」

そう言ったステアリーナに向けてラインハルトがヒントを言う。

「そこまでわかっていて惜しいな。僕は『混ぜて』使っているとは言わなかったよ」

そのヒントでステアリーナはピンと来たらしい。やはり一流の 魔法工作士(マギクラフトマン) だ。

「わかった! 部位によってミスリル混ぜたりアダマンタイト混ぜたりしているのね!」

「正解。腕、脚にはミスリル。胴体にはアダマンタイト。手先足先にもアダマンタイト、といった使い分けだね」

ステアリーナは感心した顔でラインハルトを見つめる。

「やっぱりあなた凄いわ。それじゃあわたくしから……」

ステアリーナがそう言いかけた時、大きな音がした。

「あれは?」

「玄関の方?」

ラインハルトとステアリーナはほぼ同時に立ち上がって、廊下へと出た。

「!!」

そこにいたのは、鈍い銀色をした2メートルあまりのゴーレムが4体。その甲冑デザインには見覚えがあった。

「まさか、 統一党(ユニファイラー) か!」

「どうしてここに!? ダリの街の警備ゴーレムはなにをやってたの?」

「僕の護衛は何をやっていたんだ?」

「アンナ ヨワイ ゴーレムナド イクラ イテモ オナジダ ソレニ ニンゲンノ ゴエイナド ナニモ デキナイ」

1体が喋った。金属をすりあわせるような聴きとりにくい声だが。

「まさか、街中を堂々と歩いて来たというの!?」

「いや、きっと裏の水路を利用したんだ」

ラインハルトはこの家の立地条件を思い浮かべる。裏手に流れる水路はアスール川に繋がっている。おそらくそこから普通の船に紛れてダリへ侵入したのだ。

「 黒騎士(シュバルツリッター) !」

ラインハルトは連れてきていた 黒騎士(シュバルツリッター) を呼び、

「カスター!」

ステアリーナはカスターを呼んだ。

「ムダナ テイコウハ シナイホウガ イイ」

そう言うと、1体が 黒騎士(シュバルツリッター) に、もう1体がカスターに向かって行った。そして残る2体はそれぞれラインハルトとステアリーナに向かってくる。

「くそっ!『バリア』」

ラインハルトは仁から貰った 保護指輪(プロテクトリング) を作動させる。向かってきたゴーレムはラインハルト手前30センチで阻まれた。

黒騎士(シュバルツリッター) とカスターは敵ゴーレムと激突した。

黒騎士(シュバルツリッター) の振るった拳が敵ゴーレムを弾き飛ばした。

「ホウ イゼンヨリ ツヨクナッテ イルナ」

スポークスマンらしいゴーレムが感想を述べた。それを聞いたラインハルトは、自分たちの情報が 統一党(ユニファイラー) に流れていたことを知る。

「 黒騎士(シュバルツリッター) ! 全力を出せ! 奴らを叩き壊せ!」

「 はい(ヤー) 」

黒騎士(シュバルツリッター) が全力を出した。その一撃は敵ゴーレムの頭部を吹き飛ばす威力があった。そして2体目へ立ち向かっていく 黒騎士(シュバルツリッター) 。

自律型ゴーレム同士の戦い。家の壁に穴が開き、柱が折れる。だがそんなことを気にしている余裕は無い。

「きゃああああ!」

ステアリーナの悲鳴が響いた。ラインハルトが後ろを振り向くと、カスターが破壊され、ステアリーナが敵ゴーレムに捕まったところだった。

「ステアリーナ!」

ラインハルトは唇を噛んだ。自分の傍に引き寄せ、バリアの中に入れておくべきだった、と。

「マズ ヒトリ カクホ」

スポークスマンらしいゴーレムがそう言った。

「ラインハルト ドノ、コウサン シナイカ?」

「…………」

ラインハルトが答えないでいると、ゴーレムは更に言葉を紡ぎ出す。

「フム、シュバルツリッターガ マケナイカギリ アナタノ イシハ クダケナイカ」

今、 黒騎士(シュバルツリッター) は2体目のゴーレムを倒したところである。

残るはステアリーナを押さえつけているゴーレムと、自分の前にいるゴーレムである。

「ヨロシイ ソレデハ ワレワレノ ジツリョクヲ ミセヨウ」

目の前のゴーレムはそう言って 黒騎士(シュバルツリッター) に向かっていった。

これはラインハルトにとって願ってもないチャンスである、ステアリーナを人質にされたら抵抗できなかったが、敵のリーダー的ゴーレムは単純なのか、 黒騎士(シュバルツリッター) と戦う気らしい。

あれからラインハルトも 黒騎士(シュバルツリッター) を改良強化してきたのである。仁の礼子には敵わなくても、 統一党(ユニファイラー) のゴーレムに負ける気はなかった。

「 黒騎士(シュバルツリッター) 、行け!」

「 はい(ヤー) 」

短く答え、 黒騎士(シュバルツリッター) は敵ゴーレムと組み合った。一瞬2体の膂力が拮抗し、動きが止まる。

「ナルホド コレガ シュバルツリッターノ チカラカ」

そのまま2体は拮抗した状態で押し合うが勝敗が付かない。

「モウ ジュウブンダ ゼンリョクデ イクゾ」

敵ゴーレムはそう言うと、急激に力を増す。 黒騎士(シュバルツリッター) が押し負けた。組み合ったまま壁に叩き付けられ、そのまま壁をぶち抜き、柱にぶつかって止まる。

しかし敵ゴーレムは止まらない。その急激に上昇した力で 黒騎士(シュバルツリッター) の右腕を引き抜いてしまった。そして次の瞬間には左腕が。

「な、何!?」

目にしたことが信じられないといった表情のラインハルト。だがそれは現実で、敵ゴーレムは 黒騎士(シュバルツリッター) を蹴り倒すと、両脚も次々にもいでしまう。

とてつもない力である。それはまるで……

「レーコちゃんの、力?」

呆然としたラインハルトの口からそんな言葉が漏れた。

「レーコ? ソレガ サイキョウノ ゴーレムノ ナマエカ?」

四肢をもがれた 黒騎士(シュバルツリッター) をそのままに、敵ゴーレムは再度ラインハルトに肉薄。

「う……」

うっかり情報を漏らすところだったことに気付き、口を閉じるラインハルト。

「マアイイ ユックリ キクコトニ シヨウ」

敵ゴーレムはそう言って、ステアリーナを人質に、ラインハルトに迫る。

「ソノ ケッカイヲ カイジョシテ クレナイカネ」

「ラインハルト様! いけませんよ!」

気丈にもステアリーナはそう言うが、次の瞬間腕をねじり上げられ、悲鳴を上げる。

そんな姿を平然と見ていられるラインハルトではなかった。

バリアを解除する。すると敵ゴーレムはそれが指輪の効果だと知っているのか、ラインハルトの腕もねじり上げ、指から 保護指輪(プロテクトリング) を抜き取ってしまったのである。

と同時に、2人の首にチョーカーが付けられた。それはエルザが付けられたのと同じ物。魔法の詠唱を妨げ、体調を崩す魔導具。

「ソロソロ ヒトガ アツマッテ クルナ」

派手な音を立てたので野次馬や警備兵が来るだろう。そう言ってゴーレムは2人を壁に開けた穴から連れ出した。

そこは水路のすぐ上で、水路には黒い船が1隻浮かんでいた。

「ノレ」

そしてラインハルトとステアリーナは白昼誘拐されてしまったのである。

目撃者も大勢いたが、皆為す術もなく黒い船が水路をアスール川に向かって航行していくのを眺めているだけだった。

ラインハルト専用 隠密機動部隊(SP) 、セージとコスモスが到着したのはその半日後。

2体が見たのは破壊された 黒騎士(シュバルツリッター) と、布を掛けられた5人分の骸であった。